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芸術は爆発だッ!!!!

 倒れた晃弘はすぐさま扉の城の治療室へ連れ込まれた。

 白いカーテンで仕切られた清潔なベッドの上に寝かされた晃弘に喪服の女主人が手をかざし、霊的な視点から晃弘の身体を隅々まで調べ上げていく。

 やがて静かに手を下ろした喪服の女主人が所見を述べた。


「……これは少しまずいかもしれないわね」


「まずいって、ヒロのやつどうなっちゃったんスか!?」


 雅也が取り乱した様子で喪服の女主人に説明を求める。


「彼は今、神化しんかの途中で止まっているのよ」


「神化……神になるってことですか?」


 生物の進化とは微妙にニュアンスの違う響きに、辰巳が確認するように問い返す。


「ええ。ここでいう神とは人類とは隔絶した能力を持つ高次元生命体のことだから、神話の神々とは少し意味合いが違うのだけどね」


「つまり、より高次元の存在に身体が変化しようとしているのが途中で止まっていると? それのなにがまずいんですか?」


「肉体の変化はほぼ完了している。けど、問題は魂のほうなのよ」


 晃弘は自らの能力により成長を続け、とうとう人から神へ至るための入り口へ踏み込んだ。

 しかし、その途中で首を斬られたことで神化は一時中断され、その間に能力を抜き取られたせいで魂を神化させる手段を失ってしまった。


「魂には明確な位階が存在するのよ。そして、魂は自分よりも下位の肉体は動かせても、上位の肉体は動かせないの。例えるならミジンコが戦闘機を操縦できないようなものね」


「そっか、身体だけが先に神様になっちまったのに、魂だけ人間のままだから動けなくなっちまったんだな……」


 喪服の女主人の話を理解した雅也マサが神妙な顔をしながら腕を組んで「むぅ」と唸った。


「むしろさっきまで普通に動けていたことが奇跡ね。あまりにも普通に動いていたから、こうしてしっかりと見てみるまで彼の状態に気付けなかった。……不覚だったわ」


 ベッドの上でピクリとも動かない晃弘の頭をそっと撫でて、喪服の女主人が僅かに俯く。


「……取り返せばいい。取られた能力があればコイツはきっとまた目を覚ますはず。そうですよねご主人様!?」


 湧き上がる不安を打ち消すように麗羅レイラが声を張り上げて、喪服の女主人へ視線を投げる。


「どのみちぬえの計画は阻止しなければならないわ。それで、奴らの潜伏場所は掴めているのかしら?」


「それならバッチリです」


 辰巳タッツンが手の中に薄型のタッチパッドを出現させる。

 画面には地図が表示されており地図上のある一点で赤い光が点滅していた。


「実は宗助さんがペラペラネタばらししている間に、あの場にいた敵全員に超小型の発信機を仕込んでおいたんです」


 辰巳タッツンが得意気な顔で左のてのひらを開くと、てのひらの上に黒い砂のようなものがつむじ風のように渦を巻いた。

 思考操作で半径一〇メートル以内なら自由に飛ばすことができ、吸い込んだ者の体内に定着してごく微小な霊的信号を発信し続ける。

 クリカラを作成する片手間にたわむれで作った道具だったが、しっかりと役に立ってくれた。


「ようやく尻尾を掴んだわね。早速叩き潰しに行きましょうか」


 喪服の女主人が口元に凶悪な笑みを浮かべ、マスターキーに霊力を込めて目の前の空間に鍵を差し込む。

 すると「グオン!」と巨大な獣が口を開けるように、空間に裂け目がしょうじた。


 と、次の瞬間、意識の無い晃弘の身体が「ビクン!」と跳ね────。



「まずいっ!」



 刹那、時が止まり世界が色を失う。

 老執事が能力を使ったのと、晃弘の肉を突き破り無数の骨が槍のように飛び出したのはほぼ同時だった。


「ふぅ……間一髪でしたか」


 驚いた表情のまま固まっている子供たちの鼻先数ミリまで迫っていた骨の槍を見て、老執事がひとまずホッと胸をなでおろす。

 

「まだ油断してはダメよ。ほら」


 当然のように時間の停止した世界に入り込んできた喪服の女主人から指摘され、老執事が骨の槍に目を向ける。


「……っ!? ば、バカな!?」


 老執事が驚きに目を見開く。

 少しずつではあるが、まるで時の呪縛を喰い破るように骨の槍が動き始めていた。


「これは逢魔さんだけでは手に負えないわね」


「申し訳ございません」


 老執事が額に汗を浮かべながら頭を下げた。


「いいのよ。相手はなりかけとはいえ神だもの。人から鬼になった貴方とは存在の格がそもそも違い過ぎる。……けど、そうなると匣の奪還はこの子たちに任せるしかなくなるわね」


 喪服の女主人が止まったままの三人に目を向け、骨の槍を指先で軽く爪弾つまはじく。

 一点から全身へ伝播した衝撃が骨の槍を粉々に砕き、宙を舞った骨粉が時間停止の影響を受けてピタリと止まった。


「信じるしかないでしょう。可能ならもう少し鍛えておきたかったですが」


「そうね。けど、この子たちの才能は光るものがある。実戦の中で開花すればあるいは……ね」


 麗羅のメイド服のポケットに事情を伝えるメモを忍ばせ、女主人が虚空に開いた穴の向こうへ視線を向ける。

 すると穴の奥から無数の黒い腕が伸びて三人の身体を穴の中へと引きずり込み、穴は再び「がおん!」と閉じた。




 ☆




 気が付くと俺は見上げるほど巨大な扉の前にいた。

 扉は大きく開け放たれていて、千切れた鎖が力尽きた大蛇のように地面に横たわっている。

 周囲を見渡すと、どうやらここは泥沼の真ん中に浮かぶ小島のようで、遠くのほうは深い霧がかかっていて何も見えなかった。



「……これはアレだ。俺の内なる世界ってやつだ」



 漫画でよく見るパターンだからすぐにピンときたぜ。

 けど、すでに封印が破られてるパターンは見たこと無いな。

 扉の奥を覗くとご立派な台座だけがポツンとあるだけで、それ以外には何もなかった。

 やだ、俺ってば空っぽ。寂しいわ、どうしましょ。


「……せや! なんも無いなら自分で作ったろ!」


 俺ってば天才かよ。

 幸い周りは泥沼。材料はいくらでもある。

 へっへっへ、小学生のとき粘土工作で賞取った俺の美的センスをなめんなよ! 素敵なオブジェでいっぱいにしてやるぜ!


 試しに泥を手で掬ってみる。うへぇ、すっげーねっとりしてる……

 色は薄いしニオイも無いけど、肌にまとわりつくような感触がただただ不気味だ。

 とりあえずどうにか形を変えようと試みていると、どうやらこの泥は霊力を込めれば込めるほど固くなるらしいことに気付いた。


「くっくっく、霊力込めるほど固くなるなんてエッチなやつめ。ほーれここをこうして……こう!」


 辛うじて人型に見えなくもない不気味なオブジェができた。

 なにこれキモイ。全身から棘突き出てるじゃん。ウニかよ。

 けどせっかく作ったものを捨てるのももったいない気がして、とりあえず台座に飾ってみる。

 ……うん、圧倒的にコレジャナイ。


「べ、別にまだ全然本気じゃなかったし。見てろよコノヤロー!」


 誰に言い訳してるのか自分でも分からないまま、俺は台座に飾るに相応しいオブジェ作りに熱中していった。



わーい! どろんこあそびたーのしい!(小並感)





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― 新着の感想 ―
[一言] この状況で粘土遊びするかふつう あ、こいつふつうじゃなかった変態だった
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