カオス・ワイルド
大穴の開いた天井からほぼ同時に空へ飛び上がり、互いにより高い位置を陣取るため拳で相手をけん制する。
六本腕を生かした俺の連打を宗助は霊力の身体を液体のように流動させて回避し、合間に反撃の拳と霊撃をねじ込んでくる。
「ハッハーッ! 六本も腕があってこの程度かよ!」
「るせー! うにょうにょキモイ動きしやがってコノヤロー!」
「お前にだけは言われたくねーよっとぉ!? あっぶね!」
拳の連打に織り交ぜてクリカラで斬りかかるがギリギリ回避された。チッ!
お互い距離を取り、霊力を高めて特大の一撃の準備に入る。
「オラ避けんな! 反省しろ!」
「斬りかかっといてそりゃねぇだろお前」
「うるせぇ! 昔っからいつもヘラヘラ誤魔化しやがって! 家族にくらい本音でぶつかれや!」
「IQが二〇以上違うと会話にならねぇって知ってっかよ?」
「そうやってなんでもできるみたいな顔して斜に構えて他人を見下すお前のそういうところが嫌いなんだよッ! うぉらああああッ!!!!」
宗助が放った極大の霊力波と、俺が内なる混沌から呼び出した光の玉が激突する。
光の玉は形をうねうねと変えながら宗助の霊力波を吸い込んで空中で大爆発を起こし、無数のなまこが夜空に撒き散らされた。
な、なんだぁ!?
「ははっ! どうなってんだそれ。ほんと面白れぇ奴だよお前は!」
「ガハァッ!?」
降り注ぐなまこの雨を突っ切り一気に肉薄してきた宗助の掌底が鳩尾にめり込み、ゼロ距離の霊撃が俺の腹をブチ抜いた。
「終わるまでそこで寝てろ」
宗助が目にも留まらぬ速さで印を組み上げ、両手を俺にかざす。
すると霊力の鎖が俺の内側から何本も飛び出して、俺の身体を雁字搦めに縛り上げた。
この術はレイラの……っ!? くそっ、うごけねぇ!
腹の傷が塞がらない。俺の霊力が肉体の封印に使われてるのかコレ!? なんつーえげつねぇ術だよ!
俺の身体が地上へ向けて真っ逆さまに落ちていく。
力を使ったせいか、また頭にモヤがかかり始めた。
くそっ、また意識が……っ。
「しっかりしなさいッ!」
「たこわさっ!?」
後頭部に目が覚めるような衝撃。すると全身を縛っていた鎖が「パキン!」と砕けて光の粒子になって消えていく。
空中で体勢を立て直す間に腹の傷も塞がり、ぼやけていた意識がはっきりしてくる。
振り返ると巨大なハリセンを持ったレイラが呆れたように腕を組んでいた。
「やっぱり、叩けば正気に戻るみたいねアンタ」
「俺は壊れた昭和のテレビかよっ!?」
「くだらないことしか言わないんだから似たようなもんでしょうが! いいからシャキッとしなさい! この場でアイツに勝てる可能性があるのはもうアンタしかいないのよ!」
「けっ、言われんでも分かってらい! ……俺が暴走したらまた頼むぞ」
「言われなくても。何度だって引っ叩いて正気に戻してやるわ」
クリカラを構え直し、俺たちを見下ろす宗助に向かい合う。
「あーれま、術の構成が甘かったかね。割としっかり封印したつもりだったんだけど」
「人の術をパクった程度でいい気にならないで。自分で開発した術の解き方くらい熟知してるわよ」
「んじゃ、これならどうよ」
宗助が「むんっ!」と唸ると腕が四本に増え、超高速で複雑怪奇な印を組み始める。
「自霊自縛・改ッ!」
俺とレイラを中心に太極図が広がり、身体の内と太極図から生じた霊力の鎖がお互いの身体に絡まり合って身動きが取れなくなる。
野郎、戦闘中に成長したのか!? 敵に回すとマジで厄介だな俺の能力!
「かはっ……っ!? い、息……が……ッ!」
「どうだ、解除できねぇだろ。いいからそこで大人しくしてろって、夜明けまでには全部終わらせてやるからよ」
宗助が俺たちに置いて地底湖へ下りていく。
くっそお!!!! 何かっ、何か手はないのか!?
このままじゃ、全部宗助の思い通りになっちまうぞ……!
「力を使いこなせブラザー! 奴に勝つにはそれしかねぇ!」
耳の奥で影友さんが俺に呼びかけてくる。
コイツを使いこなせって? こんなわけの分かんねぇモンを? 冗談だろ。……けど、やるしかねぇ。
隣で苦しげに喘ぐレイラに視線を向ける。
もし俺がまた俺でなくなっちまったら、そん時は頼むぞ……!
(任せなさい)
額に汗を浮かべたレイラから視線だけの返事を受け取った俺は、自分の内側で渦巻く混沌に意識を向けた。
☆
晃弘の神力が爆発的に高まっていく。
全身から溢れ出る赤黒いオーラが霊力の鎖を断ち切り、吹き荒れる神威が周囲の雲を空の彼方へと吹き飛ばした。
「ウアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
晃弘の周囲に無数に現れた玉虫色に輝く光の玉が背中で円の軌道で回転し輪を描く。
鎖から解放された麗羅は即座に二体の式神と融合し、九尾巫女へと変身してハリセンを構えて荒ぶる神と対峙する。
「本当に世話の焼ける奴ねっ! しっかりしなさいよこのバカァ────ッ!!!!」
「あそぱそしょくぱそかれーぱそじゃむばたちーざららんらん」
晃弘が腰に手を当て人差し指を天に向ける。
すると背中で回転していた光の玉が不規則な軌道で八方に飛び去り、着弾した場所で不可解な現象を引き起こした。
ある場所では山の木がキリンの首に変わって歌いだし、ある場所では川の水が凍りつき、ある場所では岩が氷のように汗をかいて溶け始めた。
何が起こるかまったく予測不能。
まさしく混沌の根源と呼ぶべき謎の光球を掻い潜り、麗羅のハリセンが晃弘の脳天に振り下ろされる!
「めどもごろそろそぼいきそもそどきどきしてるよどきそちぇそ!」
が、晃弘は背骨があるとは思えない角度で大きく仰け反ってこれを回避する。
「あっ、避けるなこのッ!」
「ささやきいのりえいしょうねんじろ」
「っ!?」
轟ッッッッ!!!!
股の下から顔を出した晃弘が予備動作もなく光線を吐き出し、麗羅の服の裾の端を掠める。
すると麗羅の巫女服が「ボフンッ!」と煙を出して爆発して……
「ちょっと!? 何よコレ────っ!?」
ぴっちり紺色スクール水着へと変化した。
普段メイド服でも隠し切れていない安産型のヒップラインとむっちりした太ももがさらに強調されて大変すばらしいことになっている。いいぞ!
しかもニーソックスとガーターベルトは据え置きという非常にマニアック(変態的ともいう)な恰好に麗羅の顔は一瞬で真っ赤に茹で上がった。
「うへはへふひえちちちち!!」
「ぶっ殺ッッ!!!!」
「すみそ!?」
ハリセンを投げ捨てた麗羅の全力トーキックが晃弘の顔面にぶっ刺さり、地上へ向けて錐揉み回転しながら落ちて地面に人型の穴を開けた!
☆
「痛ってて……アイツ本気で蹴りやがったなクソッ!」
地面から這い出ながら潰れた鼻を引っ張って元に戻し、鼻血を吐き捨て口元を拭う。
あーあー地面に人型の穴が開いてらぁ。ギャグマンガかよ。
けど、おかげで能力の使い方は大体分かってきた。
地底湖の中央に浮かぶ浮島、そこに建てられた小さなお社の前に立つ宗助に光の玉をブン投げる。
が、宗助はまるで背後が見えているかのように霊力弾を放ち、光の玉を相殺。
空中で爆発した光の玉が大量の煮干しへ変わり浮島の地面に散らばった。
「抜け出すの早ぇよ。相変わらず俺の予想を超えてくるやつだな」
「へっ、土壇場で強くなるタイプなんだよ俺は! もう負けねぇからな!」
「雰囲気が変わったか……? いや、どうにも力の使い方を知ったって感じだな。……くっくっくっ、面白れぇ。いいぜ、かかってこいよ。ちょっとだけ本気出してやる」
刹那、お互いの神力が爆発的に高まり、大地がビリビリと震えた。
スク水ニーソはいいぞ!(迫真)




