何度でも
いつまでも全裸のままでは寒いので急ぎタッツンに服を作ってもらいそれを着ることにしたのだが……
「……なんで全身黒タイツなん?」
なぜかタッツンが渡してきたのは、ピチピチの全身黒タイツだった。
「吸湿性と速乾性を兼ねそなえ、冬は暖かく夏は涼しい。防刃防弾性能も備えた自信作です!」
確かに着心地は素晴らしい。
よく伸びるから動きやすいし、吸い付くような独特のフィット感がクセになりそうだ。
「変態度増してるじゃないの」
股間のもっこりから目を逸らしながらレイラが吐き捨てる。
「へっ、俺のち●ぽガン見してたくせによく言うぜ!」
「見てないっ!!」
「いいや、指の隙間からガッツリ見てたね! このむっつりスケベ!」
やーいやーい、むっつりスケベー!
ほれほれ、ここが気になるのか? もっこりが気になるのか? イヤーンエッチー!
「キモい動きすんな変態!」
「ぎゅぷっ!?」
全力のグーが顔面に突き刺さった。
ま、前が見えねぇ……。
「そこー、痴話喧嘩しないでくださーい」
「ケッ! 見せつけやがって!」
「「痴話喧嘩じゃない!」」
俺とレイラの声が重なりお互い顔を見合わせる。な、なんだよ。
そんな俺たちの様子を見てタッツンとマサがたまらず吹き出し、つられて俺とレイラも笑いがこみ上げてくる。
なんだか妙に懐かしかった。
俺たち三人がバカやって、それにレイラが噛み付いてきて喧嘩になって。
けど、いざって時には協力しあって、ノリと勢いと悪知恵で事件を解決する。
記憶にはない。けど、身体が覚えている。そんな奇妙な感覚。
……だからこそ気になる。コイツが何者なのか。俺たちが何を忘れてしまったのか。
「なんだろな。なんかすっげー懐かしいわ、この感じ」
「ですね。記憶にないはずなのに、どうしてか昔からこうだったって確信しかないです」
タッツンとマサがレイラに視線を向ける。
「なぁ。……お前は誰なんだ? 俺たち、何を忘れちまったんだ?」
「………………」
レイラがどこか悲しげな顔で黙り込む。
「……言えない。そういう契約なの。だからこれ以上は何も教えられない」
つまりコイツは何らかの契約をして、その代償で俺たちの記憶から消えた……?
色々とありがちなパターンは考えられるが、情報が少なすぎて推理のしようが無い。
「なら、また友達になればいいだけだろ」
「えっ……?」
元の姿に戻ったマサが、メガネのズレを直しつつ「ニッ」と白い歯を見せて笑った。
「マサの言うとおりですね。もし僕たちが何度も麗羅さんのことを忘れるようなら、その度に何度でも友達になればいい」
タッツンがいつもの人の良さそうな微笑みを浮かべて頷く。
ったく、コイツらは。どうしてこう恥ずかしいことを平然と言えるもんかね。
二人が俺にニヤニヤと気色悪い笑みを向けてくる。
……なんだよその顔は。俺もなんか言えってか。
「……ま、まあ? お前がどーしてもって言うなら? ダチにしてやらないでもねーぞ」
くっそ、なんで俺までツンデレっぽくなってんだよ!?
ったく調子狂うなぁ。なんなんだよもぉーっ!!
「……ふん。アンタたちがどーしてもって言うなら……その、なってあげなくもないわよ……友達」
腕を組んで「ぷいっ」とレイラがそっぽを向く。
顔はツンツンしてるくせに、主張の激しい狐耳と尻尾のせいで本心がダダ漏れだった。
けっ、嬉しいなら素直にそう言えよ。
「うみゃっ……! あれぇ? ここどこぉ……?」
と、ここで気絶していた女子高生が目を覚した。
……なんか身体めっちゃ縮んでないか?
どう見ても四歳かそこらだぞ。
「おにいちゃんたち、だぁれー?」
こてん、と首を傾げてイタチの耳をピコピコさせる謎の幼女。
あらどうしましょ。超可愛いんですけど。
何がなんだか分からないが、俺はとりあえず自己紹介から始めることにした。
「俺は晃弘。こっちのぽっちゃりがタッツンで、あっちのマッチョがマサ。そんでそっちの狐のお姉ちゃんがレイラだ。君の名前は?」
「はい! まいちゃんはねー、まいちゃんです!」
得意げに小さなおててを上げてご挨拶するまいちゃん。
はい可愛い。
「まいちゃんはどうしてここにいるか覚えてるかな?」
「えっとね! ……あれぇ? パパどこぉ?」
なるほど、記憶喪失。いやこれは幼児退行か?
クリカラで斬ったことくらいしか原因が思い当たらないが……そこんとこどうなのよタッツン。
「これは……斬った相手を子供にする効果なんて付与した覚えはないんですが……」
ふむ。刀の作成者も原因は分からず、と。
「あくまで推測ですが、クリカラは斬った相手を罪を背負う前の無垢な姿に戻してしまうのかもしれません」
確かにそれなら一応辻褄は合う。
座敷童はもともと子供の妖怪だから、それ以上若返りようが無かったわけだ。
「ねぇ、まいちゃん。まいちゃんのパパってどんな人? お姉ちゃんに教えて?」
「ううん、ひとはママなの。まいちゃんのパパは、かまいたちっていうすっごーいようかいなんだよ!」
「そっかー、すごいわねぇ」
「ふふん!」
まいちゃんの頭をレイラがなでてやると、まいちゃんは得意げに「フンス!」と鼻を鳴らして胸を張る。
片親が妖怪ってことはつまり半妖か。
じゃあもしかしてこの子も見た目通りの年齢じゃないのかもしれないんだな。
……これもある意味ロリババアになるのかね?
鵺に入った動機は、時代の変化と共に力が弱り姿形を保てなくなってしまった父親を復活させるためとか、そんなところだろうか。
妖怪は人々が「そこにいる」と信じなければ存在できない。
人々が妖怪を否定するなら、世界を滅ぼしてでも信じさせてやるってか。
なるほど、これは確かにとんだファザコン娘だ。
「で、どうすんだよこの子」
まいちゃんに「たかいたかい」しながらマサが言った。
「とりあえず臥龍院家で保護するしかないわね。大丈夫、きっとご主人様がなんとかしてくれるわよ」
まあそれが最善だろうな。
レイラの案に頷いた俺たちはまいちゃんを連れて近くにあった襖に「鍵」を使い扉の城へと飛んだ。
秘剣「幼女返し!」