表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
グレイソウル  作者:
39/148

自問・2

 山か、森か・・・シュウは、シバを倒す力を得るための、修行の旅に出たのだ。

 このことは、フェイも薄々勘付いてはいた。

「シュウ・・・」他に言葉はなかった。

「頑張ってください」とも、「無理をしないでください」とも。そんなことは、考えることすら許されないような気がした。

 その日、警備隊本部のサント部長の机の上には、シュウの辞表が置いてあった。

 サント部長は、黙ってそれを破り捨てた。


 シュウはペイジ国を出て、国境沿いの山岳地帯に入り、修行に専念できる場所を探した。

 まずは、便利な都会ではない、自然の中で生きること自体が修行だ。

 シュウは数日間、野営をしながら移動して、比較的平地があり、近くに川が流れ、氣の巡りのよい場所を見つけた。

「この辺を、根城にするか・・・」シュウは荷物を降ろして野営の用意をすると、斧と鉈を取り出して、山小屋を作り始めた。長期滞在をするなら、やはりそれなりにしっかりした、壁と天井のある建物が必要だと考えたのだ。

 とはいうものの、一日で完成する筈もなく、その晩はテントで眠った。

 翌日は、まず食料の調達からだった。持参した食料が尽きかけていたのだ。

 木の実を拾い、芋を掘り出しているうちに、昼過ぎになった。午後は何本かの木を切り倒して終わりだった。

 その翌日、また午前中は食料を探した。木の実を拾い、キノコの群生地帯を見つけた。とにかく少しずつ食べてみて、毒キノコかどうかを見分けることにした。

 午後からは、山小屋作りの続きだ。

「くそっ。金氣を使えりゃ、木の伐採なんぞ、楽勝なんだが・・・」

 金氣は収斂する性質を持ち、光として発現する。力が一定の方向に安定して流れるので、物をきれいに切ったり、小さい穴を開けるといったような作業に向いているのだ。

 シュウは木氣の雷と火氣の炎しか使えないから、爆破したり燃やしたりは得意だが、山小屋作りにはあまり向いていない。

 夏の日差しの中で、シュウは汗だくになりながら木を切り続けた。


「手伝いましょうか?隊長」

 いきなり背後から「隊長」と呼ばれ、驚いたシュウが振り向くと・・・そこに、ランが立っていた。片手に数匹の魚をぶら下げている。

「ラン?何でこんな所に?」

「多分、隊長と同じ理由よ」

「・・・シバか?」

「そうよ。あんな奴、放っとけないわ」

「やめておけ。はっきり言って、お前じゃどうにもならん」

「そうかもしれない。でも、隊長の修行を手伝うことはできるわ。それで隊長がシバより強くなれば、私の力もシバを倒す力の一部になれるでしょ」

「いや、しかし・・・そもそもお前、どうして俺の居所が分かった?」

「簡単よ。奥さんのお葬式の時から、ずっと隊長は『強くなって、シバを倒して、仇を取ってやる』って顔をしてたから。で、辞表を出して行方不明になって。もう、山篭りしかないでしょ?後は国境で、隊長の足取りを確認して追いかけてきたのよ。そこら中に殺氣をまき散らしながら移動してたから、追跡は楽だったわ」


「ラン、俺はもう隊長じゃない。辞表を出したのを知ってるんだろう?」

「ああ、あの辞表?サント部長が破いちゃったわよ。隊長は今、無断欠勤扱い」

 シュウは舌打ちをした。「・・・参ったな」

「ちなみに私は、長期休暇願いを出してきたわ。ま、いつまでかかるか分からないから、そのうち私も無断欠勤になるかな」

「なあ、ラン。お前の気持ちは分かるが、俺はやっぱり一人で・・・」

「一人で修行するのが、目的なの?」

「・・・え?」

「違うでしょ。目的は、シバより強くなること。そのために、自然の・・・山の中で修行するのは分かる。でも、だからって山小屋作りばかりに時間を取られてちゃ、どうしようもないでしょ?合理的にやれることは、合理的にやらなきゃ。・・・私は金氣が使えるから、材木を切り出すのは速いわよ」

「しかし・・・」

「シバは、隊長ひとりの仇じゃないのよ」

「・・・」

「第九機動部隊の仲間も、ずいぶん殺されたわ。・・・隊長は、私じゃどうにもならないって言ったけど、私は私で、強くなることを諦めてはいないの。隊長はどうでも、私は私で修行するわ」ランはそこでニヤリと笑った。

「だから、隊長にも手伝ってもらうわよ」

「・・・え?」

「この先に、私の山小屋を作ることにしたの。もう必要な材木は切ってあるし。でも、丸太を組んだり積み上げたりするのは、男の力があったほうが助かるもの」

「あのなあ・・・」

「その代わり、この魚は山分けしましょう。隊長は、釣りの道具を持ってこなかったの?」

「持ってきてるよ。ただ、しばらくは肉や魚を断って、氣を澄まそうと思ったんだ」

「あ、そう。じゃ、魚はいらない?」

 シュウは腹に手を当てて、溜め息をついた。「・・・いや、いただこう」



 そしてフェイもまた、シバを倒すことを考えていた。

 彼はペイジ国に留まり、白仙としての日常を送りながら、一人で修行をしていた。ただ・・・修行といっても、その中心は瞑想だった。

 フェイはシュウに、「僕がいくら手足を出して攻撃しても、シバを倒せない」と言った。それは嘘ではない。

 だが、それは言い換えれば「とりあえず手足は出せる」という意味でもある。

 つまり、基本的な身体能力や攻防の技術に関しては、もう少し無極之氣を練り込んで高めれば、何とかなる目処があった。

 問題は、フェイの攻撃力の低さだ。

 フェイは、無極之氣を練って身体能力を高めるだけでなく、身体操作を工夫して・・・均衡を保つという極意のひとつに辿り着き、その小さな体には不釣合いな攻撃力を持っていた。

 更に医術を応用して、的確に相手の急所に点穴し、氣の流れを断ったり乱したりすることで、より大きなダメージを与えることもできた。


 だが・・・(それでも、シバには通用しない)と、フェイは考えていた。それほど、警備隊本部を襲撃するシバの映像は、強烈だった。

 映像の中のシバは、殆んど打たれてはいない。あの黒い氣を纏う前に、押さえ込まれたり、膝蹴りを幾つかもらっていたようだが、あれだけ人が密集していては、それほど威力のある膝蹴りではなかった筈だ。

 ましてや、黒い氣を纏ってからは、更に身体能力が上がっていた。

 だから、シバの耐久力の上限は分からない。身のこなしなどから、最低でもこの位の耐久力はあるだろう、と推測するだけだ。

 その最低ラインの耐久力ですら、今のフェイにとっては「鉄壁」だった。

 今のままで、地道に筋力を強化したり、氣を練るだけでは・・・とてもシバを倒すだけの攻撃力を、得られそうにはなかった。


(何とかして、一足飛びに力を得ないことには、埒が明かない)そう判断したフェイは、魂と交渉することを決意した。

 仕事を終えて自宅に戻ると、通常の練習に加えて、数時間の瞑想を日課にした。

 フェイは毎日、自分を見つめ、自分を掘り下げ、自分の深い部分を探り続けた。

 無茶な瞑想だった。

 本来の瞑想は、ただ今現在に心身の焦点を合わせる・・・それだけで充分な効果があるし、それが安全なやり方だ。フェイのように、自己の内面に埋没することのみに集中し過ぎると、内外のバランスが崩れてくる。

 実際、フェイは瞑想を始めてから半月もすると、日常生活の現実感が薄れていくのを感じていた。

(このままではいけない。魂と交渉する前に、廃人になってしまう)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ