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グレイソウル  作者:
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参戦・6

 殺し合いに明け暮れる生活を送ってきた彼らは、人間の心の微妙な動きについて、少々鈍感だった。

 裏切るということは、その相手を嫌っているか、少なくとも何とも思っていないからで、好意を持っている相手を裏切るというのは、彼らの理解を超える行為だった。

「確かに、俺も不自然だと思う。根拠もねえ。はっきり言って、ただの勘だ。・・・だが、俺は今まで何度も、この勘に助けられてきた」

「しかし・・・根拠がなくては、何もできんぞ。それこそ下手に手を出せば、シバが黙ってはいない」ジュンファが、さも恐ろしそうに首を振った。

「分かってるさ。ただ、そういう心づもりでいてくれって話だ。ただでさえ、レンの強さは並じゃねえからな。いきなり裏切られて、こっちが呆けてた日にゃ、戦いにもならずに全滅しちまうぞ」

 そしてこの夜ヘイユァン達は、レンが裏切りそうな場面や、その場合にレンと戦うための連係の手順などについて、遅くまで語り合っていた。


 そして・・・フェイ、シュウ、ラウ、ウォンという最強の迎撃メンバーを揃えたチュアン国では、各々が順調に調整を進めていた。

 お互いに対打や散手をしたり、陣形の組み方について話し合ったり・・・その中にあって、パイは居場所のなさを感じていた。

 フェイ達は、始めからパイを戦力外だと考えていた。実際、フェイ達とパイにはそれだけの実力差があるし、パイも最前線に出るのは嫌だったから、戦力外の扱いを受けること自体は別にどうということはなかった。

 だがパイは、それならいっそずっと後方に配置してもらいたいと思っていた。彼女は最前線で戦う必要はないが、最前線のすぐ後ろで、恐怖に慄きながら待機していなければならない身だった。

 フェイの契約者だからだ。


 ならばいっそ、戦いの展開次第で、パイが氣弾でサポートする場面を幾つか想定しておくとか・・・とにかく、何かやることがあったほうが、恐怖が紛れる。パイはそう思ってフェイ達に提案もしたのだが、答えはいつも「銀衛氣が発動できるだけの距離を保って、フェイに付いていてくれさえすれば、他には何もせずに、自分の身を守ることに専念してくれればいい」という意味のもので統一されていた。

 パイは自分が、単なるお荷物以上にお荷物のような気がして、いたたまれなかった。

 もっともフェイ達から見れば、パイは充分に大役を担っていた。

 フェイの銀衛氣を込めた拳は、間違いなく警備隊側の攻撃の要だ。その、銀衛氣の発動の鍵がパイなのだから、とにかく彼女には、鍵としての役割に専念して欲しい・・・フェイ達がそう考えたのは、ごく自然なことだった。

 そもそも、錬武祭が開催されるチュアン国の警備隊員は、一人も前線には出ないのだから、パイが引け目を感じる必要は全く無いのだ。


 そう。結局フェイ達は・・・フェイ、シュウ、ラウ、ウォンの4人だけで、実行委員を迎え撃つことを選択していた。

「残念ですが」歓迎の宴の翌日、フェイはチュアン国警備隊が選抜したという精鋭30名と軽い散手をし、その日の夕方の会議では開口一番に、こう切り出していた。

「チュアン国警備隊には、実行委員と戦えるだけの力を持った方は、おられません。・・・やはり、実行委員と直接ぶつかるのは、僕とシュウ、ウォンさんとラウさんの4人だけに絞ったほうが、合理的だと思います。特に今回は、奴らも最初から本気を出してくるでしょうから、力不足の人を守りながら戦う余裕はありません」

 実際に実行委員と戦ったフェイの言葉だけに、現実味があった。


 結局チュアン国の警備隊員は、フェイ達が戦闘で負傷した場合の搬送や治療、或いは敗北した場合に、実行委員の略奪に備えて周辺住民の避難誘導をするといった、サポート役に徹することになった。

 また、錬武祭で実行委員がルール上の制圧目標にしている、警備隊本部の本館の屋上には、特級の黒仙の氣弾遣いを50人ほど配置することになったが、これは比較的安全なポジションだろうということもあって、警備隊員だけでなく民間からも参加を募った。

 ただ屋上と地上という遠距離で、氣弾の効果がどれほどあるのかというと・・・正直なところ、誰もが心もとないと考えていた。

 

 そして、いよいよ錬武祭の前日。

 フェイ達は、実行委員に扮したチュアン国の警備隊員を相手に、最終的な陣形や連係のチェックをしていた。

 もっとも、陣形だの連係だのといっても、それほど複雑なものではない。

 何しろメンバー一人一人の戦闘能力が高いので、まずは個々人が自由に動けることが最優先だったからだ。

 ただ注意したのは、「誰か一人が取り囲まれるような状況を作らないこと」だ。

 特に、フェイはパイを守りながら戦わなければならないので、余計に包囲されないように気を配る必要があった。


 だから基本的には、実行委員に対してフェイ、ウォン、ラウ、シュウの順で、お互いに5〜10メートルの間隔を空けて、横一列に並ぶという陣形を取ることにした。

 パイは常に、フェイの後方10メートルほどに位置するように。

 これなら、囲まれたり挟み撃ちに合う確率が高いのはウォンとラウだから、フェイもパイに気を配り易い。

 シュウが端のポジションになったのは・・・

「悪く思わんでくれ」ウォンは、頭をかきながらシュウに告げた。「お前の功夫は悪くはない。だがはっきり言って、俺やラウの旦那のほうが、お前より強い。だから、敵に囲まれる確率の高い位置には、俺とラウの旦那が立つ。納得してくれるな?」

「・・・はい」シュウは軽い溜め息をついて、大きな肩をすくめた。

 ウォンにこう言われては、納得するしかない。


 さて、仮想実行委員に扮する警備隊員には、戦闘能力の高さよりも、軽身功に秀でた者が選ばれた。

 どの道、フェイ達とまともに戦える者などいなかったからだ。

 仮想実行委員達は得意のスピードを活かして、なるべくフェイ達を包囲したり、一人を集中して狙ったり、パイを襲えるような状況を作ろうとした。

 だが、さすがに実力差があり過ぎた。

 フェイ達は仮想実行委員の動きの流れを読み、有利なポジションを取られないように対応した。


 それほど込み入った手順は踏んでいない。必ず、敵の誰か一人にくっつくようにするというだけだ。

 フェイ、ウォン、ラウ、シュウが一人ずつ敵にくっつくと、一度にマークできるのは4人までだが、残りの一人ををパイに近付けないようにさえすれば、後は何とかなる。

 あまりに動きに差があり過ぎたので、最初は5人だった仮想実行委員を、6人、7人、・・・10人まで増やしたが、結果は同じだった。

 フェイ達は敵の一人にくっつくと、すぐに倒して、次の敵に対する「盾」として利用した。対複数戦の基本だ。

 勿論、パイを狙おうとする者が、優先的に倒されることになった。

 

「うーん、これなら100人相手でも、何とかなるぞ」ウォンが呟く。

「普通の警備隊員を相手にしてるんだから、そりゃ何とかなりますよ。でも、実行委員は5人なんですから、あまり人数を増やしても、意味はありません」ラウが真顔で返す。

「んなこた、分かってるよ・・・分かってるけど、ちょっと気分を盛り上げたかったんだろうが」 

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