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ドッジボールしようぜ! お前ボールな!

 轟々と風が吹き荒れるたびに誰かの血飛沫ちしぶきが舞う。

 修業の成果か、全員致命傷だけはギリギリ避けているものの、このままでは出血で倒れかねない。

 レイラの炎は風に吹き消され、タッツンの銃弾も見当違いな場所へ飛んでいくばかりだ。

 近距離タイプのマサもがむしゃらに斧を振り回すがまるで当たる気配がない。


「ふん、手も足も出ないか」


 青龍刀の血糊を振り払い、狐面の女子高生が暴れ回る俺のボディーを踏みつける。

 ぐぬぬぬ……! 俺なんて首だけだから文字通り手も足も出ないのが悔しい!


「いいえ、ようやく目が慣れてきたところです」


 タッツンが針無しの注射器を生み出して自分の腕に薬液を打ち込む。

 すると全身の傷口がみるみる塞がって元通りになった。お前そんなもんも作れたのか。

 タッツンから注射器を受け取ったレイラとマサも、受けた傷を治して狐面の女子高生に向かい合う。

 マサお前注射器そのまま食うなよ。腹壊すぞ。


「ふん、戯言を。これで終わらせてやる!」


 女子高生の姿が突風と共に「フッ!」とかき消える。


「そこっ!」


 ズボンのポケットから何かを取り出したタッツンが床に向けてそれを勢いよく投げつける。

 瞬間、「ベチャァ!」とオレンジ色のインクが床に撒き散らされ、床がオレンジ色に染まった。

 タッツンお手製のペイントボールだ。


「っ!?」


 するとインクの広がった床の上に透明な何かの足跡が付き、慌てて飛び退すさった女子高生が再び姿を現す。

 女子高生のローファーにはオレンジ色のインクがべっとりと付着していた。


「やはり、あなたの能力は超スピードではなく透明化でしたか」


「くっ! 小癪な真似を!」


「おかしいと思ったんですよ。風のような超スピードが出せるならどうして僕たちを一瞬で殺してしまわないのかってね」


 そうか、俺たちをいたぶって遊んでるわけじゃなくて、単純にそんなに早く動けなかっただけだったんだな。

 突風という分かりやすい派手な現象で相手の意識を引いて、その隙に透明化して近づき攻撃する。

 気付いてみれば単純なトリックだけど、かなり凶悪な能力だ。


「しかもあなた、さっきからずっとヒロの身体を気にしてますよね。つまりその身体が自由になったらあなたにとってまずいことが起きる。違いますか?」


「いやぁーっ! ケダモノ―! 俺の身体にいやらしい視線向けないでよエッチ―!」


「なっ!? ち、違っ! 違うもんっ!」


「セクハラすんなバカ!」


「あでっ!?」


 ほんの軽いジョークを飛ばしたらレイラにひっぱたかれた。

 にしても「もん」って。ちょっと茶化しただけでキャラ崩壊すんなよ。


「くっ! 殺す……っ!」


 なんとなく涙目になったような雰囲気を醸しつつ狐面の女子高生が青龍刀を構え直す。

 あーあー、ミステリアスなクールキャラが台無しだよ。


「えーっと? なんかよく分かんねぇけど、ヒロの頭を身体まで届けたらオレらの勝ちってことでOK?」


 マサが女子高生の足元で串刺しにされてビクンビクンしている俺のボディーを指差してタッツンに確認する。


「おそらくは。さあ楽しいドッジボールの時間ですよ!」


「うっし! いっちょやってやっか!」


「ドッジボールなんていつぶりかしら。懐かしいわね」


 レイラの無邪気な笑顔に俺は無いはずの背筋が寒くなるのを感じた。


「おい待てお前ら! なんか嫌な予感しかしないんだが!?」


「「ドッジボールしようぜ! お前ボールな!」」


「いっくわよーっ! おりゃ――――っ!」


「こんなこったろうと思ったよチックショー!!!!」


 レイラが思い切り振りかぶってお札を張り付けた俺の頭をブン投げる!

 お札が空中で点火してブースターと化し、さらに俺の首の分身がいくつも現れてボディー目掛けて流星群のように殺到する。


「こんなもの全部吹き飛ばしてやる!」


「させませんよ!」


 タッツンが具象化させた巨大な扇風機が横向きの竜巻を吐き出し、狐面の女子高生の暴風を相殺そうさいする。

 あばばばば目が回るーっ!?


「うおおおおおおおおおおお!」 


 そこへすかさずマサが女子高生に向かってジェット噴射で加速しながらショルダータックルで突っ込んでいく!

 たまらず女子高生が飛び退いた隙に、マサが俺のボディーに刺さっていた刀を蹴り折った。


「くっ!? ドッジボールでタックルしてくるなんて卑怯だぞ!」


「そっちも突風使ったんだからおあいこだろ!」


 刀がへし折られて自由になったボディーが跳ね起きて、空中でもみくちゃになった俺の首目掛けて大きくジャンプした。

 ボディーが俺の首を「ガッシィ!」とキャッチすると、飼い主にじゃれる犬みたいに思い切り抱きしめてきた。

 ああ、会いたかったよ! 俺のボディー!



「うおおおおおおおお! 合体!!!!」



 俺の頭を持ち上げたボディーが首の断面同士をくっつける。

 すると傷口から光が溢れ、光は瞬く間に全身へと広がりその輝きが周囲を白く塗りつぶしていく。


「完 全 復 活ッ!」


 光が弾けると俺の身体は姿形はそのままに純粋な霊力の塊へと変化していた。

 身体の奥底から力が漲り、溢れ出した力が体表でバチバチとスパークしている。


「さっきはよくも俺のボディーを串刺しにしてくれやがったなコラ!」


「くっ……!?」


 手にクリカラを握りしめ八双の構えを取る。

 ったく、どいつもこいつも人の首をボール扱いしやがって!

 後退あとずさりながらも女子高生が両手の青龍刀を構え直そうとするが、遅い!



「────かっ……は……」



 一閃。

 音もなく振り抜いた俺の一撃は狐面の女子高生が今まで犯してきた罪の分だけ痛みを与え、魂を濁していた悪の心を斬り祓った。


 女子高生が魂の痛みに膝を突くと狐の面の紐が解けて床に「カラン」と落ちて隠されていた素顔が顕わになった。

 俺たちよりも少し年上だろうか。切れ長の瞳が凛々しい長い黒髪を背中まで流した美人さんだ。


 すると、女子高生の頭に獣の耳が「ぴょこ!」と生えてきて、今にも泣き出しそうな顔になる。あれは……猫? いやイタチの耳か?


「ふぐ……っ、ううぅ……わぁぁぁぁん! 負けたぁぁぁぁ! 見られたぁぁぁぁぁぁ! やぁぁぁぁぁだぁぁぁぁぁ! わぁぁぁぁぁぁん! パぁぁぁパぁぁぁぁぁ!」


 そしてとうとう堰が切れたみたいに女子高生が大泣きしだしてしまう。

 いや、パパって。


「ったく、どうすんのよコレ……」


「いやどうすんのって言われても」


 そんなの俺が一番知りたいよ。

 と、その時である。


「あ」


 突然霊力の光が「ばしゅん!」と弾けて、俺の身体が元に戻る。

 当然そうなれば俺のお●んちんも丸出しになるわけで。

 火が付いたように泣いていたケモミミ女子高生がはたと泣き止み、その顔がみるみる真っ赤に染まり……。



「……きゅう」



 ばたっ。



 ……え? 気絶した!?


死因「はずか死!」(※死んでません)





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[一言] 全裸の変態と女子高生 …どっちが悪役?
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