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グレイソウル  作者:
120/148

先制・1

「シュウ?お前・・・」ウォンが問いかけて絶句する。

「何ですか?」シュウが笑顔で答える。機嫌がいいようにも、苛立っているようにも見える笑顔だった。

「何ですかって・・・お前、黒鎧氣を・・・受け取ったのか?それで・・・強くなったとでも、思ってるのか?」

「思いますよ。少なくとも、身体能力に関してはね・・・ウォンさんにも引けをとらないでしょうね」シュウの声がブレていた。

 今のシュウの言葉は、シュウと・・・シュウに巣くう「魔」の両者が発している。それが声にも表れていた。


「貴っ・・・様あ・・・よくもヌケヌケと、そんな・・・」ウォンの周囲で氣勢が・・・どん、と一気に上がる。風が渦を巻き、ウォンの後ろ髪が逆立つ。

「待ってください、ウォンさん」フェイが慌ててウォンを制する。

「ああ?何だぁフェイ?俺は今、あの裏切り者をブッ飛ばすので忙しいんだよ!」本気で怒っているウォンの圧力で、フェイは思わず後ずさりしそうになったが、どうにか堪えて言葉を続けた。

「僕に・・・シュウのことは、僕に任せてください。お願いします」

「・・・って・・・いや、しかしな・・・」ウォンの氣勢が下がり始める。

「認めたかあないが、今のシュウは・・・確かに強いぞ。はっきり言ってお前じゃあ、銀衛氣が発動していても危ない・・・」

「大丈夫です」フェイが断言する。

「・・・う・・・」


「ウォンさん、諦めましょうよ。ここはやはり、フェイさんに任せるのが筋です」ラウが首を振りながら、ウォンの肩をポンと叩く。

「・・・分かった。だがな・・・無理だと思ったら、俺は割って入るからな!いいな!・・・ん・・・なあ、やっぱり俺が戦ったほうがよくねえか?お前がシュウとこんな形で戦ったら、結果がどう転んでも、お前は余計な荷物を背負い込むことになると思うぞ」

「ありがとうございます、ウォンさん・・・でも本当に大丈夫です」フェイは一瞬だけニッコリと笑うと、すぐ真顔になってシュウを睨んだ。


「パイさん・・・お願いします。シュウはもう・・・」

「あの・・・フェイ、本当に?戦うの?」

「はい。シュウをよく見てください・・・よく分かる筈です」

 フェイに言われて、パイはおずおずとシュウを見た。シュウもパイを見て、二人の視線がぶつかる。

 途端にパイの背中が冷たくなった。

(嘘っ・・・シュウさんは本当に、私達と戦うつもりでいる?)

 シュウの目の中に殺意を感じて、パイの恐怖心がどっと噴きあがる。

 それと同時に銀衛氣が発動して、フェイの髪と目が銀色に染まる。

 フェイとシュウは同時に、ゆっくりと・・・ゆっくりと歩み始め、間合いを詰める。


 シバはニヤニヤしながら、二人の動きを見ていた。

「シュウ・・・苦しいですか?」フェイは戦いにはそぐわない、落ち着いた声で訊ねた。それはまるで・・・問診のようだった。

「不思議な気分だよ。・・・本音が解放されて気分がいいようでもあるし、それが却って苛々を募らせているようでもあるし・・・」

「傍から見ている分には、危険極まりない状態ですね。・・・あなたは元々、黒鎧氣との相性は悪い筈です」

「ああ。だが、現にこうして黒鎧氣を纏っている」

「それじゃ、纏っているのか纏わりつかれているのか分かりませんよ。『魔』に呑まれるのも、時間の問題です」


「フフ・・・それならそれで、更に強くなれるかな?ヘイユァンがそうだったんだろ?」

「でも、そんな強さは・・・あなたの強さじゃありません。あくまでも『魔』のものです」

「そうかい・・・で、お前はその『魔』に勝てるのか?」シュウの声のブレが、少し小さくなった。

「試してみればいいでしょう」フェイが口の端で、少しだけ笑う。

「そうさせてもらおう・・・!」シュウが叫びながら突進する。


「速いっ・・・!」ウォンが思わず声を洩らす。

 その声が消える頃には、シュウは20メートル近い距離を一気に詰めて、フェイを射程内に収め、右拳を振りかぶっていた。

 いや、シュウだけではない。

 フェイもまた、カウンターのタイミングで右拳を放とうとしていた。

 次の瞬間、二人の拳が交錯・・・しなかった。

 シュウは笑顔のまま、振りかぶった拳を動かさずにいた。

 フェイは・・・銀衛氣をこめた拳を、シュウの胸の中央に叩き込んでいた。


「ギイーィィィッ!」

 悲鳴のような、或いは錆びた金属が軋むような・・・不愉快な音が、シュウの背中辺りから絞り出された。続けて・・・シュウの背中から黒い煙のような、霧のような氣が、噴水の如く湧き出す。

 そして・・・シュウの髪と目の色が、元の自然な黒さに戻っていった。


「・・・え?」

「・・・へっ?」

 ウォンとパイが、同時に叫んだ。

 ラウとラン、レンは平然としている。

「ふう・・・信じてたぜ、フェイ。さすがだな」シュウが脱力気味の声を出して、フェイの肩を叩く。シュウ本来の声だった。

「当然ですよ。シュウの体は、子供の頃からずっと診てるんですからね・・・とはいえ、レン君の施術で要領を覚えたというのも、大きいですね。でなけりゃさすがに一撃で黒鎧氣だけを吹っ飛ばすのは無理でした」

 

「なあ・・・ラウの旦那」ウォンが、詐欺の被害者のような顔でラウを見る。

「はい?何でしょう」

「ひょっとして・・・フェイとシュウは、最初っからこうするつもりで立ち合ったのか?」

「そうです」

「ラウの旦那は、それを知ってた?」 

「知っていたというより、分かったんですよ。私から見れば、二人の芝居は素人同然ですから」

「・・・ランさんは?」

「えっ?私は、シュウを信じてたから・・・」

「じゃ、レンは?」

「え?あ・・・その、フェイさんとシュウさんの氣の状態で、何を考えてるのか大体分かりましたから・・・」


「じゃ、フェイとシュウが本気で戦うと思ったのは、俺だけ?」

「そんなことありませんよ。私も騙されました」パイも置いてきぼりを喰らった仔犬のような顔をしてむくれた。

「いや・・・パイさんは、銀衛氣を発動させる鍵ですからね。本気で恐がってもらわないと。銀衛氣をこめた拳のほうが、黒鎧氣を打ち砕くだけの確実な威力を持ってますから・・・だからシュウさんがパイさんを睨んだ時、彼はある意味本気で『殺意』を視線に込めたんです」ラウの解説で、ウォンの機嫌は益々悪くなった。

「それはつまり、俺が一番素で騙されたってことか?」

「まあ・・・そういうことでしょうか」

「相変わらず嫌な分析をする野郎だな」

「これはこれは、申し訳ありません・・・ではその怒りは、シバに向けていただけますか?」

「言われんでもそうするわい・・・おい、フェイ!シュウ!さっさとそこをどけ!今度は俺の出番だ!」


「あ・・・すいません、ウォンさん。その前に・・・フェイ、俺を一発殴ってくれないか」シュウは頭をかきながら、ボソボソとフェイに願い出た。

「え?何故ですか?」

「俺は・・・どうしても、もっと強くなりたかったんだ。シバを倒すためにな。そのためなら、シバの黒鎧氣を纏ってでも・・・そう思ったんだ。勿論、お前が『魔』を祓ってくれると信じていたから、できたことだ」

「ええ。結構なことじゃありませんか」

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