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グレイソウル  作者:
121/148

先制・2

「ああ。だがな・・・お前も言っていたが、俺の性格は本来、黒鎧氣とは相性が悪い筈なんだ。それなのに、黒鎧氣を纏えてしまった・・・」

「かなり不安定でしたけどね」

「ああ。だが、とにかく俺は黒鎧氣を纏った・・・それは、俺の心の中に・・・フェイ、お前を羨む気持ちが・・・いや、はっきり言おう。お前を倒したいと願う心があったからだ。だから・・・一発ぶん殴ってくれ」

 フェイは静かに首を振った。

「それがどうしたと言うんです?そんな心は、誰の中にでもあるものです。でも、あなたは・・・その心に呑まれなかった。『魔』の思うようにはならなかった。それだけで充分です。殴れというなら、さっきの・・・黒鎧氣を祓うために放った胸への一撃で、もうチャラです」


「そうか・・・そうか。ところで、フェイ」シュウの目が、急に悪戯っぽい光を放ち始める。

「お前は俺に、言っておくことはないのか?」

「・・・はい?」

「いや、錬武祭が終わってから、急に姿を消した俺のことを、『逃げたんじゃないか』とか思わなかったか?それから、黒鎧氣を纏った俺を見て、『こいつは本気で僕を倒そうとしている』とか、ちょっとでも思わなかったのか?」

「・・・つまり、そういうことを思ったのなら、一発殴らせろと?」

「そうだ」シュウが白い歯を見せて笑う。


「思ってませんよ。シュウが逃げる筈はないし、黒鎧氣を纏ったのだって、シバを倒すためなのが見え見えでした」

「本当に?」 

「本当です」

「ちっ・・・つまらん奴だな」

「だから、勘弁してくださいよ・・・分かってるでしょ?僕の耐久力は人並みなんです。今のシュウに一発でも殴られたら、命に関わるどころか、本当に死んでしまいます」フェイは身震いをひとつして、肩をすくめた。


「・・・お主ら、さっきから黙って聞いておれば」シバがうんざりしたような声を出す。

「ワシを倒すために、黒鎧氣を纏って力を上げただと?それがどうした。結局、黒鎧氣を祓ってしまったのなら、元の木阿弥ではないか」

「さあて・・・それはどうかな?」シュウはシバをチラリと見て・・・いきなり突進を始めた。

「おおおっ!」叫びながら右拳に火氣を込め、炎を起こす。

「うおっ?」ウォンがまた声を洩らす。

 先刻の・・・黒鎧氣を纏っていたシュウよりも速かったからだ。


「・・・ふん」シバは少し驚いたような顔で、左へ滑るように移動して、シュウの炎の拳をかわす。

 ・・・が、それを見越していたシュウは、咄嗟に左の後ろ回し蹴りでシバを追う。

 バチバチッという鋭い炸裂音が響いた。シュウの左足には、木氣が込められていた。木氣によって発生した雷は、鋭いキレと伸びのある蹴りに後押しされて、本来の蹴りの射程距離を大きく越えてシバを追う。

「くっ」シバは更に左へ跳んで、距離を稼いだ。だが風になびく外套が、雷から逃げ切れずに、ボンっと弾けて四散する。


「どうだい?これは、ほんの挨拶だ。・・・これでも、力が上がってないと思うか?」シュウは闘氣に溢れる目で、シバを睨んだ。

「・・・何故だ?お前はもう、黒鎧氣を纏ってはいないというのに・・・」

「そんなもの、もうシュウには必要ありませんよ」フェイが言った。

「確かに黒鎧氣は、力の上昇のきっかけにはなりましたが・・・一度能力が上がってしまえば、その能力はそのままで、『魔』を含む黒鎧氣を祓うことが・・・僕にはできます。レン君の施術で勉強させてもらいましたからね」フェイはレンをチラリと見た。レンは照れ臭そうに目を伏せる。

「それに、そもそも黒鎧氣と相性の悪いシュウは、黒鎧氣によって力が上がっても、それを安定した状態で引き出せません。でも『魔』を祓った今なら、上昇した身体能力を存分に発揮することができます」

 

「そういうことだ・・・シバ。気分はどうだ?お前は、俺達を引っ掻き回すつもりで俺を呼び出して、黒鎧氣を植えつけたんだろうが・・・生憎だったな。結果として、強力な敵を作る羽目になっちまったぞ」

「ク・・・ククク」シバは、さも可笑しそうに笑った。

「・・・何だ。何がおかしい?」

「いや、気分はどうだと言われてもな・・・そう、嬉しいかのう。うむ。これは嬉しい誤算じゃ。実はな・・・ワシが期待していたのは、ウォン君とラウ君、フェイ君の三人で、シュウ君は戦力外だったんじゃ」

「・・・何だと?」

「そう。・・・じゃが、ウォン君とラウ君とフェイ君の三人がかりでも、ワシの相手をするのはちと厳しいかと思っての・・・だから彼らの目の前で、『魔』に食われて自滅するシュウ君を見せれば、彼らの戦闘能力が怒りで一時的にでも上昇するんではないかと思ってのう。ところが蓋を開けてみれば・・・シュウ君までが強くなっとるではないか。これなら・・・四人がかりなら、充分にワシの相手も務まるじゃろう」シバは本当に嬉しそうだった。


「貴様・・・ふざけるな・・・」シュウが拳を握り締め、炎を巻き上げた。

「四人じゃないよ・・・シバ。僕もいる」レンが進み出た。

 シバの目が急に優しくなる。

「レンか・・・いい顔になったな」

「・・・え?」

「強い決意が顔に出とる・・・そんなお前を見られて、よかった・・・」シバの顔に、凶悪ではない、優しい笑みが広がった。

「ありがとう、シバ・・・でも・・・これ以上、あなたに罪を重ねてもらいたくないんだ」レンはシバの声を振り払うように叫び、氣勢を上げた。と同時に、背中から翼が・・・真っ白な翼が現れた。

 

「ほう・・・それがお前の、新しい力か」シバは満足そうに微笑んだ。

「行くよ・・・シバ!」翼の羽ばたきひとつでレンは垂直に上昇し、あっという間に10メートルほどの高さにまで舞い上がった。

「お、おおいレン!」

「もっと慎重に、みんなで協力して・・・」

 ウォンとフェイが慌てて地上から叫ぶ。

 だが、レンは一人で戦うつもりだった。驕りではない。レンにはそれだけの力があるのだ。

 レンは両掌を胸の前で合わせると、無極之氣を練って氣弾を作り始めた。

「はあああ・・・」気合と共に、氣弾の攻撃力が急上昇していく。


 直径1メートルほどの球体になった氣弾を抱えて、レンは急角度で降下しながらシバに接近した。いくら破壊力のある氣弾でも、遠くから撃ったのではシバなら避けてしまうからだ。

 それとレンは、シバを倒すつもりではいるが、殺す気はなかったので、その分氣弾の威力を加減していた。だから接近しなければ、充分に効果を発揮できないということもあった。

 レンはシバの頭上5メートルほどの空中に静止すると、狙いを定めた。

「おいおい、ちょっとこれは・・・決まっちまうぞ?」ウォンが叫ぶ。

 それほどレンの抱えた氣弾は高い攻撃力を秘めていたし、頭上5メートルという位置も、シバの反撃を許さないように見えた。


 だがシバは慌てることもなく、余裕の笑みを浮かべながら、黒鎧氣を練り始めた。

「んぬ・・・おおお・・・」

 シバの足元に、「魔」が集まり始めていた。



 先制・了

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