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グレイソウル  作者:
37/148

襲撃・10

「俺のことはどうでもいい。お前のことだ。何故、こんなことをした?・・・一体、お前に何があったんだ?」

 ファンズンは、階段の手摺りを叩いて怒鳴った。ぽん、と手摺りが情けない音を立てた。

「何が、あった・・・か、だと?色々じゃよ。色々・・・だが、見ろ。そのお陰でワシは、これだけの力を手に入れたのだ」

 シバの中で、ファンズンに対する優越感(多分に、社会的な部分で感じていた劣等感の裏返し)が、膨らんでいた。

 それはシバの闇を、より濃密にした。その闇の中に、シバは・・・魔の囁きを聞いていた。

 その魔は、仲間を欲していた。シバはその欲求に応えようと、手頃な闇を、魔を探した。

(そうだ・・・闇など、いくらでもあるではないか)シバは、地中の奥深くに意識を沈めた。地の底の闇には、おびただしい数の魔が巣くっていた。

 地底の魔と、シバの中の魔が、次第に同調し、共鳴しつつあった。



 ユエとジピンは、怪我人を抱えてフラフラしているところに警備隊員達が飛ばされ、ぶつかってきたので、堪らずに転倒していた。

「ったった・・・ユエ君、大丈夫か?」

「大丈夫、ちゃんと生きてます・・・痛っ!」

 二人共、怪我人を抱えたままの無理な体勢で転んだために、氣で強引に上昇させた筋力で、ギリギリまで負担をかけていた腱や靭帯が、一気に限界にきていた。

 もはや、自分一人が立って歩くだけでも辛い状態だ。

「とにかく・・・ユエ君、ここから離れるんだ。何だかよく分からんが、あの爺さん、ファンズンさんとの話に夢中だ。今のうちに・・・」そう言ってジピンが、怪我人の一人を抱えながら立ち上がる。

「はい」ユエも、怪我人の一人を担いで立とうとした。

「おいこら、無茶をするな。怪我人は置いていけ」

「ジピン先生が、その人を降ろしたら、私もそうします」

「あーもうっ・・・分かったから、早く立て。・・・ん・・・何だ、これは?」

「・・・え?あ・・・床が、黒く・・・暗く?」


 闇だった。

 シバを中心にして、広間の床のほぼ一面が、闇に覆われていた。

「ああ・・・はっはぁ・・・」シバは、笑いとも溜め息ともつかぬ声を上げながら、ゆっくりと右拳を握った。

 その、右拳を・・・「フン!」と叫んで、足元の床に叩き降ろす。

 その瞬間・・・シバの闇の魔と地中の闇の魔が、ひとつに溶け合い、絡み合って吼えた。

 その咆哮は闇の柱となって床から跳ね上がり、警備隊員や、ジピンや、ユエを飲み込んで、天井に叩き付けた。

 シバは満足そうな笑みを浮かべながら、「よい技だ。『魔吼砲』と名付けるか」と、悦に入った。

 だがその呟きは、警備隊員達が天井から床にボトボトと落下する音にかき消されて、シバ自身にも聞こえていなかった。

 拳を床から離し、ゆっくりと立ち上がったシバの周囲に、もはや戦意を持つ者はいなかった。甲種装備を装着している者の中には、かろうじて意識のある者もいたが、そうでない者の殆んどは即死か重態だった。


 シバは、ファンズンを見た。彼は腰を抜かして、階段に座り込んでいた。

「この戦争は、ワシの勝ちだな」シバは、右の親指で自分を指しながら吼えた。

「戦争?こんな、ただの・・・虐殺・・・」ファンズンは、理解できないという顔をした。その表情が、またシバの心を満たした。

 シバは踵を返し、悠々と歩いて本館から出た。

 つい先程までは、眩しく輝いて見えた街並が、急にちゃちでつまらない物のように思えた。すれ違う人は皆、無意識のうちにシバとの距離を大きめに取っていた。

 警備隊の支部からの応援や、救急隊の車が、警備隊本部を目指して走っていた。


 まだ、昂っていた。まだまだ戦えそうな気分だった。

 だが、同時に苛立ちも感じ始めていた。

「ワシは、強くなった。・・・だがその分、ワシを満足させられる者を探すのは、より困難になった・・・」シバの心の中で、魔が哭いていた。

「魔よ、お前も悲しいのか。・・・そうだ。強くなるというのは、孤独になるということだ。だが、そう言って諦めてしまうのもつまらん。何とかして、強者を見つけねば・・・」


 その時、魔がシバに囁きかけた。「・・・そうか。・・・そうだな。・・・強者がいないのなら、作ればよいのだ。この、ワシの黒い氣を取り込めば、凡百の武術家でも、つい先刻までの・・・黒い氣を得る前までの、ワシぐらいの強さになる筈じゃ。うむ。人里もいいが・・・山や森の方が、かなりの実力者がおるじゃろう。その中には、ワシと同じように、闇や魔を抱えた者もおる筈じゃ」

 シバは、黒い氣の質を確認しながら考え続けた。「この氣で、強者を促成するのなら・・・もう少し、練り込む必要があるのう。今のままでは、ワシ以外の者には、この氣はあまりにも刺激が強過ぎる。もっと練り込んで、調整をせねば・・・だが、魔の力をもって力を引き出す氣となれば、危険を完全に取り除くのは、無理じゃろうな」シバはそこで、ニヤリと笑った。

「もし、魔を飼い慣らすだけの器量のない奴が、この氣を纏えば・・・魔に食われるじゃろうな。まあ、とにかく試していけばよい・・・」

 そしてシバは、再び山中に消えた。

 シバが錬武祭の開催を告げるために、公に姿を現すのは、この時から5年後のことだ。



 襲撃・了

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