いざ決戦の地へ
尻に卑劣な不意打ちを受けた万高が前のめりに倒れる。
白目を剥いて口からは泡を吹き、ビクビクと痙攣する様は無残すぎて目も当てられない。
「うびろうびろぺれぺれにゃぱぱいやー」
気絶した万高の周りで生理的嫌悪感を催す謎のダンスを踊る晃弘(?)。
すると、晃弘(?)が尻から光る玉を「プリッ!」ひり出して、謎の発光物を万高の口に押し込み手を叩いてゲハゲハと笑い出す。
「な、ななななにしてくれとんのじゃこのアホ────ッ!!!!」
「へちまっ!?」
全力のグーだった。
顔面に怒りの鉄拳をくらい数メートルくらいブッ飛んだ晃弘(?)が「ずべしゃー!」と地面を滑っていく。
「ああ、そんな……! こんな、こんなのってあんまりよ! 嫌っ、嫌よお父さんっ! こんなお別れ酷すぎるわ! うわーん!」
尻を突き出したまま気絶した父の側に駆け寄り泣き崩れる麗羅。
気絶した拍子にすでに万高と融合していた式神は剥がれてしまっており、その身からはなんの力も感じられない。
すると突然、万高の身体が内側からぼんやりと輝きだして、顔が徐々に若返っていく。
三〇代後半程度まで若返り、ちょうど麗羅の幼い頃の記憶と一致したところで変化は止まった。
「……っはぁっ!? ……レイ、ラ……なのか?」
「お父さん!? 私が分かるの!?」
「ああ、やはり麗羅なのか。どうしたんだ急にそんなに大きくなってしまって。……はて、ここはどこだ?」
「よ、よかった……っ、お父さんっ!」
理由はよく分からないが、どうやら父は一部記憶が飛んでいるものの、自分のことをまだ覚えているらしい。
まるで憑き物が落ちたようにスッキリしてしまった父の胸に麗羅は飛び突き、また泣いた。
☆
痛っててて……。前が見えねぇ。
くそっ、いきなりグーで殴るなんて酷いや。俺が何をしたっていうんだ!
鼻を引っ張って凹んだ顔を元に戻すと、今までモヤのかかっていた頭がスッキリしていた。
おろ? そういやここはどこだ? 俺、何してたんだっけ?
「ようやく正気に戻ったかブラザー」
「影友さん! ……なんか禍々しくなってね?」
俺の影から「ニュルン」と頭を出した影友さんは、ムカデみたいな足と触覚が増えてちょっとキモ……禍々しくなっていた。
「おれもブラザーにつられて進化したからな。それよりどうだ、身体の調子は」
「んあ? おお! 腕が六本になっとるやんけ!」
うひょー、カッコイイ!
ふむふむ、最初からそうだったみたいに全部の腕を自由に動かせるな。へへっ、こりゃいいや。
「で? 俺ってばどうなったの?」
「かくかくしかじか」
まるまるうまうまっと。
あーはいはいなるほどね、全部理解したわ(超速理解)。
つまり俺が精神世界で作ったオブジェに影友さんが食った例の黒い阿修羅像の力が混ざって新しい力として覚醒したと。
そんで魂がミジンコから一〇歳児くらいまで神化して一応人型にはなったから戦闘機を動かせるようにはなったけど、所詮一〇歳児だから肉体のスペックに振り回されて暴走してたってことだな!
「誰が一〇歳児じゃコラ」
「黒いうんこ!」
影友さんが蜷局を巻いてうんこのモノマネをする。
「ギャハハハハハハハ!」
「ほらみろ小学生じゃねーか」
くそっ! こんな幼稚な下ネタで笑ってしまうなんて。
悔しい! でも笑っちゃう(ビクンビクン)。ムカデの足で臭いの表現するのは反則だろ。
「いやこのままじゃヤバくね?」
「急に素に戻るなよ。盗られた能力取り返さねぇと魂の神化は中途半端なまんまだし、一生六本腕のままだな」
「やだよそんなの!? ズボンとパンツ以外全部捨てなきゃいけなくなるじゃん!」
やだよ俺、連休明けに上半身裸で学校行くの。
絶対あだ名アシュラマンになるじゃん。
「……つーかアイツはなんで泣いてるの?」
なんとなく見覚えのあるおじさんの胸にしがみついてレイラが泣きじゃくっている。
俺の前じゃいつもツンツンしてるから、ああいう弱い一面を見ちゃうとなんというか……その、調子が狂う。
「なんかお父さんって言ってたし、あの人父親なんじゃねーの? それを不意打ちで尻に刀ぶっ刺して気絶させたらそりゃ泣くだろ」
「マジかよ最低だなソイツ! どこのどいつだ!」
「アンタがやったんでしょッ!!!!」
あ、こっち向いた。
なんだよ俺たちの会話ちゃっかり聞いてたんじゃねーか。ツッコミのタイミングバッチリかよ。
あーあー、涙と鼻水で顔くちゃくちゃにしてからに。せっかく顔だけは可愛いのに見てらんねぇよ。
「危険だ麗羅! 新種のキメラかもしれん。あまり刺激するなふぐぅっ!?」
レイラの親父さん(?)がレイラを庇おうと立ち上がりかけて尻の痛みに蹲る。
うーん、絶対見たことある顔なんだよなぁ、あの人。
なのにどうしても記憶が出てこない。喉まで出かかってる感じなんだけど……ああ! モヤモヤする!
「お父さん、あいつ晃弘よ。ほら、同じクラスだった」
「なに!? ううむ、言われてみれば確かに面影があるような無いような……。それよりもどうやら儂の記憶が飛んでしまっているようなのだが、誰か事情を知ってるなら教えてくれないか」
「あー、それ多分この刀のせいっすね……」
俺はおじさんにクリカラの能力を説明した。
「ふむ、なるほど。人の罪を斬り罪を背負う前の姿に戻す刀か。それは凄まじい霊刀だな」
「お父さんが子供にならなくてよかったわ」
「ふっ、これでも清く正しく生きてきたつもりだからな」
どこか誇らしげな顔でおじさんがレイラの頭を撫でる。
レイラがちょっと恥ずかしそうにむずがっているのを見ると、ああ本当に親子なんだなというのが伝わってきた。
多分、俺は昔この人に会ったことがあるのだろう。
けど、レイラに関わる記憶が抜けているせいでそれを思い出せないのかもしれない。
「……それで? さっきお父さんに飲ませた光るアレはなんだったのよ」
照れ隠しなのかレイラがジト目で俺を睨んでくる。
いや、光るアレと言われましても。教えて影友さーん。
「うーん、正直おれにもよく分かんないんだよね。なんとなく確率とか可能性とか、そういうものを操作する系統の能力だってのは分かるんだけどさ」
「へー、なんか凄そう」
ま、使ってりゃ嫌でもその内分かるだろ。
「アンタねぇ、自分のことなんだからもうちょっとしっかりしなさいよ」
「そういわれてもれれぺれぴえねげりごめそわす!? あ、ヤバイ、また来たたたたたたたたたたたたうんろへりにゃぉうん!」
「あ、ダメだこれ。また取り込まれる!? ごめん後は任せたあぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
「ちょ、ちょっと!?」
影友さんが俺の影の中に吸い込まれるように消えてゆき、思考にモヤがかかり始め、頭の奥がフワフワしてきた。
あはは、うふふ。
うへへへへ。
しあわせしあわせ♪ らんらんらん♪
☆
晃弘の瞳から理性の光が消えていく。
「なす!」
口元をへらへらと歪ませた晃弘が指を鳴らす。
すると万高の足元に複雑な魔法陣が現れ……
「むっ!? これは転送魔法陣か!? まず────」
バシュン! と、万高の姿がセリフを言い終える前に消えた。
「なっ!? ちょっとアンタお父さんどこへやったのよ!?」
「しゃるぅいだんす」
再び正気を失った晃弘に麗羅が詰め寄ると、くるくるっと回した晃弘の指先から謎のキラキラが溢れて麗羅の全身を駆け巡る。
すると麗羅の式神との融合が強制的に解け、まるで魔法のようにメイド服がどじょう掬いの衣装に変わった。
「ちょっと! なによこの恰好!? やだ身体が勝手にいやぁぁぁぁぁぁ!?」
「ゲハハハハハ! らんらんらん♪」
晃弘がまた指を鳴らすと、どこからともなく愉快なBGMが鳴り出して、麗羅の身体が勝手にどじょうを掬いながら洞窟の奥へと進み始める。
その周囲をグルグルとスキップしながら晃弘も洞窟の奥へと消えていった……
どじょう掬いながら行きましょうねぇ( ˆᴗˆ )




