覚醒・4
「ぬっ・・・おおお!」シバの顔に焦りの色が浮かび、だ、だ、だ、だと、今度は四発の魔吼砲をまとめ撃ちする。
一発はウォンとその周囲の救援隊を狙って。
一発はラン、パイ、ラウ、レンとその周囲の救援隊を狙って。
あとはそれぞれフェイとシュウを狙って。
特にフェイとシュウを狙った闇は、ただ避けたのではランたちに向かって飛んでいくように、絶妙な曲線を描いていた。
「くそっ・・・」フェイは咄嗟に自分を狙って飛んでくる闇に向かって突進していた。一刻も早く、一発でも多くの闇を打ち砕こうと思ったからだ。
だが傷付いたフェイの足では、一発の闇を撃墜するだけで時間的に精一杯だ。
しかし、シュウは落ち着き払っていた。
「無駄だ」と呟いて右手をサッと振ると、その動きに合わせて、シュウを覆う球体から、やはり半透明の帯がサーッと伸びて、魔吼砲よりもずっと早く・・・ラン、パイ、ラウ、レンやウォン、救援隊の面々の場所に到達し、シュウと同じように半透明の球体で覆った。
その球体を闇が襲う・・・が、結果は同じだった。
フェイが打ち損ねた三発の魔吼砲は全て、球体に呑み込まれてしまった。
ランは球体の内側からその様子を見ていたが、全てを見て取れたわけではない。
ただ、何かが・・・大変な速さで、自分の周囲を回っていることだけは分かった。
そう。
この球体と、球体から伸びた帯は、シュウの氣で作られた無数の「盾」の集合体だった。
この「盾」は、一枚一枚は掌ほどの大きさしかなく、半透明で亀甲型をしている。
それらが防護するべき対象の周囲を、無数の軌道に沿って衛星のように回ることで・・・ただし、その速度がべらぼうに速い・・・球体を形作っていた。
この「盾」は、一枚一枚の耐久性はそれほど高くはない。むしろ簡単に壊れてしまうぐらいだ。
ただし、壊れる時は「襲ってきた攻撃の勁力を吸収して」壊れるのだ。
そのことによって相手の攻撃は無力化し、しかも吸収した勁力を変換して、新しく「亀甲の盾」を作り、壊された分の穴埋めをする。
相手の力を利用しての再生だから、シュウ自身は氣を殆んど消耗しない。
この際限の無い再生力によって、「球体」はいくらでも壊れ続けながら、敵の攻撃を吸収できる。
いわば無限に壊れ続けることによって、逆に「完全に破壊されることがない」のだ。
「早く、今のうちに・・・」救援隊がランを抱えようとして集まると、彼らを覆っていた球体は自然に溶け合ってひとつになった。
ランはまた球体の内側からシュウを見て、(よかった、シュウ・・・あなたは、やっと自分を取り戻したのね)と安心し、急に自分がひどく疲れていることに気付いて・・・意識を失った。
「フェイ!シュウ!さっさと済ませて、必ず戻って来いよ!」
ウォンの叫び声を残して、パイ、ラン、レン、ラウ、ウォンの五人と救援隊は、戦場から遠ざかっていった。
「フェイ!行くぞ!」
「・・・はい!(よかった。シュウが・・・以前以上にシュウらしいシュウが、戻ってきた・・・)」フェイもまた、自信に満ちたシュウの声に喜びを隠せずにいた。
フェイは片足を引き摺りながら、シュウの背中について球体をひとつにする。
「・・・おい。そんなことしなくても、『盾』はいくらでも作れるぜ?」と、シュウが笑う。
「いいんですよ。このほうがシュウの氣の消耗も少なくていいでしょう?」と、笑って返した。
「ま、それもそうか・・・じゃあとにかく、シバを片づけちまおう」
シュウの力強い声を合図に、二人は前進を始める。
「くうっ・・・貴様ら、ふざけた真似を・・・」
シバは地団太を踏むように、魔吼砲を連発した。その全てが澱みなく、滑らかに、球体に呑み込まれる。
「すごい・・・」フェイは思わず声を洩らしていた。
(この球体は・・・氣は勿論、拳や兵器でも・・・とにかく、危害を加えようとするもの全ての力を吸い取って、壊れて、再生し続けるんだ・・・恐らく、黒鎧氣を纏っていた頃のレン君の『風』ですら、この球体を消すことはできないだろう。この『甲圏功』が発動している限り、シュウを物理的に傷付けられるものは・・・存在しないのではないか)
フェイがそんなことを考えている間にも、二人とシバの距離はどんどん縮まっていく。
そして・・・遂に二人は、シバに手の届く距離に立った。
片膝を地に着いたシバは、フェイとシュウから見下ろされる形になった。
シバがゆっくりと顔を上げる。その顔には、自分の力が通じない悲しさと、フェイとシュウに対する怒りと、そして・・・そんな強敵に出会えたという喜びが混在していた。
そんなシバの表情を見て、シュウの心にシバへの殺意が湧きあがる。
「シバっ・・・」シュウが呟きながら拳を握ると同時に、「甲圏功」が消えていく。シュウが殺意を持ったために、発動を維持できなくなったのだ。
そしてシュウが握り締めた拳を振り上げた時・・・びしっ、という音がして、シュウが前のめりに倒れた。
フェイがシュウの首筋に右拳背を打ち込んで、気絶させたのだ。
フェイは「ほっ」と息を吐きながら、シュウが頭を打たないように素早く支え、その体をそっと地面に横たえた。
シバは隙を見てフェイに攻撃を仕掛けようとしたが、フェイに隙はできなかった。
「ふふ・・・やる気満々だな。そんなにワシを殺したいか?美味しい所は、親友にも譲れんか?」
「そんなんじゃない。・・・シュウは、僕なんかが及びもつかないような高みに登ったんだ。そんなシュウに、人殺しなんかさせるわけにはいかないんだ。それも、よりによってお前なんかを・・・お前なんかを、お前なんかを」
フェイは、シュウが攻撃的な意志を持てば甲圏功の発動が止まるということは知らない。
ただ、シュウがシバを殺すのを止めたかっただけだ。だから金剛氣を発動させて、拳背を打ち込んでいた。
それは咄嗟に出た行動で、例え金剛氣を持ってしても、本音としてはシュウの甲圏功を破れるとは思っていなかった。
だが上手いタイミングで甲圏功が止まり、拳背が命中した。その瞬間、フェイは今度はシュウを殺さないように、勁力を大幅に減らさなければならなかった。
ともあれこれでシュウは深い眠りに就き、フェイとシバは一対一で向き合うことになった。