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静かなる強襲

「……ふむ、素晴らしい。今日はここまでにいたしましょう」



 俺の手刀が逢魔さんのネクタイを浅く切り裂くと、逢魔さんが軽く二回手を叩き、地獄の修行の終わりを告げる。


 俺たちは空気が抜けたみたくへにゃへにゃとその場に座り込んだ。


 つ、強ぇぇ……


 途中から我慢できなくなった逢魔さんが乱入してきてからは本当に地獄だった。

 一撃でも入れれば勝ちって条件だったのに、汗一つかかせられないってどういうことだよ。やべぇよ。



「いやはや、お見事お見事。皆様とてもよくがんばりましたな」



 ホックホクの笑顔で逢魔さんが俺たちに拍手を送る。

 時間を止めるのは流石に卑怯だと思うんだ。


 霊力波が時間停止の影響を受けていないと気付いてからは、どうにか逢魔さんの時間停止を破ろうと試行錯誤したけど、結局コレという答えは見つからなかった。


 最後になんとなくそれっぽい感覚を掴みかけて、どうにか逢魔さんのネクタイに一太刀浴びせられたけど、まだ根本的に何かが足りない気がする。


 

「みんな見違えるほど強くなったわね。ご褒美に我が家の食堂を解放してあげるわ」


「わ、私もいいんですか!?」


「ええ、もちろんよ。ご褒美は平等でなくっちゃね」


「やったー! ありがとうございます!」



 と、そんなわけで臥龍院家の食堂が開放された。

 レイラの喜びようから見て、きっとあの風呂みたいなすごい施設なのだろう。


 ……んん? 風呂……? ち、ちく……び……くっ、頭が……!



「富岡君と熊谷君にもここの鍵を渡しておくから、今後は自由に使ってくれて構わないわ」


「ありがとうございます」


「あざーっす!」


「案内は逢魔さんに任せるわね。それではごきげんよう」



 タッツンとマサに鍵を渡すと、臥龍院さんはマスターキーを使ってどこかへと去っていった。

 相変わらず忙しい人だ。



「それでは皆様、当家自慢の美食の殿堂へご案内いたします。どうぞこちらへ」



 慇懃いんぎんに頭を下げて逢魔さんが部屋の扉を開ける。


 黄金の光が溢れだすドアをくぐる。

 シャンデリアが照らす部屋の中央には白いテーブルクロスが敷かれた長い食卓テーブルがあり、どこからともなく流れてくる瀟洒なジャズが実にハイセンスだ。


 テーブルの上には銀のドームカバーが椅子の前に一つずつ置かれているだけで、それ以外には特に目立ったものは見当たらない。


「お席へお着きになられましたら、食べたいものを念じながらカバーをお開けください」


 言われるまま一番下座の席について、うな重をイメージしながら蓋を開けてみる。

 するとそこにはお重の上に虹がかかった世にも煌びやかなうな重があった。


 なんだか料理から凄まじい霊力をひしひしと感じる。


「世界各地の霊的食材をどうぞ心ゆくまでご堪能ください」


 官能的なまでのタレの香ばしい香りに誘われて、虹のうな重を恐る恐る口へ運ぶ。



 ほ へ ぇ……。う ま ぁ い……



「……はっ!? もう無い!?」



 いつの間にかお重は空になっていた。

 だが、完食した満足感と口の中に残るタレの幸せな余韻が、間違いなく自分で食ったのだという事実を俺に突きつけてくる。



『レベルが、一五 上がった』



 そして突然モリっと上がる俺のレベル。

 もしかしてこのうなぎ、名のある川の主とかだったのだろうか。



『称号【よくも食ってくれたな】獲得』

 名のある川の主を喰らった罰当たりな者に与えられる称号。

 末代まで水難に見舞われやすくなる。



 ほらぁやっぱりーっ! 食ったらアカンやつやんけ! 

 どないしてくれんねん!?


 いや、まてよ? これも一種の呪いだよな……じゃあ封印できんじゃね?


 いざ、呪怨封緘(じゅおんふうかん)! 

 ンギゴゴゴゴゴゴッ! カァ────ッ!!!!



【封】



 よーしうまくいった!



『称号【ナマ言ってすんませんでした】獲得』

 名のある川の主の呪いを力業で封じ込めた霊能者に与えられる称号。

 水中で呼吸可能になる。 



 おいコラ、称号で会話すんなよ。


 もうなんとなく分かってきたけど、臥龍院さんって一々人を試してくるよな。

 毒と薬は紙一重。この程度の呪いも御せないようならそこまでってことか。おっかねぇ。


 他の三人の方を見やるとそれぞれの方法で呪いを無効化したのか、全員霊力が大幅に増えていた。


 そういや今の俺ってどれくらい強くなったんだろう。

 しばらく確認してなかったし一度ガッツリ見ておくか。



犬飼(いぬかい) 晃弘(あきひろ) レベル九九


 戦闘力二三〇〇億


 保有ソウル(四桁以下省略)

 一五五〇億(MAX)/一兆(NEXT LEVEL)


 保有スキル

『不滅の身体Ex』『超霊闘気Ex』

『霊力波Lv一〇(MAX)』

『払魔闘術Lv八』

『霊力弾Lv一〇(MAX)』


 新スキル

『精神防壁Lv七』『霊力探知Lv四』【霊力察知Lv七】

『呪怨封緘Lv八』『飛行Lv八』



 獲得称号

『ゴーストバスター』『カリスマ除霊士』『波ぁッの人』

『急成長』『人間卒業』『幽霊物件クラッシャー』

『死を乗り越えし者』『ほぼ不死身』『超人類』


 新称号

『デビルスレイヤー』『都市伝説殺し』

『ジャイアントキリング』『呪怨払滅』『魂の救済者』

『呪いがナンボのもんじゃい!』『重力からの解放』

『ナマ言ってすんませんでした』



 『デビルスレイヤー』

 初めて悪魔を殺した者に送られる称号。

 悪魔に与えるダメージ量が増加する。



 『都市伝説殺し』

 都市伝説を力づくで消滅させたパワフルな者に送られる称号。

 妖怪に与えるダメージ量が増加する。



 『ジャイアントキリング』

 格上の相手を倒した恐れ知らずのチャレンジャーに送られる称号。

 自分より強い相手と敵対した時、あらゆる能力が3割上昇する。



 『呪怨払滅』

 呪いを力ずくで浄化した者に送られる称号。

 呪いに霊力で干渉できるようになる。



 『魂の救済者』

 哀れな魂を救済した者に送られる称号。

 ポジティブな言霊の力が強まり、相手に気持ちが届きやすくなる。



 『呪いがナンボのもんじゃい!』

 呪いを力ずくで封じ込めた者に送られる称号。

 呪いに対する耐性を得る。




 数字は確実に大きくなってるのに全然強くなった気がしないのはなんでだ。


 体感的にはもう何年も経ったような気がするけど、実際にはまだ力に目覚めて四日目だもんな。

 世界最強の一角みたいな人たちと対等に渡り合おうってのがそもそもおこがましいと言いますか。


 逢魔さんも臥龍院さんも強さの底が全然見えないんだよなぁ。

 どれだけ強くなってもあの二人に勝てるビジョンが浮かんでこない。思いもよらない異次元の能力で何もできずに封殺されそうだ。


「皆様ご満足いただけたようでなによりです。さあ、腹ごなしの運動にもうひと修業と参りましょうか!」


 子供みたいに無邪気な笑顔で逢魔さんが腕まくりする。冗談じゃない!


「あ、俺用事があるんでこの辺で失礼します! ごちそうさまでした!」

「あ、オレも! ごちそうさまっした!」

「僕もちょっと用事が! お料理美味しかったですサヨナラ!」

「私もお庭のお手入れしなきゃ!」


 まったく同じタイミングでそれぞれ適当なことを言ってそそくさと立ち上がった俺たちは、鍵を使って逃げるようにその場を後にした。




 ◇




 食堂から直接家の玄関まで戻ってくると、見覚えのない小さな靴が一足脱ぎ散らかされていた。


 なんだ、小春の友達でも遊びに来てるのか?


「あ、兄ちゃんおかえり。どこいってたん?」


 と、二階から下りてきた小春と廊下ですれ違う。


「おうただいま。ちょっとそこの神社までな。誰か来てるのか?」


「は? 誰も来てないけど?」


 まったく心当たりがないという顔だった。

 そんな馬鹿な。


「はぁ? じゃああの靴は誰のだよ。お前のじゃないだろ」


「なに言ってんの兄ちゃん。自分の妹のこと忘れちゃったの?」


「いや忘れるもなにも……」


 俺の妹はお前しかいないだろうと言いかけたところで、


「あ、お兄ちゃん! おかえりー!」


 リビングから一〇歳くらいのピンク髪ツインテールのゴスロリ少女が飛び出してきて、俺のお腹にひしっと抱き付いてきた。

 なのに小春はまるでそれが当たり前の光景であるかのように受け入れている。


優芽(ゆめ)ちんは相変わらず兄ちゃんにべったりだねぇ」


「えへへ、お姉ちゃんも大好きだよー!」


「ふふふ、愛いやつめー。うりうり」


「きゃー!」


 小春にほっぺをぷにぷにされてキャッキャと喜ぶユメちん(?)。

 なんだこれ。いやホント待って! 急に知らない妹が増えてるとか怖いんだけど!?

 つーかゴスロリピンク髪だぞ! もうちょっと反応しろよ!


「ねーねー三人でゲームしよー?」


「いいよ。なにする?」


「シュプラトゥゥゥンやるー!」


「へっへー、墨まみれにしちゃる」


「負けないもーん!」


「あ、ちょっ、おい!?」


 わけも分からないまま謎の妹に手を引かれてリビングへ連れ込まれ、あれよあれよという間にコントローラーを握らされる。

 リビングの食卓テーブルで寛いでいた母ちゃんもまるでそれが当たり前の光景であるかのように受け入れ、婦人雑誌から目を離しすらしない。



 なんなんだコレは。


 何者なんだユメちん。

 

 俺の家族は、いったいどうしてしまったんだ!?




突然家族に混ざってくる系の敵

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― 新着の感想 ―
[一言] あー知ってる知ってる次話冒頭で頭にタンコブ作って正座した敵と主人公の会話で始まって回想に入るんでしょ?
[一言] なんかすごいやりかたしてきたな
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