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ここを文明発祥の地とする

 見下ろせば無数の岩山が槍のようにあちこち突き立っている。

 植物の影は見渡す限りどこにもなく、荒涼とした岩の渓谷がどこまでも続いている。

 俺が岩山の上にふわりと降り立つと、遅れてタッツンが空から落ちてきて、隣の岩山に激突して岩山が粉々に砕けた。


「んぎぎぎぎぎ!? か、身体が重い!? なんなんですかここは!?」


 瓦礫の下からパワードスーツ姿のタッツンが這い出てくる。

 あーらま、関節から煙吹いてら。


「霊気が物理的な力場を作ってやがる。油断してたら俺までぺちゃんこになりそうだ」


「えぇい! 魂魄解放ッ!」


 壊れかけのパワードスーツをパージして、タッツンがヘパイストスの力を開放する。

 ここでは常に霊力全開状態でないと霊気に押しつぶされちまうってわけか。修行にうってつけだな。


「ぜぇ……ぜぇ……。つ、疲れる……」


「なにへばってんだ。初日からそんなでどうする」


「巻き込んだのはそっちじゃないですか! 僕はやるなんて一言も言ってませんよ!」


「ふははは! おれから逃げられると思うな! ついでだ、マサも呼んでやろう」


 俺は内なる宇宙に意識を向けた。

 星の海がぐんぐん背後へ遠ざかり、青い水の星が近づいてくる。

 地球に現身を降ろした俺はマサの家に突撃した。

 俺がチャイムを鳴らすと首にタオルをかけた半裸のマサがひょっこり顔を出す。


「まーさーやーくん! あーそーぼー!」


「お、どっか行くのか?」


「キャンプ行こうぜ!」


「お! いいじゃんいいじゃん。待ってろすぐ準備すっからよ」


「いや、準備はいいんだ。一名様ご案内!」


「んあああああぁぁぁぁ……」


 マサの足元に穴を開きボッシュートして、俺の分身をマサに変化させて家の中に送り込む。

 これでよし。






「……ぁぁぁぁああああああ。……あ? どこだここ」


 俺の口からマサがすぽんっ! と飛び出し、空中で三回転して綺麗に着地する。うーん一〇〇点。


「実はかくかくしかじかきんにくムキムキってなわけで」


「なるほど完全に理解したぜ」


 マッスルジェスチャーで事の経緯を説明すると、マサは一瞬ですべてを理解した。

 やはり肉体言語を使いこなせる奴は話が早くて助かる。


「なんでそれで理解できるんですか。しかも普通にこの環境に順応してるし……」


「修行部屋の重力一〇〇万倍モードに比べりゃどうってことねぇし」


「人間辞めてますねぇ」


「いつからコイツが人間だと思ってたし」


「それもそうですね」


「よせやい照れるだろ」


 鬼の宿ったマサの広背筋が照れ臭そうにはにかむ。うわキモッ!? なにそれどうなってんだ。

 一言も褒めてないが、構うと面倒なので無視して話を先に進める。


「つーわけでここに文明を築くぞ」


「筋肉文明だな! 任せろ!」


「二人だけで納得しないでくださいよ!?」


「ンもー。しょうがねぇな」


 この世界は端的に言うなら修羅の世界だ。

 ここでは力こそがすべてであり、あらゆる生物は力を求めて己の肉体を生きながらに進化させ続けている。

 そのためこの世界には一個体しかいないオンリーワンの種族で溢れかえっている。


 彼らが持ち得る唯一の信仰は己の強さに対する信頼のみであり、自然界への畏怖や、他者への崇敬の念は存在しない。

 彼らは己に対する絶対の信仰により、神としての性質さえも併せ持つ。

 その内向きで完結している信仰を俺たちへ向けさせれば、果たしてどうなるか。


「生物でもあり神でもある存在たちからの信仰を大量に獲得できれば、絶大なパワーアップになるだろ」


「それで信仰の基盤になる文明を作ろうってわけですか。でもできるんですかそんなこと」


「俺に不可能はない!」


 さっきタッツンが激突して砕けた岩山の瓦礫を材料に、俺の能力をちょちょいと応用して、ギュギュっと固めれば……ほい完成!

 てれててってれー♪ モノリスー。


「なんですかこれ」


「なにって、見ての通りモノリスだよ。で、コイツを魔法でコピーしてこの世界のあちこちにばら撒く。クククッ、あとは結果を御覧じろだ」


「すっげぇ悪い顔してんなコイツ」


「間違いなく邪神の類ですね」


「んだとコラ! ほれ、言ってる間に来たぞ」


「「んあ?」」


 二人の背後を俺が指差すと、空から飛来した何者かが少し離れた位置にふわりと着地した。

 俺たちと同じ二足歩行で、身長は三メートルくらいだろうか。

 全身が白い鱗に覆われており、頭には二本の角があった。

 顔は竜を思わせる逆三角形で、腰から長く太い尾がずるりと伸びている。


 まさに竜人と呼ぶのがふさわしい風貌。

 纏う霊力は思わずマサとタッツンが身構えるほど。デモンストレーションにはちょうどいい相手だな。

 竜人がマサを指差し、「かかってこい」とばかりに指をクイクイッと動かして挑発する。


「オレをご指名か? いいぜ相手になってやんよ」


 全身に甲殻を纏って赤い大鬼になったマサが拳を鳴らして前に進み出る。

 じりじりと高まっていく緊張感。

 漏れ出した二人の闘気に大気が震え、岩山の斜面を転がり落ちた小石が睨み合う竜人とマサの間に落ちた────刹那。


 ドガァァァン!!!!


 両者の拳がお互いの頬にめり込んだ。

 

「いい筋肉だ。けど俺も負けてねぇ!」


 マサの右腕が「ボンッ!」と肥大化して、竜人の頬にめり込んでいた拳を力任せに殴りぬく。

 隕石のようにブッ飛んだ竜人が岩山を次々と貫通して瓦礫に変え、霊気を全開にしたマサが超スピードで竜人を追う。


 岩盤にめり込んでようやく止まった竜人目掛け、マサが全速力で飛び蹴りを仕掛ける。


「っ!?」


 瞬間移動でマサの背後に回り込んだ竜人のアームハンマーがマサの脳天を捉え、大地に巨大なクレーターが穿たれた。

 両足を開いて踏ん張ったマサはすぐさま竜人に飛びかかり、勝負は息もつかせぬ空中格闘へともつれ込む。


「うりゃりゃりゃりゃりゃりゃ!!!!」


 拳と蹴りが瞬きの間に幾度も交差する。

 するとそれまで無表情だった竜人に変化が現れた。


「……笑ってる?」


「今アイツはマサとの戦いを通じて高度な精神性を獲得しつつある。周りを見てみろよ」


 いつの間にやら。

 気配を消して岩陰からこちらの様子を伺っていた他の生物たちも、マサと竜人の戦いに見入っていた。


「あのモノリスはな、心の熱を伝播させるんだ」


「熱、ですか?」


「マサは筋肉バカだが、誰が相手でもそれが鍛え上げた強さならリスペクトするだろ。あの竜人はマサの熱を受け取って、相手を敬う心を学んでる真っ最中なのさ。周りの奴らもな」


「それだと一番強い奴が偉いってことになるんじゃ……」


「そうだ。だからマサが言ってただろ、筋肉文明だって」


「なんつー脳筋な」


「お、そろそろ終わりそうだな」


 などと言っている間にも竜人が両手を前に突き出し、大技の体勢に入る。

 竜人の角に紫電が迸り、直後、重ねた両手から破壊の光芒が吹き荒れた。


「いただくぜ、その技!」


 マサが大顎を開く。

 すると竜人が放った光芒はマサの口へと吸い込まれ、竜人の攻撃をすべて食い尽くしたマサの身体が一回り大きくなった。


「漲るぅぅぅぅパワ────ッ!!!!」


 竜人の鼻先まで瞬間移動したマサのアームハンマーが竜人の脳天に打ち下ろされる。

 流星もかくやという勢いで大地に激突した竜人は、地盤にめり込んだ身体を起こそうとして……そこで力尽きた。

 大の字になって倒れた竜人の顔はどこか晴れやかで、清々しさすら感じられる。


「やるじゃねぇかお前。いい一撃だったぜ」


 地上に降りてきたマサが竜人に手を差し伸べれば、竜人は口の端をニヤリと吊り上げその手を取った。

 すると周囲の岩陰から歓声が巻き起こる。

 今まで己の力のみを信じてきた修羅たちは今、相手を敬い認め合う心を得た。彼らは今、文明への第一歩を踏み出したのだ。


「さあ、神話の一ページは刻まれた。これから忙しくなるぜ」

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