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グレイソウル  作者:
48/148

舞台・2

(きゃー、本物だ!)パイは、声にならない歓声を上げていた。

 パイが浮かれるのも、無理はなかった。

 その武勇を買われて錬武祭への参加を請われたラウだが、彼は警備隊員ではなく、武術家ですらない。

 彼の職業は、舞踊家だった。そして、世界的なスターだったのだ。

 

「突然お伺いして、申し訳ありません。ティエン国の警備隊から要請されて参りました、フェイと申す者です」フェイが軽く頭を下げながら、挨拶をする。

 ラウに見とれていたパイは、ハッとして慌てた。

(しまったあっ!こらフェイ!上司は私だ!先に私に挨拶させなさいよっ!)

 すかさずフェイを肩で押しのけると、「同じく、ティエン国の警備隊から参りました、パイです」と、早口でまくし立てた。

「ええ、ようこそ・・・お話は伺ってます。わざわざ遠い所をお越しいただいて恐縮です。とにかく、お入り下さい」ラウが、静かだがよく通る声で、フェイとパイを招いた。彼は舞踊家であって歌い手ではないのだが、彼の発する言葉は、それだけで歌のようだった。

「あっいえ・・・いいんですか?失礼します」パイは頓珍漢な返答をしながら、ギクシャクと扉をくぐった。


 応接間に通された二人は、ラウと向かい合って座った。

 パイは少し落ち着かない様子で、視線をあちらこちらにばら撒いている。

 壁には、ラウの舞台の写真や、衣装などが掛けてあった。

「あ、あの写真・・・」パイが一枚の写真を見て、裏返った声を出した。

「うん?どれですか?」ラウがパイの視線を追う。それだけでパイは、うっとりしてしまった。

「あああ、あれです。今年の春というか、冬の終わりというか・・・私の、警備隊の訓練学校の卒業の頃の、公演の写真です。私、観に行ったんですよ」

「ああ、あれですか・・・観てくださったんですね。ありがとうございます」ラウはパイを真っ直ぐに見つめて微笑んだ。

(ああ、生きててよかった)パイはすっかり上機嫌だ。

「いやもう、切符を手に入れるの大変でしたよ。ペイジ国で、1万人収容の会場だってのに、もう一番後ろの席しか残ってなくて。・・・でも、それでも何とかして観ておきたかったんですよ。だってあの公演の後、ラウさんは長期の充氣期間に入るって・・・あ」

「・・・ええ」ラウが少し、照れ臭そうに視線を泳がせた。

「公式には、そういうことになってます・・・嘘ではありませんけどね。息子と向き合う時間は、私にとって新しい発見の連続ですから。・・・でも、息子が病気だと発表してしまったら、お見舞いとか、色々・・・して下さる方は、気遣いからなのでしょうが、その対応に追われて息子と過ごす時間が減っては、本末転倒ですから」


 そこでラウが「ああ、ありがとう」と呟きながら、扉の方向に目をやった。

 フェイとパイがその視線を追うと、お茶を載せた盆を持った女性が立っていた。

 ラウの妻のヤンだった。

 ヤンも元々は舞踊家なので、ラウとは所謂職場結婚だ。

 結婚後のヤンは舞踊家としては引退していたのだが、それなりに節制はしているらしく、体の線は引き締まっているし、動きも優雅だ。そのせいか、パイより少し背が低いのだが、むしろパイよりも大きく見える。

 だが、これだけのメンバーに囲まれてもなお、150センチに満たない身長でも、小ささを感じさせないフェイの雰囲気に、一同は・・・特にラウは、驚いていた。

(ただ座っているだけで、これだけの存在感を出せる者は・・・一流の舞踊家の中にも、そうはいない。彼は本当に、警備隊員なのか?そもそも、制服を着ていないし・・・)

 そんなラウの疑問に、フェイが勘付いた。

「・・・ところで、息子さんの容態はどのような状態なのでしょうか?実は、僕の本業は白仙なんです。ですから、もしかしたら何らかの形で、ラウさんの力になれるのではないかと」

「ああ・・・そうだったんですか」だが、本業が白仙というだけでは、ラウの疑問は晴れない。

「ん・・・白仙・・・ああ、ひょっとして、あなたは・・・ティエン国の錬武祭で、実行委員を一人で倒した・・・」

「はい」

「ああ、それで・・・いや、失礼しました。僕は最近、投影玉もあまり見ないので・・・編集された映像を、10秒ほど見ただけだったので、気が付きませんでした」

「いやいや、無理ないですよ。だって、あんな鬼のように強い人が、実物を見たらこーんなに小さいなんて、誰も思いませんから。それに普段は、すごくおとなしいですし」パイが横から割り込む。

「人を珍獣みたいに言わないでください・・・で・・・その、息子さんのことですが」フェイはお茶を一口飲んで、間を取り直し、ラウの反応を見る。

「息子は・・・チャンは、もってあと半年・・・早ければ、3ヶ月の命だそうです」ラウが、ぽつりぽつりと呟く。ヤンが目を伏せる。

 パイは言葉もなく、ただ固まったままで、おろおろとしていた。


「始めは、左膝の腫れでした・・・それが癌だと分かってから、色々な治療を試したのですが・・・」ラウはそこで、パイも観たという公演の写真に目をやった。

「・・・結局、肺に転移してしまいました。それで、せめて残された時間を、なるべくチャンの側で過ごそうと思い・・・あの公演を最後に、仕事を休むことにしたんです」

「あの・・・チャン君は、今どちらにいらっしゃるんですか?」フェイが訊ねる。

「ええ。チャンは今、学校に行ってます。もうすぐ帰ってくると思いますよ」ラウが少し笑った。

「え?学校ですか?」パイが驚きと心配の混じった声をあげた。

「はい。・・・なるべくギリギリまで、普通の子供と同じような生活をさせたいと思いまして・・・ルオヤン国にも、優秀な白仙がいますからね。氣で・・・痛みと、腫れの制御だけは、ほぼ完全にできてるんです。ですから今のところ、日常生活はほぼ普通に・・・」

「でも、それもいつまで続くか・・・」ヤンが目を伏せたままで呟いた。

 パイは逃げ出したい気分を抑え、とにかくお茶を一口すすって、落ち着こうとした。(ううっ、何だか私まで助けて欲しい気分だわ・・・これが、物理的な危険からくる気持ちだったら、とっくにフェイの銀衛氣が発動してるわね)


 そこで、玄関から「ただいまー」という声がした。チャンが帰宅したのだ。

 とにかくこれで、かろうじて場の雰囲気が変わる。パイは救われる思いだった。

「ねえ、お客さん?・・・こんにちわ」応接間に跳び込んできたチャンは、全く普通の8歳の少年だった。

 少なくともパイにはそう見えた。(ちょっと痩せてるけど、意外と元気そうよね)それがパイの、チャンに対する第一印象だった。

 だがパイは、振り返りざまにフェイを見て、それが見当違いも甚だしいのだと思い知らされた。

 フェイの表情は、厳しかった。その目に無力感が漂っていた。

「こんにちわ・・・チャン君ですね?」

「うん。・・・お父さん、この人たち、誰?」

「ああ・・・お仕事でね。お父さんに用事があるそうだ・・・先に手を洗ってきなさい。一緒におやつでも食べよう。宿題はあるのか?」

「うん。後でちゃんとやるよ」

「よし」

 チャンはすぐに荷物を置き、手を洗って応接間に戻ってきた。

 その後しばらく、ヤンが入れ直したお茶と茶菓子を囲んで、5人で話をした。

 チャンの学校のことや、パイの警備隊の仕事や・・・特に、フェイと実行委員の戦いの様子を、パイが身振りを交えて再現するのが、チャンには大受けだった。

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