表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
グレイソウル  作者:
96/148

参戦・7

「ウォンさんの気分が落ち込むことなんて、あるんですか?」ラウが首をひねる。

「そりゃあるさ。俺は繊細だからな。相手をしてくれてる連中にゃ悪いが、こう力の差があったんじゃ、緊張感が維持できん」

「それは、落ち込むってのとはちょっと違うんじゃないですか」そう言うラウの動きも、充分過ぎるほど肩の力が抜けていた。

 そしてそれでもなお、仮想実行委員は圧倒されっ放しだった。


 パイは、退屈していた。

 宴会の翌々日に初めてこの訓練をした時は、さすがに緊張もしていたのだが、はっきり言ってやることが何もないのだ。

 ただフェイの後ろでボーッと立っているだけで、仮想実行委員が自分に辿り着きそうな気など、全くしない。

(これで、退屈するなってほうが無理よ)パイはあくびを噛み殺しながら、自分の非力さを呪っていた。

「パイさーん。少し、離れ過ぎてます。ちゃんと僕について来てください」フェイが小刻みに、敵の進路をふさぎながら叫ぶ。

「えっ?ああ、うん」パイは慌ててフラフラと歩き出した。

 ただでさえフェイの動きが速い上に、体が半分眠っているので、進行方向が定まらない。


(あーもうっ・・・ぴったり後ろについてて欲しいんなら、ちょこまか動かずに、デーンと構えてろってのよ・・・それでもし敵がフェイをすり抜けて来るようなら、私が雷で・・・いや、無理かな・・・)

 パイの脳裏に、本番の錬武祭のイメージが浮かんだ。

 フェイが実行委員の一人と組み打ちになり、足が止まる。

 ウォン、ラウ、シュウも、それぞれの敵と戦っていて・・・その隙に、最後の一人がフェイの横を抜けて、パイに突進して来る。

 パイは慌てて雷を放つが、相手はそれを避けるどころか、当たっても全く平気な顔をして突進の速度も落ちない。いやむしろ、速度が上がっている。

 そしてその拳が、パイに・・・

 そこまでイメージしたところで、フェイの相手をしていた仮想実行委員役の警備隊員達が、「うわっ」「ひっ」と、口々に叫び声を上げる。

 パイは自分で作った錬武祭のイメージに恐怖してしまい、そのせいで銀衛氣が発動したのだ。


「あれ、どうした?」

「パイさん?」

 ウォンとラウ、シュウまでが動きを止めて、フェイとパイのほうを見る。

「あーいや、どうもパイさんが、気合いを入れ過ぎたみたいで・・・」フェイが銀色になった髪を摘みながら、パイに歩み寄る。

「ごめん、フェイ。気合いっていうか・・・余計なこと考えちゃって」パイはフェイに向かって手を合わせた。

 その額は、フェイの氣との共振現象で、銀色に輝いている。


(あ〜、カッコ悪い・・・結局私は、錬武祭に参加するなんていっても、こうしてオデコを光らせて突っ立ってるだけで終わりなんだわ・・・ん?オデコの・・・光?)

 突然、パイの中で逆転の発想が閃いた。

 パイは合わせていた手を静かに下ろし、自然体で立つと、静かに呼吸を整えて氣を練った。

 パイの額でパチン、と・・・銀色の火花が小さく弾けた。

 思わず、パイの顔に笑みが広がる。

「あれ?パイさん、今・・・何かしましたか?」

「え?いや、ははは。大したことじゃないわよ。ちょっと、雷を調整しただけ」

「そうですか。・・・まあとにかく今日は、明日に疲れを残さないように、早目に切り上げるつもりですから・・・もう暫く、緊張してて下さい」

「うん。ごめん」

「でも銀衛氣が発動するのは、それはそれで実戦に近い感覚を確認できますから、助かります」

「そうね・・・でも」パイの額の光が、急速に小さくなっていった。

 それに伴い、フェイの髪と目も栗色に戻っていく。

 パイのイメージの中だけの「危機」では、銀衛氣を持続させられないのだ。


「おーい、フェイ。もう一回、実行委員が正門から突入して来る所からやろうか?」ウォンが叫んだ。

「はい。・・・じゃ、パイさん。僕との距離と、敵の動きに注意していてください」

「うん。分かった」パイは体を揺らしてほぐしながら、心の中で笑っていた。

(わはは・・・いける!遣える!ま、使う機会が無いほうがいいけど・・・もし、その機会があったら、見てなさいよ!あっと驚かせてやるから!)

 パイの中の無力感は、かなり小さくなっていた。



 参戦・了

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ