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相対する兄弟

 時は少しさかのぼり、晃弘が目覚めて部屋を飛び出していった直後のこと。


「な、なんだったのでしょうかアレは……」


 緊張から解放された老執事が「ふぅ」とゆっくり息を吐き脱力する。

 眠っていた晃弘の肉体は目まぐるしく変化を続け、最終的に六本腕の黒鬼になって変化は止まり、そのまま飛び起きて部屋を出ていってしまった。


 行動こそふざけているものの、あの六本腕の黒鬼から感じた神力は現人神あらひとがみのそれを遥かに凌駕りょうがしていた。

 かつて神々が最も力を持っていた時代。古の天津神あまつかみにも匹敵する神力。


「分からない。けど、ぬえの拠点で確保したという呪物が、彼の神化に影響を与えたのは間違いないわね」


「しかし、あれではまるで……」


 老執事の古い記憶が呼び起される。

 四〇〇年ほど前、比叡山延暦寺にて行われた外宇宙の神にまつわる邪悪な儀式。

 数百人の信徒を生贄に地上に顕現けんげんしかけた外宇宙の神。

 彼の者が放つ、肌の内側を虫が這いまわるような悍ましい気配。

 晃弘の放つ神力には、あの時のそれを彷彿とさせるものがあった。


「奴ら、また性懲りもなくこの星にちょっかいをかけてきたのね」


「また大掃除ですか」


「そうね。まったく、骨が折れるわ」


「犬飼様の処置はどのように?」


「今は様子見ね。見たところまだ神化の途中のようだし、能力も神としての特性もまだ不安定で確定していない。けど、もし奴らの側に転ぶようであるなら……処分しなさい。第三段階までの解放も許可するわ」


「……かしこまりました」


 老執事は女主人に一礼して、その場から音もなく「パッ」と姿を消した。



 ☆



 巨大な時計盤の上に「ガオンッ!」と出口が開き、そこから雅也と吸血鬼が勢いよく吐き出され、透明な板張りの時計盤の上を転がった。


「痛ってて……。ヒロの野郎無茶苦茶しやがって」


「なんなのよもぉ! 可憐な乙女にいきなり岩盤パイルドライバー食らわすなんて狂ってるわ!」


 岩盤にパイルドライバーで沈められた吸血鬼がプリプリ怒りながら立ち上がる。割れた頭の傷はすでにすっかり塞がっていた。


 続けて血まみれの機械鎧と、紋付き袴のおじさんが虚空に開いた穴から飛び出してくる。


「あれ……? なんで僕修行部屋に?」


 気絶している間に回収された辰巳が目を覚ます。

 見覚えはあるのにどこで会ったか思い出せない紋付き袴おじさんと、何故かちょっと若返っている吸血鬼、それから親の顔より見た筋肉バカ。

 何をどうしたらこんなメンツが揃うのか、まったく事情が見えてこない。


「その声タッツンか!? どうしたんだよお前そんなに痩せちゃって。変なのに絡まれたくねぇってずっと体形維持してたのに」


「ちょっと無茶しすぎちゃいましてね。……ところでこのメンツはなんなんです?」


「実は筋肉モリモリってなわけで」


「なるほど、まったくわかりません」


 マッチョにしか通じない肉体言語あっしゅくげんごが通じなかったため、雅也は仕方なく自分が知っている限りのことを説明した。


「やっぱりヒロのせいでしたか」


「今回は特にメチャクチャだぞアイツ。腕六本に増えてたしな」


「どこを目指してるんでしょうね、あのバカは」


「さあな」


 二人で顔を見合わせニヤリと笑い、身体の調子を確かめるように首や拳を鳴らして立ち上がる。

 これから絶対、普通じゃ体験できない面白いことが起こる。そんな確信めいた予感があった。


 誰かが無茶をすればそれに自分たちも便乗して、誰かが事件に巻き込まれれば自分から首を突っ込む。

 そうして最後は皆で大笑いして、またバカやって怒られて。それでも絶対に反省はしない。

 なぜいつも三人一緒なのか。そう聞かれたら三人とも間違いなくこう答えるはずだ。



 だってコイツらといれば退屈しねぇもん、と。



「ま、なんにせよだ」


「一人で美味しいトコだけ持っていこうなんてそんなの許せませんよねぇ?」


 悪童の笑みを浮かべ、二人は騒動の中心地へあえて首を突っ込みに行く。

 野次馬上等。ここで踏み込んでいかないような性格なら、そもそもここまで長く付き合っていない。


「これは儂もついて行った方がいいのか?」


「私は行くわよ。こんなよく分かんない場所に置いてけぼりなんて嫌だもの」


「ふむ、一理ある。……ところでお嬢さんも彼らの知り合いかね?」


「やだアンタもしかして記憶無くしてる? はぁ……もう面倒くさいわぁ。勝手にしてちょうだい。パーになっちゃった人の世話なんて焼いてらんないわ」


 やってられないとばかりに首を横に振り、盛大にため息をついた吸血鬼が二人の後を追って扉をくぐる。

 状況を何一つ分かっていない万高かずたかも吸血鬼に続いて部屋を出た。




 ☆




「うん。まあこんなもんかな」


 宗助が並々と水を湛えた地底湖を見渡し手を下ろす。

 虚空に開いていた無数の大穴が閉じられ三途の川の水の供給が止まり、しばらくすると湖面は鏡のように「しん」と静まり返った。


 するとどこか遠くの方から愉快な音楽が「どんちきどんちき」と聞こえてきた。



「はぁどっこいどっこい! よいしょーっと!」


「べろんぱぴぴんげへろへろぎゃー♪」


「ブッフォッ!? 何してんのお前ら!?」



 宗助が振り返ると、洞窟の入り口の方からどじょうすくいの恰好をした麗羅が超高速でどじょうをすくい、その周囲で六本腕の鬼が盆踊りを舞いながらこちらに近づいてくるではないか。

 これにはたまらず宗助も吹き出して腹を抱えて笑い出す。


 あまりにカオス。

 どこからツッコめばいいやらまるでわからない。



「ぐぬぬぬぬっ! いい加減にッ、しなさ────いっ!!!!」


「にぼしっ!?」


 スパァン!


 と、どぜうの呪縛からどうにか自力で逃れメイド服に戻った麗羅のハリセンが晃弘の頭に炸裂した。



 ☆



「────はうぁ!? ……お、俺はいったい何を」


 気が付くと俺は青白く輝く水をいっぱいに湛えた地底湖の前にいた。

 なんか宗助のやつが爆笑してるし、レイラにはハリセンでぶっ叩かれるし、なにがなにやらさっぱり分からん。


「レイラちゃんに無理やりどじょうすくいさせて、ブラザーはその周りでずっと盆踊りしてたな」


 影友さんが影の中から「ニョキッ」と顔を出して俺に教えてくれた。

 わ け が わ か ら な い よ。なにしとんねん俺。


「まったくもうっ! やっぱりバカの菌が移ったじゃない! どうしてくれんのよ!?」


「いや知らねぇよ!?」


「ひっひっひっひ! はー笑った笑った」



 笑いを堪えつつ宗助が般若面を投げ捨てる。



「まさかもう動けるようになるとは予想外だったぜ」


「時間の流れの違う素敵な秘密基地があんだよ」


「うーわ何それ超チートじゃん。流石臥龍院、なんでもありだな」


「俺の能力、返してもらうぞ」


「嫌だね。……って言いたいけど、このままじゃ普通に負けそうだな。強くなりすぎだろお前」


「今なら家族のよしみで尻穴ソードだけは勘弁しといてやる」


「ひえぇ、そりゃ勘弁願いたいね」


 宗助がスーツのポケットから匣を取り出して、それを一息に「ごくん」と飲み込む。

 すると宗助の霊力が爆発的に膨れ上がり、全身が青白く発光して、体表から漏れ出た霊力がバチバチとスパークし始めた。


 あの野郎、俺の能力を取り込んで神化しやがった!


「さあ、ラストバトルだ晃弘。俺を止めたきゃ殺す気でかかってきな!」


「こんなくだらねぇことのために大勢巻き込んで死んだふりしやがってッ! どれだけ家族が悲しんだと思ってんだこのクソ馬鹿兄貴がぁぁぁぁぁッ!!!!」



 瞬間、俺たちの拳が激突し、洞窟全体をぶっ壊すほどの衝撃が弾けて天井が跡形もなく消し飛んだ!

次回、兄弟バトル勃発!



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[一言] そのまま笑い死んでたら良かったのに
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