治療・5
そしてパイも、(ああ、フェイの気持ちもよく考えずに勢いだけで物を言う私って、何て嫌な女なんだろう)などといった面倒臭い悩み方はしない。
それはパイの最大の長所といえる。
(まー、疲れてると面白くないことばっかり考えちゃうのよね。早く寝よっと)そしてパイは、あっという間に熟睡していた。
そして、チャンの治療から三日後。
フェイとパイがチャンの病室を訪れると、そこにはヤンと、出発の準備を整えたラウと、思いのほか元気なチャンがいた。
「おはようございます、フェイさん、パイさん・・・しばらくの間、お世話になりますが、よろしくお願いします」
「いえいえいえ、こちらこそお世話になっちゃうんで、もう本当によろしくお願いします」
大スターのラウと一緒に旅ができるとあって、パイは上機嫌だ。
「チャン君は・・・調子はいいようですね」フェイの問いかけが終わるより早く、チャンは寝台から降りると、フェイに駆け寄ってしがみついた。
「ありがとう・・・もう、膝も痛くないし、息も苦しくないよ」
「うん。良かった・・・グイゼン先生やホンジン先生が、しっかりと養生できるようにしてくれてるんだよ」
「うん。でも、痛いのや息苦しいのや、そういうのを取ってくれたのは、フェイ先生だって。グイゼン先生が、そう言ってた。だから・・・助けてくれて、ありがとう」チャンは、真っ直ぐにフェイを見つめた。
フェイはしばらくの間、その視線に目を合わせていたが、ふと目をそらして俯いてしまった。
「・・・違うんです」フェイが呟いた。そのまま床に両膝を付き、チャンを抱きしめる。
「違うんです。助けてもらったのは、むしろ・・・僕のほうなんです」
「フェイさん」ラウが呟く。
「あなたが、どんな思いを抱えていようと・・・私と、私の家族にとって、あなたは恩人なんです。だから・・・顔を上げてください」そう言って、ラウは静かにフェイの手を取った。
フェイは俯いたままで立ち上がり・・・やっと顔を上げて、ラウを見た。
二人のことを知らない者が見れば、ラウが白仙で、フェイが患者に見えたに違いない。それほどラウの表情は慈愛に溢れ、フェイはその温かさに癒されていた。
ちなみにパイはずっとお気楽なもので、(おおっ、二枚目同士のいい絵だっ!何か、上等の芝居を一本、タダ見した気分だわ)と、あくまで脳天気だ。
「じゃあ、行ってくる」ラウはヤンとチャンに向き直ると、ニッコリと笑いながら、まるで・・・ちょっと散歩にでも出かけるかのように、軽く告げた。
「ええ・・・気を付けて」
「早く帰って来てね」
「ああ。なるべく早く帰れるように、頑張るよ」
そして踵を返すと、フェイとパイの肩をポンと叩き、悠々と病室を出た。
その顔には、もう笑顔はなかったが・・・フェイとパイを見る目は、あくまで優しく、力強い光を湛えていた。
治療・了