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グレイソウル  作者:
69/148

相抜・7

「あの・・・ウォンさん」パイは姿勢を正すと、照れ臭そうに目を泳がせた。

「うん?何かな」

「いや・・・何だかウォンさんって、最初はすごい変な人だと思ったんですけど・・・本当は、いい男なんですね」

「ふっ・・・何をおっしゃいますやら、お嬢さん」そう呟きながらウォンは、滑るように移動して、パイの手を握った。

「本当も何も、俺は最初っからいい男ですよ」

「ちょ、ちょっとウォンさん?彼女が見てますよ!」

「彼女?何ですかそりゃ」

「何ですかって、あの・・・名前は分かんないけど、ほら、岩の上に座ってる人!」


「んっ?ああ・・・あの人ね。そういや、何て名前だっけ?」ウォンは岩に向き直りながら、真顔で訊ねた。

「あの・・・名前、知らないんですか?」パイは困惑していた。

 岩の上の女は、手を叩きながら笑っている。

「知らないわよねえ。だって、言ってないもん」

「ええ。いや、ここに来る前に、チュアン国で・・・旅館を出てすぐに、街中で見かけまして。ちょっと好みのタイプだったんで、ナンパしたんです」

「ナンパ・・・ですか?」

「うん。面白いものを見せてやるから、ついて来ないかって。ウォンさんって有名人だし、ちょっと暇だったし」

「・・・前言撤回します。ウォンさん。あなた、やっぱり変な人です」パイは呼吸を整えると、掌を通してウォンに軽い雷を打ち込み、その手を振り解いた。

 ウォンは「ぎゃっ」と小さく叫んで、よろよろと後ずさる。


「あー、面白かった・・・じゃあ私、そろそろ帰るね」女はクスクスと笑いながら、岩から飛び降りた。

「ん?何だ、もう帰るのか?まだ名前も聞いてないのに」ウォンは素早く女の側に駆け寄ると、両手でその右手をホールドする。

 女は、左手でウォンの頬を優しく撫でながら、ゆっくりと首を振った。

「何言ってんの。名前なんて、最初っから聞く気ないでしょ。あなたはちょっと、自分の隣に彩りが欲しいだけなんだから」

「ほう?そんなことが分かるのかい?」

「分かるわよ・・・ていうか、多分あなたは、そういうことがちゃんと分かる女にしか、声をかけないんでしょ」

「はっきり言ってくれるねえ」ウォンは肩をすくめて、女の手を離した。


「ふふ・・・ほら、この岩、元に戻さないと。通行の邪魔よ」

「ああ、そうだ。いかんいかん」ウォンは慌てて岩に駆け寄ると、左足底を岩に押し付けて「フン!」と、小さく鋭く叫んだ。

 それだけで、岩が紙屑のように宙を舞い・・・ドスンと地響きを立てて、道から10メートルほど離れた草原の中に落ちた。

「さて。じゃ、行きますか・・・ま、チュアン国の関所までは送るよ。一緒に、あの車に乗せてもらおうや」

「そうね。そうさせてもらうわ」

 ウォンと女を加えた5人を乗せて、車は再びチュアン国へ向けて走り出した。


「これで・・・フェイと、ラウさんと、ウォンさんと。ベストメンバーが揃ったと思っていいわよね?」パイがフェイに訊ねる。

「ええ。そう思います」

「おお、メンバーといえば」ウォンがポン、と手を叩く。「あと二人、錬武祭に参加したいってのが、チュアン国に来てるぞ」

「二人?ちょっと待ってよ。もっと、大量の援軍は来ないの?」パイが怒鳴った。

「ああ、お前ら、まだ聞いてないのか・・・いや、完全に決まったわけじゃないけどな。中途半端な強さの連中が、いくら集まっても、かえって足手まといになるんじゃないかってーことでな。実際ティエン国でも、フェイ以外は何もできなかったろ?」

「う・・・確かに」

「だから今回は、確実に実行委員と渡り合えるような奴だけで、メンバーを構成しようってことに、なりつつある」

「そのほうが、いいかもしれません」フェイが運転しながら頷く。


「ああ。・・・で、その二人ってのは元々、ペイジ国の機動部隊にいたとかでな」

「・・・え?」フェイが、思わずウォンのほうを振り向く。

「こら、フェイ!前見て運転してよ!」

「あ、すいません・・・あの、ウォンさん、その二人って」

「ああ。お前の知り合いらしいな。・・・シュウって奴と、ランとかいうお嬢さんだ。つい昨日、チュアン国に入ったばかりでな。俺もチラッと見ただけなんだが・・・あのランって娘は、なかなかの美人だな」ウォンが白い歯を見せて笑った。

「あの、ウォンさん。今はそれよりも、二人の実力がどのぐらいなのかとか、そういうことのほうが・・・」パイが呆れ顔になる。

「んっ?いや、そっちは分からん。だから、あの二人が参加できるかどうかも未知数だ」

「・・・できますよ」フェイが呟く。

「ん?」

「できます。ランさんはちょっと、止めておいたほうがいいかもしれませんが・・・シュウは、大丈夫です。彼なら、充分に・・・錬武祭に参加する実力がある筈です」

 フェイの手が、小刻みに震えていた。



 相抜・了

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