メカ娘は男のロマンですッ!
俺が封印された剣に興味を示したミイラ怪人のビーは、あれからじっくり、それはもうネットリと剣を調べ尽くした。
魔法による解析はもちろんのこと、舐めたり齧ったり柄をしゃぶったりニオイを嗅いだりと本当にそんなことする意味があるのか疑わしいことまで。
流石にここまでされると剣に性的興奮を覚える異常性癖でもあるんじゃないかと勘繰ってしまうレベルだ。
「イイッ、イイですよォこの剣! ワタークシの毒でも腐食しない耐久性に魔法解析さえ寄せ付けない神秘性! ついさっきできたばかりのようでありながら神代から存在する聖剣のような風格さえ帯びている! ンッンーッ! 知的探求心がモリモリ湧いてくるゥゥゥ!」
口の端から毒の涎を垂れ流し血走った眼で刃の輝きをうっとりと見つめるビー。
やっべぇよマジの変態だよコイツ。
しまいにゃ尻の穴に突っ込むまでやりかねないぞ。
「さーてさてさてお次はどうしてやりましょうかねぇ?」
三日月型に開かれた口から覗く黄ばんだ乱杭歯が二チャァと糸を引く。
いやぁぁぁやめてぇぇぇ! これ以上アチシを穢さないでぇぇぇ!
くさそうな吐息が刃の表面を曇らせた、その直後────。
「ミ゛ッ゛!!!!」
頭上から降り注いだ光の柱が俺もろとも変態ミイラを飲み込み周囲を白一色に染め上げた。
ほぎゃ────ッ!? 目がぁぁぁぁぁ!?
◇
ハンガーデッキから降りてきた昇降機がカタパルトレールに接続し、新装備を装着した麗羅たちの前方でハッチが開いていく。
三人の装備はそれぞれの能力特性に合わせた専用のものになっている。
雅也は有り余るパワーをさらに強化しつつ機動性確保のため全身の各所にブースターが配置された赤を基調とした重装甲の機械鎧。
身の丈の倍はある巨大な戦斧を担ぎ超音速で空を往くその姿はまさに機械仕掛けの大鬼といったところか。
対する辰巳は背面に天使の羽を彷彿とさせる飛行ユニットを持つスリムなデザインの機械鎧だ。
両手には天鳥船の主砲にも匹敵するバスターライフルを二丁装備し、飛行ユニットの六枚羽はそれぞれが思考操作で空中を飛び回るファンネルになっている。
雅也の鎧が近接戦闘に特化しているのに対し、辰巳の鎧は遠距離砲撃と支援射撃に特化していた。
「……なんか私のだけアンタたちと毛色が違う気がするんだけど」
「ソンナコトナイデスヨー」
「旦那に見せたら喜ぶぞ」
「アイツが喜ぶってことはやっぱりエロいんじゃないの!」
「旦那って部分は否定しなくなったな」
「旦那って部分は否定しなくなりましたね」
「くっ……!」
頬に朱を散らし唇を噛みしめ黙り込む麗羅。
彼女の装備は手足と頭部のみに機械鎧を配した所謂メカ娘タイプだ。
手足の装甲は獣の手足に似た作りになっており、頭には大きな狐耳を模したカチューシャタイプのアンテナを装着。
腰に装着されたスカートも九尾の狐を想起させるデザインになっており、周囲には狐の頭を模った追従機が浮遊している。
パイロットスーツがボディーラインを際立たせ、手足を覆う金属質なメカが少女の柔らかさと丸みを強調し見事な調和を生み出していた。
カタパルト接続完了。
発射シーケンスオールグリーン。
各機発進どうぞ。
合成音声に合わせ三人の視界に映るランプが赤から緑へ変わる。
直後カタパルトの上を火花を散らして急加速した麗羅たちが一斉に艦から射出された。
「最深部の剣のそばにいた強大な反応はさっきの艦砲射撃で今のところ沈黙しています。再起動予測時刻は今から一〇分後、全速力で飛ばせばギリギリ戦闘を回避して剣を回収できる計算です」
辰巳の説明に合わせて三人の視界に作戦の概要図とタイムリミットが表示される。
「んだよ、ゴツい装備持ち出した割には逃げ腰じゃねーか」
「摂氏一億度のビーム砲が直撃したのに原型を留めている化け物となんて戦わずに済むならそれが一番でしょう。それに脅威はそこら中に潜んでますしね」
「っ!? 何か来るわよ!」
麗羅の索敵システムが無数の敵反応を捉え、全員の視界にその情報が共有される。
それはラグビーボールのような身体に人の手足が六本生えた歪な化物だった。
闇を固めたように真っ黒で、大きさは成人男性程度のものから大型重機くらいのものまで様々。背中に大きく開いた口からだらりと垂れた舌の赤だけがぬらぬらと輝いている。
「「うわキッモ!」」
「焼き払います! 下がって!」
穴の底から壁を伝い這いあがってくる化物に照準を合わせた辰巳が引き金を引いた。
左右のバスターライフルが二条の光芒を吐き出し、異形たちが次々と光の中へ吞まれ消え去っていく。
「横穴からどんどん出てくるわよ!?」
「うひぃぃぃっ!? オレああいうの無理ぃぃぃぃ!」
カサカサうぞうぞ横穴から溢れ出してきた異形たちに総毛立った雅也が情けない声を出して、限界まで身体を縮めて麗羅の背後に引っ付き隠れる。
「ちょっと引っ付かないでよ情けないわね!」
「上からも降ってきますよ!」
「げぇぇッ!?」
辰巳の声に雅也が上を見上げれば、異形たちが汚い粘液を撒き散らし雨のように降り注いでくるのが見えた。
「やだやだやだこっちくんなうわああああああああああッ!」
「ちょっ!? バリアーッ!」
「きゃ────っ!?」
辰巳と麗羅が防御姿勢を取った直後、雅也の装甲がガシャンと開き、火天の焔が辺り一帯を舐め尽くした。
摂氏一兆度を超える爆炎は瞬く間に縦穴全体に広がり、横穴へと押し入った炎が地底世界を灼熱地獄へ変えていく。
火天の焔は炎に対し完全耐性を持つ怪物さえも塵一つ残さず焼き尽くし、縦穴を中心に半径五〇〇キロの範囲にいた怪物たちを絶滅させた。
「ふぅ、スッキリ」
開いた装甲の隙間から蒸気を吐き出し放熱を終えた鎧がガシャンと閉じて元通りになる。
火天の焔に触れても溶け落ちない鎧の耐久性は、鍛冶の神ヘパイストスの神性と辰巳の確かな技術力が成せるものだ。
「スッキリ、じゃないわよ! 危ないじゃないの!」
スパンッ! 麗羅のハリセンが炸裂する。
危うく巻き添えを喰らい滅却されるところだったのだから怒るのも当然だった。
「先を急ぎましょう。思ったより時間をロスしました」
「まったく、虫けらごときで情けない」
「いやアレどう見てもただの虫じゃなかったろ!?」
邪魔する者のいなくなった縦穴を超音速で突き抜けた三人は目的の最深部へと到達した。