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グレイソウル  作者:
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会議・3

 ふと、フェイの視線が一点に止まり、パイがその先を追うと、・・・一本眉の男が、紫色の顔をして脂汗を流しながらフラフラと歩いていた。

 フェイは滑るように男に歩み寄ると、「すみません。ちょっとやり過ぎました」と呟きながら、男の右肩と背中を掌で、ぽん、ぽんと按じた。

 見る見るうちに男の顔色が良くなり、脂汗が引く。

「おっ・・・」目が覚めたような顔になった一本眉の男を置いて、フェイはまた滑るようにパイの側に戻った。

「・・・ねえ、フェイ」パイが小声で囁く。

「はい?」

「余計なことを喋りそうになったら、声が出なくなるような、経穴とか配穴ってないの?あったら・・・」

「ありません。研究課題としては、興味深いものがありますが・・・」


 

 そして会議の翌日。

 パイはフェイと共に、直接の上司のヤンリャン部隊長に呼び出された。

 少人数の会議室で、ヤンリャン部隊長とフェイ、パイが向き合って席に着く。

「さて、と・・・パイ。正式に辞令が出たぞ。ご苦労だが、チュアン国へ行って、フェイ君の力になってくれ」

「ふわ〜い」

「何だ、その返事は・・・まあ、気持ちは分からんでもないが・・・これが辞令だ。で、それに伴って、お前の警備隊での扱いが大幅に変わるから、説明しておこう」

「は〜い」

「・・・だから、もうちょっとシャンとしてくれ・・・お前、二階級特進するんだぞ」

「あ、そーですか」

「そうですかってお前、嬉しくないのか?」

「何言ってるんですか。二階級特進なんて、死んでからそんな階級もらっても、どーにもならないでしょ」

「お前こそ何言ってるんだ。あのな、錬武祭で殉職したら二階級特進だと思ってないか?そうじゃない。生きたままで、辞令を受けたたった今から、お前は二階級特進して、隊士長だ」

「・・・へ?」

「『へ』じゃない、『へ』じゃ・・・二等隊士が、一等隊士を飛ばして、隊士長だぞ。隊士部長の俺の、すぐ一つ下だぞ。全く、俺が隊士長になるのに何年かかったと思ってるんだ」

 途端にパイの顔が輝き始めた。「あの、それじゃ、お給料の方は・・・?」

「・・・言うと思ったよ。喜べ。規約通りに隊士長の給与が支払われるぞ。取りあえず、年収で5万ミンは確定だ」

「取りあえず?」

「ああ。この上に、フェイ君に付いて錬武祭に参加している間は、無条件で月に1万ミンの特別手当が付く」

「おおおっ!」パイは手を叩いて喜ぶ。

「ふん。ついでに殉職した場合は、更に二階級特進で隊士総長だ。俺より偉いぞ」

「えっ?いや、それはどうでもいいなあ」


「ま、そうだろうな・・・で、フェイ君だが」

「はい」

「錬武祭の・・・シバの件が片付くまでは、君は警備隊員として扱われることになる。階級は一等隊士だ。給与も支払われるぞ」

「助かります」

「えー?フェイが一等隊士?」

「そうだ。一応、パイのほうが上司という形になる」

「それはちょっと・・・私がフェイに命令することなんて、ないんじゃないかと・・・どちらかというと、私が命令される側では・・・」

「俺もそう思うよ。正直言って、警備隊側の面子って奴だ。全くの民間人であるフェイ君が、たとえ半年の経験しかないとはいえ、元から警備隊で働いている人間の上司になるというのは、ちょっとな」

「それだけ?ひょっとして、フェイには高いお給料を払いたくないとか?」

「馬鹿を言うな。フェイ君にだって、この事件が片付くまでは、月に1万ミンの手当が付くぞ。・・・あ、でも確かに階級に応じた給料については、パイより安くなるな」

「でしょ?ケチねえ」

「ケチと言うな、ケチと・・・警備隊だって、そんなに予算が豊かってわけじゃないんだぞ。・・・ま、この辺の事情は、案外パイよりフェイ君の方が詳しいかもしれんな。資料で見たが、フェイ君の義理のお兄さんは、ペイジ国で機動部隊の隊長をやってたそうだし、フェイ君自身も機動部隊の格闘訓練の講師をしたりしていたようだ」

「えー?そうなの?何だ、じゃあフェイって、純粋に民間人とは言えないんじゃないの?」

「ん?・・・どうかな」

「下手したら、私より警備隊について詳しいかもしれないよ?なのに私より階級が下?何かこう、器の小さい話よねえ」

「・・・そうはっきり言うな。一理あるだけに、身につまされちまう」


「あの・・・僕は、パイさんに協力していただければ、他のことは何も・・・要は、シバさえ倒せれば・・・」

「ああ・・・そのことだが」ヤンリャン部隊長は一瞬背筋を伸ばし、すぐに少し猫背になると、きまりが悪そうに指先でコメカミを掻いた。

「その・・・君の力に頼らなきゃならん立場で、こういうことは言い辛いんだが・・・」

「じゃ、黙ってれば?」

「うるさい。横槍を入れるな」

「だって、フェイの立場で『言い辛いんだが』なんて前フリされたら、すごく気分悪いですよ。ねえ?」

「えっ?いや、まあ、そんなことは・・・」 

「・・・いや、パイの言う通りかもしれん。すまないね。・・・いや、これは俺の個人的な意見なんだ。昨日の会議でズウグ部長も似たようなことを言ってたが・・・最初から、殺意を持ってシバと対峙するのは、止めた方がいいと思う。・・・俺の知り合いには、武術家が多くてな。その内の何人かが、門派同士の小競り合いの中で、復讐したり、されたりで・・・死んだんだ。残された者の家族は勿論だが、殺した者も、まあ悲惨なもんだ。奪った命の重みに耐えられずに、ひどい鬱状態が続いたり、逆に自分の行為を正当化しようとして、修羅道に堕ちたり。根っからの武術家でさえ、そうなんだ・・・見たところ、君はやはり、基本的には心根の優しい白仙だと思う。シバを殺してしまったら、後で心にどんな傷を負うか分からんぞ」

「・・・それでも、僕はシバと戦わずにはいられません」

「そう・・・だな。俺は、余計なことを言ったのかもしれん・・・」


(・・・重い。何だ、この空気の重さは・・・)この手の雰囲気が、パイは極端に苦手だった。

「あー、そういえば、フェイの義理のお兄さん?機動部隊の隊長ってことは、やっぱりすごく強いんでしょ?だったらほら、あれかな?武術家同士で、義兄弟の契りを交わしたとか?」額に脂汗を浮かべながら、強引に話題を変えようとする。

「シュウは・・・ああ、兄の名前です。・・・シュウは、僕とは幼馴染で・・・妹のユエの、夫でした」

「・・・あ」パイが無理に作った笑顔が凍りつく。

 ヤンリャン部隊長の視線が(お前は何を余計なことを聞いとるんだ)とばかりに、パイに突き刺さる。

「シュウは・・・ユエの葬儀の後、修行の旅に出ました。シバを倒すために・・・この5年、シュウとは一度も会っていません。今回の錬武祭には、シュウも参加すると思ったのですが・・・」

「いや、それはきっと、何か事情があるのよ。うん!」既に、パイの顔全体に脂汗が広がっていた。

 ヤンリャン部隊長は(もう知らん)という顔をして、横を向いている。

「僕もそう思います・・・次の、チュアン国での錬武祭には、シュウも現れるかもしれません」フェイはそう言って、ニッコリと笑った。


「そうそう!でもって、実行委員なんか、兄弟パワーでガーンとやっつけちゃおう!ね!」パイはここぞとばかりに調子に乗る。ヤンリャン部隊長は深く溜め息を吐いた。

「本当にすまんなあ、フェイ君。我が国の警備隊に協力できることが、こんなボンクラを貸し出すことだけなんて・・・」

「ちょっとちょっと、ボンクラとは何よ、ボンクラとは!これでも私は、一応上級の黒仙なんですよ!」

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