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グレイソウル  作者:
53/148

治療・1

 フェイは、ラウ家の食卓で・・・何か、自分がひどく場違いなような気がしてならなかった。

 パイは、チャンと談笑していた。その上食べる物はしっかり食べている。

 フェイは、そんな風に明るく振舞えるパイが羨ましかった。

 パイはこうやって陽氣を発散するだけで、充分役に立っている。

 だが、フェイはどうだ?無力感に打ちのめされ、明るく振舞う余裕など無いではないか。

(何てザマだ。何もできないというのなら、せめて明るいフリだけでもすればよいものを。・・・ラウさんが、ルオヤン国を離れられないのは当然のことだ。チャン君があんな状態では・・・それがどうだ?僕ときたら、まだ何とかしてラウさんを錬武祭に参加させられないかと・・・そんなことばかり考えているじゃないか。だったら、チャン君の病気を治すしかないのに。それが、できないと分かっているのに)

 フェイは自分の非力を呪い、そして焦った。だがフェイの焦りは、もっともだった。


 チュアン国での錬武祭について、最も危機感を募らせているのは、実はフェイだった。フェイは実際に実行委員と戦い、勝利している。それだけに、実行委員の強さを肌で理解していた。

(ティエン国の錬武祭で、僕が実行委員に勝てたのは・・・彼らが、僕を舐めていたからだ。常に一対一で戦えたから、何とかなったんだ。・・・でも、もしもヨウとムイが、最初から本気で僕を倒すつもりで連係していたら・・・僕は恐らく、負けていただろう)

 フェイ以外の人間は、実行委員の強さを知ってはいる。だが、その実行委員を一人で倒したフェイと、風刃脚のウォンが揃って参加するのだから・・・チュアン国の錬武祭は「何とかなるだろう」という気持ちのほうが強い。

 だが、フェイは全くの無名だった。だから実行委員も油断して、一対一で戦いを挑んできた。・・・それも、次はそうはいかない。

 それにフェイがまだ無名だった時点でも、風刃脚のウォンと華炎嵐舞鞭のラウは、その名を世界中に轟かせていた。

 ひょっとしたら、ティエン国の錬武祭に、ウォンとラウの二人が揃って参加していたかもしれないのだ。

 それでもシバは、「こちらが圧勝するつもり」だったと言っていた。

 フェイには、それが分かるような気がしていた。


 今、こうしてラウの側にいると、その強さはよく分かる。氣の質。姿勢。身のこなし。どれを取っても超一流だ。

(僕が銀衛氣を発動させてラウさんと戦っても、勝てるかどうかは分からない)フェイは本気でそう思った。

 ましてや、純粋な武術家のウォンであれば(フェイ自身は、ウォンの動きは投影玉の映像で見たことがあるだけだったが)、その強さは疑うべくもない。

 だがその上で、ホイ、サク、カウ、ヨウ、ムイの5人が、最初から本気だったなら?(ホイ、サク、カウの3人が、ラウさんかウォンさんのどちらか一人を足止めして、その間にヨウとムイが連係して、残りの一人を攻めれば・・・間違いなく、実行委員のほうが有利だったろう)と、フェイは分析していた。

 そしてチュアン国の錬武祭では、フェイも既にその力を知られてしまっている。そして、ウォンとラウの二人が参加する可能性も高い。

 それでも、シバは・・・(勝つ気でいる。恐らく今度の実行委員は、一人でも・・・僕や、ラウさんやウォンさんを相手にして・・・時間稼ぎぐらいはできるだけの実力を持っていると考えるべきだろう。僕と、ラウさんと、ウォンさんの3人が揃ったとしても、決して楽観はできない)

 

 ミシッ、という音で、フェイは我に返った。

 無意識に指に力が入って、箸が折れそうなほど握り締めていたのだ。

「あの・・・フェイさん、お口に合いませんか?さっきから、お食事が進んでないようですけど・・・」ヤンが心配そうに訊ねる。

 その横で、ラウが申し訳なさそうに目を伏せた。

 ラウも、投影玉で見ただけとはいえ、実行委員の強さはそれなりに理解している。

(私が錬武祭に参加しなければ・・・フェイさんとウォンさんだけでは危ない)と、分かっているのだ。

(だが、それでもチャンを置いていくことは・・・できない)それがラウの本音だった。

 フェイはラウの心中を察して、身の縮まるような思いがした。


「ちょーっと、フェイ。黙ってないで、何か言いなさいよ!で、もっと食べる!食べなきゃ力も出ないでしょ!」パイが怒鳴りながら、フェイの肩をパンパンと叩いた。

 フェイは、何となく救われたような思いと共に、彼女に対して尊敬の念すら湧き上がってきた。

(パイさんだって、ラウさんが錬武祭に参加してくれなければ、危険が増えることぐらい分かっている筈だ。それなのに、困った顔ひとつせずに明るく振舞っている。それは・・・今、この場では・・・ラウ家の食卓では、楽しい時間を過ごすべきだと。暗い顔などしていても、意味がないと分かっているからだ。そしてそれを、見事に体現している)フェイは悪夢から覚めたように、ニッコリと微笑んだ。

「すいません。つい、考えごとをしてしまって・・・お料理は、とても美味しいです」そう言って、豚の角煮を頬張った。実際ヤンの料理は美味しかったのだが、フェイは今になって、やっとそのことを自覚したような気がした。


(・・・やれやれ。病や怪我を治して、人を救う筈の白仙の力を持っていても、所詮僕などこの程度の人間なのか。・・・ん・・・白仙の、力?)

 そこでフェイは、忘れていたことを思い出したような・・・暗闇に、一筋の光が差したような気がした。(そうだ。・・・僕は、白仙の力にこだわり過ぎていたんだ。もしかしたら・・・)急に目の前に道が開けたかのようだった。

「あの・・・ラウさん」

「はい?」

「チャン君の治療をされている白仙の先生と、お話をしたいのですが・・・連絡は取れますか?」

「え?それはまあ、できますが・・・今ですか?」

「あ・・・いや、明日にでも、と。でも、なるべくなら早く・・・」フェイは、はやる心を静めようとした。

 だが、ラウはそんなフェイの胸中を・・・それが希望から発している動揺だと見抜き、釣られて淡い期待を膨らませていた。

「分かりました・・・チャンの治療は市内の病院で、グイゼン先生という白仙にお願いしているんです。明日の朝、一番に会えるように手配しておきましょう」

「ありがとうございます」

 その後フェイは、食事をしながら、とにかくチャンをじっと見つめていた。

 その視線は熱を帯びて、チャンの氣を高揚させた。チャンは、意味もなく速まる鼓動に戸惑いつつ、妙な期待感が湧くのを感じていた。


 食事が済み、ラウの家を出てからも、フェイの興奮は続いていた。

 宿屋に向けて車を運転しながら、パイは隣席のフェイの静かな熱氣に感心していた。

「ちょっとフェイ。あなた黙ったまんまで、よくそんなに長時間燃えていられるわね?普通、気合いとか掛け声とか出さなきゃ、いい加減冷めるわよ」

「えっ?・・・ああ、そうですね。・・・いや、心の中では叫んでるようなもんですよ」

「へえ・・・何か、名案が浮かんだの?」

「名案といえるかどうかは、やってみないと分かりません。でも、可能性が見えてきました」

「それって、チャン君の病気を治す方法よね?」

「・・・はい」

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