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第二の塔 燃えよシャオロン

 塔の攻略を終えた俺は再び扉の城の会議室にみんなに集まってもらった。

 俺が猫から聞いた話を全員に共有し、その上で出した決断を伝えるためだ。


「攻略した塔は地面の下に埋めてそのまま残そうと思う。全部の塔を攻略したら内部を改装していずれは一般人でも入れるようにするつもりだ」


 この星の人類は管理者である臥龍院さんの選択により霊的な文化の発展と魂の進化を抑え込まれてきた。

 人類をあえて未熟なまま留めておくことで高位の天使や悪魔の受肉を防ぎ、それでもなお時折現れる高い霊性を持つ人々に霊的な技術を授け研究させることで高位次元の存在たちに対する対抗手段とノウハウを蓄積させた。


 正当な進化をすれば必ずしも人の世が長続きするわけではない。

 ベルダさんの故郷のように、高位の悪魔がたった一柱受肉しただけで人の文明なんて簡単に消し飛んでしまう。


「自分でやっといてなんだけど、すでに流れは大きく動き始めてる。俺はこの流れを止めたくない。人類がどこまでいけるか見守るほうが絶対楽しいと思うからさ」


 俺と宗助の誕生。異世界プロンテイとの接触。俺の影響を受けて迷宮地獄を抜け出した七体の魔獣たち。

 今になって思えば、すべては人類が次のステージへ進むための兆しだったのだ。


「好きにやれと言ったんだもの。それがあなたの選択だというなら私は止めないわ」


「つってもまだまだ分かんないことだらけなんで当分は頼りきりになりそうですけどね」


「ふふっ、当分楽できそうにないわね」


 そう言う割には臥龍院さんの口調はどこか楽しげで。

 言外の承諾をもらい、俺は会議室の長机の上に地球の立体映像を映し出す。


「つーわけで、みんなには残り六つの塔攻略を頑張ってもらいたい」


「次は中国だっけ?」


「ああ、第二の塔の場所はここ。中国特別行政区香港の九龍!」


 小春の問いに俺はテーブルの上の立体映像をぐるりと回して塔の位置を指差す。

 改めて思うが繁華街のど真ん中だな。

 そういやシャオロンの故郷も香港だったか。……まさか巻き込まれたりしてないよな?



 ☆



 数時間前。特別行政区香港九龍。


 ネオン看板煌めく九龍の一角に看板を掲げる『劉龍飯店』の一人息子|リウ・シャオロンの朝は早い。

 年間を通じて観光客で賑わう九龍で七〇年の歴史を誇る『劉龍飯店』は地元民に愛され続けてきた人気店で、朝帰りの人のために朝早くから店を開いている。


 交通事故に遭い生死の境を彷徨ってからというもの、シャオロンは毎晩夢を通じて霊界へ出入りする力を得た。


 昼は学業の傍ら家業を手伝い、夜は夢の中で犬飼仙人の旅に付き添い仙術を学びながら広大な霊界を巡る大冒険の日々。

 そんな二重生活を続ける内にとうとう仙人から免許皆伝を言い渡され、終生の好敵手ライバル犬飼晃弘との出会いと別れを通じ大きく成長した。


「はい二番テーブル野菜炒め! 四番五番タンメンお待ち!」


 夜勤明けの客や通勤前の労働者で大盛況の店内を料理の乗った皿や器が綺麗な曲線を描いて飛んでゆき、汁一滴零すことなく客の目の前にふわりと降り立つ。


 シャオロンが夢の中で身に付けた力は日常生活でも遺憾なく発揮され、注文した品が魔法のようにテーブルまで飛んでくる食堂としてSNSで拡散され話題になっていた。


 この日も店は朝から大盛況で、次々と入れ替わる客を捌きつつ合間を縫って学校へ行く準備を整えたシャオロンが家を出ようとしたまさにその時。


「っ!?」


 足裏に伝わる振動で地面の下から巨大な何かがせり上がってくるのを察知したシャオロンが強く足踏みする。

 すると周辺一帯にいた人々の身体がトランポリンの上を跳ねたみたく『ぼよんっ!』と浮き上がり建物の中から次々と吐き出されていく。


 直後、明かりの消えたネオン看板に飾られた街の一角が『ずごごごごォ!』と持ち上がり、地面から生えてきた巨大な塔の頭に押し上げられて遥か空の彼方へと連れ去られてしまった。


「ああっ!? 俺の店が!?」


「劉さん近づいちゃダメだ危ないよ!」


 未だ成長を続ける塔に近づこうとするシャオロンの父を店の客が羽交い締めにして止める。

 シャオロンのとっさの機転により幸いにも死者や怪我人は一人も出なかったが、その場に居合わせた全員がこの世のものとは思えない光景を見上げ呆然と立ち尽くしていた。


「おい、ウチの息子はどこだ!?」


 シャオロンの父が辺りを探すが息子の姿はどこにも見当たらない。

 それもそのはず。シャオロンは周辺一帯の人々を避難させるために逃げ遅れ塔の隆起に巻き込まれてしまったのだから。


「シャオロン! どこだシャオロ────ンッ!!!!」


「シャオちゃん! どこにいるの!? シャオちゃんいるなら返事して!」


 父と母の叫びは塔がせり上がる轟音にかき消され虚しくも九龍の街並みに溶けて消えた。



 ☆



「ここは……?」


 ふとした瞬間、シャオロンは周囲の景色が一変していることに気付いた。

 彼が立っているのは自宅の狭い裏口ではなくどこかの屋根の上。

 見渡す限りの街並みは九龍のそれによく似ているが看板の文字はどこの言葉とも知れぬ象形文字でまるで読み取れなかった。


 すると彼が立つ屋根の一部がモゴモゴと盛り上がり、人を模した岩人形へと形を変えていきなり殴りかかってきた。


ッ!」


 繰り出された拳を内側から掴んだシャオロンが岩人形の体を一息に引き寄せ鳩尾に掌底を叩き込む。


 まるで発泡スチロールのように砕ける岩人形。

 その後ろから今度は別の岩人形が槍を突き出してくる。

 突き出された槍にシャオロンが拳を合わせると槍から衝撃が伝播して岩人形が粉々に爆散した。


「いきなり何なんですか!?」


 背後から青龍刀で斬りかかってきた岩人形を後ろ蹴りで吹き飛ばし、周囲から一斉に放たれたマシンガンの掃射を仙術で跳ね返す。


 次々湧き出てくる岩人形をタックルで砕いて屋根から屋根へ飛び移ると、真下の地面から龍の頭が生えてきて空中にいるシャオロンを狙い撃つように紅蓮の業火を吐き出した。


「そんな炎じゃ野菜も炒められないですよ!」


 炎の直撃を受けても涼しい顔のままシャオロンが通りの向かい側の屋根へと飛び移ると、着地の衝撃が波紋のように広がり周囲の建物がぺちゃんこに押しつぶされる。

 すると今度は瓦礫が毒蟲の大群へと姿を変え、津波のように襲い掛かってきた。


「数が多けりゃ勝てるとでも? ウチは食堂なんで害虫お断りですよ! 波ァァァァァッ!!!!」



 ★



「よりにもよって直撃かよ……」


 遠視と過去視の魔法を併用して九龍に目を向けてみれば悪い予感が的中していた。

 九龍に出現した塔はシャオロンの実家の真下から生えてきて、そのまま彼を周囲の建物ごと取り込んでしまった。なんてこったい。


 俺は急ぎ九龍へ転移し、開かれたばかりの入り口から塔の中へ入る。


『これはこれは祖神様! ようこそおいでくださいました』


 するとまたもや景色ががらりと変わって、栗毛が美しい大きな馬が俺を出迎えてくれた。

 辺りは見渡す限りの草原でそよそよ吹き抜ける風が心地良い。


「訪ねて早々で悪いんだけど至急この塔を地面の下に埋めて「ホアァチョォーッ!」


 バリン! と空に大穴が空き、そこからシャオロンが飛び蹴りのポーズで飛び込んできた。

 あちゃー、一足遅かったか。


「誰ですかウチの真下に塔を生やした非常識な輩は! 僕が成敗してや……って、晃弘くんじゃないですか! なんでここに!?」


 ヒーロー着地したシャオロンが俺の顔を見て目を丸くして、それからすべてを察したように目を細めた。


「そうか。君が黒幕だったんですね。僕に何の恨みがあるって言うんですかこの人でなし!」


「落ち着け。事情はちゃんと話すから!」


「事情を聞く前に君を一発殴らなきゃ僕の気持ちは収まらないですよ!」


「だからごめんて!」


「問答無用! 九龍住民の怒りを想い知れ! ホァタァァァァ────ッ!!!!」




 いかりに もえる シャオロンが おそいかかってきた!



戦闘BGMはお好きなカンフー映画からどうぞ

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