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グレイソウル  作者:
47/148

舞台・1

 フェイとパイが辞令を受けた、その翌日。

 入院中のヤンリャンを除き、ティェン国警備隊の全員の見送りを受け、二人は公用車でティェン国を発った。

 

「見送ってくれるのはいいけど、警備隊も肝心なところでケチよねえ。どうせなら、運転手付きの車にしてくれればいいのに・・・自分で運転して行かなきゃならないなんて」出発して30秒後に、パイは運転しながら文句を言っていた。

「フェイ、あなたは車の運転、できるんでしょ?」

「はい。免許は持ってます」

「じゃ、時々運転を変わってね」

「あの、民間人の僕が公用車を運転してもいいんですか?」

「いいわよ。忘れたの?あなたは今、警備隊員と同じ扱いなのよ。一等隊士よ。・・・そうそう、上司は私のほうよ」

「・・・はい」

「あー、そうだ。昨日ね、錬武祭の映像を見直したんだけど」

「はい」

「フェイの銀衛氣が発動してる間ってさ、何か、私のオデコが銀色に光ってない?」

「ええ。あれは、氣の共振現象です」

「あー、やっぱり。あれ、何とかならない?何か、いかにもって感じでカッコ悪いじゃない」

「何とか、と言われても・・・」フェイは腕を組み、10秒ほど考えた。

「お望みでしたら、額の光の形を花柄などにできますが・・・」

「望んどらんっ!・・・まったく、あんたの美的センスって、どうなってるのよ」

「・・・すみません」

「つまり、オデコが光らないようにしたいのよ」

「それはちょっと・・・銀衛氣の出力が上がれば上がるほど、共振現象も強くなりますから・・・光を消すのは・・・」

「あー、そう。もういいわ。どうせ光るんなら、今のままのほうが、まだマシ」


「すみません。・・・あれ?パイさん、この道だとチュアン国へ行ってしまいますよ」

「当たり前でしょ。次の錬武祭は、チュアン国でやるんだから」

「そうじゃなくて、聞いてませんか?チュアン国に行く前にルオヤン国へ回って、『華炎嵐舞鞭』のラウさんを・・・」

「え?ちょっとそれ、本当?」

「はい。あの、ヤンリャンさんを病院に運んだ後で、ズウグ部長から指示を受けたんですが・・・ゴタゴタしてたから、パイさんには連絡が行かなかったんでしょうか」

「あー、きっとそうだわ。何よそれ。聞いてないわよ。あーどうしよう。ラウさんに会うの?美容院に行っとけば良かったなあ。化粧もちゃんとしてないし。ま、化粧はフェイが運転してる間にすればいいか・・・あ、でもラウさんて、錬武祭に参加しないんでしょ?迎えに行ってもしょうがないんじゃないの?」


「いや、ですからまず先に、説得しなきゃならないんです。・・・ラウさんの不参加の理由は、どうやらお子さんのご病気に原因があるらしくて」

「え?そうなんだ」

「はい。だから、白仙の僕なら話がしやすいのではないかと・・・」

「あー、なるほどね。通りで私への連絡が抜ける筈だわ。だって病気とかそういう話なら、私は役に立たないもん。それでなくても昨日は、雷の暴走の後始末でてんてこ舞いだったし」

「すみません」

「ん?何でフェイが謝るの?」

「いや、パイさんの力を引き上げたのは、僕ですから・・・」

「あはは、いいのいいの。ヤンリャン隊長だって、命がどうこうって怪我したわけじゃないし、そもそも言い出しっぺはあの人なんだから。半分以上は本人の責任でしょ?私もちょっとスカッとしたし」


「まあ、そう言ってもらえると助かりますが・・・」

「そうそう。それより、ルオヤン国よ、ルオヤン国!ラウさんに会いに行かなくっちゃ!」

「仕事ですよ、仕事」

「分かってるわよ・・・で、ラウさんの子供さんの病気って、何なの?その病気をさ、フェイがスパッと治しちゃえば、ラウさんも錬武祭に参加してくれるかな?」

「どうでしょう。ルオヤン国にだって、優秀な白仙がいる筈ですからね。僕が行ったからって、治せるとは限りませんよ。ズウグ部長も、そこまでの期待はしていないようでしたし・・・まあ、僕は普通の警備隊員と違って、病気についての知識は色々とありますから、そういう方面からラウさんの精神的なフォローをしつつ、錬武祭への参加に誘導すると・・・そういう作戦なんです」

「ふーん。面倒臭いわねえ・・・それよりさ、病気自体を治しちゃったほうが、早くない?」

「それはそうでしょうが・・・ラウさんのお子さんは、癌なんです」

「・・・え?」

「まだ、8歳だそうです・・・白仙にとっても、薬師にとっても、一番厄介な病気です」


 この世界の医療は、氣や薬によって患者の体力や回復力を高め、病因の沈静化や退出を待つというのが、その中心となっている。

 そして、種々の病因・・・細菌やウイルス、炎症や変性などを、「敵」として捉えてはいない。

 つまり、病気や怪我の治療の中心は、「闘病」ではなくて「養生」なのだ。

 この世界の人間が氣を制御する力は非常に優れているので、それで充分に医療として成立していたのだ。

 しかし、この治療体系において、特に苦手とされる病気がある。

 癌だ。

 ・・・特に、若者の癌は治療成績が悪い。

 この世界では、病気を「敵」と見做さないから、「外科手術による摘出」という発想がない。

 体内に異物(細菌やウイルス、寄生虫など)が入った場合は、その異物が体に与える影響を最小限に抑えつつ、体が自然に排出するのを待つ、という方法がある。

 だが癌は、患者自身の細胞なので、排出はされないし、もとより白仙の氣では、細胞を「消滅」させることはできない。薬にしても、癌細胞を倒すほど強いものでは、正常な細胞まで傷付けてしまうため、匙加減が非常に難しい。

 結局、患者の正常な細胞を活性化させ、癌が居場所をなくして消えるのを待つしかない。

 それでも高齢者の癌であれば、癌細胞の勢いが弱いので、比較的回復の可能性が高い。

 だが若者の癌細胞は、勢いが強い。患者の体力を、氣や薬で幾ら補っても、癌がそれを上回ることの方が多い。

 下手をすれば、患者のために補った氣を、癌が横取りして更に増殖することさえある。


 二日後の午後、フェイとパイはルオヤン国に到着した。

 ルオヤン国は、特に文化・芸術に秀でた国で、建物の外観ひとつとっても、何となく洒落た雰囲気がある。

 そんな中を、つい観光気分になりそうなパイと、ラウをどう説得しようかと頭を悩ませるフェイは、首都を目指して車を走らせた。

 まずはルオヤン国の警備隊本部に立ち寄り、挨拶をする。

 それから改めてラウに連絡を取り、自宅を訪問した。

 ラウはルオヤン国の首都に住んでいるので、とにかく一度会っておこうということになったのだ。


 さて、いよいよラウ宅の前に車を停め、入り口で呼び鈴を鳴らそうという時に、急にパイがそわそわし始めた。

「ねえフェイ、私の髪、乱れてない?」

「いえ。別に」

「ちょっと化粧、濃いかな?」

「・・・いえ、別に」

「ああっ、やっぱり、サインとか頼んじゃったら、不謹慎かなー」

「・・・別に、そのぐらいならいいんじゃないですか」付き合いきれないという顔で、フェイが呼び鈴を押した。

「あーっ!押しちゃった!もう、しょうがないなあ・・・」

「それはこっちの台詞です」


 間もなく扉が開いた。

 扉の向こうに、ラウがいた。

 2メートル近い巨体だが、筋骨隆々ではない。しなやかな竹を思わせるような体型だ。

 上品な、無地の薄茶色の、ゆったりした服。肩にやっと届くぐらいの長さの髪は、明るい茶色で、結っても括ってもいないが、邪魔にならないように、さらりと流してまとめてある。

 その容貌は、甘く涼しげではあるが、フェイのように女性的ではなく、あくまで男っぷりのよい目鼻立ちをしていた。

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