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犬飼宗助という男

 犬飼宗助。

 俺の五つ年上の兄で、三年前に高校の修学旅行中に起きた飛行機事故で死んだ。


 海上を飛行中に燃料タンクが爆発して、乗員乗客二八〇名全員が死亡。

 遺体は海流に流され、犠牲者は誰一人として帰ってくることの無かった、あまりにも痛ましい事故。


 宗助は弟の俺から見ても底の知れない奴だった。


 いつも斜に構えてヘラヘラして、勉強なんかちっともしてないくせに、なんでかいつもテストは満点で、スポーツもなんでもそつなくこなす。

 いつも違う女子を連れて歩いていて、顔じゃ笑ってるくせに瞳の奥はいつもどこかつまらなそうで。

 そんな兄に俺は一度だけ、思ったことをそのまま聞いてみたことがあった。

 宗助、なんか人生つまんなそうだね、と。

 そのときの宗助の本気で驚いたような顔と、そのあと宗助が語った言葉が俺は今でも忘れられない。


「……こんなくだらねぇ世界はさ。一度全部ぶっ壊れちまえばいいんだよ。そうしたらきっと面白くなるぜ」


 あんなに恐ろしい笑顔を、俺は今まで見たことがなかった。

 宗助が死んだのは、それから二ヵ月後のことだった……








「な、なん……で」


 記憶よりも若干大人びてはいるが、間違いない。

 女にモテそうな整った目鼻立ち。ザンバラの黒髪。貼り付けたようなヘラヘラと薄っぺらい笑顔。


「はっ、なんで生きてんのかって? 特に面白くもねぇ、ありきたりでベタな話さ」


 どこまでもヘラヘラと軽薄に、宗助が嘘かホントか分からない話を語り始める。



 ☆



 犬飼宗助には生まれつき類稀たぐいまれな霊的センスがあった。

 成長と共にその霊力は爆発的に増えてゆき、二歳になるころには並の大人よりも賢く、大悪霊と呼ばれるような強力な霊を片手間に消滅させるほどの力を有していた。


 宗助にとって自分以外の人間は、しゃべる猿も同然だった。

 自分と比べてあまりに足りない知能。

 世界の真の姿を知覚できない愚鈍な感性。

 どれを取っても自分とは比べるまでもないほど劣っていて、とても同じ種族であることが信じられなかった。


 だが宗助はそんな本心をひた隠し、あくまで普通の少年のように振る舞った。

 人間という種族が突出した才能を恐れることを幼いながらに知っていたからだ。


 そして彼が五歳のとき、宗助に変化をもたらす出来事が起きた。

 弟が────晃弘が生まれたのだ。


 晃弘は宗助すらも上回るほどの霊力を持って生まれてきた。

 無限の可能性を秘めたその小さな命に、宗助は一つの希望を抱いた。

 もしかしたらこの赤子は自分の唯一無二の理解者になるかもしれない。

 否、かもしれないではない。そのように自分が育てるのだ。


 そんな宗助の希望はしかし、すぐさま打ち砕かれることとなる。

 晃弘が生まれて半年が経ったころ、突然晃弘の身体が指先から壊死し始めたのだ。

 弟の小さな身体はその身に秘めた霊力に耐えきれず崩壊しかけているのだと宗助にはすぐに分かった。


 このままでは弟が死ぬ。

 それどころか晃弘の魂は肉体を失ってもさらに成長を続け、自分でも手を付けられない化け物に成り果てるだろう。


 それを悟り、宗助は晃弘の霊的能力を永久に封印することを決意する。

 かくして晃弘の能力は封印され、晃弘はごく普通の少年として実にわんぱくに育つ。

 だが晃弘の能力は封印の術式をも巻き込んで、なおも成長を続けていた。

 それに宗助が気付いたのは、封印から一三年後。

 高校の修学旅行を二ヵ月後に控えた、ある日のことだった。




 ☆




「あの日、俺はお前に施した封印が変化していることに気付いた。驚いたよ。まさか俺の封印術式を巻き込んで能力が変質するなんてな。そしてお前の力の本質を見抜いて閃いちまったわけよ」


 真実を語り進めていく内に、軽薄な印象しかなかった宗助の笑みに次第に狂気の色が混ざりはじめる。


「お前の力の本質は、様々な経験を積むことによる無限の成長力だ。んで、俺ってば閃いちゃったわけよ。この力、人類の選別に使えるんじゃねぇかってよ」


「選別……?」


「この地上にいるすべての存在がお前の力に目覚めたらどうなると思うよ」


「なっ!? そんなことしたら地球の霊的バランスが崩れる! 下手すれば人類滅亡じゃすまなくなるわよ!?」


「クックック、相変わらず麗羅ちゃんは察しがいいねぇ。誰もが神になれるチャンスをあげようってんだぜ? むしろ感謝してほしいくらいだね。ま、その過程でどれだけ雑魚が死のうが知ったこっちゃないがな! ハハハハハ!」


「信じられない……狂ってるわ」


 俺の首を抱えるレイラの腕が震えている。

 相変わらず……? 宗助はレイラの過去を覚えている……?


 宗助の話を聞いて、俺は先日の逢魔さんの話を思い出した。

 妖怪や怪異、あるいは都市伝説とは、人の恐怖の感情から生まれ、噂話によって肉付けされていく。

 つまり妖怪や怪異は多くの人々が信じて恐れるほど強くなり、逆に誰も信じなくなれば存在すらできなくなるということだ。


 けど、もし彼らが自力で強くなれる手段を手に入れたとしたら?

 そこに加えて、全人類が霊的存在を知覚できるようになったとしたら?


 妖怪や怪異、都市伝説が現実のものとして完全に受肉して、人々が化け物の存在に怯える時代の到来だ。

 そして化け物たちは人が恐れれば恐れるほど強さを増していく。

 そんなの、どうあがいても人類に勝ち目なんてない。

 一部の霊能力者や心臓に毛の生えた怖いもの知らずは生き残るかもしれないが、殆どの人類は間違いなく死に絶えるだろう。


「お前の力が『使える』って分かってから、俺はこれまで準備に奔走してきた。自分の死を偽装したり、変質しちまった封印を解く鍵を新しく作ったりしてな。大変だったぜ? なにせこの星には臥龍院がいる。あれに見つかったら即ゲームオーバーだからな」


 あ、やっぱ臥龍院さんって惑星規模でヤベー人なんだな。


「で、色々と奔走してる内に俺の理想に共感したやつらが集まってできたのが『鵺』ってわけさ。揃いも揃って変人奇人の変態集団になっちまったのはお約束ってやつだな。ハハハハ!」


「誰が変態だ」


「一番狂ってる人に言われたくないわよねぇ」


 狐面の女子高生が苛立たしげに舌打ちし、吸血鬼お姉さんが呆れたように宗助を半目で睨む。


「ハハッ、ファザコンと自己中がなんか言ってらぁ。と、そろそろ楽しいネタばらしタイムも終わりにしようかね」


 宗助が右手の指をパチンと鳴らす。だが……。


「あれ、鍵が来ねぇ……」


「……あ、もしかしてあの黒い阿修羅像が鍵だったり?」


「え、ちょっと、まずいですよこの流れ。……ひょっとしてなんかした?」


「うん! おれが食べちゃったZE☆」


「ファ────ック!!!!」


 俺の鼻の穴からミニサイズの影友さんがにゅるっと顔を出して大笑い。

 さすが影友さん、人のおちょくり方ってもんを分かってらっしゃる。


「……なーんてな! 念のためスペアキー作っといて正解だったぜ」


 と、宗助がポケットから5センチくらいのミニ阿修羅像を取り出す。

 あ、ちくしょう! そんなのズルいぞ!


「んじゃ、俺は最後の準備とか色々あるからこの辺でオサラバさせてもらうぜ。バイバーイ」


 再び般若面を付け直した宗助が指を高らかに鳴らすと、宗助の身体が風船のように弾けて、その場から跡形もなく消え去った。


「さーてと、私たちの目的は聞いてのとおりだけどぉ、君たち、今からでもお姉さんたちの仲間になる気はあったりする?」


「あり得ないわね」


「……正直、宗助さんが生きてたインパクトが強すぎて話の内容半分も理解できてないですけど、普通に考えてノーですよね」


「世界が滅亡しても筋トレはできるけどよ、漫画は読めなくなっちまうからな。この筋肉にかけて世界は守るぜ!」


 三人がそれぞれの答えを返す。

 お姉さんが「ま、そりゃそうよね」と首を横に振る。


「うーん、じゃあお姉さんも帰ろっかな。そこの首だけボーヤが光ってるせいで居心地最悪だし。じゃーねー」


 お姉さんがヒラヒラ手を振り、自分の影の中へ「とぷん!」と沈み込んで消えた。


「ちっ、自己中女め」


「これで三対一ね。どうする? 大人しく降伏するならそれなりの扱いは保証するけど」


「ふん、お前たちなど私一人で十分だ」


 狐面の女子高生が全身に風を纏い、どこからか呼び出した二対の青龍刀を両手に構える。

 刹那、マサの右腕の甲殻が深々と切り裂かれ、赤い飛沫が勢いよく噴き出した。


「さあ来い! と言っても、お前たちでは私の動きは捉えられんだろうがな!」



今日はギャグ成分少なめ ちゃんと真面目にシリアスもできるんやで!


それはそうと濃厚な負けフラグがおっ勃った女子高生ちゃんの運命や如何に!?



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