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グレイソウル  作者:
90/148

参戦・1

 錬武祭が開催される、その前の年の秋の夜に。


 とある山中の奥で、闇に紛れて、人知れず・・・殺し合いが行われていた。

 いや、殺し合いというには、あまりにも一方的だった。

 実力差があり過ぎたのだ。

 4人対、50人・・・これが、その殺し合いを行っていた者達の兵力差だ。

 そして一方的に殺していたのは、4人組の方だった。

 50人の側は、4人組の強さを承知の上で、数にものを言わせて押し切るつもりだったようだ。だが、その作戦は見事に失敗した。


 戦いが始まってから、5分かそこらで決着がついた。

 立っていたのは、その4人だけだった。その周囲に、50人の死体と、刀と槍が転がっていた。

 武器は全て、殺された側の物だった。4人組は全員、素手だった。

「みんな、生きてるか・・・ジュンファ、リャンジエ、ヒム・・・」

「はい」

「おう」

「こっちだ・・・ヘイユァン」

 4人はお互いの生存を確認し、一息ついていた。


「さすがに、これだけ人数差があると、単純に疲れますね」ジュンファが、首を左右交互に倒しながら呟いた。

 少し長めの黒髪が、肩に触れたり離れたりしている。

 甘いマスクなのだが、優しそうには見えない。


「へっ。こいつらも、『奇拳六芒星』の実力を知ってるんだろ・・・」リャンジエが、両拳で体中をパタパタと叩きながら、すねたような声を吐いた。

 丸坊主にした頭に、月明かりが鈍く反射する。やや童顔だが、可愛げは無い。


「ま、本当に俺達の実力を理解してたら、200人は動員したんだろうがな」ヒムが、右腕をゆっくりと回しながら、投げやりな声を放った。

 耳が隠れるほどの長さのくせ毛が、ユラユラと揺れる。恐ろしく撫で肩で、腕の長い男だった。

 その目には、捨て鉢な光と臆病の影が同居していた。


「まあ、六芒星が6人揃ってりゃ、200人でも300人でも相手してやれるんだがな・・・」ヘイユァンが、感情のこもらない声で呟いた。

 短く刈り込まれた髪と、精悍な顔立ちにも関わらず、清潔感の無い男だった。

 どうやら、このヘイユァンが4人のリーダー格らしく、他の3人がぞろぞろと彼の周囲に集まってきた。

 ジュンファとヘイユァンが同じぐらいの身長で、中肉中背。リャンジエはそれより頭一つ分低い。逆にヒムは、頭一つ分高かった。

 4人共、年齢は30代半ばといったところか。


「大したものだ。ならば、100人ぐらいは問題ない、ということかのう」

 突然、闇の中から響いた声に、4人はびくりと身を震わせた。

 声そのものもそうだが、声の主の氣配に、4人の中の誰も気付けなかった・・・そのことに、驚いていた。

 しかもその声は、すぐ近くから聞こえてくるのに、出所がはっきりしない。

 4人は声の主を求めて、周囲の氣を探った。お互いに背を向け合い、2メートルほどの間隔を空けて、円陣を組む。

「ほほう・・・一瞬驚きはしても、バタバタと無駄に動いたりせず、敵の確認に専念するか。結構結構。だがな・・・」


 2秒ほどの間が空いた。

 4人にはその2秒が、2時間に感じられた。声の主は、それほど強いプレッシャーを4人にかけていたのだ。

「ワシは、ここだ」

 4人は再度、びくりと体を震わせていた。

 声が、真後ろから・・・つまり、4人が組んでいる円陣の中から聞こえてきたからだ。

 4人は同時に振り返り、後方へ跳んだ。

 跳びながら・・・彼らの目に、2メートル近い巨体を持つ男が映った。 

 その男は、老人だった。だが髪も目も髭も、不自然なほど・・・夜の闇よりもなお暗く、そのためにかえって闇に溶け込まないほどの、黒い色をしていた。

 

「お前・・・何者だ?」ヘイユァンが詰問する。いや、強い声で問うたつもりだったのだが、声が裏返っていた。

「ワシか。・・・ワシは、ペイジ国の元軍人でな。シバという者じゃ」

 シバは、新しい玩具を眺める子供のような顔をしていた。

「で、お前達は・・・六芒星とか何とか言っとったが、4人しかおらんな」

「・・・いつから、見ていた」

「最初からじゃよ。殺し合い・・・というか、虐殺が始まったところからじゃな」

 ヘイユァン達4人は、それぞれ冷や汗だの脂汗だのを流したり、喉をごくりと鳴らしたりしていた。

 4人共、敵の残りの人数を確認しながら戦っていたのだ。にも関わらず、ついさっきまで、この老人の存在に気が付かずにいた。

(致命的なミスだ・・・)4人全員が、そう感じていた。


 だが同時に、開き直りに近い落ち着きも生まれていた。

(この老人が敵ならば、こちらに存在を知らせたりせずに、さっさと殺しに来る筈だ。それをのこのこ姿を現すということは、敵ではないということだ。・・・もしも、やはりこの老人が敵だったとして、それでもなお、こうして姿を見せたのだとしたら・・・それでも俺達に勝てるという自信があるということだ。そして実際、俺達4人がかりでも、この老人に勝てる気は、しない・・・)

 4人はそれぞれ、大なり小なりこのようなことを考えていた。


「ふふ・・・まあ、そう固くなるな。いや、固くはなっとらんな。上等だ。つまり、警戒せんでもよいぞ。ワシはお前らの敵ではない。今の所はな」

 シバは上機嫌だった。古道具屋で、ふと目にした骨董品が、意外な掘り出し物で・・・その値を鑑定する時のような、慎重さを含んだ期待感が、その目に溢れていた。

「・・・俺達が、警戒するなと言われて、警戒を止めるような間抜けに見えるか?」また、ヘイユァンが口を開いた。今度は声は裏返っていなかった。

「見えんな・・・見えんといえばお主らも、真っ当な武術家には見えんぞ。・・・察するに、暗殺者崩れといったところか」

「さあな」

「ふふん・・・六芒星の筈が、4人しかいない・・・大方ここにいない2人は、仕事でしくじって、もうこの世にはおらんのだろう。で、お主らも、いらぬことを知り過ぎたのと連帯責任とで、消されそうになった。違うか?」


 図星だった。だが、ヘイユァンはとぼけた。

「違うね・・・俺達を追ってる連中は、確かに俺達を消す気満々のようだが・・・俺達は、この程度の追っ手じゃ、消されそうな気がしない。事実この5年間、一人も欠けていない」

「欠けたのは、追われる原因になった2人だけか」

「まあな」ヘイユァンは、焦り始めていた。

 ズルズルと、シバのペースに巻き込まれているのが分かった。

 シバの隙を見つけるどころか、会話までリードされっ放しだ。


「ふん。・・・だが残った4人は、間違いなく上物だ。さて・・・ここでひとつ、ワシから提案がある」

「何だ?」

「くっくっ、だから、そういきがるな。ワシがその気になれば、お主らなど問題ではない。そのぐらいは分かるだろうが?」

 

 その一言で、4人の肩の力がスッと抜けた。・・・力など入れているつもりはなかったのだが、入っていたのだ。こんなことは、武術の訓練を受け始めた、初心者の頃以来だった。

「それでよい・・・。さて、ワシはお主らの敵ではない。だが、味方でもない。そこで、試験をしてみたいと思う。・・・お主らが、この試験に合格したなら、ワシの仲間にしてやろう」

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