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グレイソウル  作者:
36/148

襲撃・9

「おい、怪我人を下げろ!・・・奴の武器は壊れたぞ。囲みを縮めて、制圧しろ!」

 待ってましたとばかりに、囲みの先頭の10数人が雪崩式にシバに飛びかかる。その後から、後から、他の警備隊員達も続いていく。

「んーぬっ・・・」四方からの圧力に、遂にシバが悲痛な声を洩らす。

 だが、それは肉体的な苦痛ばかりが原因ではなかった。

(こ奴ら全員、一人一人は・・・とんでもなく、弱い)シバには、そのことが納得できなかった。

 建設現場の喧嘩で見かけた、シュウのような男がゴロゴロしていることを期待して、わざわざ警備隊本部に乗り込んだのだ。それが・・・。

(これなら、ひょっとしたらあの男が、警備隊で最強なのではないか?あんな若造が?警備隊の戦闘能力は、こんなに低いのか?)シバは考えているうちに、腹が立ってきた。

(強い奴と、力と技をぶつけ合って、・・・それでなお負けるなら、まだ仕方がない。だが、こんな・・・大した力もない、数と装備だけを頼みとするような連中に・・・倒されるというより、押さえ込まれるなど・・・何という、屈辱か)


 その屈辱に追い打ちをかけるように、警備隊員達はシバの体をうつ伏せに押し倒して乗りかかった。シバの肋骨がひしゃげ、背骨が軋んで息が詰まる。

 何人かの警備隊員は、シバの顔や脇腹にコツコツと膝蹴りを入れている。シバの両腕が、背中に回されようとしていた。

 シバは思うように呼吸ができないので、氣を練れない。氣を練れなければ、いかにシバといえど、素の筋力だけでこれだけの人数を撥ね返すことは不可能だ。

 頭に血が昇り、耳の奥で拍動がこだまして、視界が赤黒く染まっていく。

 シバの中で、理性が消えつつあった。

(ワシはこのまま、力を存分に試すことなく終わるのか?)このことが、まず悔しかった。だが、それだけではない。

(戦争がないからといって、治安を守る者達の戦闘能力が、こんなものでよいのか?昔の・・・ワシと仲間達が守った、この国の・・・結果が、これか?)

 シバの心を、闇が覆い尽くそうとしていた。



 警備隊員達がシバに飛びかかった瞬間、ジピンは「よし、行くぞ」と叫んで廊下の陰から走り出し、ユエもそれに続いた。

 とにかく、まだ息のある者を運び出すつもりだ。

 ジピンもユエも氣を練って、一時的に身体能力を上昇させる。いわゆる「火事場の馬鹿力」を、意図的に出しているのだ。これでユエでも、一人で大の男を担ぎ上られる。ジピンなどは一度に二人の怪我人を抱えて歩いていた。

 とりあえず、三人を修羅場から廊下の陰まで運ぶと、ユエは「じゃあジピン先生、手当てをお願いします」と言って、また怪我人を運びに走った。

 泣きながら走っていた。(一体何なのよ、あいつは・・・)まるで小山のような大きな固まりになっている警備隊員達の、その中央にいる筈の・・・年老いた暴徒に、ユエは激しい怒りを感じていた。

 その怒りを氣力に変え、更に筋力を上昇させると、今度は二人の生存者を担ぎ上げた。だが、上昇したのは所詮は筋力だけなので、腱や靭帯が悲鳴を上げ始めた。

「おいおいユエ君、無理するなよ!」

 ユエが声のしたほうを見ると、こちらも二人の怪我人を抱えたジピンがいた。彼もこういう力仕事が得意なタイプではないから、もうコメカミに青筋が浮き出ている。

「ジピン先生こそ、ふらついてますよ」

「面目ないな・・・とにかく、ここから離れよう」

 その時。

 警備隊員達の体が集まってできた小山が、グラ、と揺れた。



(嫌だ。・・・嫌だ。こんな形で負けとうはない。こんな奴ら、一人ずつなら・・・装備が同じなら・・・いや、戦場で、そんな言い訳は効かぬ・・・ならば、ワシ自身に力がないのが悪いのか?力だ・・・嫌なのだ・・・ワシが、後を託した連中が・・・こんな、腑抜け揃いで・・・それが許せん。そんな連中に押さえ込まれとる、ワシ自身も、許せん)

 そして・・・シバの心を、闇が覆い尽くした。

 その髪と目が、闇色の漆黒に染まる。

 それを見た警備隊員が「なっ・・・ンだ、こいつは?」と呟いた。

 その呟きをかき消すように、シバが凄まじい身震いをした。その身震いで、シバを固めていた警備隊員達の「小山」が、弾けて四散した。

 シバが、ゆっくりと立ち上がる。その周囲を、黒い嵐が舞っていた。

 シバ自身の命名もまだだが・・・初めての、黒鎧氣の発動だった。


「んぶ、ふ・・・ははっ・・・いい、いいぞ。力が、漲る・・・」シバは自分の両掌を見つめ、氣の脈動に心を弾ませ、湧き上がる力に酔っていた。

 若返ったとか、そういうレベルではない。別次元の力だ。

 溢れる力に歓喜するシバの周囲で、警備隊員達が立ち上がり始めた。やはり、甲種装備を装着した者の回復が早い。

「くそっ・・・そんなこけおどしに、乗るかっ・・・」

 そう呻きながら歩き出した警備隊員に、シバは・・・つ、つ、と歩み寄り、分厚い鎧の胸に、右掌で軽く触れた。

 それだけで、隊員の体がビクンと痙攣し、目から、鼻から、口から、耳から・・・血を噴き出して、その場に崩れ落ちた。

「うむ・・・よし」シバは右掌の状態を確認するかのように、指を曲げ伸ばしした。

 それを隙と見た別の男が、シバの背後から走っての靠を浴びせる。

 甲種装備の肩当ての部分をぶつけたから、威力は抜群・・・の筈なのだが、シバはピクリとも動かない。

 シバはいきなりマントを翻すと、靠をぶつけてきた男に向かって左の手刀を一閃させた。男の背後で、ゴトッという音がする。振り返って見ると、たった今シバにぶつけた肩当てが、八割がた切断されて吹っ飛び、壁に当たって落ちるところだった。

 ・・・いや、斬られたのは肩当てだけではない。男が恐る恐る右肩に目をやると、残り二割の大きさになった肩当ての中に、肉と骨を削り取られた己の肩があった。

「わあああっ!」

 シバは絶叫を聴きながら、散歩でもするかのように倒れている者を踏み、立ち上がってくる者を打った。


「シバ・・・か?」ふと、遠い昔に聞き覚えのある声がして、シバはそちらを見た。

 階段の中程に、見覚えのある顔があった。

(あいつは・・・軍で同じ部隊だった、ファンズンか・・・。そうだ。あいつは軍が無くなってからは、警備隊で働いていたのだったな)

「・・・ファンズンか?」

「そうだ。・・・シバなのか?」

「ああ・・・お互い、老けたな・・・いや、お前は老けただけではない。弛んだな」シバは毒づきながら、ク、ク、と笑った。確かにファンズンの体には、乙種装備の胴当てからはみ出そうなほど、贅肉が付いていた。

「お前は・・・部隊の中でも、特に軟弱な奴だったな。だが、そのお陰で・・・お前はあれから、日の当たる場所で働き、安定した生活を送ってきたということか」

「何を言ってるんだ、シバ・・・何故、こんなことを・・・」

「・・・だが、その代わりにお前は、大きなものを失ったのだ。昔のお前は、特殊部隊の中では軟弱だったが、まあそれなりに逞しくもあった。それが今ではどうだ。その体、豚以下じゃぞ」

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