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グレイソウル  作者:
103/148

攻防・2

 対するジュンファは、表情ひとつ変えない。

 むしろリャンジエのほうが、横目で銀衛氣を見ながら「へえ」と、興味深そうに呟いていた。

「よそ見たあ、余裕だねえ」ウォンがからかう。

「ああ。俺は強いからな」リャンジエも負けずに返す。

 ヘイユァンとヒムは、5メートルほどの間隔を空けて、ラウの前に立っていた。

 正確には、ラウの正面にヘイユァンが立ち、右側からヒムが隙を窺う形だ。


「ヘイユァンさん、でしたか。いいんですか?その位置に立ったら、私とウォンさんから挟み撃ちにされるかもしれませんよ」

「余計なお世話だ。ウォンは、リャンジエが足止めしてくれるよ」

「変な人達ですね・・・せっかく四対三になってるんですから(パイさんには悪いですけど)、両端の私とフェイさんに一人ずつ付けて足止めをして、中央のウォンさんを二人掛かりで一気に倒す、というのが無難な起ち上がり方だと思いますが」

「だから、余計なお世話なんだよ。・・・こっちはな、なるべくお前だけは確実に殺っときたいのさ」

「ほう。そりゃまた、どうして?」


「・・・ふん。せっかくだから、教えてやるか。・・・お前は、仲間の仇で、俺達の凋落の原因なんだよ」

「・・・はて・・・私は、誰かを手にかけたことはありませんが」

「お前が直接殺ったわけじゃねえ。だが、お前がいなけりゃ、あの二人は・・・コオウェンとクァンは死なずに済んだんだ」

「コオウェン・・・クァン・・・その名前にも、心当たりはありませんね」

「ああ。あいつらは最後まで、身元は明かさなかったからな。・・・まだ分からねえか?5年前のルオヤン国で、ルオヤン国とジャンアン国のお偉いさんを迎えての舞台があったろうが。そこでお前は、氣弾や暗器を使う刺客二人の攻撃を、華炎で防いだよな・・・あの二人が、コオウェンとクァンだ。ありゃあ俺達の仲間だったんだ」


「ああ・・・あの時の・・・」

「やっと思い出したか。俺達は、今ここにいる四人と、死んじまった二人を合わせた六人で、暗殺稼業をやってたのさ。『奇拳六芒星』といやあ、その筋ではそこそこ名が通ってたんだ。・・・お前が邪魔するまではな」

「邪魔と言われても・・・私とて、黙って殺されるわけにはいきません」

「ま、お前の立場ならそうだろうな。だが俺達にしてみれば、お前の邪魔がきっかけで、仲間二人が命を落とし、残された俺達も信用を失った上に、口封じのために追われる身になったんだからな」

「それで、私を恨んでいるんですか?それは逆恨みというものでしょう」

「別に構わんだろう。逆恨みも恨みのうちだ。要は、お前が一番鬱憤のはけ口に相応しいってことだ」


「なるほどね。・・・ふっ」

「・・・何だ。何が可笑しい?」

「いえね・・・そうやって、恨みを5年も抱え続けるなんて、大変だったでしょうね・・・でもあなた達には、その恨みは晴らせません。無理です」

「ちっ。でかい口を叩いてんじゃねえ。レンが空を飛ぶのを見て、呆けてたくせしやがって・・・忘れたのか?俺達は、そのレンを倒してるんだぜ」


「うん?ああ、そうですね。いや、あなた達がレン君に勝っていたのは、経験値の一点のみですよ。それを最大限に活かしたのは、それなりに見事です。でも私には、ああいった連係や奇襲は通じませんよ。・・・あなた達がこの戦いで勝つとしたら、レン君の協力は不可欠でした。あの子が裏切りを宣言した時に、あなた達がするべきだったことは、あの子を倒すことじゃない。何とかして、もう一度仲間になるように説得することでした。例えば、私が・・・『ラウという舞踊家は、昔の仲間の仇だから、どうしても倒したい』といったように持ちかければ、レン君は優しい子ですから、私が死なない程度に痛めつける手伝いぐらいなら、してくれた可能性は高いですよ。私が倒れれば、あとはレン君の協力がなくても、あなた達四人だけでも何とかなったかもしれない・・・でも、もう無理です。あなた達に勝ち目はありません」


「・・・調子こいてんじゃねえぞ。どう勝ち目が無いのか、見せてみろや」ヒムが長い腕をビッ、と唸らせて凄む。

 ヘイユァンは、努めて表情を顔に出さないようにしているようだ。ラウの挑発に乗らないように、まずは形から整えているのだ。

「言われなくても、魅せて差し上げますよ。・・・それが舞師の仕事です」ラウは、放った言葉を追い越すかのような勢いで、突進を始めた。

 だがその方向は、ヘイユァンとヒムのちょうど中間辺りだった。ヘイユァンとヒムは、ラウの意図が読めずに少し困惑していた。


 九節鞭の長さが約1メートル。ラウの腕の長さを含めても、有効距離はせいぜい2メートルちょっとだ。ヘイユァンとヒムの間には、5メートルほどの距離があるから、その中間地点に立ってしまっては、ヘイユァンにもヒムにも攻撃は届かない。

 並の人間が相手ならば、直接九節鞭を当てなくても、華炎の嵐に巻き込むだけで倒せるだろう。だが実行委員は、黒鎧氣を纏っているのだ。華炎を込めた武器なり拳なり蹴りなりを、直接当てなければ、倒すのは難しい。

 そんなラウの行動を見て、ヒムの心に焦りが湧いた。先刻のラウの挑発に、少々乗ってしまったとも言える。

 とにかくヒムの気持ちは、攻めに傾いていた。

 ヘイユァンは、冷静だった。彼はラウの動きに集中し、自然に反応することを心がけていた。


 そしてラウは、いきなりヒムに向けて九節鞭を繰り出した。

(けっ。そんな距離で届くか・・・)攻め気にはやって退く気の無かったヒムは、しかし予想よりも伸びてくる九節鞭の動きに、全く対応できなかった。

「・・・えっ?」九節鞭がヒムの胸に触れたところで、ようやく彼は危険を自覚した。

 だが、もう遅過ぎた。

 そのラウの武器は、もう九節鞭ではなかった。ラウは土氣の「引力」の作用で、2本の九節鞭を1本に繋げ、硬直させ、更に重量兵器に仕立て上げていたのだ。九節鞭の先端には刃が付いているから、それはもはや一本の『槍』といってよかった。

 もっとも黒鎧氣を纏った者の体は、刃物といえど簡単には貫けない。

 ラウもそれは承知しているから、無理に突き込んだりせずに、兵器を介して華炎を送り込み、爆発させた。


 ヒムの胸を中心にして、ズバッ!という爆音と閃光が飛び散った。

 それで終わりだった。

 ヒムはボロ雑巾のように宙を舞い、緩やかな放物線を描いて石畳に叩きつけられた。

「う・・・」呻き声から、かろうじてヒムが生きていることが分かる。

 だが彼の肋骨と胸骨は・・・シュウに折られた箇所が軽傷に思えるほど、無残に粉砕されていた。もしもヒムが黒鎧氣を纏っていなければ、胸には風穴が開けられていただろう。


 ラウは、いっぱいに伸ばした右腕一本で、九節鞭を繋いだ『槍』をヒムに突き込んでいた。その『槍』を素早く引き戻しながら、今度は投げつけるような動きでヘイユァンを狙う。

 直線的な往復運動だが、ヒムを打った反動を上手く活かしているので、流れるようなよどみの無い動きだ。

『槍』はラウの右の手の内を滑り、左手に移りながら、真っ直ぐにヘイユァンを目がけて疾走した。

 ヘイユァンは、ヒムが一撃で倒されたことに驚き、人数のアドバンテージが無くなったことを悔しがってはいたが、努めて冷静を保っていたので、さすがにラウの連続攻撃にも反応していた。

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