表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/144

光り輝く黄金の「タマ」シイ

 床一面に描かれた八卦図はっけずを、部屋の四隅で焚かれた篝火かがりびの光が妖しく照らし出している。


 部屋の中心には祭壇があり、そこに祀られた三〇センチほどの漆黒の阿修羅像から放たれる禍々しい気配が、部屋の空気をただならぬものへと変えていた。


 狐面の女子高生が阿修羅像の正面に晃弘の首の入った壺を置き、背後に感じた気配へ意識を向ける。

 般若面の男だ。



「よっ、お疲れちゃん」


「……ふん。最初からこうしておけばよかったんだ」


「まあそう言うなって。まさか首ちょんぱしても死なないなんて普通思わないじゃん。……つーかそれ、ホントにまだ生きてんの?」


「例え死んでいようと匣さえ取り出せれば問題ない」



 狐面の女子高生が御霊封じの壺を指先で軽くはじく。

 仮に壺の中で首が死んでいたとしても、まだ意識のある内に壺の中へ入れたのだから、肝心の魂はまだ壺の中にあるはずだ。


「ま、上手くいくならなんでもいいけどさ。とっとと取り出しちゃおうぜ」


「言われなくても」


 女子高生が壺のフタに手をかけ力を込めると「きゅぽん!」と子気味よい音と共にフタが外れる。


「なっ!?」


 しかし、そこに入っているはずの晃弘の首は影も形も無くなっていた。


「クックックック、どうやら一杯食わされたみたいだな」


「バカな、転移系の能力者だったのか……? いや、神化中に封印したんだ。そんなことできるはずが……」


「無理やり連れてくればそりゃ誰だって逃げるだろうさ」


「のんきなこと言ってる場合か! まだ第一段階とはいえ、神化が完了したら私たちでは手が付けられなくなるぞ!」


「だから仲間に引き入れようとしたんだろ」


 ま、一度盛大にフラれちゃったけどな。と、肩をすくめて般若面の男が冗談っぽく笑う。

 仮面のせいで表情こそ分からないが、雰囲気から男がこの状況を楽しんでいるらしいのが感じられた。


「ちっ、とにかく探すぞ。転移系の能力者じゃないならまだそう遠くへは行っていないはずだ」


「はいはいっと。……ったく、あの強情っぱりは誰に似たんだかね」


 男は仮面の下でニヤリと意味深な笑みを浮かべ、「パチン!」と指を鳴らしてその場から姿を消した。



 ◇



「……行ったか?」


「行った行った。危なかったなブラザー」


 影友さんが影の中に引きずり込んでくれてなきゃ今頃どうなってたやら。

 壺の中から影友さんに咥えられてニュルっと顔を出せば、そこは四方に篝火の焚かれた怪しげな儀式場だった。

 ちなみに俺を咥えている影友さんがどこから声を出しているのかは謎である。


 っていうか生首のまんま生きてる俺ってなんなの?

 なんかちっとも身体が再生する気配もないし、俺ってばいったいどうなっちゃったのさ!?



「それにしても、なんなんだココ」



 床には八卦図。中央には祭壇があり、明らかにヤバイ気配を放つ謎の黒い阿修羅像。

 俺ってば、どんな邪悪な儀式の生贄にされちゃうところだったんだ。ふぇぇ、怖いよぅ。



「ま、とりあえずこの像は回収しておくか。影友さん、頼んだ」


「りょ! んじゃ、いただきまーす!」



 俺を「ペッ!」と上に向けて吐き出し、口を大きく開けて影友さんが黒い阿修羅像を丸飲みにして、落ちてきた俺の首を口でキャッチ!

 いえーい! 一〇〇点!



「どんな味?」


「うーん……? なんか、ひたすら甘くて臭い、みたいな?」


「うぇ、なんかまずそう」


「あとすっげー胃もたれする感じ。しばらくはなにも食えそうにないや」



 そうなると影友さんの戦闘力はかなり落ちちゃうな。

 うーん、やっぱ食わない方がよかったかもしれん。

 


「まあいいや。とりあえず出口を探そうぜ」


「おけまる~。んじゃ、れっつらゴー!」



 ☆



 時は少々さかのぼり、晃弘の首が連れ去られた直後のこと。


 狐面の女子高生に成す術も無くしてやられた麗羅が悔しさに歯噛みしていると、首を失った晃弘の身体がヨタヨタと頼りなさげに手を彷徨わせ、鮮血が噴水のように噴き出る自らの首の断面に触れた。



「!?」



 首が無くなっていることに気付き、驚きを全身で表現する晃弘ボディー。

 首の断面にフタをするように傷口を手で押さえると、血がピタリと止まり、輝いていた全身から光が徐々に失われていく。


「って、ちょ、やだ何してんのアンタ!?」


 すると何を思ったのか晃弘ボディーが突然服を脱ぎ始めたではないか。


「ヒロ!? なにやってんですか!? ダメですよ! コラ! マサ、取り押さえて!」


「ガッテンだ! うぐぉぉっ!? なんだコイツめっちゃ強ぇ!?」

 

 慌てて幼馴染の野郎二人で押さえにかかるが、体格に見合わぬ異様な力で暴れられ、わちゃわちゃともみ合いをしている内に服はベリベリと破けてしまった。


 全裸になった晃弘ボディーの股間だけが謎の光を放ち、廃病院の中庭を優しくも神々しい光で照らし出す。嫌すぎる。


 服を脱いで満足したのか、腰に手を当て股間を前に大きく突き出すように腰を振る晃弘ボディー。何をやっているんだお前は。



「────っ!?」



 何かを感じ取ったらしい晃弘ボディーが東の空を向き、動きを止める。

 そしてその場で歓喜の舞を踊り、軽やかに開脚逆立ちした晃弘ボディーはそのまま東の空へ向かい猛スピードで飛び去っていった。


 あまりに意味不明すぎる晃弘ボディーの行動に麗羅たちはしばし呆然と立ち尽くし……



「……はっ!? お、追いかけるわよ!」


「えっ!? あ、はい!」


「ったく、なんなんだよアイツマジで!?」



 ふと我に返った麗羅が飛び去った晃弘ボディーを追いかけ飛んで行き、能力でジェットウイングを具象化させた辰巳(タッツン)がその背中を追う。

 遅れて雅也(マサ)が「しょうがねぇなぁ」と頭をガシガシ掻いて、全身の甲殻の隙間から霊力をジェット噴射のように放出して飛び上がり、二人の後を追った。



 ☆



「……なんか今、全裸大開脚の首なしボディーが横切っていかなかったか?」


「気のせいでしょう」


 変な乱入者により一瞬白けてしまったが、天狗面の男と老執事は再び武器を構え直す。


 すでに老執事は相手への侮りを完全に捨てていた。

 魂魄を直接斬りつけてもなお平然と復活し、時間停止すら喰い破る神速の弾丸を撃ち込んでくる拳銃使い。

 語られる姿とは随分と姿形は違うが、何度も刃を交えればおのずと相手の正体も見えてくる。



「黙示録の騎士がなぜ人間に手を貸すのです」


「ハッ! 決まってんだろ。俺様は俺様の目的のために奴らを利用してやってんだよ!」



 男が天狗の面を外す。

 面の下に隠されていたのは人の顔ではなかった。

 暗い眼窩がんかに鬼火を「ギラリ」と揺らめかせ、髑髏どくろがカタカタと歯を鳴らして嗤う。


「ハハハハハッ! 世に闘争のあらんことを! 俺様の存在意義はいつだってそれだけだ!」


 乗り物の発達により騎士の馬はバイクへ変わり、銃器の発達により戦いの道具は剣から銃へと変わった。

 時代と共にその姿を変化させながら、世界に破壊と闘争をもたらす黙示録に記されし第二の封印の騎士。レッドライダー。


 なるほど、これではいくら斬っても埒が明かないはずだ。

 相手は破壊と闘争の化身。世に人があり闘争がある限り決して消える事のない概念そのものなのだから。


「あなたは少々危険すぎる。お遊びはこのくらいにしておくとしましょう」


 老執事が大太刀を鞘に収め、静かに目を閉じる。

 その瞬間、老執事が纏う空気が変わったのをレッドライダーは感じ取った。

 重力が何千倍にも増したと錯覚するほどの、凄まじい殺気と霊力の波動がその場を支配する。


「なん……だ……?」


 銃口がブレて狙いが定まらない。

 レッドライダーは久しく忘れていた感覚を思い出し、カタカタと愉快そうに顎骨を鳴らす。


「ああ、そうだ。この感覚だ。互いの命を削り合う焼けつくようなスリル! 戦いはこうでなきゃなァ!」


 レッドライダーが両手の拳銃を撃ちまくる。

 その弾丸は異教の神すら滅ぼす死と暴力の具現。

 無数の死が老執事に絶対の破滅をもたらさんと迫る。



「魂魄解放【■■■■】」



 極限の集中により色と音が失なわれた世界で、老執事が眼前に構えた大太刀を僅かに抜き、再び鞘へと戻す。


 時間の最小単位、涅槃寂静ねはんじゃくじょう(一〇のマイナス二四乗)の間に行われたこの一連の動作が完了した時点で、勝敗は決していた。


 引き伸ばされた時間が徐々に加速し、色と音が濁流のように押し寄せ、一気に世界を彩り始める。



「か……っ、あ……あ……! ば、バカな……ッ!? この俺様……が!?」



 放たれた銃弾も、バイクも、なにもかも。レッドライダーにまつわる全てが塵となって消えていく。

 


「くくっ……くはははは。ハハハハハハハハハハハッ! 面白れぇ! 面白れぇぞジジイ! この俺を、概念を斬るかよ! イイねぇ、極限まで磨き抜かれた殺戮の剣だ! これに負けるなら文句はねぇ! だが次は負けねぇぞ! 世に争いの満ちる時、俺様は再びこの世に戻ってくる!」



 その時までせいぜい長生きしろやクソジジイ!

 そんなレッドライダーの高笑いは、塵と共に夜風に流され消えた。


 しばらく残心していた老執事は、レッドライダーが消滅したことを確認し僅かに安堵の息を吐き、痛む腰に手を当てた。


「……やはり寄る年波には勝てませんな」


 全盛期とは比べるまでもないほど衰えた身体。

 能力で老化を遅らせ、日々の鍛錬も欠かさず行っていてもなおこれだ。

 ふと、腕を伝う温かな感触に触れると、銃弾が掠めた傷から血が出ていた。


「むぅっ、これは少々まずいですな」


 傷口から死の呪いがジワジワと身体を蝕んでいく。


 長生きしろと言っておきながらとんだ置土産を残してくれたものだと、老執事はやれやれと息を吐いた。



 ✩



「えっ、ナニコレ。生首……を咥えた尺取り虫……?」


 出口を探して影友さんと一緒にウロウロしていたら、廊下の角でいかにも悪の女幹部! って感じのエッチな格好のお姉さんとバッタリ出くわしてしまった。

 わ、ワァオ、セクシー……って、見惚れてる場合じゃねぇ!?


「……あ、もしかしてキミが例の匣の宿主クン?」


「「サラダバー!!!!」」


「あっ!? 逃げた! 待ちなさーい!」

 

あははは、つかまえてごらーん


フライングシャイニングオ●ンポゥ 迫る!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ミステリアスでいればまだ強者ムーブでどうにかなってた敵陣営がここに来てギャグ空間の餌食になり始めたな… 1人普通に死んだけど負けた敵キャラはギャグ要因として復活しそう
[一言] シリアスを変態でサンドイッチしたせいか、変態しかいないように感じる
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ