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不穏な影

 ……鼻先に生暖かい風を感じる。


 闇の底に沈んでいた意識が徐々に浮上を始め、やがて意識が水面に顔を出すように覚醒する。


 何となく嫌な予感がしながらも目を開けると、そこには鼻先が触れ合うほどの近距離で俺の寝顔を見つめる九十九さんの顔が……

 って、近い近い近い!?


「うおぁ痛って!?」


「あだっ!?」


 慌てて距離を離そうとして、お互いの額をしたたかに打ちつけてしまった。痛い。


「痛ったぁ……。ヒドイわぁ犬飼クン、いきなり頭突きかますなんて」


「…………なんかしました?」


「さぁて、どっちやろなぁ?」


 ニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべて答えをはぐらかす九十九さん。

 隣にいた麗羅にも視線を送るが、なんとなく気まずそうな雰囲気で顔を逸らされる。


「おい、なんだよその反応。何ちょっと顔赤らめてんだ。おいこっち向けよ、おい!」


「う、うるさいわね! 気安くさわらないで! (きん)が移るでしょ!」


「誰がバイ●ンマンだ!? あと俺が寝てる間に何があったのか具体的に教えろくださいこんちくしょう!」


 なんで誰も何も無かったって言ってくれないんだ!?

 やだよぅ。ファーストキスがこんな胡散臭いエセ関西弁野郎だなんて、嫌だよぅ。うっうっ……


「な、何も泣く事ないでしょ気持ち悪いわね……。なんにもなかったわよ」


 まあ、何かする前にアンタが起きたんだけど、という語尾に付いた恐ろしい小声を俺は聞き洩らさなかった。

 九十九さんはそんな俺の様子を心底楽しそうにニコニコと見つめている。

 もうやだこの人。怖い。


「あ、あの! 私は男の人同士とか、そういうの全然ありだと思います!」


「あっ、花梨ちゃん。目が覚めたんだねよかった。あと君はアリでも俺はナシだからな?」


「ふふ腐……。でもでも、そう言いつつもやがて二人は結ばれるんですよね定番ですごちそうさま!」


「駄目だ聞いちゃいねぇ」


「うちの孫がすいません……」


 悲報、花梨ちゃんすでに手遅れ。

 腐ってやがる、遅すぎたんだ……。

 というより、むしろどうしてこんなになるまで放っておいた!


 おじいちゃんにこんな気まずそうな顔させるんじゃないよまったく。


「花梨チャンは一時間くらい前に目を覚まして、麗羅チャンはそのすぐ後。で、犬飼クンが一番最後やな。予知夢能力の封印はもう終わっとるで、今日の仕事はこれで終いや。おつかれさん」


 部屋の時計を見ると時刻は一九時三二分。

 念のためスマホを確認すると、母ちゃんからの帰宅催促のメッセージが一件来ていたので、すぐに帰ると返信しておく。


「まあなんであれ無事に目覚めてくれて本当によかったよ」


 結局最後は力技でブッ飛ばしちゃったけど、ともあれ一件落着だな。


「あ、そうだ。俺、君に謝らなきゃいけないことが……」


「大丈夫です、分かってますから。本当はあなたたちが私の同級生じゃないってことくらいは。だって私の学校、クラス替えありませんもん」


「それは知らなかった。……けど俺が謝りたいのは偽物とはいえ君の幸せだった思い出を壊してしまったこと」


 あの時、悪魔と共に夢の世界が崩壊する瞬間を彼女は見ていた筈だ。

 偽りとはいえ花梨ちゃんの幸せな世界をぶち壊した張本人は俺だし、恨まれたっておかしくない。


「……いいんです。むしろお陰で吹っ切れましたから。最後のあの時、化けの皮が剥がれた悪魔を見てもうパパとママはいないんだなって……」


 花梨ちゃんの瞳から大粒の涙がぽろぽろと零れ落ちる。

 夢の世界に逃げ込んでまで忘れようとしていた悲しい事実を、俺たちが改めて突き付けてしまったのだ。辛くないはずがない。


 と、ここでおばあさんがお盆に出来立てのパン粥を持って部屋に戻ってくる。

 おじいさんとのアイコンタクトで全てを察したらしいおばあさんは、お盆をベッドの傍にある机の上に置いて、花梨ちゃんの隣へと寄り添う。


「大丈夫、大丈夫よ……悲しい時は思いっきり泣けばいいわ」


「おばあちゃん……!」


 おばあさんの胸に抱かれて、とうとう堪えきれなくなった花梨ちゃんがわぁっと泣きだす。

 おじいさんも傍に寄り添って、孫娘の頭を優しく撫でる。


 しばらくの間花梨ちゃんは泣き続け、やがて真っ赤に腫らした目元を拭って、俺たちと向き合う。


「……私、ようやく目が覚めました。パパとママが死んで、もう自分にはなんにも残ってないって絶望してた。……でも、そんなことなくて、私にはまだ、おじいちゃんとおばあちゃんがいた」


 おじいさんとおばあさんが花梨ちゃんに寄り添い優しく微笑む。


「あのまま優しい夢の中に逃げ続けてたら、きっと二人の優しさに気付こうともせずに、いつか死んでいたと思う。だから……ありがとうございました……っ! 皆さんのおかげで、私、大切なものに気付けました……っ」


 込み上げてくる思いを言葉にするのにいっぱいいっぱいなのか、たどたどしくもお礼の言葉を口にする花梨ちゃん。

 だが、目元に涙を浮かべながらも精一杯の笑みを浮かべる彼女の姿には、前向きな生命の輝きに満ちていた。


 ああ、駄目だ。こっちまで目頭が熱くなってきt……。


「世界にはこんなにも素敵なBLの可能性に溢れてるんだってことに!」


「おい」


「そうよ花梨ちゃん。掛け算の可能性は無限大なの。これからは二人で新たな可能性を見出していきましょうね」


「おいこら」


 婆さん、あんたもか。

 というかさてはアンタが原因だな!? 


「重ね重ね、妻と孫娘がすいません……」


 ほらもうおじいちゃんすっげー気まずそうじゃん! 

 どうしてくれるんだよ。感動が台無しだよ! 俺の涙を返せ!



 ◇ ◇ ◇



 とまあ、そんな茶番を挟んだものの事件は無事解決。ハッピーエンドだ。

 深々と頭を下げる老夫婦に玄関まで見送られて家を後にする。


「今日は二人のおかげで仕事が捗ったわ。またいつか会うかもしれへんから、そん時はまたよろしくしてな~」


 門の前で九十九さんは今日の仕事をそう締めくくり、手をひらひら振りながら夜の闇へと消えていった。

 最後まで底知れない人だったな……。


 ぶっちゃけもう二度と関わりたくないが、何となくまたどこかで会いそうな気がしてならない。


「そういえば連絡先交換するの忘れとったわ。犬飼クン、ライン交換しよ♪」


「うわぁぁぁぁっ!?」


 突然背後からヌッと現れて、俺の肩に手を回して来る九十九さん。

 思ったそばからこれだよ! トラウマになるから本当にやめてほしい。

 結局、場の空気に負けて、お互いのIDを登録する羽目になった。着信拒否は……後が怖いからやめとこう。


「ふふふバッチリ登録したで。ほんじゃ、またなー ア キ ヒ ロ ク ン ♪」


 最後に俺の名前を耳元でねっとりと囁いて、九十九さんは今度こそ普通に歩いて帰っていった。

 もうやだあの人、怖い。完全にやべー奴に目を付けられてしまった。


「……泣いていいかな?」


「いやよ気持ち悪い」


 ちくしょう、俺に味方はいないのか。

 もうやだ、おうち帰る……

 あっ、そうだ忘れるところだった。


 そのまま帰ろうとしていた麗羅の背中を呼び止める。


「おいツンデレイラ!」


「その呼び方ムカつくからやめてくれない!? ぶっ殺すわよ!?」


「自転車、直してくれてありがとな」


 正直、今でもコイツの事は気に食わない。

 でも、理由はどうであれ、壊れかけだった自転車をあそこまで完璧に直してもらったのだ。お礼くらいは言うべきだろう。


 俺からのお礼の言葉が意外だったのか、麗羅は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして固まった。


「……別に、仕事だもの。お礼言われる筋合いはないわよ」


「それでもだ。お前の事はムカつく奴だと思ってるけど、丁寧な仕事に対するお礼もできないほど礼儀知らずでもないんでな。けじめだ、けじめ」


「……ふ、ふんっ! 殊勝な心がけですこと! もう用は済んだでしょ? じゃあ私、帰るから!」


 逃げるように吐き捨てた麗羅は、そのまま勢いよく近くの家の屋根へと跳んで、そのまま屋根伝いに走り去ってしまう。忍者かよ。

 そして、去り際にアイツがぼそりと呟いた言葉を、ここ数日ですっかり超人仕様になってしまった俺の耳は聞き逃さなかった。



 ────私だって悪かったとは思ってるわよ……



「……なんだよ、やっぱりツンデレじゃねぇか」


 素直に謝れば許してやるのにさ。難儀な奴め。

 ところで────


「お前らは何時までそこで隠れてるつもりなんだ?」


「「ぎくっ!?」」


「バレバレだからさっさと出てこいって」


 通りの角の電柱に隠れていたタッツンとマサがさも偶然通りかかったかのような顔で姿を現す。


「よ、よう! こんな所で奇遇じゃねえか」


「こんな時間にこんな場所で奇遇もクソもあるかよ。今日、ずっと俺の後つけてただろお前ら」


「ちっ、バレてましたか……」


「そりゃあもう、気配でバッチリと。俺を尾行するならせめて(ぜつ)を極めてからにするんだな」


 ま、嘘なんだけど。

 やろうと思えばできるのかもしれないけど、今の俺にそんなスキルはない。

 さっきのはちょっと()()かけてみただけだ。


 コイツらなら俺がバイトするって言えば、からかいにくるに決まってるし。

 それでもまさかこんな時間まで待ち伏せしてるとは思ってなかったけど。暇人どもめ。


「へっ、バレたとあっちゃ仕方ねぇ」


「真相を洗いざらいぶちまけてもらいましょうか」


 とうとう開き直ったらしい二人は、あくどい笑みを浮かべてじりじりとにじり寄ってくる。


「「さっきの夜鳥羽女学の美少女は誰だ!?」」


「いや、そっちかよ!?」


「当り前だ! むしろそれ以外に重要な事なんかねぇだろ!」


「さあ、正直に答えなさい! 返答次第では……分かってますよね?」


「ひぃっ!? あ、あれだけは勘弁してつかぁさい!」


 嫌だ……! いんぐり☆もんぐりだけは嫌だ……!


「わかってるじゃねぇか。そら吐け、オラオラ!」


 シャツの袖を捲ったマサが力こぶのポーズを取り、鋼のような上腕二頭筋をピクピクさせながらじりじりと近づいてくる。

 暗闇に白く浮かび上がる歯が不気味だった。


「ひぃぃ……っ! ほ、ほんとにアイツとはなんでもないんだって! ただの顔見知り、いや、むしろ腐れ縁だから!」


「嘘だな」


「ええ、とてもそうは見えませんでした。なんというか、久々に再会したはいいけどお互いに距離感をつかみ損ねて喧嘩してしまった幼馴染。そんな雰囲気でしたねぇ」


「そんでお互い意地になって中々仲直りできないでいる、みたいな」


「なんで例えが妙に具体的なんだよ!? っていうかアイツが幼馴染っていうなら、お前らだって覚えてなきゃおかしいだろ」


 確かにアイツと初めて会った時に妙な既視感は感じたが、それだけだ。

 幼馴染だってんなら巨乳で素直で俺にベタ惚れな美少女になってから出直してこいや。


 こいつら? 野郎の幼馴染なんて論外だろ。


「そう、それだよ。なーんかあの子、どこかで見覚えがあるような気がしてさ……」


「でもどこで会ったか全然思い出せないんですよねぇ。芸能人かと思って画像検索してみても、それらしい人は出てきませんでしたし」


「はぁ……? 何、お前らもなの? つーかさりげなく盗撮すんなし」


 どういうことだ? 三人とも同じ既視感を感じるなんて、流石に偶然では片付けられないぞ。

 今度会った時にでもちょっと聞いてみるか……と、それはさておき。


「……で? お前らどこまで察してる訳?」


「ヒロがTさんになったらしいってとこまで」


「イニシャルも全然違うし、そもそも寺生まれでもないのに『波ぁッ』とか何なんですか。オチが付かないじゃないですか!」


「いや、知らねえよ」


 これが証拠だと言わんばかりに、俺の映った心霊写真を突きつけてくるタッツン。

 これ、角度的に空撮だよな? まさかドローンまで使うなんて流石に引くわ。

 こいつらが大きな犯罪を起こす前に、俺が引導を渡してやるべきか。


「君たち! こんな時間にこんな所で何してるんだ!?」


「「「やべっ、おまわりだ逃げろ!」」」


「あっコラ待ちなさい!」



 などと悩んでいた所にガチのポリスメン登場。


 俺たちは事前に示し合わせていた訳でもないのに、それぞれがバラバラの方向へと一目散に逃げだす。

 逮捕するのはこいつらだけにしてください。


 直してもらったばかりのギアが俺の脚力を推進力に変換し、俺の自転車は凄まじい速度で夜の住宅街を駆け抜け、あっという間にポリスメンとバカ二人を遥か後ろへ置き去りにした。


 ふはははは、あーばよとっつぁ~ん!



 ◇ ◇ ◇



 高級住宅街から県道に出て道なりに進み、橋を渡って東区から梟町へと戻る。

 交差点を右折して、その道から繋がる細い裏道を利用すれば、今の俺の脚力も計算に入れれば家までは大体一〇分くらいの道のり……だったハズなのだが。


「……おかしくね?」


 裏道に入ってからというもの、意図せず同じ場所を行ったり来たりしている。

 所謂いわゆる、無限ループ状態。一定の距離を進むと、また元の位置に戻ってきてしまうのだ。


 電柱に張られた【犬のフンを捨てるな!】と書かれた張り紙を見るのもこれで三度目になる。


 スマホの地図アプリで現在の位置を確認するが、位置情報を読み込めませんとエラー表示が出てしまう。どうやら異空間に閉じ込められてしまったらしい。


 とりあえず自転車を路地の脇に停めて、俺にできる唯一の解決方法を試してみる事に。


かつッ!」


 オーラを大きく広げるようにして、純粋な霊力の波動を全方位に向けて放つ。

 すると、壁や地面をすり抜けて拡散した俺のオーラに何かが引っ掛るのを感じた。


 どうやら方向を定めずに霊力を放出すると大した威力は出ないらしい。 



【スキル『霊力探知Lv二』習得】



 よっしゃ、新スキルゲット!

 などと思った矢先、気配を感じた方向から一人の女が闇から這い出るようにぬるりと姿を現す。


 不気味な女だ。真っ黒な長い髪を背中まで垂らしており、顔は市販のマスクで隠している。五月だというのに分厚い冬用のコートを着込んでいて、足元は何故か裸足だった。


「……まさかあんな強引な方法でみつかるなんt「波ぁぁ────ッッ」


 先手必勝!


 女が何か言い終える前に問答無用の「波ぁッ」でぶっ飛ばす。

 このタイミングであんな登場の仕方をしたんだ。そんなの「私を倒せばこの異空間は解除されます」って言ってるようなもんだろ!


 重ねた両手から放射された霊力が路地を埋め尽くす……が、手ごたえが無い。


 どうにも最近こんな相手ばっかりだな! くそっ、どこへ行きやがった!?

 オーラを爆発させ、再び全方位にむけて『霊力探知』を放つ。



 ────ジャギン!



 俺の足元で一気に気配が濃くなり、咄嗟の判断でジャンプすると、影の中から出てきた巨大な裁断鋏が俺の足首があった場所を切り裂いた!


 次いで息つく間もなく、周囲の暗がりの中から連続してナイフや草刈り鎌が俺を切り裂こうと襲い掛かってくる。


 それらを体を捻って紙一重で躱しながら、『霊力探知』で女が隠れている場所を探す。


「……っ!? そこかっ!」


 街灯に照らされた電柱の影に向けて、片手撃ちの霊力波をぶっ放す。

 今度はちゃんと手ごたえがあった。だが、浅い。


 すると電柱の影が揺らいで、中から黒髪の女が弾き出されるように飛び出してきた。コートが半分以上破けており、隠されていた身体が街灯の光の下に顕わになる。


 触手!? いや違う、あれ全部毛だ!

 何万本という女の髪が束になって、触手のようにコートの下で蠢いていた。


 それらの毛先には巨大な裁断鋏(さいだんばさみ)や草刈り(がま)、ナイフや(のこぎり)などが街灯の光を吸い込みギラリと妖しく輝いている。


「くっ……!? 掠っただけでこの威力とかどんな霊力よ。……あなた、本当に人間?」


「それはこっちのセリフだ髪の毛オバケめ! 俺を閉じ込めて何が目的だ!?」


「それをあなたが知る必要はないわ。でもまあ、一つ言えることがあるとするなら────」



 ────あなたはここで死ぬってことくらいかしら。



 女はマスクを取り祓うと、真横に大きく裂けた口からサメのような歯を覗かせながら一気にとびかかってくる! く、口裂け女ッ!?


 俺はオーラを漲らせ、身体の全面から霊力を大放出して口裂け女を迎え撃つ。

 だが、口裂け女は影の中に潜ることで俺の攻撃を躱し、四方八方から先端に凶器を備えた髪の触手を伸ばして斬りかかってきた。


 逃げ場のない刃の結界を前にして、俺はオーラを大爆発させて、ダメージ覚悟で上へと跳んだ!


 首を狙って迫る草刈り鎌の刃を首を捻って躱そうとするが、僅かに刃先が首筋を掠める。

 次の瞬間、突然傷口が大きく開き、大量の血がバッと噴き出して、空中に俺の血が舞った。


「~~~っっ!? 痛ってぇな、ちくしょうがぁぁぁッッッ!!!!」


 傷口を手で押さえながら、俺は口裂け女を逃がさないように、路地全体を射程に収めた超特大の霊力波を全身からぶちかます。


 超密度の力の波動が夜の路地を青白く染め上げ、あらゆる障害物をすり抜けて霊的な存在だけを焼き尽くしていく。


 手ごたえはあった。……だが、何時まで経ってもレベルアップの表示が出ない。

 どうやらギリギリのところで逃げられたらしい。


「くそっ……血が、止まら、ねぇ……」


 開いた傷口が一向に塞がらない。

 再生能力自体はちゃんと機能しているのだが、ある程度まで治ると見えない手でこじ開けられるみたいに元の大きさまで開いてしまう。


 傷口から溢れ出す血が全身を濡らして、身体がどんどん冷えていく。



 ヤバい、このままじゃ、マジで死ぬ……



 意識を失ったら最後、ソウルが尽きるまで再生と出血を繰り返して、死ぬ。

 当然、ソウルが尽きたら蘇生も不可能だ。


 畜生、ここにきて自分の再生能力が仇になるなんて。


「どうにか……しないと……くそっ、目が……」


 霞む視界の中、震える手でどうにか胸元に下げていた鍵を掴み、ダイヤルを『壱』に合わせて、近くの家の玄関からあのドアだらけのエントランスへと倒れ込む。


 ピカピカに磨かれたチェス盤みたいな白黒の床に、俺の血の赤が広がっていく……


 手足に力が入らない……


 目の前がどんどん暗くなっていく……寒い。







 駄目だ……死……………………




 




次回! アキヒロ死す! デュエルスタンバイ!

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