第六の塔 決闘者たちの頂
「レディースアーンドジェントルメェェェンッ! 第一回デュエルキング決定戦を勝ち上がり、願いを賭けた大一番への挑戦権を手にしたのはこォの人! ツゥクモォォォッ! ヒィィィフミィィィ!」
俺の巻き舌気味の紹介に合わせてステージの床が開き、テーブル台と一緒に九十九さんが入場する。
相変わらず何を考えているかわからない糸目スマイルが不気味だが、並みいる強敵たちを倒した腕前は本物だ。
「対するは第六の塔の主にして地獄の獅子! マスタァァァッ! レオォォォォッ!」
会場の照明が落ち、スポットライトに照らされた床が開いて赤いマントを羽織った二足歩行のライオンがせり上がってくる。
ギザのピラミッドの真下に出現した第六の塔の主マスターレオ(俺命名)が挑戦者に与えた試練は、トレーディングカードゲーム「デモンズマジシャン」によるデュエルトーナメントだった。
「ライフポイントは公式戦と同じく一万ポイント! 先攻は挑戦者固定! 両者準備はよろしいか?」
『無論』
「いつでもええで」
「ではデュエル開始!」
デモンズマジシャンの大きな特徴として、悪魔の召喚や魔法の使用にはライフポイントを支払うという前提ルールが挙げられる。
これは実際の悪魔召喚、魔法使用のプロセスを簡略化してゲームに落とし込んだものであり、その起源は古代の魔術師たちが悪魔や魔法に関するルールを学ぶために作った札遊びが最初だと言われている。
「ほなワイから行かせてもらうで。ドロー、手札から五芒星守護陣を場にセットしてターン終了や」
五芒星守護陣。
自身が悪魔召喚に支払うライフコストと、敵から受けるダメージを一〇〇〇ポイント軽減する「場」カードだ。
場カードは使用にコストを払う必要はないが、フィールドに出してから各カードごとに定められたターン数を迎えるまで効果を発揮しない。
これは実際の魔法陣や召喚儀式に必要な準備期間をゲーム的に表したものだ。
五芒星守護陣の発動ターンは一ターン。
簡単な図形であればあるほど準備期間は短く設定されており、場に完成済みの「場」があるほど複雑な図形の準備期間も短くなる。手堅い初手だ。
『我のターン。ドロー! 我はライフを一〇〇〇支払い手札より『墓荒らしの悪魔』を召喚! 悪魔の権能により、さらにライフを一〇〇〇支払い構築前の場を破壊する!』
「あちゃー」
『場の破壊に成功したことで追加効果発動! 権能使用に消費したライフを相手のライフポイントから徴収し『墓荒らしの悪魔』は役目を終え地獄へ帰る。ターン終了』
マスターレオが効果を発動し終えた悪魔カードを地獄(他のカードゲームでいうところの墓地)へ送りターンを終える。
墓荒らしの悪魔。
攻撃力五〇〇。
召喚コスト一〇〇〇。
一見攻撃力と召喚コストが釣り合っていないように見えるが、持っている権能が凶悪なカードだ。
墓荒らしの悪魔の効果で九十九さんの場は破壊され、これでお互いのライフは九〇〇〇ポイント。
「嫌なカード使いよるな~。まぁええわ。ワイのターン、ドロー。手札よりアイテムカード『聖銀の十字架』を場に設置。これでお互い三ターンは如何なる手段でも『悪魔』は召喚できひん。さらにライフを三〇〇〇支払い手札より魔法カード『劫火』発動や」
『ぐォォォッ!?』
アイテムカードは様々な効果を発揮する使い捨てのカードだ。
使用にコストがかかるものもあれば無いものもあり、その効果は実に様々。
聖銀の十字架は三ターンの間場に設置でき、設置している間お互いに悪魔カードを一切フィールドに召喚できなくなる悪魔封じのカードだ。
さらに魔法カード『劫火』が発動しマスターレオの身体が炎に包まれた。
マスターレオは二〇〇〇ポイントのダメージを受け、さらに墓地にある悪魔カードの枚数分、お互いのターン終了時に×五〇〇ポイントの継続ダメージを受け続ける。
「ほなターンエンドや」
『ぐぅっ』
九十九さんのターン終了宣言によりマスターレオに追加で五〇〇ポイントのダメージが入る。
現在のライフは九十九さんが六〇〇〇。
マスターレオが六五〇〇。
『我のターン! ドロー! 我は手札よりアイテムカード『呪詛返し人形』を使用! このカードは我が身に魔法カードの効果が継続的に発動している場合のみ使用できる。『呪詛返し人形』の効果で我が身に降り注いでいる継続効果を打ち消し、我が貴様から直接受けた累計ダメージをそのまま貴様に与え、与えたダメージ分我のライフを回復する!』
「げぇ!? 熱っちゃちゃちゃちゃ!?」
マスターレオが呪詛返し人形を使用したことで九十九さんに二〇〇〇ポイントのダメージが入る。
なおこの場合『相手から直接受けた累計ダメージ』なので、継続効果ダメージは含まれない。
この辺の処理はややこしいためよく公式大会でも間違われたりするがそれはさておき。
九十九さんは墓地に一枚も悪魔カードが無いため継続ダメージは入らないが、この反撃で九十九さんのライフは半分を切った。
『さらに我は手札より特殊場カード『戦火』を発動! このカードは互いに炎系魔法の効果でダメージを受けた後にのみ発動可能! 場に存在しているすべてのアイテムカードを破壊し、手札からすべてのアイテムカードをゲームより除外! プレイヤーは自身の手札より除外した枚数×一〇〇〇ポイントのダメージを受ける!』
「うーわえっぐ」
戦火の効果で聖銀の十字架の効果は打ち消され、さらに九十九さんの手札から三枚が除外されて三〇〇〇ポイントのダメージ。これで彼の残り手札は一枚。
現在のライフは九十九さん一〇〇〇。
マスターレオが八五〇〇。
次のターンで決着がついてもおかしくない危険域だ。
「ひっどいわー。手札もライフもすっからかんやんけ。よぉそんな回るもんやな」
『フンッ、祖神様のご加護あればこそよ。もう悪魔を呼べる体力もあるまい。サレンダーするなら今の内だぞ』
「なに寝ぼけたことぬかしとんねん。まだワイには手札もデッキも残っとるやんけ」
糸目が薄く見開かれ、九十九さんの口元が三日月型に吊り上がる。
「ワイのターン。ドロー! ワイは手札より天使カード『聖守護天使メタトロン』を場に特殊召喚! このカードは聖遺物アイテムカードが三つ以上破壊、またはゲームから除外されたときのみ特殊召喚できる」
『な、なんだとっ!? 貴様まさか!?』
「せや、ワイのデッキは一枚も悪魔カードなんぞ入っとらん。殆どがホーリー系アイテムと魔法カードや」
聖守護天使メタトロン。
神の代理人とも呼ばれる大天使の権能はその重い召喚コストに見合った凄まじい力を有している。
「メタトロンの攻撃力は三〇〇〇。そこへワイがこのゲーム中に受けたダメージ分攻撃力が加算される!」
九十九さんが受けたダメージは九〇〇〇。
これでメタトロンの攻撃力は一二〇〇〇に跳ね上がった。
「さらにメタトロンの攻撃はあらゆる悪魔・魔法・邪属性アイテムカードの効果では阻害できひん。これで終わりや! 汝の罪を数えよ、ラストジャッジメント!」
『ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ────────ッ!?』
天より降り注いだ光の柱に焼かれマスターレオのライフが完全に消失した。
ゲームセット。九十九さんの勝ちだ。
『ぬぅぅっ、ま、負けた!』
「お疲れさん。惜しかったな」
『祖神様の御前で醜態を晒してしまい面目次第もございません。かくなる上は腹を切ってお詫びを……!』
「やめろやめろ!」
俺が労いの言葉をかけてやるとマスターレオは悔しげに面を伏せ、鋭い爪で自分の腹を裂こうとする。武士かお前は。
「ほんで、ワイの願いも叶えてくれるんやろヒロえも~ん」
「誰がヒロえもんだ。まあそういう約束ですからね。さあ願いを言うがいい。どんな願いも一つだけ叶えてやろう!」
九十九さんはしばらくアゴに手を当て考え込み、やがて「せや」と目を僅かに見開き俺に願いを告げた。
「このデッキちょーだい。カードの効果をノーコストで現実に反映できるようにしてな」
「それくらいならお安い御用っすよ。ほーれ、ちょちょいのポン☆ っと!」
デッキを魔導書に変えてやると九十九さんはデッキをスカジャンのポケットに仕舞ってニンマリと笑った。
「おおきに。ところで晃弘クンもやるんやろ? デモマジ。エキシビジョンっちゅーことでワイが勝ったらもう一個願い叶えてくれへん?」
「欲張りっすね。まあいいですよ。ただし俺が勝ったらアメリカで超高級レストラン奢ってください」
と、そんなわけでエキシビジョンマッチを行う運びとなり、俺の超速攻妖怪デッキでボロクソに負かして超高級レストランを奢ってもらうことになった。
ふははは! ゴチになりまーす!