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グレイソウル  作者:
35/148

襲撃・8

 この時点までシバは、鉄鞭を打撃に使っていない。せいぜいが、相手の体勢を崩すのに使う程度だ。

 シバの実力なら、鉄鞭に氣を込めれば、もっと手早く多人数を始末できるのだが、まだまだ後から加勢が来るのを見越して、氣も鉄鞭も大事に使うことにしたのだ。

 剣や刀と違い、鉄鞭は刃こぼれなどがないから耐久性には優れた武器だが、それでも氣をこめてガンガン打ち込んでいれば、はずみで折れかねない。

 それならそれで新しい鉄鞭を奪えばよいのだが、そのために一瞬の隙ができるのは避けられない。

 また、わざと氣での攻防をしないことで、警備隊が、シバは氣を武器に込められないと勝手に誤解してくれれば、その時点でシバにとっては隠し玉が一つできることになる。


 そして・・・シバの読み通り、四方から、更なる加勢の足音が近付いていた。

 シバの中で、興奮が甘酸っぱいものをまき散らしながら纏わり付き、這い回っていた。その興奮に突き動かされるように、シバは次の獲物を求めて跳ねていた。



 ユエが医務室の拡声器から「緊急事態発生!」の言葉を聞いたとき、彼女は、訓練で軽傷を負った警備隊員の治療をしていた。背中の数ヶ所に打撲傷があって、その炎症がひどくならない程度に氣を当てていたのだが・・・「急行せよ」の声が響いた途端、ユエも怪我人も、ピクリと跳ねるように拡声器を見ていた。

「行かなきゃ」怪我人が立ち上がる。

「あの、痛みは・・・?」

「うん、だいぶいい。これなら普通に動けるよ。・・・ありがとう」素早く上着を着て、医務室から飛び出した。

「ジピン先生」ユエは医務室の奥で書類整理をしている、警備隊専属の白仙に声をかけた。

 このジピンという男、いかにも白仙といった風貌で、身長こそフェイより高いが、細身で華奢なことにかけては、フェイといい勝負だった。

「ああ・・・僕達も行った方がよさそうだな」その細い手で、治療用具の入った鞄を掴みながら立ち上がる。

 そのまま足早に医務室を出ていくジピンの後を、ユエが追った。


 広間に近付くにつれて、ユエの耳に気合と怒号、何かが派手にぶつかったり、倒れたりする音が、刺すように聞こえてきた。

 廊下の陰から、そっと広間の方を覗く。

 そこには、殺氣をばらまきながら暴れるシバと、シバを囲みながら、何もできずに打ちのめされていく警備隊員達がいた。

 既に床には20人以上が倒れている。

「ひどい・・・」ユエが呻いた。

 転がっている警備隊員の半分は、間違いなく死んでいた。だが、まだ生きている者もいる。

 ユエが生存者を助けようとして走り出しかけたのを、ジピンが慌てて止めた。

「おいおい、せっかちだな、君は・・・」

「でも、早くしないと」

「今、君みたいな戦闘能力のない者が出ていったら、それこそ彼らの足手まといだよ。ま、僕も似たようなもんだが・・・」

「じゃ、どうするんですか?」

「だから、落ち着いて耳を澄ませて。五感を研ぎ澄ませて、状況を観察し、把握する。白仙の基本だろ」

 そう言われてユエが耳を澄ませると、四方からおびただしい数の重厚な足音が近付いていた。

「聞こえるだろ?すぐに加勢が来る。多分、甲種装備を装着するのに時間を食って、到着が遅れたんだろう。あの爺さんが何者か知らんが、これで終わりだ。加勢の連中が、あいつを押さえ込んだら、跳び出して怪我人を運ぶぞ。いいな?」

「はい」


 ジピンの言葉が終わらぬうちに、階段から、廊下から、正面入り口から、鎧兜に身を固めた、甲種装備着用の警備隊員達が、広間になだれ込んできた。

 通常の胸当て、籠手、脛当て程度の丙種装備とは比ぶるもなく、丙種よりは大き目の胴当てに、肩当ても付いた乙種装備よりも、更に防護範囲を広く取ってある。

 勿論、耐衝撃性も抜群に高い。

(ふん。これが警備隊の甲種装備か。・・・昔、ワシが軍で使っとったものに似とるのう・・・)

 シバは50人近い人数に囲まれても、慌てていなかった。このぐらいの装備なら、戦場で何度も相手にして、倒したことがあるからだ。

 だが、警備隊の方も士気を盛り返していた。

「遅いぞ!」急行せよ、の指令を出した男が怒鳴る。

「すまん!」「待たせた」「あいつか?」方々から返答が響いた。

 上がり過ぎた士気に当てられて、警備隊員達は興奮状態になっていた。

 加勢の中で先頭を切っていた警備隊員の中でも、特に血の気の多い者が、床に転がっている仲間の死体を見て我を忘れた。

「おおおおっ!」甲種装備を装着しているという自信もあったのだろう。躊躇せずに、シバに向かって突進していた。

 だが、あまりにも工夫のない、正直過ぎる突進だった。

(威勢のいい奴だ。ひとつ、度肝を抜いてやるか)

 シバはニヤリと笑いながら、突進に合わせて右足を半歩踏み込み、右拳を鎧の胸に当てて、勁力を徹した。

「ぐっ・・・は」突進男が声と空気を洩らしながら、5メートルばかり吹っ飛ぶ。その顔は苦痛に歪んでいたが、それでも彼は膝を付きつつ無事に着地して、すぐに立ち上がっていた。

 

(何?吹っ飛んだ?)シバは驚いていた。吹っ飛ばすつもりなどなかったのだ。

 シバの放出した勁力は、鎧を貫通し、体内に浸透して内臓を破壊し、打たれた男は、その場で崩れ落ちる筈だったのだ。

 それが吹っ飛んだということは、鎧がシバの勁力を跳ね返したということだ。

(うむっ・・・戦場では、この拳で重装備の兵卒も殺してきたのだが・・・技術の進歩というやつか。防具の性能は、格段に良くなっとるようだな)

 実際、戦争がなくなってからは、人を傷付ける兵器よりも、傷付けられないための防具の開発が盛んになっていた。

 兵器よりも、盾のような存在になることが警備隊の理想だからだ。


 だが警備隊員達は、シバ以上に驚いていた。

 甲種装備を装着してなお、吹っ飛ばされてダメージを与えられたのだ。

 しかし、このことは隊員の士気を下げはしなかった。むしろ、頭に昇った血が下がり、冷静さを取り戻していた。

 シバに打たれた男が、ダメージを負いはしたものの命に別状もなく、すぐに立ち上がるのを見たのが大きい。


「おい!見たか!あの爺さんは普通じゃない!慎重に囲め!」

 甲種装備をつけた者達が前に出て、両腕で防御姿勢を固めたまま、シバを囲む。大ぶりに作ってある籠手は、左右を揃えると、もう小ぶりな盾だ。

 そのままジリジリと、囲みを小さくしていく。

(うぬっ・・・こうなったら、やむを得ん)シバは静かに呼吸を整えると、手にした鉄鞭に土氣を込め始めた。土氣の「引力」で、鉄鞭を超重量兵器に仕立て、甲種装備を力で叩き伏せるつもりなのだ。

 鉄鞭の周囲の空気が、引力の歪みで揺れ始める。

「おい、気をつけろ!鉄鞭に土氣をこめてるぞ!」シバの作戦に気付いた警備隊員が叫ぶ。

 それと同時に、シバは正面の警備隊員に打ち込んでいた。

 ガツン、という音に少し遅れて、「ぎゃあっ」という悲鳴が響いた。

 シバに打たれた男は、鉄鞭を左の籠手で受けていた。その左前腕は、中央から90度に折れて曲がっていた。皮膚と肉が裂け、骨がとび出し、血が噴き出している。

 だが、シバの持っていた鉄鞭も折れていた。(何と、もろいっ・・・武器のほうは、性能が落ちとるぞ)ここに来て、ようやくシバは焦りを感じ始めていた。

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