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グレイソウル  作者:
87/148

救出・8

「試し撃ちって・・・何か、やったのか?」ようやくウォンに追いついたダンフウが、息を弾ませながら訊ねる。彼やスーチャオには見えなかったが、たった今ウォンは、蹴り上げと蹴り下ろしで、2発の風刃脚を放っていたのだ。

「ああ、まあな。・・・じゃ、次は1割程度の力でやってみますか」

 そしてまた、ウォンの右足が・・・今度はダンフウとスーチャオにも、「どうやら動いたらしい」程度には見えた・・・が、それ以上のことは分からなかった。

 この時ウォンは、切断・貫通・粉砕と、効果を切り替えながら、3発の風刃脚を放っていた。


「よしっ。まあ、大体の感じはつかめたぞ。・・・じゃ、行ってくる」

「え?どこへ?」

「決まってるだろ。あの強盗共をぶっ飛ばして、チェンフーを助け出しに行くんだよ」

「え、援護は?」

「いらん。大船に乗った気分で、待っててくれ」

 右手をヒラヒラさせながら、早足で銀行へ歩くウォンの背中を見ながら、ダンフウとスーチャオは呆然としていた。

 どこがどうと、上手く説明はできないが、ウォンは・・・別人になったと、二人は感じていた。


 突然。

 背後で、ビシッ・ズドン・メコッという三つの音が同時に響き、ダンフウとスーチャオは慌てて振り返った。

 そこには、ついさっきまではきれいだった筈の白壁が・・・無残な姿を晒していた。

 幅5センチ、長さ1メートルほどの裂け目が、縦にひとつ。

 その2メートルほど左に、直径10センチほどの穴がひとつ。

 裂け目も穴も、壁を貫通していた。

 そして更にその左に、直径2メートル、深さ30センチほどの、すり鉢状の凹みができていた。


「何だ、こりゃあ・・・」ダンフウは壁に近寄り、傷を眺めた。

「ダンフウさん、こっちにも・・・」スーチャオが、裂け目の右側を指差す。 

 それはウォンが「3割の力」で撃った跡だった。

 壁の上から下まで、真っ直ぐに走ったヒビが、2本。いや、ヒビというよりは、切断されたと言ったほうが正確だ。

「これも・・・見事な切り口だ」ダンフウは何気なく、左右に並んだ切り口の間に、手を置いた。

 すると、ザリザリッという音がして、2本の切り口の間の幅20センチほどが、屋敷のほうに向かって倒れた。

 ズズズ・・・ンと、倒れた壁が庭の地面とぶつかる音を聞きながら、ダンフウは(修理費は、いくら位かかるんだろう)と考えていた。


「ダンフウさん、これって・・・氣弾ですか?」スーチャオが、石畳よりずっと滑らかな、壁の切断面を触りながら訊ねた。

「あ、いや・・・ウォンは、氣弾は撃てない筈だし・・・そもそも、氣が当たった痕跡が感じられない・・・」ダンフウは、首を傾げた。

「あいつは・・・一体、何をやったんだ?」


 ウォンは鼻歌交じりに、散歩でもするかのような足取りで、銀行の入り口をくぐった。

「おい、止まれ」猿の面の男が、ウォンに右掌を向けながら怒鳴る。

 ダンフウの偵察呪符を乗っ取った男だ。

 まだ、カウンターまでは・・・つまり強盗達とは、5メートル近い距離がある。

「お前・・・何者だ?警備隊員じゃないようだが・・・どっかで見たことがあるな・・・」

「こいつ・・・ウォンだ。武術家ですよ」犬の面の男が言った。「最近、あっちこっちの武術大会で優勝して、ちょっとした有名人ですよ」


「ふふん、そりゃ光栄だな」ウォンが、白い歯を見せて笑う。

「うるさい。余計な口をきくな。・・・で、こいつは強いのか?」

「ええ。試合を直接見たことはありませんが、映像なんかで動きを見た限りでも、相当なもんです。俺達3人がかりでも、普通に戦ったら、まあ敵わんでしょう」

「ほう・・・こいつ、氣弾は撃てるのか?」

「いえ。典型的な格闘タイプです」

「ふん。じゃ、とりあえずは、これ以上近付けないようにするこったな。・・・そういうわけだから、動くなよ。後ろにいる警備隊員の命が惜しかったらな」


「ああ・・・これ以上は、進むつもりはないよ。だから、もうチェンフーには手を出すな。そしたら、命だけは助けてやる」

 一瞬の間を置いて、3人の強盗達は、どっと笑い出した。

「お前、何言ってんだ?氣弾も撃てねえ癖に、この距離で、俺達をどうこうしようってのか?」

「おい、油断しちゃいけねえんじゃねえのか?何か、手裏剣とか礫とか、投げ物の飛び道具でも持ってるかもしれねえぞ」チェンフーの頭に右掌を向け続けている鳥の面の男が、そう言って場を締めようとした。・・・が、その声にも笑いが含まれていた。

 仮に、ウォンが手裏剣や礫を持っていたとしても、3人に同時に投げつけることはできない。ならば、チェンフーを助けることはできない。

 それでは、こうして乗り込んでくる意味が無い・・・と、分かっているからだ。


「ウォン・・・か?」カウンターの奥で、チェンフーの弱々しい声がした。

「おう、チェンフー。生きてるか?今、助けてやるからな。もうちょっと待ってろ」

「無茶・・・するな。逃げろ・・・」

「逃げろ、だ?やだね。こっからが、俺の見せ場なんだぜ」ウォンは、左拳で胸をドン、と叩いた。

(あっちゃー、何てキレの無い動きだ・・・)自分の胸を叩く動きひとつとっても、「交渉」前の自分とは、まるで違う・・・ウォンは、そう思った。


 いや、ウォンだけではない。強盗達も、今のウォンのぎこちない動きを見て、拍子抜けしていた。

「・・・おい。こいつ、本当に強いのか?」

「その筈なんですが・・・いや、本当にウォンならの話で。まさか、よく似た別人とか・・・?」

 ウォンは苦笑した。

「ま、ある意味別人みたいなもんだ。ついさっきからな・・・だが俺は、間違いなく、ウォンだ」

「・・・だったら、お前には何もできねえってことにも、間違いはねえ。格闘タイプの奴が、この距離じゃ何もできねえだろが。仮にお前が氣弾を使えたとしてもだ。俺達3人を同時に倒せるような、連射能力なり、速射能力のある氣弾遣いなんぞ、そうはいねえぞ」


「そうだな。俺もそんな氣弾遣いは、見たことがない。・・・だがそれでも俺なら、何とかできちまうんだな、これが。・・・ふふ〜ん、喜べ。お前らは、このウォンの新必殺技、『風刃脚』の記念すべき犠牲者第一号・・・と、二号と三号だ。折角だから、選ばせてやる。第一号になりたいのは、どいつだ?」

 また強盗達が笑い出した。

「お前、馬鹿か?俺達のうち、一人でもやられたら、残った二人のどっちかが、あの警備隊員を撃つぞ。それぐらい分かんねえのか?」猿の面の男が、呆れ声でウォンを罵る。


「いや、だから一号とか二号とか三号とかってのは、単なる言葉のアヤで、実際にはほぼ同時に・・・まあいいや。ったく、不粋な人達だね・・・しょうがないから、俺が決めてやるよ。チェンフーの足を撃ったのは、誰だ?」

「俺だ」チェンフーの後ろの、鳥の面の男が、ボソリと呟いた。

「よし。お前が第一号に決定だ」ウォンは腰の後ろで両手を組み、氣勢を上げた。

 ドン、という地響きと共に突風が巻き起こり、書類がバサバサと宙を舞う。

「・・・何だ?」犬の面の男が、周囲を見渡す。

「落ち着け。氣勢を上げてるだけだ。・・・だが、気に入らねえな」猿の面の男が、ウォンを睨む。

「ほう?どの辺が?」

「その辺の、妙な落ち着きっぷりだよ。・・・もういい、お前は死ね。俺達が本気だってことを、外の連中に思い知らせてやる」男は、右掌に氣を集中させ始めた。ウォンを撃つつもりなのだ。

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