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グレイソウル  作者:
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再会・1

 フェイ達は無事に関所を通過し、チュアン国入りをした。

 関所で通信器を借りて、警備隊本部に到着の報告を入れてから、街中の適当な場所で、ウォンが連れてきた女を車から降ろす。

 それから、宿泊先の旅館へ向かう。

 フェイとパイ、ラウ、ウォンの4人は、全員同じ旅館に泊まれるように、チュアン国の警備隊が手配してくれていた。

 フェイは旅館よりも、一刻も早く警備隊本部へ行って、シュウに会いたかった(シュウとランは、警備隊本部内の宿泊施設に泊まっていた)のだが、ウォンが先に旅館に行きたいと言ったので、ラウとパイも、それなら先に旅館で宿泊手続きをしようと同意してしまい、フェイも少々渋々だが、従うことにしたのだ。

「俺は、5日前にチュアン国入りしたからな。荷物は全部、旅館に置いてあるから、着替えるとなると戻らにゃあならんのだ」ウォンが頭をかきながら言った。

「着替えるんですか?別にその服、汚れてませんけど。フェイとの手合わせで、汗でもかいたんですか・・・って・・・そんな風にも見えませんよねえ」パイが不思議そうに、ウォンを見た。


「ふっふっふっ。当然ですよ。あの程度の運動で、服を汚したり、汗をかいたりはしません。ただね、こいつは一応、戦闘用の服なんです」

「へえ?何か、特別に動き易いとか、耐久性の高い生地でできてるとかなの?」

「ん?冗談言っちゃあいけませんよ、お嬢さん。俺ほどの武術家が、服の性能に頼るような戦いなんざしませんって」

「あ、そう・・・じゃ、どの辺が戦闘用なの?」

「まず、柄です」

「・・・柄?」

「そう。この、虎柄ってのは、俺のトレードマークのひとつですがね。実は色違いで、場に合わせて着替えてるんですよ」

「ふーん」

「で、こいつの柄を見てください。この、どことなく鋭角的な線と、熱気を感じさせる色遣いがアグレッシブでしょう。こいつがね、気分を盛り上げてくれるんです」


「あの・・・それって、ちょっとだけど、服の性能に頼ってるんじゃあ・・・」

「ん?・・・まあ、細かいことはいいじゃないですか。あとこの服はね。汚しても破れてもいいような、安物なんですよ」

「えっ・・・じゃあ、本当はフェイとの手合わせで、服が汚れたりするかもって、思ってたんですか?」

「うーん、というより、気分ですかね。とにかく戦闘用にはこれって決めてあると、相手が誰だろうと、何となくこれを着ちまいますね」

「でもそれって、ある意味武術家らしくないんじゃ?例えばあ、戦闘用でない服を着てる時に襲われたりとかしたら、実力を出し切れなかったりしませんか?」

「わははは。そんなことありませんよ。戦闘用でない服を着ている時なら・・・そんな時に襲ってくるような奴なら、怪我しないように気を遣う必要がないから、喜んでボコボコにしますよ」

「あは、ははは。そうですか・・・でも本当に、何で着替えるんですか?別に、ウォンさんならそのままでも、普段着で通りますよ」


「ええ。でもまあ、今夜は歓迎会がありますから。一応はそれなりの格好をしないと」

「歓迎会?そんなの、どこでやるんですか?」

「チュアン国の警備隊本部の、食堂かなんかでやってくれるそうだよ。俺とラウ、それにフェイは、今回の錬武祭の主要メンバーだからね。揃い次第・・・まあ、簡単な宴会みたいだが」

「それで着替えるんですか。ウォンさんって、意外と几帳面なのね」

「意外ってのは何ですか。・・・まあ、だからお前達は旅館で手続きをしたら、先に警備隊の本部へ行ってくれ。俺も着替えたら、すぐに行くから」

「あー、でも着替えだけなら、待ちますよ?私達も、一服したいし。ねえ、フェイ?」

「えっ?・・・あ、はい」

「あー、駄目だって。フェイはね、早く昔の友達に会いたいんだよ」ウォンはフェイの代弁をしながら、右手をヒラヒラと振った。


 そして旅館に到着。

 ウォンは自分の部屋に向かい、フェイとパイとラウは宿泊手続きをして荷物を預けると、警備隊本部へ向かった。

 ウォンは部屋に着くなり、風呂の用意をしながら「戦闘」服を脱いだ。その服は、汗で肌に貼り付いて、ひどく脱ぎにくくなっていた。

 ウォンは風呂で汗を流し、浴槽にどっぷりと浸かると、深い溜め息をついた。

「うん。あの程度の運動で、汗はかかない。が・・・あのフェイって奴、本当に必死だな・・・この俺に、氣勢の圧力だけで汗をかかせるたあな・・・」そしてウォンは、楽しそうにフェイとの手合わせを反芻しながら、右足をさすった。

 その足には、おびただしい数の切り傷が・・・少し前に負傷したものらしく、既に傷自体はふさがっていたが・・・刻まれていた。


 チュアン国の警備隊本部に到着したフェイ達は、まず、錬武祭の担当者だという、機動部隊総隊長のドンヅォという男に会って、状況を確認した。

 確認といっても、それほど特別なことはない。いや、フェイやラウ、ウォンといった桁外れの遣い手に頼る以外に、手立てが無いというのが正しいかもしれない。

 それよりもフェイは、シュウに早く会いたかった。

 ドンヅォにそのことを聞くと、「ああ、あの人ね・・・確か、今は格技室で、ウチの若い者達に稽古をつけてくれてる筈だ」という返事がきた。


「その、格技室はどこに・・・?」

「ああ、案内しますよ。どうぞこちらへ」ドンヅォが先に立って歩くために、フェイ達に背中を向けた途端、パイは目が覚めたような気がした。

 ドンヅォの話を聞いている間、彼女はずっと、ドンヅォの顔に釘付けだったのだ。

 ドンヅォは、ものすごい悪人面だった。薄い眉。細い目。小さな瞳。頬や顔に刻まれた無数の傷に、ゴツゴツとした鼻。薄くて紫色の唇。

(う〜ん、すごいもんだわ。ここんとこ、フェイとかラウさんとかウォンさんとか、美形ばっかり見てたから、久し振りにあんなメリハリの効いた顔を見たら、何だかショックだわ)などと実に失礼なことを考えながら、パイはフェイ達の後を歩いた。


「いやー、大したもんですな、あのシュウという人は。いやね、昨日、いきなりここに・・・警備隊に来て、『錬武祭に参加させてくれ』って言うじゃありませんか。いえね、ティエン国では錬武祭の開催前に、あっちこっちから武術家やら何やらを、大勢集めてたって聞いてますけど」ドンヅォはそこで、微笑みながらパイをチラリと見た。

(うわ。すごい笑顔)と思いながら、パイは「えっ・・・ええ」と答えた。

「それがもう、今じゃ実行委員がでたらめに強いってのは、子供でも知ってるでしょ?おかげで、錬武祭への参加を願い出てくる人なんて、もう全然集まらなくてね」

 パイは、何となく申し訳ないような気分になっていた。

 チュアン国の錬武祭に人が集まらないのは、つまり、ティエン国の警備隊が、実行委員に手も足も出なかったから、というのが理由のひとつなのは間違いないからだ。

「あの・・・すみません」パイの口から、多分に義理ではあるが、謝罪の言葉が出た。

「はい?・・・ああ、そういやあなたは、ティエン国の・・・いや、こっちこそ無神経な言い方しちまって、申し訳ない。何、もしウチのほうが先に錬武祭の開催国に選ばれてたら、やっぱり似たようなもんだったと思いますよ。あの映像を見たらね、そう思いますよ。・・・でもね、それでもあのシュウって人は・・・ああ、一緒にいたランって女性もね。・・・参加したいってんですからね。正直、本気なのかなと思いましたよ。でね、ウチの機動部隊の精鋭を集めて、手合わせしてもらったんですよ。いや、疑っちゃあアレだけど、実力不足の人に参加されたら、あなた方の足を引っ張るかもしれんでしょ?」

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