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レベル100

 影友さんに案内されて辿り着いたのは、廃病院の中庭だった。

 蔓植物つるしょくぶつが壁やコンクリートの地面を這うように多いつくしており、かび臭いニオイと瘴気のせいで酷く寂れて見える。


「ほら、ここだよここ!」


 中庭に生えた銀杏いちょうの木の裏に回り込むと地下へと続く階段があった。

 階段からは吐く息も凍るほどの瘴気や怨念が漏れ出していて、正直この中へ下りていくのは躊躇(ためら)われた。


「うっ!? なによこれ。ここだけ瘴気が異様に濃い。なのに周囲に拡散せずにずっと留まってる……? 明らかに変よこんなの」


「ふむ、土地の気に当てられて天然の呪物でも結晶化したのでしょうか」


「「っ!?」」


 な、なんだ逢魔さんか。ビックリした。

 音も気配もなく背後に現れないでくださいよ、心臓に悪いなぁもう!


「あれ。なんだ、みんないるじゃないですか」


「むっ!? 胸筋センサーに感アリ! ……って、ありゃ? 全員そろってんじゃん」


 するとタッツンとマサもタイミングよく合流してきた。


 タッツンの手には自作のダウジング棒のようなものが握られていて、どうやらそれがここの気配を突き止めたらしい。


 マサは……うん、なんか胸筋をピクピク歩かせてるだけだな。

 多分、筋肉神のお導きみたいなものがあったんだろう。

 良くも悪くもいつも通りでなんか安心したわ。


「タイミングよく全員集まりましたな。では早速下りてみましょう」


 怖いものなどございませんといった顔で逢魔さんが階段を下りようとした、その時である。


「待ちな」


 一発の銃声が俺たちを足止めする。空からの銃撃!?

 銃声のした空へ振り向くと、そこには空飛ぶバイクにまたがり構えた銃をこちらに向ける真っ赤な特攻服を着た天狗面の男がいた。


「────疾ィッ!」


「うおっ!? ハハハ、速ぇ速ぇ!」


 かと思えば次の瞬間には逢魔さんは空中にいて、どこから出したのか身の丈ほどもある大太刀で天狗面の男に斬りかかっていた。

 だが、天狗面の男は右手に持った大型拳銃で逢魔さんの刃を易々と受け止め、左手の拳銃で俺たちを狙う。


 刹那、銃声と金属音。

 いつの間にか俺たちの前に逢魔さんが立っていて、切り裂かれた銃弾が地面を転がる。



「挨拶も無しに斬りかかってくるたぁ随分と失礼な執事だなァ? え、コラ」


「このタイミングで姿を現した者が味方であるはずがない。ならば斬っても問題ないでしょう。事情は死体に聞けばいいのですから」


「ハッ! 殺れるもんなら殺ってみろやジジイッ!」


「口の利き方のなっていない小僧ですな」


 廃病院の中庭に鉛玉と剣戟の嵐が吹き荒れる!

 音速以上の速さで銃と剣の応酬を繰り広げながら、二人が空高くへ駆け登って行く。


「何ボサッとしてるの!? 早く行くわよ!」


「ハッ! 行かせるかよォ! テメェらの相手はコイツで十分だァ! ヒャハハハ!」



 レイラが階段を下りようとすると、上空から一発の銃弾が俺たちの近くに撃ち込まれる。

 地面に着弾した銃弾は周囲の瘴気を吸い込み、まるで肉の芽が発芽するかのようにモゴモゴと膨れ上がって巨大なクリーチャーへと姿を変えた。


 戦闘力、五兆六〇〇〇億。


 体長は三メートルほど。

 六本の腕が生えた人型の上半身は異様に筋肥大しており、浮き出た血管が皮膚を突き破り触手のように蠢いている。

 蜘蛛くもに似た八本足の下半身は人の脚を繋ぎ合わせて形作られており、所々に苦痛に悶える人々の顔が浮き出ていた。



 ────────ッッッ!!!!



 クリーチャーの地獄めいた咆哮が大気を震わせる。

 肌が焼けただれそうなほどの怒りの念を叩きつけられ、思わず全身が強張こわばり嫌な汗がドッと噴き出た。

 世界に破壊と闘争をもたらすためだけに生み出された異形。そんなイメージがふと脳裏をよぎる。


 瞬間、地面がぜて、レイラがその場から掻き消える。

 一拍遅れて病院の壁をブチ抜く轟音。殴り飛ばされたのだ。



「痛ったぁ……。よくもやってくれたわね! 神化転身しんかてんしん! 急急如律令きゅうきゅうにょりつりょう!」



 濛々《もうもう》と舞う土埃つちぼこりが「轟っ!」と吹き飛び、額から血を流したレイラがふらつきながら立ち上がる。


 レイラがふとももに巻いたレッグポーチから二枚の呪符を取り出し、呪文を唱えながらそれを空高く放り投げる。

 すると呪符は空中で二匹の狐の霊へと変わり、ぐるぐると螺旋を描いてレイラへと吸い込まれ強く光を放つ!


 光が弾けると、そこには狐の耳と九本の尻尾が生えたレイラの姿があった。

 それに伴い服装もメイド服から黒と赤を基調とした巫女風の衣装へと変わっていた。


 くっ! こんな時だってのに露出した肩とふとももに視線が……! 

 エッチかよちくしょうめ!


「おいブラザー! 前! 前!」


「っ!?」


 セクシー衣装に気を取られた一瞬の隙を狙い、クリーチャーの血管触手から大量の血液がレーザーのように噴射された。

 咄嗟に影友さんの能力を借りて影の中に逃げ込むと、血液のレーザーは俺の頭上を掠めて素通りし、水圧で地面を抉る。


 すると、血の付いた地面が赤々と輝き大爆発した!

 ひえぇ、アイツの血爆発すんのかよ!? これじゃあ下手に攻撃したら病院が崩れかねないぞ。


「だったら!」


 影の中を進みクリーチャーの真下へ移動した俺は、真上に向かって霊力波をブッ放した!


 クリーチャーの巨体が「バウンッ!」と持ち上がり、空高くへ打ち上げられる。

 するとすでに変身して攻撃の隙を窺っていたマサがクリーチャーを追いかけ大きくジャンプ。

 振りかぶった大斧を力任せに叩きつけ、クリーチャーの身体をさらに上空へカチ上げる!



 そこへすかさずタッツンが作り出した大量のミサイルが狙い撃ち、夜空を照らす大輪の鉄火の華が咲いた。



「燃え尽きろ!」



 レイラが両手の指で狐の形を作ると白と黒、二色の炎が巨大な狐の頭を模して牙を剥き、鉄火の華を食い裂くように殺到する!


 夜の闇が炎の光に追い払われ、夜空に二色の炎が織りなす陰陽玉いんようだまが浮かび上がった。


 や、やったか……!?



「GURUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」


「なっ!?」



 凄まじい大音声だいおんじょうに陰陽玉が弾け飛び、黒焦げのクリーチャーが重力に引かれて中庭に落ちてくる。


 骨まで燃え尽き焼け落ちた腕や足の根元がモゴモゴと蠢き、新しい手足が生え、真っ黒に焦げた皮膚が新しいものへと再生していく……!


 そんな!? あれだけの火力でもまだ殺しきれないのかよ!



「よっしゃ今だ────っ! いただきまーす!」



 バクンッ!


 再生しかけのクリーチャーの足元で影友さんが大きく口を開き、クリーチャーの身体を丸飲みにする。


 ボゴン! ボグン! としばらくクリーチャーが俺の影の中で暴れたが、やがて力を吸いつくされすっかり動かなくなった。



「げぇーっぷ。うーんウェルダン」



 え、終わり……?



『レベルが 一 上がった』


『敵の能力を吸収し【ブラッドレーザー】【ニトロブラッド】を習得』



 あ、マジで終わったのね。さすが影友さん、頼りになるぜ。



『レベル一〇〇に到達。第一神化開始』



 え、なにそれ。神化? アイアムゴッド? マジで!?


 すると突然、俺の身体が突然煌々と光を放ち始めた。

 え、待って待ってナニコレ!? 展開が唐突すぎんだろオイ! 誰か説明してくれーっ!?



「あ、れ……?」



 ぐるんと世界が反転し、首から真っ赤な血潮を噴水のように噴き出しながら輝く自分の身体が視界に映る。

 首ちょんぱされた!? なんで!? 誰に!?


 コロコロと地面に転がった俺の首を狐面の女子高生が拾い上げる。



「匣は貰っていく」


「なっ!? ま、待ちなさ」



 狐面の女子高生が手に持っていたツボのようなものに俺の首を入れて蓋をすると、俺の意識はそこでぷつんと途切れた。



はーい神様なりかけの変な奴は首ちょんぱして壺に封印しちゃいましょうねー



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[一言] 神化は阻止するもの 女子高生にお持ち帰りてなにそれ裏山
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