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修羅場

 突然周囲の色彩が反転し宇宙が白一色に染まり、龍姫は何事かと首を巡らせる。


「ふん、臥龍院とやらの仕業か。父上が言うだけのことはあるらしいのぅ」


 多層構造の隔離結界。

 例えるなら無限に重なった風船の中に捕らわれたようなものだ。


 仮に宇宙を破壊するほどのエネルギーが爆発しようと、破壊された側から新たな異空間が発生して術者が術を解かない限り対象を半永久的に閉じ込め続ける。


「じゃが、こんな大規模な術式、維持するだけでもやっとじゃろうて」


「この期に及んで無事に出られると思ってるなんて、おめでたい爬虫類ね」


「おや、いたのかえ。小さすぎて見えなんだ」


 龍姫が忌々しげに鼻を鳴らし目を細める。

 九尾魔法少女に変身した麗羅が純白の髪をなびかせ、龍殺しの魔剣の切先を龍姫の鼻先に向け冷ややかに睨み返す。


「二度は言わないわ。晃弘を返しなさい」


「ワシと婿殿は身も心も一つになったのじゃ。もう誰にも文句など言わせぬ。ワシらはこのまま永遠に一緒じゃ」


「黙れ。人の彼氏に横恋慕した卑しいトカゲの分際で臭い口開くんじゃないわよ」


「ハンッ! 貴様こそ婿殿の愛も知らずに憎まれ口ばかり叩いてきた捻くれ者のくせに!」


「私たちの思い出に汚い手で触れるなッ!!!!」


 怒髪天を衝く勢いで麗羅が殺気をほとばしらせると、龍姫はニヤリと底意地の悪い笑みを浮かべて鼻を鳴らした。


「おお怖や怖や。そんなに怖い顔をしては婿殿もお主など嫌いになってしまうぞ」


「黙れ」


「いいや黙らぬ。今やワシらは文字通り一心同体。婿殿の心も思い出も、今となってはワシの一部なのじゃから」


 龍姫がにわかに怒気を滲ませ麗羅を憎々しげに睨みつける。


「じゃからこそ、この期に及んで婿殿の心がお主で占められておるのが気に食わぬ! ワシはこんなにも婿殿を想っておるのに!」


「無理やり攫ってきたんだから当然でしょ。こんなしょうもないバカ女に目をつけられるなんて晃弘が可愛そうだわ」


 優越感を滲ませて麗羅が嗤い返せば、龍姫の怒りが結界を揺るがし、白一色の世界に亀裂が走った。


「黙れ目障りな女狐め! お前がいるから婿殿はワシに振り向いてくれないのじゃ! お前さえ、お前さえいなければ!」


 龍姫の感情に呼応するように龍力の嵐が吹き荒れ、その余波だけで多層に展開した結界が次々と壊されていく。


「晃弘が振り向いてくれないからって私に八つ当たりしないでくれる? 目障りだし迷惑だわ!」


 宇宙規模の感情の爆発に晒されてもまったく意に介さず、麗羅どこまでも冷淡に魔剣を振るう。

 呪いの刃が閃く度に龍力は薄紙のように斬り裂かれ、龍姫の力が削がれ、銀河を飲み込むほどの体躯がみるみる小さくなっていく。


「おのれ小癪な! ワシには選ぶ権利すら無いと言うのか!? 好きでもない男との見合いなどもうウンザリじゃ! ワシだって恋してもよいではないか!」


 荒れ狂う龍姫の感情は異次元から更なる力を引き出し、晃弘の能力によって神化が始まる。

 龍姫の全身に亀裂が走り、古い鱗を脱ぎ捨てた光の龍があぎとを開き、その口腔こうこうに黒い稲妻が収束していく。


「知らないわよ、勝手にすればいいでしょ! ただし晃弘は絶対に渡さないわ!」


 刹那、すべてを滅ぼす黒いいかづちが宙を駆け、麗羅に迫る。

 だが、麗羅の顔に焦りはない。

 どれだけ神化して強くなろうと、所詮は何億回も切り伏せてきた相手。行動パターンなどすべてお見通しだった。


 麗羅が淡々と魔剣の刃を振り下ろす。

 黒雷はいともたやすく斬り裂かれ、ちぎれ飛んだ龍の角が宙を舞う。

 全宇宙に轟くほどの大絶叫が結界を次々と叩き割り、角の断面から溢れ出した未知のエネルギーが空間を赤々と染め上げる。


「諦めぬ、ワシは諦めぬぞ! 婿殿が振り向いてくれるまで何度でも────……」


 エネルギーは龍姫と麗羅を巻き込んでどこまでも膨張を続け、二人の意識はそこで一度途絶えた。

 

 


 ☆



 気が付くと俺は学校の教室にいた。


 教室を見渡せば、一年三組のクラスメイトたちがそれぞれのグループごとに集まって談笑している。


 いつも通りの光景。

 だけど、何かが足りない。そんな気がしてならなかった。


「どうしたんですか? 浮かない顔して」


「変なモノでも食ったか?」


 と、タッツンとマサがいつも通りのマヌケ面で聞いてくる。

 なんだ。何が足りないんだ。

 何か心に大きな穴が開いてしまったような、奇妙な喪失感がある。

 けど、それが何だったのかが思い出せない。


「だーれだ」


 すると急に後ろから誰かに抱きつかれ、手で目隠しされる。

 背中に押し当てられる柔らかな感触と、甘くまるみのある香木のような匂い。


「姫?」


「正解!」


 青髪の美少女が俺の正面に回り込みニコニコとご機嫌な笑顔を向けてくる。

 龍宮たつみやひめ。俺のクラスメイトで、幼馴染でもある。

 年寄りくさい喋り方と、光の加減で青く見える長髪が特徴的だが、それ以外はごく普通の女の子だ。

 あとおっぱいがデカイ。


 おっぱいが、デカイ。どこかの誰かさんとは大違いだ。

 ……どこかの誰かさんって誰だよ。


「どうしたのじゃ。具合でもわるいのかえ?」


「いや、なんでもねぇ。ちょっとボーっとしてただけ」


「そうかえ? 具合が悪かったらすぐに言うんじゃぞ? 婿ど……ゴホンッ、ヒロに何かあったら嫌じゃぞ」


 俺の額に手を当てて熱を測りつつ、姫が心配そうに俺の顔を覗き込む。

 この子は昔から何かとトラブルに巻き込まれる俺のことを心配してくれて、甲斐甲斐しくも身の回りの世話を焼こうとしてくる。

 もしかしたら母ちゃんより俺のこと心配してくれているかもしれないくらいだ。


「相変わらず姫は心配性ですねぇ」


「そうそう、コイツがちょっとやそっとでどうにかなるはずねぇもん」


「お主らはもう少し心配してやったらどうなんじゃ」


 姫の呆れ交じりの苦笑いに「へいへい」と二人が適当に返す。

 いつも通りのはずの光景。

 なのにどうしてこんなにも違和感を感じるのだろう。


 違和感の正体を掴めないままいつも通り授業が始まり、昼休みはやはりいつも通り姫の手作り弁当を食べ、午後の授業を寝て過ごし一日が終わる。


 その日の放課後。


「のうヒロや。少し、いいかの?」


 姫がどこかソワソワしながら俺に声をかけてきた。


「少し、二人きりで話がしたいのじゃ」


 と、どこか緊張した面持ちの姫に誘われるまま、俺は誰もいない空き教室まで連れてこられた。

 ここに来てこれからどういう話をするのか分からないほど俺も鈍くはない。

 今までなぁなぁで済ませてきたお互いの関係を明確にする時が来たのだ。


 もじもじと前髪を弄っていた姫がとうとう意を決したのか、俺の目を見つめて口を開いた。


「お主が好きじゃ」


「……っ」


 ずっと待ち望んでいたはずの言葉なのに、どうしてこんなにも胸が痛むんだろう。

 どうしてこんなにも後ろめたい気持ちになる?


「幼い頃からずっと好きじゃった。覚えておるか? 今日はワシらが初めて会った日じゃ」


 ()()()()()()()()()


 しとしと雨の降る寒い朝のことだった。

 小学校の通学路で、高い木に登ったまま下りられなくなった子猫を見上げて今にも泣きそうな顔をしていた姫を見かねて、俺が猫を助けてやったのだ。

 けど着地に失敗して全身ずぶ濡れになって、それで俺が風邪をひいたと知った姫が家までお見舞いに来てくれた。


 それ以来俺たちは友達になり、そして今に至る。

 今まで積み重ねてきた思い出は疑いようもなく本物で、姫の気持ちも本当なのだろう。


「一目見た時から好きじゃった。そしてお主の優しさに惚れ直した」


 窓の外は生憎あいにくの雨。

 薄暗い教室の中、ハッキリ分かるほど頬を赤らめ姫が俺に想いを伝えてくる。


「好きじゃ、晃弘。……ワシの、ワシだけの人になって欲しい」


 また、胸の奥がチクリと痛んだ。 

 後ろめたさを感じるような相手なんていないはずなのに、どうして。


「……少し、考えさせてくれ。急なことで混乱してる」


「嫌じゃ、今答えが欲しい」


 珍しく語気を強めて姫が俺に迫る。


「ワシでは、ダメか?」


 姫が俺の胸にするりと滑り込み、潤んだ瞳で上目遣いに見上げてくる。

 お互いの吐息がかかる距離。甘い香りに頭がクラクラした。


 この子の気持ちに応えてやりたい。

 こんなにも俺を想ってくれている女の子の気持ちに応えてやらないなんて、男としてどうかしてる。

 けど、存在しないはずの誰かの影が、俺の心を引き留める。


 このまま姫の気持ちに応えたら、その子を深く傷つけてしまうような、そんな気がしてならないのだ。


 姫が俺の頬に手を添えてゆっくりと顔を近づけてくる。

 いいのか? このまま彼女の唇を受け入れても。本当に後悔しないって自信を持って言い切れるのか。




「……っ、ごめんっ!」


「あっ!?」




 俺は姫を突き放し、教室から逃げ出した。


 雨の降る中、傘もささず学校を飛び出し、ずぶ濡れのまま走り続けてたどり着いたのは近所の稲荷神社。

 なぜここに来たのかは分からない。

 ただ、なんとなくここに来なければいけないような気がしたのだ。


「なあ、いるんだろ!? どこだ! どこにいる!?」


「どこにもおらぬよ」


 気が付くと背後に姫が立っていた。

 雨に濡れた髪が顔にかかり表情は見えないが、雰囲気で泣いているのが分かり胸が痛んだ。


「やはりワシには振り向いてくれぬのじゃな」


 濡れた髪の下から覗くその瞳に、思わずゾッとした。

 姫の纏う気配がどんどん膨れ上がってゆき、世界が白く凍りついていく。


「この世界も失敗じゃ。じゃが、また創り直せばよい。お主があの女を忘れるまで、何度でも、何度でもな」


「お前、何言って……!?」


 口元を吊り上げた姫が俺に手を向ける。

 直後、極寒の吹雪に晒され、俺は意識を手放した。

神の力を使い、幼馴染の少女「龍宮姫」として晃弘に近づきゼロから関係を構築する作戦へと打って出た龍姫。

姫の告白に応じない限り何度も繰り返す世界から力を奪われた晃弘は脱出できるのか!?


次回、タイトル未定!


さぁ次回もサービスサービスゥ!

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― 新着の感想 ―
[一言] 記憶消されても覚えてるってすごいよな
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