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龍の姫に攫われて龍宮城へ行ってみれば

「さあ婿殿、あーん♡」


 龍姫が俺の口を強引にこじ開けて、未だに皿の上でビチビチ跳ね回っている元気なお刺身を口にねじ込んでくる。


 うえっぷ。胃の中でまだ刺身が踊ってらぁ。


 たいひらめの舞い踊りってこういう意味じゃないと思うんだけどなぁ。


 龍姫に連れられてやってきたのは、遥か銀河の彼方にある水の巨大惑星。

 その海中に威を構える龍宮城で俺は今、龍姫からのもてなしを受けていた。


「まったく、姫様のワガママにも困ったものですじゃ」


 と、疲れた顔でこちらを見るのは龍姫の教育係を務める爺やだ。

 黒い狩衣姿の、足先まで伸ばした長いヒゲが特徴的なガッチリした厳つい爺さんだが、全身から滲み出る苦労人オーラのせいでどこか憎めなかった。


 そんな爺やの説明によれば、龍姫はお見合いが嫌で家出していたらしい。


 で、逃げた先にいた俺をお持ち帰りして婿にするなどと宣言したものだから龍宮は大混乱。

 ひとまず留守にしている龍王の帰還を待ち、判断を仰ぐまで俺は龍姫の部屋に軟禁されることになった。


 俺が何をしたって言うんだ。早く地球に帰してくれ。

 転移の魔法で帰ろうにもこの星を巡る霊力の流れが激しすぎて、魔法がちゃんと発動する保証もない。

 太陽系の近くに転移できればまだいいが、最悪どことも知れぬ並行世界に飛んでしまう危険だってあるのだ。


「くれぐれも早まった真似はしてくれるでないぞ。姫様が癇癪かんしゃくを起こせば並行世界の宇宙がいくつ滅ぶか分からん」


 と、俺の考えを見透かしたように爺やが青い顔で耳打ちしてくる。


 ……うん。やっぱやめとこう。

 癇癪の規模がデカすぎんよぉ(涙目)。


「なにをコソコソと話しておるんじゃ。こっちを向かんか」


「ぐえっ!」


 両手で頬を挟まれ強引に首の向きをグキッと変えられる。

 こ、殺されちゃうYO……。


「何度見ても綺麗な瞳じゃ。魂の奥底から霊光の蒼が滲み出ておるわい」


 俺の頬を撫でてうっとりと龍姫が頬を染め、ゆっくりと顔を近づけてくる。

 くっそ尻尾で押さえつけられて動けねぇ!? けどなんかめっちゃいい匂いする。それに近くで見るとやっぱり美人なんだよなこの子。

 ってか待って待って待ってこのままだとキスしちゃうけど!? ねぇ待ってマジでするのここで!? いーやーっ!


「姫様、はしとのうございますぞ」


「むぅ、良いではないか。どの道ワシの婿になるのじゃし」


「まだ決まったわけではございません。それに、物事には順序がございます。龍族の姫たる自覚をお持ちなさいませ」


「はいはい。お説教は聞き飽きたわ。まったく爺やは頭が固いのぅ」


 ギリギリのタイミングで爺やが水を差してくれたおかげで興が冷めたのか、龍姫は「むぅ」とほっぺを膨らませて俺の胸にしな垂れかかってくる。


 あ、危なかった。

 危うくはぢめてのチュウを奪われちゃうところだった。

 俺にはレイラがいるんだ。浮気なんてしたら呪い殺されちまう。


 けど、逃げたら宇宙消滅の危機だし、このままだと姫様のご機嫌取りのために本当に結婚させられてしまいそうだ。

 宇宙の存続が俺の行動にかかっているなんてストレスで禿げそうだけど、なんとかしなければ。


「姫様、並びに犬飼殿。龍王様がお呼びです。至急正殿に参られたし!」


「うむ! やっと父上がご帰還なされたようじゃの! 行くぞ婿殿!」


 部屋にやってきた羽衣を纏ったタツノオトシゴに案内されて、俺たちは竜宮城の正殿へと通される。


 朱色と黄金に彩られた絢爛豪華けんらんごうかな正殿は、まさに龍宮城の名に相応しい威容を誇っていた。

 正殿の奥、黄金で縁どられた玉座に座る龍王の前に跪き、こうべを垂れる。


「面を上げよ」


 龍王の声に顔を上げる。

 口元から伸びた龍のヒゲと、凄まじい覇気を秘めた黄金の瞳が厳めしい偉丈夫だ。

 マントを羽織っただけの筋骨隆々の上半身に彫り込まれた黒龍の入れ墨の威圧感たるや凄まじいものがある。


「噴ッ、娘が連れてくるだけのことはあるようだな」


 黄金の瞳がギラリと輝き、腕を組んだ龍王が口の端をニヤリと吊り上げる。

 霊力の総量で言えば俺とほぼ同等。だが、それ以上の実力を感じさせる『何か』がこの漢にはある。


「一目見た瞬間に惚れてしまったのじゃ。見てくだされ、この美しい瞳を。どんな宝珠よりも神秘的な光を湛えておりましょう」


「クックック。お主の光もの好きは相変わらずよの。だが、見合いの話を蹴った以上はただで婿入りさせるわけにはいかん」


「あ、あの。なんか婿入り前提で話が進んでるみたいなんですが……?」


 冗談じゃないぞ!

 あれだけ苦労してレイラと付き合い始めたばかりだってのに、こんな形で引き裂かれてたまるか!


「嫌じゃ嫌じゃ! あんな父親の権威を振りかざして粋がってるだけのクソガキの嫁になんぞなりとうない! なんとかして父上! おーねーがーいー!」


「ならぬッ! これは龍王一族のメンツの問題なのだ。わきまえよ」


「むぅーっ!」


 フグみたいにむくれてねる龍姫を無視して、龍王の黄金の眼光が俺を見据える。


「お前にはこれから龍の試練を受けてもらう。試練を突破するほどの猛者が現れたとあらば、姫が見合いを蹴ったことの言い訳も立つからな」


「だから勝手に話進めんな! 俺に結婚の意思はないんだよっ!」


「「え」」


 俺の言葉に龍王と龍姫が固まる。

 いやそんな「何言ってんのコイツ」みたいな顔されても。


「貴様、我の娘では不満と申すか……ッ!」


 ゴゴゴゴゴ! と龍王の怒りが星の霊力と共鳴して大地が鳴動する。

 ビビるな! これくらい俺でもできる!


「そうじゃねぇ! 彼女がいるのに他の女と結婚なんてそんな不義理なマネができるかって言ってんだ!」


 霊力を操り星の鳴動を抑え込むと、龍王のしかめっ面が僅かに動いた。


「ほう、我の覇気を抑え込むか」


「その女子おなごは第二夫人にすればよいと言うたではないか。強い男子おのこならば妻の一人や二人囲って当然。ワシもそこまで狭量ではないぞ」


「ガハハハ! 流石我が娘! よくぞ言うたわい! 貴様がすでに愛した女がいると言うなら、その女も龍宮へ迎えようではないか。これで万事解決よ」


 龍王と龍姫が親子そろってガハハと大笑いする。

 だ、だめだ! 価値観が違い過ぎて話にならねぇ!?


「ともあれ、貴様には龍の試練を受けてもらう。これは決定事項だ! 試練を突破するまで地球には帰れないものと思え!」


 龍王の霊力が爆発的に膨れ上がり、凄まじい霊力の波動に周囲の空間が歪み始める。

 な、なんだ!? 身体から力が抜けていく!?


「試練が終わるまで貴様の力の一部を封印させてもらう。見事試練を乗り越え男を見せよ! さすれば貴様を龍宮へ迎えてやろう!」


 すると急に床が消え去り、俺は謎の力に引かれて穴の底へと落ちていった。

 いやぁぁぁぁぁぁぁん!? すーいーこーまーれーるぅぅぅぅぅぅっ!?


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[一言] 理不尽 がんば
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