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第六の塔(裏) 天下無敵

 獅子獣人が『ごうッ!!』と吼え気炎を発し、鋭い爪で俺を引き裂かんと踏み込んでくる。


「ぎっ!?」


 バラバラに切り裂かれサイコロ状になった俺の肉片を獅子の咆哮が消し飛ばす。

 肉体が消失して剥き出しになった魂に獅子の牙が迫る。


 魂 魄 解 放ッ!


 神の力を全開放した俺は転移で獅子の背後に回り込み混沌の種を弾丸のように射出する。

 が、種は獅子獣人に触れるや何も起こさず霧散してしまった。

 混沌の種は無限の可能性の中からランダムでなんらかの現象を発芽させる。発芽する現象は俺の意志である程度の方向性を持たせることはできるが、そもそも可能性がゼロなら何も発芽しない。

 動きを止めるつもりで放った種が発芽しなかったってことは、つまりアイツを止める手段はないってことだ。


 あり得ない角度で旋回した獅子の首が俺の喉笛に連続で食いかかり、遅れて身体がグルンと旋回して爪の乱舞が空を乱れ裂いた。


「うぉっ!? あっぶ、ねぇ、なッ!?」


 俺は自分に加速魔法をかけて獅子の乱舞を間一髪躱していく。

 くそっ、どれだけ加速しても俺の動きに平然とついてきやがる!


 錬丹でも攻撃を吸収できなかったので、おそらくまともに一撃喰らえばそこで終わり。『無敵』という概念が具現化した爪や牙で傷を負わされたら多分俺でも耐えられない。

 獅子のあぎとが大きく開かれ、喉の奥に紫の焔が宿った刹那────!


『呀ァァァ────────ッッ!!!!』


「ッ!?」


 滅びの極炎に飲まれた俺は成す術もなく消滅し……。



 ◆

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   *:

  +

 ◇



「────っぶねー」


 獅子が焔を吐き出す直前まで意識を飛ばした俺はコンマ一秒先に迫る完全な死を予見して獅子の背後へ転移した。

 破滅の極炎が一瞬前まで俺がいた空間を炙り、炎を吐き切った獅子がグルルと忌々しげに低く唸ってこちらを向く。

 へっ、そう簡単にはやられねぇよ。かなりギリギリだったけど。

 正直ここまで強いとは思ってなかったから油断してた。


「いいぜ、本気でやってやるよ」


 俺が纏う空気の変化を察したのか、獅子が僅かに後退る。

 今の俺にできないことはほとんどない。イメージすらできないことは流石に無理だが、想像力の及ぶ範囲であればどんなことでも実現可能だ。


「オラァッ!!!!」


 全身にオーラを纏わせ一直線に獅子をぶん殴る。

 すると今まで傷一つつかなかった獅子の頬に俺の拳がめり込み口の端から血が滴った。

 無敵を打ち破れるのはより強い無敵だけ。

 たった今身をもって体験した『無敵』を神の力を総動員して疑似再現したのだ。

 無限にもより密度の高い無限が存在するように、無敵と一言で言ってもそこにはより強い無敵と弱い無敵がある。


 口から零れた血を手で拭い獅子が僅かに目を見開く。まさか自分が傷を負わされるとは思っていなかったのだろう。

 すかさず獅子は目を見開いたまま渾身の拳で殴り返してくる。

 俺はあえてその拳を頬で受け止めた。

 消し飛ばずに残った俺の顔を見て心底愉しそうに獅子が牙を剥く。


 さあ、どっちが強ぇかタイマン勝負といこうか!


「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラッ!!!!」


 俺が繰り出した拳の高速連打に獅子も拳の連打で返してくる。

 互いに相手の拳を受け流しては反撃の拳をねじ込み、立ち位置を入れ替えながら激しく殴り合う。


「オラァッ!」


 獅子の拳を払い除け強引にこじ開けた胴体に渾身のストレートを叩き込む。

 獅子は直線上にあった惑星を巻き込み破壊しながら宇宙の果てまでブッ飛び、隔離空間を一〇〇〇層ほどブチ抜いて地球の一〇倍はある惑星の地表にめり込みようやく動きを止めた。

 反撃の隙を与えまいと間髪入れず獅子の直上に転移し、トドメのかかと落としを振り下ろす。


『ッ! 呀亜亜亜ァァァァァァァ────ッ!!!!』


 が、獅子はオーラを爆発させ俺の攻撃をはじき返し、オーラを口腔へ収束させ極大のビームを放った。


「波ァァァァァァァ────────────ッッ!!!!」


 俺は身体の全面からエネルギーを大放出し獅子のビームに対抗する。

 極大エネルギー同士の衝突に近隣の銀河が消し飛び、隔離空間が次々と崩壊して無数の宇宙が光の中へ消えていった。



「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」



 互いのエネルギーが拮抗しせめぎ合う中、俺は無限のエネルギーをさらに濃縮させて少しずつ獅子のビームを押し返していく。

 最初は白かった俺のエネルギーは濃度を増すごとに深く暗い色合いへと変化し、艶のない黒が獅子をビーム諸共飲み込んだ。


「────っ、ハァ、ハァ……」


 これでもかというくらいの全力を出し切り、一〇の一〇〇乗の一〇〇乗にも及ぶ隔離空間を破壊してようやく獅子は動きを止めた。

 獅子の体躯から真っ黒に炭化した毛皮がボロボロと崩れ、内側から新しい体毛が急速に再生を始める。


『させねぇよ!』


 獅子の真下で大きく口を開いた影友さんが『ガオンッ!』と獅子を丸飲みにする。


『グエッ!? ぐっ、こ、コイツまだ暴れる元気があるのかよ!?』


「俺が抑え込むからそのまま逃がすんじゃねーぞ!」


『なるはやで頼む! ぐぶっ!』


 影友さんの腹の中でなおも再生を続け外に出ようともがく獅子。

 俺は即興で術式を構築し、獅子を無敵にしている概念武装の中和結界を影友さんの腹の中に展開する。

 そこへ加えて全能力を低下させる呪術と、あらゆるエネルギーを消失させる魔法を重ねて獅子に打ち込んでようやく獅子は完全に動きを止め大人しくなったのだった。



【個体名『マスターレオ』の吸収開始────完了】


【称号『神仙』の効果により■n■/y■@との接続が遮断されます】


【残留因子解析開始】


【解析率九〇% 解析データを元にスキル『無敵殺し』を構築】



 獅子の吸収が完了したことを知らせるメッセージを確認し、俺たちはようやく警戒を解き脱力した。

 つ、つかれた……。


『うぅ……。胃が痛い』


「わりぃ、無茶させたな」


 お詫びに完全回復魔法をかけてやると、胃の痛みが引いたのか影友さんがホッと一息つく。

 そんな一瞬の気の緩みを付いて、ぬるりと。


「あ……」


 俺の背中から胸へ一匹の鷹がすり抜け、その光景を最後に俺の意識はプッツリと途絶えた。




虚鷹ウツロタカ


この怪異に物理的、霊的な実体は存在しない。

この怪異は出現時、鷹の幻影となって現れる。

鷹は自我を持つ存在の意識の空白から出現する。

この鷹に触れた者は自我を奪われる。

自我を喪失した者は行動不能に陥り、奪われた自我を取り戻さない限りいかなる手段でも回復しない。

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― 新着の感想 ―
[一言] また陰友さんに頼るのかな
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