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グレイソウル  作者:
26/148

口論・2

(あーっ、兄さんもシュウも、早く来ないかな)少しイライラしてきたユエは、手荷物を膝の高さで振り回しながら、眉間に皺を寄せた。

 ・・・そこへちょうど、フェイとシュウが現れた。

 シュウが(参ったなあ)という顔をする。

 ユエはユエで(参ったなあ)だ。

(あーもう、何でこんな仏頂面してる時に・・・)と思いつつも、「お腹が空いて機嫌が悪かっただけ」などといちいち説明するのも馬鹿馬鹿しい。

 かといって、昨日のイライラをまだ引きずっていると思われるのも・・・まあ、多少は引きずっているが・・・シャクに障る。

 フェイのほうはといえば、「おはよう、ユエ。・・・まだ半袖は涼しいでしょう」と、相変わらず淡々としている。

「ちょっとね」ユエは返事をしながら、シュウの視線から顔を背けるようにして食堂の扉を開けた。

 途端に油や香辛料の匂いが鼻を刺激する。

 空腹で心がはやっていたユエは、足早に店内へ滑り込み、それを見ていたシュウは、置いてきぼりをくらった飼い犬のような顔をした。

 フェイは何も言わずに、ユエの後に続いて・・・さり気なく、ユエとシュウの間で妙な具合にからまっている氣をほどいた。

 ・・・すると、まるで金縛りが解けたかのように、シュウの動きが回復した。


 三人はテーブルに着くと、フェイとユエは饅頭とスープ、シュウは御飯と魚の餡かけ、それに青梗菜と人参の炒め物と、茄子と挽肉の煮物を注文した。炒め物と煮物は三人で適当に分ける。・・・このメンバーでの朝食は、大体いつもこんな感じだ。

 料理が運ばれてくると、三人はとりあえず食事に集中した。とにかく全員空腹だったのだ。


 食事が済み、お茶を飲んで一息ついたところで、最初に口を開いたのはフェイだった。

「さて・・・そろそろ話してもらいましょうか」

「んっ?俺か?」

「はい。・・・ユエと何があったんですか?」

「いや、まあ・・・」

「練習している時から、薄々感じてはいたんです。今日のシュウは少しおかしいと。・・・それが、ユエに関することだと。でも、それをユエのいない所で聞くのは不公平だと思ったので、今まで黙っていました。・・・それとも、ユエに聞いたほうがいいですか?」

 唐突に振られて、ユエは少し慌てた。

「えっ?うん・・・」

「何かあったんでしょう?」

「ちょっとしたことよ」ユエが口ごもる。

「大したことじゃない」シュウが割って入る。


 フェイは軽く頷いた。

「そうですか。・・・しかしまあ、人間というのは勝手なもので」

 ここでフェイは一度口を閉じ、天井に目をやって言葉を選んだ。

「秘密を持っているほうは、『ちょっとしたこと』なのだから、黙っていても構わないと思い、秘密を聞きたいほうは、逆に『大したことじゃない』のなら、言ってくれればいいと思うものです」

「そうかもね」ユエがクスッと笑う。

「こういう場合、両者の関係が、それほど親密でないのなら、聞かない、言わないほうが良いかもしれません。しかし、それなりに気心の知れた間柄であれば、多少の厄介ごとについては・・・いっそ情報を共有してしまうほうが、お互いに楽なものです。少なくとも僕達は、そういう信頼関係を作ってきたと思うし・・・シュウもユエも、本心では喋ってしまいたいような・・・僕には、そう見えます」

「・・・なあ、フェイ」テーブルに両肘をついたシュウが、フェイを僅かに見上げる。

「はい?」

「お前、やっぱり白仙は辞めて、警備隊員にならねえか?お前ほど武術ができりゃ、すぐに機動部隊で活躍できるし、捜査官になったら、容疑者の取り調べも上手くやるだろう」

「・・・そういう冗談は、無しにしましょう」

 フェイには冗談にされてしまったが、シュウは半分以上本気だった。そもそも、シュウがフェイを警備隊に誘うのは、これが初めてではない。それほどシュウはフェイを買っているのだ。


「・・・卵よ」ク、ク、という笑い声に続けて、ユエが呟いた。

「卵?ですか?」フェイはユエを見て、「卵」の意味をつかもうとした。

「昨日の朝飯だよ」シュウも乗り始めた。

「昨日は・・・ユエが朝飯を作ったんだ。飯を炊いて、スープと、おかずと。・・・で、スープは卵スープで、おかずが卵焼きだった」

「うん・・・それで?」フェイが続きを聞こうと、身を乗り出す。

「それだけよ」ユエがまたクスクスと笑った。

「そうだ」シュウも釣られて笑う。

「どうも、話が見えないんですが・・・。どこに問題が?」

「問題だろ?スープもおかずも卵だぞ。卵焼きが食いたけりゃ、スープは海草か野菜のにするとか、卵スープが良けりゃ、おかずは野菜炒めにするとか、魚を焼くとか・・・味にしろ栄養にしろ、その方がバランスが取れるだろ」

 シュウは一人暮らしをしていた頃、かなりマメに自炊をする男だったのだ。

「・・・しかし、たまに卵をたくさん食べたからといって、すぐに栄養のバランスが崩れたりはしませんよ」

「でしょ?それにね、昨日は何かこう、卵をたくさん食べたい気分だったのよ」

「料理するのが面倒だったんじゃないのか?」

「ま、それもあるわよ。でもね、それも含めて卵を食べたい気分だったの」

「ああ、それは昨日聞いた。だから、これからはなるべく気をつけてくれ、と言ったろう?」

「だから、そういうのが嫌なの。別に毎日卵ばっかり食べたいってわけじゃないのよ。何だか気分で卵が食べたくなったの。そういう時のそういう気分って、結構大事でしょう?それにいちいち文句を言われたくないわ」

「おいおい、気分が大事ってんなら、一度に卵ばっかり食べたくないっていう俺の気分はどうなる?」

「だから、シュウはシュウで自分が料理する時は、自分が食べたいものを作ればいいでしょ?」

「そうしてるさ。で、今までの俺の料理に、何か不満があったか?」

「・・・ないわよ。でも、それと昨日、私が卵料理でまとめたってことは、直接関係ないでしょ」

「んっ・・・そうだな」

「それに、気分が卵にばっかり傾くわけじゃないのよ。野菜スープと野菜炒めってこともあったじゃない。あの時シュウは、何も言わなかったよ?」

「あの時は、スープと炒め物には別々の野菜を使ってたろう」

「あ、そうだっけ・・・」

「つまり」フェイがうんざりした顔で割って入る。

「その、卵がきっかけで、シュウとユエの気分と気分がぶつかって、話がこんがらがったと。そういうことですか?」

「そうよ」

「そうだ」二人が同時に答える。

「・・・で、どうすれば決着が付くというか・・・二人の気が済むんですか?」

「それが分かりゃあ苦労しないさ」

「お互いに、形だけでも謝ったらどうです?」

「それは嫌。私もシュウも悪くはないもの」

「そうだ。悪いと思ってないのに謝るのも、悪いと思ってない奴に謝られるのも不愉快なだけだ」

「しかし、気分を押し付けあうことで、お互いが嫌な思いをしたんでしょう?その、結果的に嫌な思いをさせた、ということについて謝るのは、アリじゃないですか?」

「うーん・・・やっぱりちょっと違う。私はシュウのせいで嫌な思いをしたんじゃないもの」

「俺もだ。ユエは別に俺を否定したわけじゃないし、言葉に悪意もない」

「そうですか、じゃあ・・・」フェイは他の方法を考えつつ、(余計なことを聞いてしまったかな)と、少し後悔していた。


 と、その時。

「食事中に悪いわね、隊長。・・・まだ勤務時間前だけど、本部に戻ってくれない?」いつの間にか、警備隊員が一人、フェイ達のテーブルの側に立っていた。

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