再会・4
結局フェイの攻撃は、当たりはするが効果が無い。かといってシュウの攻撃も、捌かれてしまうので不発になってしまう。
「さて・・・この辺で、いいんじゃないんですか」いつの間にかラウが、フェイとシュウの間に立っていた。
「お二人にとっては、どうってことのない散手かもしれませんが、見ているほうは・・・特にパイさんの心臓には、よくないみたいですから」
ラウの言葉で、パイは自分が小刻みに震え、汗びっしょりになっているのに気が付いた。
パイとは向かい側の壁際に並んでいる機動部隊員達も、揃って青い顔をしている。
「あ・・・すいません」
「こりゃ、面目ない」
フェイとシュウは両手を下ろし、自然体になって氣勢を下げた。
部屋の気温までが下がったようだった。
二人共、拍子抜けしたような顔をしていた。ラウの言う通り、大して激しい散手をしたつもりはなかったのだ。
そろそろ、氣の攻防も織り交ぜてみようか・・・フェイもシュウも、そう思っていたくらいだ。
「ただ、耐久力が上がるだけじゃないんですね。鋼皮功というのは・・・体の軸まで強化することで、崩しもかからないようになるなんて・・・でも、それだけじゃない。もっと何か、根本的に・・・」
「ああ。崩しがかかりにくいとか、吹っ飛ばされないとか、そんなのはオマケみたいなもんだ。それじゃあ単に『すごい硬氣功』ってだけだからな」
「そうです。分からないのは・・・」
思案するフェイの肩を、ラウがポンと叩いた。
「ま、積もる話は場所を変えてしましょう。歓迎の宴があるんですから、そこでゆっくりと。・・・ですよね、ドンヅォさん?」
その呼びかけで・・・フェイとシュウの氣勢に当てられて、放心状態だったドンヅォは、やっと我に返った。
「あっ、ああ、そうです。まだ準備中ですから、先に別室でお茶でも飲んで、一服してください」ドンヅォは、軽く頭を振って気持ちをシャンとさせながら、またフェイ達を案内するために、先に立って歩き出した。
・・・歩きながら、心の中で(やれやれ。ウチの若い連中が敵わない筈だ。こりゃ、本当に錬武祭では、ウチの者に出番は無いな・・・)と、嘆いていた。
そして、その日の夕方。
フェイ、ラウ、ウォンの3人を(ついでに一応は、パイも)歓迎する宴が、警備隊本部の食堂で行われた。
ウォン、ラウ、(そして今や)フェイの3人が、あまりにもビッグネーム過ぎるために、この3人のための歓迎会と銘打ってはいるが、基本的には5日後の錬武祭に向けての壮行会なので、シュウとランも参加している。
宴は立食形式で、食堂内は簡単な飾りつけがされていて、いかにも手作り感の溢れる趣だ。
ところが卓に料理が並び始めると、その豪華さに・・・特にパイが驚いていた。見た目だけではない。味も絶品だ。
パイはここぞとばかりに、全ての卓を回って目ぼしい料理を一通り腹に詰め込んだ。「うん、美味しい」
「お料理は、お口に合いましたか?」ドンヅォが酒の入った杯を片手にして、パイに話しかけた。
「ええ。もう、堪能させていただきましたわ。びっくりですよ。チュアン国の警備隊の食堂じゃ、こんなご馳走が出るんですか?」パイは喋りながらも、鶏の揚げ物と豚の角煮を自分の皿に盛り付けている。
「ハッハッハッ・・・いやいや、とんでもない。ウチの食堂が、普段からこんな料理を出してたら、あっという間に予算が無くなります」ドンヅォが、豪快に笑いながら答える。
(すごい・・・この顔だと、派手な笑いは自動的に、悪人笑いになるのね・・・)パイは肉団子を頬張りながら、心の中で呟いた。
「この料理は・・・チュアン国でも指折りの名店、シュンヤン楼の料理人が腕を振るったものなんですよ。あなた達を歓迎するために、ここの厨房に来てもらったんです。素材もそこの料理人が指定する物を、きっちり揃えました」
「へえ、すごいですね」
「いやあ、このぐらいのことしかできない、というのが本音ですよ」ドンヅォは、少し自虐的な笑顔を見せた。
(おおっ・・・こんな笑顔さえ、凄みが効く顔って、あるんだ)パイは鯉の甘酢あんかけ自分の皿に取りながら、そう思った。
「それほど、あなた方への期待が高いともいえますがね。ほら、今ラウさんと話をしてますけど、チュアン国の首脳まで来てるでしょう。あと、そのクラスの役人が、何人か来てます。・・・ああ、ウォンさんと話しているのも、そうだ」
「んっ?ああ、そうですか」パイは、お偉いさんに関しては、誰が来ようと興味がなかった。
ちなみにウォンの傍らには、さっぎとは違う女がいた。
(うわ。ウォンさん、またナンパしてきたのかな?それに、あの服『戦闘服』と、どう違うのか分かんないわ)
「まあ、あんまり実行委員が強過ぎるんで、あなた方に頼るしかないってんじゃ、下手をするとウチの若いもんなんか卑屈になっちまって、士気にも関わりかねませんのでね。酒と料理が豪華なのは、その辺の気晴らしって部分も、正直ありますよ。だからホラ、その、ウチの若いもん達で、錬武祭であなた方のサポートに回る連中も、ここにご一緒させてもらってますけど、あなたと似たようなもんです」
「んっ・・・ああ、そういやそうね」パイがエビチリを口に放り込みながら見回すと、確かに警備隊員らしい大勢の若者達が、夢中になって料理を食べている。
「ウチの食堂で、こんな料理は出ませんからね。ま、ご相伴にあずからせてもらってるわけです」そこでドンヅォは、少し悪戯っぽく笑った。
(う・・・これ、きっとドンヅォさんは『お茶目な笑顔』のつもりなんだろうけど・・・すごく、脅されてるような気がする)パイは、透けた皮から七色の具材が見える餃子を食べながら、失礼極まりないことを考えていた。
「うん。でも、どうせ派手な宴会をやるんなら、そのシュンヤン楼とかを借り切っても、面白かったんじゃないですか?」パイの得意な無責任で無意味な思いつきだ。
「ハハハッ。いや、実はそれもチラッとは考えましたがね。とても無理です」
「予算が?」
「いや、それ以上にね、警備の問題ですよ。もう錬武祭の5日前でしょう。実行委員の連中は、国内に潜伏している可能性が高い」
「うん。そうね」
「シュンヤン楼は繁華街のど真ん中にありますからね。今、我々がそんな所で宴会なんかしてたら、実行委員と鉢合わせするかもしれない」
「確かに」
「もしそうなったら、こっちのウォンさんやラウさんや、フェイさんは有名人ですからね。向こうからはこっちが分かるけど、こっちは誰が実行委員かなんて分からんでしょう。あちらさんがその気になれば、不意打ちされちまいます」ドンヅォはブルッと震えると、杯の酒をちびりと舐めた。
「うん・・・だから、宴会そのものは、ここ(警備隊本部)でやれば、少なくとも不意打ちは防げる、と?」パイは、卓の上の饅頭を掴みながら、首を傾げた。
「まあ、そうです」
「うーん、甘いなあ」
「んっ?何がです」
「もし、実行委員に不意打ちする気があるんなら、場所なんて関係ないですよ・・・ティエン国だって、不意打ち関係は相当警戒してましたけどね。それが錬武祭当日に、本っ当に予告どおりに来られて、こっちは万全の状態だったってのに、あのザマですもんね。もし、不意打ちなんかされた日には、もう洒落でなく全滅してますよ」