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グレイソウル  作者:
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参戦・2

「随分と・・・舐めたことを言ってくれるな」やはりヘイユァンの声は、裏返ってはいなかった。むしろ凄みさえ効き始めていた。・・・にも関わらず、試験を受けることを承諾した・・・いや、させられたのだと、この場にいる全員が理解していた。


「素直でよろしい。・・・では」

 シバがニヤニヤしながら右手の指を小刻みに揺らすと、囲みの外に2つの氣配が忽然と現れた。

 ひとつは、シバの右方5メートルほどに。もうひとつは、前方5メートルほどの地点だ。

 ヘイユァン達は首を振って、氣配の主を交互に確認した。

 ひとりはエラが張っていて角刈り、もうひとりは細い顎で長髪だった。

 ・・・そして二人共、シバと同じように、髪と目が不自然なほど黒かった。

 カウとヨウだ。

 ただ二人共、武器は持っていない。


(この二人も・・・恐ろしく強い)ヘイユァン達は、直感的にそう思った。

 だが、シバほどではない、とも思った。そして、この二人が今の今まで、ヘイユァン達に察知されないほどに上手く氣配を隠せるとは・・・到底、思えなかった。

 となると、カウとヨウの氣配を消していたのは・・・シバだ。

 つまりシバは指先ひとつで、少なくとも3人分の氣配を、自由に制御できるということだ。

「ちっ・・・いちいち、やることがお茶目な爺さんだぜ」ヒムが吐き捨てるように呻く。

 あまりにはっきりと実力差を見せつけられて、かえって開き直ったのだ。


「何の何の。さて、試験だが・・・この二人と、戦ってもらおう。勿論、一人ずつではない。お前ら全員で、この二人と戦うのだ。まあそれでも勝てるとは思えんし、そんな無茶は言わん。試験の合否は、戦いっぷりで判断する」シバの言葉を聞き、ヘイユァン達は改めて、カウとヨウを観察した。

 やはり、強い。一対一では、勝てそうな気がしない。

 4人全員がそう思っていた。 

 だが・・・僅かにだが、4人で同時にかかれば、何とかなりそうな気もした。

 どんなに僅かでも希望があれば、それが体に与える影響は大きい。

 4人の体から、無駄な力みがスッと抜けていった。

「ほほう・・・」シバは、口の端を歪めて笑った。

 それとは対照的に、カウとヨウは口の端を歪めて不機嫌になっていた。ヘイユァン達に、「何とかなるかもしれない」と思われたのが、気に入らなかったのだ。


「殺っちまっても、いいのか?」ヘイユァンが、シバを横目で見ながらうそぶいた。

 彼はカウとヨウが機嫌を損ねたのに気付き、挑発することで、更に怒らせようとしていた。余計な怒りは平常心を乱し、氣を滞らせ、動きを鈍くするからだ。

「殺れるものならな」シバは、苦笑しながら首を振った。

(カウとヨウの怒りに気付いたのは、よい。だが、挑発はちと陳腐じゃのう)

 実際、カウとヨウはヘイユァンの一言で、かえって冷静さを取り戻していた。


 だがこれは、ヘイユァンが不用意というよりは、シバのプレッシャーの影響のせいだ。

 ヘイユァンもそれを自覚して、まずは気持ちを切り替えることに専念した。

(落ち着け。当面の敵は、あの爺さんじゃない。あの二人だ。仲間になる、ならないはともかく、状況が展開しないことには逃げることもできん。あの爺さんの思い通りになるのはシャクだが、今はとにかくあの二人に集中して、戦って、動いてみるんだ)ヘイユァンは自分に言い聞かせると、ヒムに目配せをして、ヨウのほうへと駆け出した。

 それを見たヒムが、ヘイユァンに続き、ジュンファとリャンジエがカウのほうへ走る。

 4人それぞれの足元から、落ち葉がザッ、ザザ、と舞い上がった。


「おおおっ!」ヒムが叫びながら、長い腕を振り回してヨウに打ちかかる。

 まだ・・・普通ならば、牽制にもならないほど、ヒムとヨウの距離は離れていた。だが、ヒムの右掌は見事にヨウに届いていた。

(まるで、刀・・・いや、薙刀のようだな)ヨウはそう思いながら、半歩進んで左掌を伸ばし、ヒムの右肘に貼り付いて、その右掌に加速と体重が乗り切る前に封じた。

 ヨウはヒムの掌打に感心してはいたが、それほど注意は払っていなかった。

 ヨウの注意は、むしろヘイユァンに向けられていた。

 ヒムの動きは掛け声も含めて、あまりにもオーバーアクションだったからだ。

(これでは、『捌いて下さい』と頼んでいるようなものだ。恐らくこいつは囮で、本命はもう一人の男・・・)と、ヨウは考えていた。


 だとしたら、ヒムがヨウの相手をしている間に、背後に回るというのが定石なのだが・・・ヘイユァンは、ヒムの後ろにピッタリとくっついたままだ。

(ならば、こちらから・・・)ヨウは左掌を払うようにして、ヒムの右腕を下ろす。それだけでヒムは体ごと崩されていた。

 すかさずヨウは、右掌をヒムの胸めがけて打ち出す。(このまま、後ろの男と一緒に吹き飛ばしてくれる)

 だが、ヨウの思惑は外れた。ヒムの左掌が下から跳ね上がって、ヨウの右腕にからみついたのだ。

(こいつ・・・最初から、これが狙いか?)ヨウとヒムは、お互いに両手を封じ合う形になった。


 これで、ヘイユァンがヨウの背後を取っていれば、確実に一撃を入れるだけの時間があるのだが・・・ヘイユァンはまだ、ヒムの後ろだった。

(ふん。しくじったのか?今からそれがしの背後を取ろうとしても、その前にこの両手は、自由を取り戻せるぞ)ヨウはヒムの両腕を振り払うべく、体幹を震わせようとした。・・・その時、ヨウの背後から殺氣が急接近してきた。


 リャンジエは、正面からカウに突進していた。体の前で、甲を下にした拳を前後に並べて、滑るように間合いを詰める。

 カウが迎撃のタイミングを計ったその瞬間に、リャンジエはサッと斜めに跳び、カウの制空圏から離れていた。代わりに、ジュンファが右側からヌッと間合いに入ってくる。

 ジュンファは半身にもならずに、小さく鋭く左の突きをカウの顔面へ放つ。

 カウは右掌でジュンファの左腕の内側に貼り付くと、歩を進めながら右腕を旋回させた。ジュンファの体が大きく崩れ・・・る前に、ジュンファの右掌が跳ね上がり、カウの右脇近くに添えられた。

 ジュンファの体勢に無理があるので、これは打撃にはならないが、カウの右腕の動きは止められてしまった。


(ならば・・・)カウは右腕を引きながら、ジュンファの顎を狙って左拳を下から突き上げる。

 だがジュンファは右手をカウの右脇に粘らせたままで、右肘を跳ね上げ、カウの左拳を防いだ。

 そのまま右足を半歩進めつつ、カウの左腕を擦り上げるようにして体勢を崩す。

(ふん・・・中々やるな。ここで、さっきの坊主頭が襲ってきたら・・・)カウはそう思い、リャンジエを探した。だが、リャンジエはカウを攻撃しなかった。


 リャンジエはカウではなく・・・ヨウの背後を取っていた。

 一瞬とはいえ、ヒムに両手を封じられる形になったヨウが背後に感じた殺氣は、リャンジエのものだった。

 リャンジエはヨウの隙を逃さず、一気に間合いを詰めて、突きを放つ。

「ちっ」ヨウは舌打ちをして、リャンジエを後ろ蹴りで迎撃した。

「ぐっ」リャンジエは低く呻きながら、何とか倒れずに間合いを離す。

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