参戦・7
「ウォンさんの気分が落ち込むことなんて、あるんですか?」ラウが首をひねる。
「そりゃあるさ。俺は繊細だからな。相手をしてくれてる連中にゃ悪いが、こう力の差があったんじゃ、緊張感が維持できん」
「それは、落ち込むってのとはちょっと違うんじゃないですか」そう言うラウの動きも、充分過ぎるほど肩の力が抜けていた。
そしてそれでもなお、仮想実行委員は圧倒されっ放しだった。
パイは、退屈していた。
宴会の翌々日に初めてこの訓練をした時は、さすがに緊張もしていたのだが、はっきり言ってやることが何もないのだ。
ただフェイの後ろでボーッと立っているだけで、仮想実行委員が自分に辿り着きそうな気など、全くしない。
(これで、退屈するなってほうが無理よ)パイはあくびを噛み殺しながら、自分の非力さを呪っていた。
「パイさーん。少し、離れ過ぎてます。ちゃんと僕について来てください」フェイが小刻みに、敵の進路をふさぎながら叫ぶ。
「えっ?ああ、うん」パイは慌ててフラフラと歩き出した。
ただでさえフェイの動きが速い上に、体が半分眠っているので、進行方向が定まらない。
(あーもうっ・・・ぴったり後ろについてて欲しいんなら、ちょこまか動かずに、デーンと構えてろってのよ・・・それでもし敵がフェイをすり抜けて来るようなら、私が雷で・・・いや、無理かな・・・)
パイの脳裏に、本番の錬武祭のイメージが浮かんだ。
フェイが実行委員の一人と組み打ちになり、足が止まる。
ウォン、ラウ、シュウも、それぞれの敵と戦っていて・・・その隙に、最後の一人がフェイの横を抜けて、パイに突進して来る。
パイは慌てて雷を放つが、相手はそれを避けるどころか、当たっても全く平気な顔をして突進の速度も落ちない。いやむしろ、速度が上がっている。
そしてその拳が、パイに・・・
そこまでイメージしたところで、フェイの相手をしていた仮想実行委員役の警備隊員達が、「うわっ」「ひっ」と、口々に叫び声を上げる。
パイは自分で作った錬武祭のイメージに恐怖してしまい、そのせいで銀衛氣が発動したのだ。
「あれ、どうした?」
「パイさん?」
ウォンとラウ、シュウまでが動きを止めて、フェイとパイのほうを見る。
「あーいや、どうもパイさんが、気合いを入れ過ぎたみたいで・・・」フェイが銀色になった髪を摘みながら、パイに歩み寄る。
「ごめん、フェイ。気合いっていうか・・・余計なこと考えちゃって」パイはフェイに向かって手を合わせた。
その額は、フェイの氣との共振現象で、銀色に輝いている。
(あ〜、カッコ悪い・・・結局私は、錬武祭に参加するなんていっても、こうしてオデコを光らせて突っ立ってるだけで終わりなんだわ・・・ん?オデコの・・・光?)
突然、パイの中で逆転の発想が閃いた。
パイは合わせていた手を静かに下ろし、自然体で立つと、静かに呼吸を整えて氣を練った。
パイの額でパチン、と・・・銀色の火花が小さく弾けた。
思わず、パイの顔に笑みが広がる。
「あれ?パイさん、今・・・何かしましたか?」
「え?いや、ははは。大したことじゃないわよ。ちょっと、雷を調整しただけ」
「そうですか。・・・まあとにかく今日は、明日に疲れを残さないように、早目に切り上げるつもりですから・・・もう暫く、緊張してて下さい」
「うん。ごめん」
「でも銀衛氣が発動するのは、それはそれで実戦に近い感覚を確認できますから、助かります」
「そうね・・・でも」パイの額の光が、急速に小さくなっていった。
それに伴い、フェイの髪と目も栗色に戻っていく。
パイのイメージの中だけの「危機」では、銀衛氣を持続させられないのだ。
「おーい、フェイ。もう一回、実行委員が正門から突入して来る所からやろうか?」ウォンが叫んだ。
「はい。・・・じゃ、パイさん。僕との距離と、敵の動きに注意していてください」
「うん。分かった」パイは体を揺らしてほぐしながら、心の中で笑っていた。
(わはは・・・いける!遣える!ま、使う機会が無いほうがいいけど・・・もし、その機会があったら、見てなさいよ!あっと驚かせてやるから!)
パイの中の無力感は、かなり小さくなっていた。
参戦・了