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龍の試練 英雄の間

 随分と長いこと歩き続けた。

 龍の回廊を奥へ進むほど出現する敵は強くなり、知恵もついてきて、互いに連携を取ってくるようになった。


 だが龍力を異次元から引き出す器官が新たに生成されたおかげか、仙術で影たちを丸ごと吸収できると気づいてからは鎧袖一触だった。


 取り込んだ龍力を自分の霊力に変換すると身体がどんどん龍化して意識を持って行かれそうになるので注意が必要だが、そこさえ気を付けていればレベルもモリモリ上がるのでこれほど楽な試練も無いだろう。


「ふぅ……。うっし、コツ掴んできた」


 呼吸を整え、影の群れを吸収して龍化した身体を人の形へ戻していく。


 コツは龍力を角から逃がすイメージ。

 こうすると角もすぐに引っ込んでくれる。


『なぜわざわざ人間に戻るのだ。龍のままでよいではないか』


「龍になったまま戻れなくなったら家に帰れないだろ」


『そういうものか』


 ホネ助がいまいち釈然としない様子で鼻を鳴らす。

 元々龍のホネ助には分からないだろうけど、人間には色々とあるんだよ。



「ここが終点みたいだな」



 どれだけ歩き続けただろう。

 やがて回廊の先が開けて、大きな広間へ出た。


 広間の中央には戦車くらいなら余裕で潜れそうな巨大なリングがあり、リングの中心はユラユラと空間が揺らいでいる。


「……?」


 と、リングを潜って、どこかから忍者が広間に現れた。

 アイエエエエ!? ニンジャ! ニンジャナンデ!?


 でもあれはどう見ても忍者だし、今まで出てきた敵みたいな影だけの存在でもなさそうだ。

 神気も帯びてるし、どこぞの異世界の神だろうか?


「あー、その、こんにちは?」


「……!」


 俺が話しかけると忍者は空手の構えを取り警戒を露わにした。


「……っ。……!」


「もしかして喋れないのか?」


 何かを伝えようという意思は感じるものの、言葉が音になって聞こえてこない。

 俺が訊ねると忍者は小さく頷いた。


 と、忍者の視線が俺の胸元に留まり、服の下に隠してあったネックレスを見せるようにジェスチャーで伝えてくる。


「隠してたのによくわかったな。へへっ、綺麗だろ。彼女から貰ったんだ。ウカノミタマって神様からの貰い物なんだと」


「っ!」


 すると忍者の影から小さなモコモコの黒狐がにゅるんと出てきて、俺のネックレスをジッと見つめ何かを確信したように頷くと、それを見て忍者は警戒を解き俺に手を差し伸べてきた。

 どうやら敵ではなかったようだ。


「なんかよく分かんねぇけど敵じゃなさそうだな」


 俺が忍者の手を握り返すと、忍者は仮面の下で優しげに目を細めた。

 初めて会ったはずなのに、遠い昔どこかで会った気がするのは何故だろう。


 俺の手を引いて忍者がリングの前に立つと、リングの内側の揺らぎが強くなった。


「……」


「ここを潜ればいいのか? ってかお前、ここのボスキャラ的な奴じゃないのかよ。いいのか素通りさせて」


 忍者が「気にすんな」とでも言いたげに俺の肩を叩き、そのまま手で印を組んでドロンと消えてしまった。

 なんだったんだ。


『なんか落ちてるぜブラザー』


「なんだコレ。箱?」


 忍者が立っていた場所に落ちていた箱を影友さんが拾って俺に渡してきた。

 何だろう、微かにだけど俺の神気を感じる。

 けど、俺はこんなもの作った覚えはない。不気味だ……。


 恐る恐る箱を観察していると、箱の仕掛けスイッチを押してしまったのか、箱の角がガシャンと飛び出して青い光の粒子が俺の身体に取り込まれていく。


【スキル『忍術Ex』を習得】


 光が俺の中に取り込まれると何故かスキルを習得して、箱は光の粒子になって消えてしまった。

 な、なんだったんだ……。


『いずこかの並行世界から迷い込んだ英雄だったのやも知れぬな。ここは龍力の存在する異次元に近い異相にある故、稀にそういった存在が迷い込むのだ』


 長年回廊の入り口に突っ立っていたホネ助が訳知り顔で言った。

 なるほど。もしかしたら並行世界の俺の知り合いだったのかもな。


「まあいいや。道は開けたっぽいし。イヤッフゥ―!」


 赤い帽子の配管工よろしく元気よくジャンプして、俺は揺らぎの中へ飛び込んだ。



「よっと。って、なんじゃこりゃ!?」



 リングを飛び越え着地すると、そこは無数の結晶体が浮遊する無重力空間だった。

 結晶の中にはバラバラになった龍の身体の一部が閉じ込められていて、欠片ですら惑星規模の大きさなので遠近感がおかしくなりそうだ。


『これだ。間違いない! これこそが我の身体だ!』


「いやお前頭骨の大きさと身体の大きさ釣り合ってないじゃん」


『今の我は呪いで姿を変えられているのだ。だんだん思い出してきたぞ。すまぬが我の身体を組み立て直してはくれんか』


 この大きさだと組み立て直すのはちょっと時間がかかりそうだ。

 けど、ここまで連れてきて放置するのも可哀想だし。やるしかねぇか。


「しゃーねぇな。やるぞ影友さん」


『オーケーブラザー!』


 場に満ちている龍力を影友さんに流し込む。

 すると俺の影がゾワゾワと空間を埋め尽くすように大きく広がり、龍化した影友さんが闇の中でうねりながら大きく口を開けて結晶体を次々と飲み込んでいく。


 あっという間にすべての結晶体を飲み込み、腹の中で組み立てた結晶体を吐き出せば、目の前に途方もなく巨大な結晶に封じられた龍の身体が現れる。

 サイズが大きすぎるなら分かりやすい大きさにしてから組み立てればいいのだ。


『……それで、ここからどうすればいいのだ?』


「知るかよ。組み立てれば封印が解けるんじゃねぇのか?」


『そういった気配はないな』


 えぇ……。

 じゃあもうできることないぞ。


『なんだよー、組み立て損じゃん!』


『いや、待て。もしかしたら……』


「なんか思いついたのか?」


『うむ。見たところこの結晶は龍力と呪力が混ざり合ったもののようだ。貴様なら吸収してしまえるのではないか?』


「まあどっちも扱ったことあるし、できなくはないだろうけど」


 触れなくても分かるくらい複雑な術式で構築されてるっぽいし、解除するのは骨が折れそうだ。


「やるだけやってはみるけど、解除できなくても文句言うなよ?」


『構わんさ。もし解除できたらお礼にどんな願いも一つだけ叶えてやろう。全盛期の我ならそれくらいは容易かった気がするのだ』


「いいよ別に、やろうと思えば一つと言わずいくつでも自分で叶えられるし」


 人生つまんなくなるから絶対やらないけどな。


『無欲な男よ』


「人生を楽しみたいだけだよ。じゃあ、やるぞ」


 俺の影が大きく広がり、影友さんが龍の身体とホネ助を丸飲みにする。

 すっかり殺風景になってしまった無重力空間で俺は座禅を組み、自分の内側に意識を向けて封印の解除に集中する。



 ここをこうするとこっちがこうなって……。


 こっちがこうで……。



 ええいややこしいな。

 

 ここで龍力をちょちょいのチョイっと……。



【スキル『龍力操作』がLv一〇に成長】



 お、少しやりやすくなった。

 で、ここで呪力を反転させて龍力と分離すれば……!



【称号『龍人』が『龍神』へ変化しました】



【スキル『龍鱗』『龍牙』『龍爪』『龍の息吹』『天候操作』を習得】



【不明な■■の接続を確認】



【条件を満たしました。特殊神化を開始します】



 瞬間、俺の内側でビッグバンの数億倍はあろうかという龍力の奔流が爆発した。

 まずい、仙術で捌ききれねぇ!? 意識が……呑まれ…………。



 ☆



「お帰りなさいませ」


 喪服の女主人が城のエントランスに帰還すると、老執事が常の慇懃いんぎんさで優雅に出迎える。


「留守の間変わりは無かったかしら?」


「はい。ただ一つお耳に入れておきたいことが……」


 どこか呆れた様子の老執事の報告に喪服の女主人は少し驚いたような気配を滲ませ、それからクスッと笑みを溢した。


「ふふっ、本当に可愛いんだから」


「ヤキモチで宇宙のパワーバランスを崩されては敵いません」


「でもお手柄よ。これは新世代の龍族との交渉の切り札になるわ。麗羅は今どこに?」


「眠らせました。あのままでは宇宙を滅ぼすまで魔剣の呪いを強めていたでしょうから」


 龍姫の幻影を斬り続け、銀河一帯の龍を即死させる程にまで力を増した龍殺しの魔剣を主人に預け、老執事がホッと一息ついたのも束の間。


 次の瞬間、凄まじい力の波動があまねく宇宙を駆け抜けた。


「龍宮星の方角ね。ふふふ、彼、上手くやったみたいね」


「今の気配、もしや犬飼様でしょうか? しかし彼の気にしては妙に禍々しかったような」


「想定内よ。すぐに龍宮へ発つわ。麗羅を起こしてきて頂戴」


「畏まりました」



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