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グレイソウル  作者:
34/148

襲撃・7

 だが、これはシバの誘いだった。

 武装した三人の職員の内、シバの一番近くにいたのが、このカウンターの内側の男だった。だからシバは、わざとこの男に背中を向けながら受付の職員を殺したのだ。

(これで、奴の頭に血が昇る。ワシの背後を取ったと勘違いして、安易にカウンターを跳び越えてくる)と、シバは作戦を立てていた。

 こと戦いそのものについては、あくまでも冷静さを失わないシバにとって、背後の闘氣から男の動きを読み取るのは、造作もないことだった。

「焦って跳ぶな。空中では身をかわせんぞ」シバは呟きながら、右手一本で逆立ちして、左足を蹴り上げた。

 その蹴りが空中の警備隊員の腹に、カウンターで決まった。警備隊員は、口から血を吐きながら真上に吹っ飛び、天上に叩きつけられた。

 シバは降り注ぐ血を器用に避けながら立ち上がり、警備隊員の手から落ちた鉄鞭を、空中でキャッチした。


 今や、シバの全身から殺氣がほとばしっていた。

 民間人の数人が、殺氣に当てられて腰を抜かし、床に座り込んだ。

 あちこちで悲鳴が上がる。

 書類整理をしていた他の職員も、全員が立ち上がって身構えた。

 武装した職員の一人が、伝声器に駆け寄りながら、カウンター内の職員に叫ぶ。

「チョウ、民間人を裏口へ誘導して、非難させろ!急げ!」

「応!」チョウが駆け出す。

 その動きを確認するより先に、伝声器を掴んだ武装職員は、唾を飛ばして叫んだ。

「機動部隊、捜査班に関係なく、本部内の総員に告ぐ!緊急事態発生!直ちに武装して、本館一階の広間に急行せよ!甲種装備が望ましいが、迅速さを優先する!急いでくれ!」伝声器を通して、男の怒鳴り声が本部全体に響き渡った。

 武装職員が伝声器を置いた時には、既に鉄鞭を持った10人ほどの警備隊員が、シバを取り囲んでいた。

 シバは体が熱くなるのを感じていた。だが、頭は冷え切っている。

 その冷めた頭で、伝声器に怒鳴っていた男の対応を採点していた。

(ふん、50点だな。ワシが只者でないことを見抜き、総員を招集したのはいい。甲種装備を示唆したのも、悪くはない。だがそれなら何故、民間人の誘導に、職員を一人割いたりするのだ?そんなものは放っておいて、一人でも多くの人員で、ワシを・・・敵を集中撃破するべきだろうが)

 シバはそんなことを考えながら、これから始まる暴力の予感に酔い始めていた。


 しかし、シバを取り囲んだ警備隊員達は、中々攻めてこない。かといって、シバの殺氣にたじろぐ様子もない。

(応援が来るのを待っておるな。今はとにかく、ワシを逃さないことだけに集中しておるようだが・・・10人やそこいらでは、ワシを取り押さえられんと、ちゃんと分かっとるということか)

 間もなく階段の上方や、入り口の扉の向こうから、地響きのような足音が近付いて来た。

(もう応援が来たか。このままで、あちらの人数だけが増えるのは、ちと厄介だの)そう思ったシバが後方に跳ねるのと、扉が勢いよく開くのが同時だった。

 シバの跳ねた方向に立っていた警備隊員が、咄嗟に鉄鞭を振り回す。

 シバはこの警備隊員に背中を向けたままで、その攻撃を斜めにかわし、左肘を脇腹に入れた。

「ぐぅ」という声を洩らしながら、警備隊員が体を折り曲げて崩れる。

 シバはその背後に滑り込んで襟首を掴み、引き摺りながら数メートルほど退いて、囲みの外に出た。


 開け放たれた扉の方を見ると、屋外の警備をしていた職員が、なだれ込んで来ている。その中には、シバを案内してくれた、親切な男もいたが・・・良心の呵責など、暴力の甘い闇に塗り潰されるだけだった。

 だが実際、階段からも廊下からも、続々と応援が駆けつけて来て・・・迅速さを優先したために、乙種や丙種などの軽装の者ばかりだったが、それでもこれで警備隊側は40人近い人数になった。

 シバは、肘打ちを食らって血を吐きながら苦しむ男の襟首を、背後から掴んで持ち上げた。この男を盾か餌として利用するつもりなのだ。


 そして警備隊員達は、冷静だった。仲間を人質に取られても、闇雲に突っ込んではこなかった。少しずつ囲みの輪を縮めながら、丁寧に間合いを詰めてくる。

 何人かの隊員が、しきりに目配せをし合っていた。

(二〜三人で、時間差をつけて攻撃してくるつもりだな。・・・問題は、誰が囮で、誰が本命か、だの・・・)

 シバは感覚を研ぎ澄まし、氣配を読んだ。

 いきなり、シバの正面の男が、氣弾を撃ちながら突っ込んでくる。

(ふん。仲間を盾にされている上に、これだけ味方が密集した場所で、本気の氣弾など撃てる筈がない)シバは氣弾には構わず、氣配を読むことに専念した。

 すると・・・左方で、いきなり闘氣が膨らむのを感じた。

 迷わずその闘氣めがけて、盾兼餌の男を投げつける。

「うおっ・・・と」という声を上げ、闘氣の主が飛んできた男を受け止めるのと、シバの体に氣弾が直撃するのが同時だった。だが、ダメージはない。

(やはりな。氣弾も、それを撃ちながら突っ込んでくるのも、囮だ。そして・・・)読みが当たっている分、シバには余裕がある。

 逆に警備隊の方は、シバが人質を簡単に手放したことで、一瞬の戸惑いを見せた。

 シバの左にあった闘氣が、急速にしぼんでいく。代わりに背後から、針先のようにか細く、しかし鋭い殺氣が滲み出てきた。

「シッ!」気合一閃、シバは背後の殺氣目がけて裏拳を振った。

 ぽきん。

 枯れ枝が折れるような音がした。

 シバの背後で、警備隊員の一人が鉄鞭を振りかぶっていた。

 その体はシバのほうを向いていたが、顔はシバの裏拳を食らって、真後ろを向いていた。

 氣弾も、左方でいきなり膨らんだ闘氣も、この男の殺氣を隠すための囮だったのだ。


 シバの動きは止まらない。

 氣弾を撃った男を目がけて滑るように突進しながら、左手に持った鉄鞭を振り上げる。

 その鉄鞭を受けようと、男は反射的に自分の鉄鞭を持ち上げた。

 シバはその鉄鞭に、自分の鉄鞭を・・・ぶつけるのではなく、柔らかく粘りつかせてから、勁力を徹した。

 男は急に自分の体が重くなったように感じて、ガクンと膝をつく。

 その脳天を狙って、シバは右掌を打ち下ろした。

 ベタン、という音と、ゴキゴキ、という音が同時に響いて、男の首が胴体にめり込む。

 そしてまたシバは、その男の襟首を掴んだ。新たな盾、新たな餌として利用するため・・・だと誰もが思った瞬間、シバは、首が胴にめり込んだ死体を、水平方向に放り投げた。

 そして素早く周囲を見渡して・・・宙を舞う死体に、特に意識を奪われている者を選んで突進し、胸に靠(体当たり)を入れた。

 靠が入った瞬間、この男はシバの動きが全く見えていなかった。あっと思った時には息が詰まり、体が宙を待っていたのだ。

 そのまま、背後の警備隊員に激突する。勿論そうなるように、シバが飛ぶ方向を調節したのだ。


「うわあああっ!」興奮した別の警備隊員が、シバに突っ込む。釣られて、もう一人がシバを挟む形で跳び出す。

「おい、待て!」指揮官らしい男の制止も、二人の耳には入らない。こうなるとシバの思うツボだ。

 シバは、先に突っ込んで来た男のほうへ僅かに移動しながら、殆んど腹這いになるくらいに身を沈めると、膝に粘り付くような靠を当てる。

 興奮した男には、シバがいきなり視界から消えたとしか思えなかった。

 そう思った時には、もう前のめりになって飛んでいた。そして、自分に釣られて跳び出した男と正面衝突して、床に転がった。

 これも、そうなるようにシバがタイミングを計ったのだ。

 シバは身を起こしながら、二人が倒れたのを確認すると、すかさず間合いを詰め、どん、どん、と機械的に二人の首を踏み折った。

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