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グレイソウル  作者:
57/148

治療・5

 そしてパイも、(ああ、フェイの気持ちもよく考えずに勢いだけで物を言う私って、何て嫌な女なんだろう)などといった面倒臭い悩み方はしない。

 それはパイの最大の長所といえる。

(まー、疲れてると面白くないことばっかり考えちゃうのよね。早く寝よっと)そしてパイは、あっという間に熟睡していた。


 そして、チャンの治療から三日後。

 フェイとパイがチャンの病室を訪れると、そこにはヤンと、出発の準備を整えたラウと、思いのほか元気なチャンがいた。

「おはようございます、フェイさん、パイさん・・・しばらくの間、お世話になりますが、よろしくお願いします」

「いえいえいえ、こちらこそお世話になっちゃうんで、もう本当によろしくお願いします」

 大スターのラウと一緒に旅ができるとあって、パイは上機嫌だ。

「チャン君は・・・調子はいいようですね」フェイの問いかけが終わるより早く、チャンは寝台から降りると、フェイに駆け寄ってしがみついた。

「ありがとう・・・もう、膝も痛くないし、息も苦しくないよ」

「うん。良かった・・・グイゼン先生やホンジン先生が、しっかりと養生できるようにしてくれてるんだよ」

「うん。でも、痛いのや息苦しいのや、そういうのを取ってくれたのは、フェイ先生だって。グイゼン先生が、そう言ってた。だから・・・助けてくれて、ありがとう」チャンは、真っ直ぐにフェイを見つめた。


 フェイはしばらくの間、その視線に目を合わせていたが、ふと目をそらして俯いてしまった。

「・・・違うんです」フェイが呟いた。そのまま床に両膝を付き、チャンを抱きしめる。

「違うんです。助けてもらったのは、むしろ・・・僕のほうなんです」

「フェイさん」ラウが呟く。

「あなたが、どんな思いを抱えていようと・・・私と、私の家族にとって、あなたは恩人なんです。だから・・・顔を上げてください」そう言って、ラウは静かにフェイの手を取った。

 フェイは俯いたままで立ち上がり・・・やっと顔を上げて、ラウを見た。

 二人のことを知らない者が見れば、ラウが白仙で、フェイが患者に見えたに違いない。それほどラウの表情は慈愛に溢れ、フェイはその温かさに癒されていた。

 ちなみにパイはずっとお気楽なもので、(おおっ、二枚目同士のいい絵だっ!何か、上等の芝居を一本、タダ見した気分だわ)と、あくまで脳天気だ。

 

「じゃあ、行ってくる」ラウはヤンとチャンに向き直ると、ニッコリと笑いながら、まるで・・・ちょっと散歩にでも出かけるかのように、軽く告げた。

「ええ・・・気を付けて」

「早く帰って来てね」

「ああ。なるべく早く帰れるように、頑張るよ」

 そして踵を返すと、フェイとパイの肩をポンと叩き、悠々と病室を出た。

 その顔には、もう笑顔はなかったが・・・フェイとパイを見る目は、あくまで優しく、力強い光を湛えていた。



 治療・了

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