ゆけっ! ぼくらのグレートタイザンオー!
崩落の衝撃で舞い上がった土埃が晴れ、穴の開いた天井から月光が差し込む。
探査球で出口を探すついでに見つけた岩盤の弱い部分に、いざといとき爆破して外へ通じる穴を開けられるように探査球を貼り付かせておいたのだ。
崩落した瓦礫を押しのけ肉の塊が蠢きながら地上へと這い上がっていく。
月光が照らす山間の広場に出た肉塊は白衣の男を吐き出すと少女の姿へ戻りつつ男に声をかけた。
「怪我はナい?」
「うん。咲奈のおかげで傷一つ無いよ。ありがとう」
「よカっタ」
咲奈の肉体が少女の姿に戻り切らない。
どうやら無理をさせすぎたようだ。早くメンテナンスしてやらねば細胞の崩壊が始まってしまう。
男は白衣の裏に忍ばせていた注射器を取り出し、咲奈の腕に薬液を打ち込む。
応急処置だが、これで多少は細胞の崩壊を遅らせることができるはずだ。
「やっぱりあれくらいじゃ死んでくれませんか」
瓦礫の山が「バゴンッ!」と内側から弾け飛び、スマートな機械鎧が勢いよく飛び出して二人の前にふわりと着地する。
咲奈を庇うように前に出た白衣の男を見て、辰巳がやれやれと鼻で嗤った。
完全にセリフ行動が悪役のそれである。これではどっちが悪役かわかったものではない。
「そこをどけっ! お前を殺すのは後にしてやる。咲奈をメンテナンスしなければ」
「後で殺しにくる相手を逃がすとでも?」
「どいてコウ君! そいつやっぱり私が殺す!」
「ほら、後ろの彼女も殺る気満々みたいですし、ますます逃がす理由がありませんね」
辰巳が左腕を二人に向けると、腕が大きく変形して巨大なレールガンになった。
二本のレールの間にバチバチと紫電が迸る。
「ちっ! だったらお前を殺して戻るまでだ! 咲奈、ボクも手伝う!」
白衣の男が呪文を呟いたのと、レールガンの発射はほぼ同時だった。
音速の数十倍の速度で発射された弾丸は、白衣の男に当たる直前大きく軌道を変えて見当違いの方向へ飛んでいく。
弾避けの加護だ。
咲奈の肉体がボコボコと膨張し白衣の男を取り込んでさらに大きく膨らんでいく。
山よりも大きく膨らんだ蕾は、ぬるりと粘液の糸を引いて花開き、月下の闇夜に大輪の肉の花が咲き誇った。
花の中心部から空に向かって槍のように突き出すめしべの表面には無数の少女の顔が浮き出ており、それぞれ意味の無い言葉を呟いてはケラケラと耳障りな甲高い笑い声を上げている。
めしべが大きく割れて巨大な触手が飛び出し、山肌を一撫でする。
轟────ッッッ!!!!
山が消し飛び、衝撃波が周囲の山の木々を根こそぎなぎ倒し吹き飛ばした。
「ひぇぇ、すごい威力。明日絶対ニュースになるやつですねコレ」
触手が直撃する寸前に空へと飛び上がりどうにか難を逃れた辰巳だが、その声に焦りや不安の色はまるで見られない。
それどころか、むしろこの状況を楽しんでいるような雰囲気すらあった。
「ふふふふ! こんなこともあろうかと作っておいてよかったですねぇ! カモンッ! グレートタイザンオー!!!!」
辰巳を中心に空間が大きく揺らぎ、巨大化した咲奈に匹敵する巨人の影が山肌を覆い隠し────
ズシィィィィン!!!!
天を貫く巨体が山々の間に降り立った!
戦国甲冑のような装甲を全身に纏い、腰に佩いた太刀の黒鞘が月の光を跳ね返し妖しく輝く。
瞬間、鬼のような二本角の生えた兜の下から覗くスカルフェイスの両眼に「ギュオン!」と炎が宿った。
グレートタイザンオー。
全長一二〇メートル。最大馬力九〇〇〇万馬力を誇る辰巳の現時点での最高傑作。
……もとい、例の修行場の霊力がすぐに全回復する特性を利用して、一〇〇年近い時間をかけて作成した趣味全開のジョーク兵器である。
いつか山ほどデカイ悪霊と対峙したときに使えたらいいなぁ、くらいの気持ちで作ってみたが、まさかこんなに早く使う機会に恵まれるとは辰巳自身も思っていなかった。
そりゃあ化け物を前にして笑顔にもなるはずだ。ニッコニコである。
「さあ、お前の力を見せる時がきましたよグレートタイザンオー! 抜刀! 超断罪剣エンマ!」
ダイザンオ―のコックピットに乗り込んだ辰巳が操縦レバーを操作すると、ダイザンオーが腰から太刀を引き抜いた。
刀身から霊力の光が炎のように揺らめき、荒れ果てた周囲の山々を青白い光が照らし出す。
超断罪剣エンマ。
クリカラの姉妹刀であり、あらゆる罪穢を力づくで祓い清め、仏教思想において救いがたいとされる外道に落ちた魂をも六道輪廻へと叩き戻す究極の救済剣である。
「いっけ────ッッ!!!!」
示現流の構えで太刀を振りかぶり、迫る触手の一撃を掻い潜ったグレードタイザンオーが閃く刃を肉の花へと振り下ろす!
「ギャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
身を裂くような絶叫。
肉塊の表面が苦しみもがくようにボゴボゴ泡立ち、一気に膨れ上がり、
ドッパァァァ────ン!!!!
最後は風船のように破裂して大地に血の雨を降らせた。
飛び散った肉片が山々を押しつぶし、降り注ぐ血が山の裾野を流れる川を赤く染めていく様子はまさに地獄そのものだった。
「あ……う…………あ……コ……ウ、君」
グレードタイザンオーの巨体が淡く輝き空気に溶けるようにして消え、辰巳が大地に降り立つと血の池に沈む小さな肉塊が空を仰いで呻いていた。
辰巳は残った最後の霊力をすべて使い一本の注射器を作り出すと、蠢く肉塊へ針を刺して薬液を流し込む。
すると、肉塊に劇的な変化が起こった。
瞬く間に手足が生え、皮膚が肉の表面を覆い、眼球や髪の毛が形成されて、愛らしい少女の姿へと戻っていくではないか。
咲奈が身体の調子を確かめるように手を握ったり開いたりしてみる。
細胞の崩壊が止まっていた。
生まれてからずっと身体を苛んでいた痛みも無くなり、なんだかふわふわする。
自分の肉体が一つの生命として完成したのだと、咲奈は感覚で理解した。
「どう……して……?」
「あのまま死なせたら後味が悪いからですよ。罪を憎んで人を憎まず。悪の心も罪の因果も断ち切ったんですから、せめて哀れな怪物くらいは救われてくれないとやるせないじゃないですか」
辰巳が周囲に視線を向けるが、白衣の男の姿は無かった。
背負った罪があまりにも重すぎて、産まれる前の姿に戻ってしまったのだろう。
「……コウ君はここにいるよ」
愛おしそうに腹を撫でながら咲奈が微笑む。
どうやら胎児まで戻ってしまった白衣の男は、少女の胎内に定着したらしい。
「ありがとう。ようやく彼を狂気から救えた。……私の死に囚われて、コウ君、ずっと苦しんでたから……」
「これからどうするんです?」
「生むよ? ……産んで、育てる。私がコウ君を幸せにしてあげるの」
幸せそうな、だがどこか狂気を孕んだ、ゾッとするような笑み。
「……お幸せに」
少女の瞳に気圧されて詰まった喉から出たのは、そんな月並みな言葉だった。
「じゃあ、行くね? バイバイ。……ありがとう。優しいお兄ちゃん」
咲奈の背中から虫の羽が広がり、少女の身体が勢いよく空へと飛び上がって月夜の闇へ消えていった。
すると夜空を見上げていた辰巳の身体がぐらりと揺れて、糸が切れたようにその場に倒れ込む。
「はは……っ、ちょっと力を使いすぎましたかね……。ああ、まずいなぁ、眠い……」
フルフェイスの兜の下ですべてを出し切ったような満足げな笑みを浮かべ、辰巳は落ちるように意識を手放した。
☆
「よしっ、完成!」
まあなんということでしょう。
空っぽだった祭壇の部屋は抽象的なデザインの置物たちで飾りたてられ、目に楽しい愉快な空間へと様変わりしたではありませんか。
うーむ、匠の技が光るね。さすが俺。
台座の上にはそれぞれ、
玉を抱えた龍の置物
天使の羽が生えたハートの置物
王冠をかぶったドクロの置物
六本の腕を持つ鬼神の置物
互いの尾を食い合う蛇の置物
勇者の剣の置物
そして空っぽの箱の置物
と、七つの置物が円環状に並んで浮遊している。
これ以上増やしようがないという確信があるし、これより少なくてもなんか寂しい気がするので、この数が俺の限界ということなのかもしれない。
これらがいったい何を示しているのかは作った俺自身も分からない。
魂の命ずるままに泥を捏ねていたら自然とこの形になった。
けど、なんとなく今後目覚める力の器になってくれそうな予感はある。
そしてこの中で今使えそうな能力は……六腕の鬼神だけか。
影友さんが取り込んだ例の鍵と形が似ているのが少し気になるが……
「ま、なるようになるだろ!」
台座に手をかざすと、台座の上で置物たちが時計回りに回転して、6腕の鬼神が台座に収まった。
すると台座から眩い光が溢れ、視界が真っ白に染まり――――
巨大ロボ出せてロリ(っぽい化物)がご懐妊したから大満足!
\( *´ω`* )/




