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グレイソウル  作者:
143/148

希望・4

「金剛氣を発動したフェイさんに殴ってもらうんですよ。彼の拳なら・・・一発では無理かもしれませんが、必ず滅龍を倒せます。ウォンさんの『響牙』もいいんですが、あれは撃ったらそれまでですからね。切り札として取っておかないと」

「分かりました。それじゃ・・・あっ!」

 レンが飛び上がろうとしたその頭上を、炎雀が掠めていく。

 滅龍を下から突き上げようとしている・・・いや、上から襲う体力が、もう無いのだ。

 そこへ・・・滅龍が、上から尻尾を振り下ろす。

 バチン、という派手な音がして、ラウとレンの目の前に炎雀が叩き落とされた。


 滅龍は勝ち誇ったように、天を仰いで「ギィ・・・シッ・・・エエ・・・!」と吼えると、炎雀に向かって炎を吐き出した。紫色の炎だ。

 その炎で炎雀が木っ端微塵に吹っ飛ぶ。

 そのすぐ近くにいたラウとレンは・・・無事だった。

 レンが両掌を広げ、氣で障壁を作って爆発の衝撃を防いだのだ。


 それを見た滅龍は、ラウとレンをも焼き尽くすべく、炎を吐き続ける。

 レンは障壁で、その炎を防ぐ。

「いいぞ、滅龍!ラウもレンも、燃やし尽くせ!やはりお前が最強だ!」

 炎雀が倒されたのを見て、興奮したユスィが声高に叫ぶ。

「全くお前は・・・いちいちうるさいんだよ。ちょっと黙ってろ」

「・・・え?」

 振り向いたユスィの脳天に、ウォンの踵が振り落とされてめり込む。ユスィは悲鳴も上げずに、その場に崩れ落ちた。


「さて、と・・・これでちったあ静かになったが、あの化物をどうしたもんかね・・・地上から10メートルってとこか・・・あと2,3メートル低けりゃ、跳び上がって直接蹴りを入れられるんだが・・・」

「ウォンさん!」いつの間にか、フェイがすぐ後ろに来ていた。

「おう?何だ」

「奴の顎を、下から殴ります。そのために跳びますから・・・力を貸してください」フェイはそれだけ言うと、滅龍に向かって走り出した。その髪と目が、金色に輝いている。もう金剛氣を発動しているのだ。

「おっ、おう?・・・そうか。なるほど!・・・っておい、ちょっと待て!せっかちだなお前は・・・」フェイの作戦を理解したウォンが、慌てて後を追う。


 滅龍の下に来たフェイは、渾身の力で跳躍した。

 後を追うウォンも、フェイに数瞬遅れて飛び上がる。

 だがあと数メートルという所で届かない。

 先に跳躍したフェイが、勢いを失って落下を始める。その先に、まだ上昇中のウォンがいた。

 フェイはウォン目がけて、右足を踏みつけるように蹴り出す。

 ウォンの周囲で爆発するように氣勢が上がる。そのまま反転して、降下してくるフェイの右足を、逆立ち状態の両脚蹴りで迎え撃つ。


「しゃあっ!打っ飛んで、・・・行けえーっ!」

 響牙レベルの勁力を、あくまで「吹っ飛ばす」ための力にして、フェイにそっくり注ぎ込む。

 ばん、という爆発音がこだまして、ウォンは落下を始め、フェイは猛烈な勢いで上昇する。


「おおおおっ!」フェイは叫びながら、右拳を握り締め、滅龍の顎を下から殴りつけた。

 金剛氣を込めた上に、ウォンの蹴りの威力が加わった拳を喰らっては、さすがの滅龍も堪らない。

 しかも拳によるダメージも勿論だが、顎を下から突き上げられたために、炎を吐いている最中に口を閉じてしまい、外と内の両方から痛めつけられる形になってしまった。


 フェイの勢いはなおも止まらず、滅龍の頭を押し上げて、遂には完全に上を向かせてしまった。

 フェイはそこから更に上昇を続け、滅龍の頭上に出る。

 そこでようやく上昇が終わり、落下しながら・・・「もう・・・ひとつっ!」

 フェイは返す右拳を、滅龍の鼻面に叩き落とす。

 その衝撃で、滅龍の口の中に充満し、限界まで膨張していた炎が爆発した。

「ガッ・・・ア・・・ギャアッ・・・」滅龍の悲痛な叫びが轟く。


 既に地上に着地していたウォンは、苦しむ滅龍を見上げてニヤリと笑い、すぐにフェイを探して・・・「あーっ!」と叫んだ。

 フェイは爆発の衝撃で、気を失っていた。

 ウォンは慌ててフェイの落下地点目指して走りながら、「こらっ、フェイ!目を覚ませ!そのまま落ちたら・・・」

 死ぬぞ、という言葉が出る前に、レンが飛び上がってフェイを抱えていた。

 ところが、そのレンを見つけた滅龍が怒りに任せてレンに襲い掛かる。

 レンは滅龍の牙をかいくぐりながら氣弾で応戦するが、フェイを抱えたままでは分が悪い。


「レン!無理するな!先にフェイを安全な所に降ろせ!」

 ウォンの叫びにレンが反応して、「はい・・・」と小さく答えながら滅龍との間合いを離す。そのままフェイを降ろす場所を探して周囲を見渡したレンは、何かを察知したらしく「あっ」と叫ぶと、フェイを抱えたままで劇場の外へ飛んで行ってしまった。

 その後を追おうとする滅龍の頭に、風刃脚の連射がヒットする。その衝撃で滅龍が大きくグラつく。


「ふん。・・・相変わらず頑丈だが、かなり手ごたえアリだな。さすがに、さっきのはキツかったろうが?」

 怒鳴り声を上げるウォンを、滅龍が睨みつける。

「おらおら、どうした?睨んでるだけじゃ、俺は痛くも痒くもねえぞ!」

 ウォンは更に風刃脚を連射する。それを受けて、滅龍がじりじりと後退する。だが滅龍は、炎でやり返そうとはしない。


「よしっ、思った通りだ。あの野郎、さっきの爆発で、もう炎は吐けなくなってやがる」

 ウォンは間を置かずに風刃脚を連射し、滅龍を押しまくる。押しまくってはいるが、決定打にはならない。

 そうこうしている内に、劇場の外に力強い氣が集結するのが感じられた。

「んっ・・・警備隊の、機動部隊辺りだな・・・いい感じだ。ギャラリーが集まったところで、派手に決めてやろうか!」


 ウォンは風刃脚の連射を止めると、呼吸を整えて氣勢を上げた。

 滅龍はそれを隙と捉えた。勿論ウォンもそのつもりで誘っているのだ。

「ギャ・・・ッヴヴヴ」滅龍が叫びながら、ウォンに向かって突進する。

「いいぞ・・・これだよこれっ・・・俺の役回りってのは、こういう『最後の締め』でなくっちゃね。・・・さあ・・・『風刃脚』ともう一つ、『龍殺し』の異名でも頂こうかな・・・行くぞ!新・必殺最終奥義!」


 ウォンは迫り来る滅龍の顔面を狙い、「震爪裂!」と叫びながら、右の回し蹴りで「響牙」を放つ。

 すぐに左足で跳躍しながら、「撼牙砕!」と叫びつつ、左飛び後ろ回し蹴りで2発目の響牙を放つ。

 先発の響牙を、2発目の響牙が追う。ウォンの両足から鮮血が噴き出す。

 先発の響牙が、滅龍の口の中に飛び込む。そこへ2発目の響牙が重なる。

 重なり合う響牙は共鳴し、勁力を高め合いながら、滅龍の体を砕きつつ、その奥へ進む。


 ウォンは両手で着地して腹這いになりながら、滅龍が壊れていく様を見ていた。

「猛虎奏襲脚・・・決まったな・・・しかし、寝転がって技の名前を呟いても、イマイチ締まらんな。今後の課題だ・・・痛た、あ痛た・・・・つっても、この技ばっかりは練習できんしな・・・」

 ウォンがブツブツと文句を言っている間に、「猛虎奏襲脚」の衝撃波は滅龍の体内をズタズタに切り裂き、背中の尾に近い辺りを突き破って外に出た。

 その衝撃波は数秒後、雲をひとつバラバラに分解して、やっと消えた。


「あー、思った以上に勁力が持続するな。こりゃ、上に向けて撃たないと危ない技だな・・・ま、とにかくこれで終わりだ。化物野郎め、ドーンと砕け散れ!ドーンと・・・あれ?」

 滅龍は既に死んでいた。だがその姿形は崩れずに、落下を続けていた。

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