招待・4
「意図的でない分、自然な演出になったとも言えますよ・・・だがとにかく、私はシバ殿と会う機会を逃しました。私は、錬武祭の会場となったティエン国とチュアン国の警備隊本部を訪ね、あなた達がシバ殿と戦った山中にも行きました。そこに残されていたのは、シバ殿の・・・黒鎧氣の残り香だけでしたが・・・震えるほどの感動を覚えました」
「シバ本人に会ったら、もっと震えたと思うぜ?別の意味でな」ウォンは含み笑いをしながら杯を取り、もう一度酒を注いで飲んだ。
「そうかもしれません。しかし・・・それを確かめる術は、もうありません。シバ殿は、7年前に・・・」ユスィが声を詰まらせる。レンが何気なく目を伏せた。
「死にました」フェイが明後日の方向を見ながら、ぼそりと呟いた。
「そうです。それ以来、私は・・・全く自分勝手にですが・・・シバ殿の偉業を継ぎたい、と思いました。それは使命感といってもいい、強い思いでした。・・・それから2年がかりで、私は紫鱗氣をを編み出したのです」
「あなたの舞が一皮剥けたのは、その頃からですね・・・紫鱗氣の効果ですか?」
「いや。紫鱗氣というよりは、紫鱗氣を編み出すための試行錯誤の日々が、私の舞の質を変えたのです。そして私は、私の舞の信奉者が増えるたびに、確信を深めていきました。・・・滅びを求めている人が、大勢いると。世界は滅びに向かっていると」
「そりゃ、考え過ぎじゃねえのか?人間、たまには暗い気持ちに浸ってみたくもなるからな。そういう時に、あんたの舞はぴったりだろ?」ウォンは三杯目の酒を飲みながら、ユスィの言葉に疑問を投げた。
「さて・・・その答えは、もうすぐ出ますよ。私の舞によってね」ユスィは、また穏やかな笑みを浮かべながら、杯を取ってウォンに突き出した。
ウォンは「そりゃ楽しみだ」と茶化しながら、その杯に酒を注ぐ。
ユスィはその酒を一息に飲み干すと、かっと目を見開き、杯を背後の鏡に投げつけた。
派手な音が響き、杯と鏡が砕け散る。
控え室の扉が開き、劇場の作業員が「ど、どうしたんですか?」と、血相を変えて飛び込んできた。
「開演の合図ですよ・・・私自身のね」
ユスィは興奮を無理に抑えた声で応じながら、一振りの剣を取って歩き始めた。派手な装飾が施された、武器というよりは、儀式用の剣だ。
「とりあえず、杯と鏡が滅んだってことかい?」
「そう。ほんの手始めですよ・・・では、客席でお待ちを。すぐに開演です」
ユスィは、フェイ達を見もせずに、ずんずんと力強く歩いて控え室を出た。
「・・・怪演にならなきゃ、いいけどな」
ウォンは自分の駄洒落が少し気に入ったらしく、くっくっと小声で笑ったが、フェイとラウとレンは、そんなウォンを冷めた目で見ていた。
招待・了