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8話

「放送は私も見たよ。大変だったな」

 テレビに出るお膳立てをしてくれたテクノロレックスにお礼を言うため、彼の会社にやってきた勇士は、いつものオレンジジュースを出された。

「関係があるか分からないが、能力を持たないヴィランが最近活発になってきている」

 テクノロレックスは続ける。

 能力を持たない者だけの犯罪者集団がある。

 今は全メンバーが十名程度だが、スカウトをして人数を増やしつつあるらしい。

「能力が消えるかもしれないっていう時世ですからね」

「無能力たちでも活躍できる世界になるとでも思っているのだろう。やはり、私の考え通り、能力が消えたところで、ヴィランがやり方を変えるだけの事だ。何の解決にもならん」

 軽く愚痴ったテクノロレックスは続ける。

「あの番組は君の名誉の回復にはならなかったのだが、怪しい奴が出てきたな」

「沼倉 憐介ですね」

 アレンを糾弾した時の彼は、能力を残すべき。消すべきではないと思っているらしい。

 だがテクノロレックスが言うに、どこか白々しい感じがしたという。

「悪党を見極めるために培われた私の勘だ。私は確信している」

 テクノロレックスは言う。

「問題が多いですね」

「知らなかったかい? この世は問題になることだらけさ。君が知らないだけで、悪党は夜な夜ないくつもの悪事を行っている」

「頭では分かっていましたが、あなたに言われると重みが違いますね」

 現役のトップクラスのヒーローが言うとその言葉も重みが違うという。

「最近聞いた話なんだが、アラカゼがやられたという噂がある」

 テクノロレックスが言うには、人気六位の天候を操る能力を持つ女性ヒーローのアラカゼが麻薬取引の現場に向かって撃退されたという。

「頭が痛くなったと彼女は言っていた」

「それって、アレンの研究?」

 春日根 アレンの研究が使われたのだろうという。この事で危機に陥ったアラカゼはアレンに猛抗議をしたというのだ。

「その事が有名になって、さらにアレン君の立場が悪くなったらしい」

「でも、アレンの研究は能力を消すだけだったはずだ」

 勇士もアレンの研究で能力を消す場面には立ち会った。

 頭痛の訴えるものなどおらず、皆能力が使えなくなったと気づいたあとも、問題なく研究所から逃げ出す事ができたのだ。

「ぼっちゃま。今連絡を受け取りました」

 そこに、老執事が声をかけてきた。

「今から仕事のようだ。君は帰りなさい」

 テクノロレックスの元に、麻薬の取引があると連絡が入ったらしい。

 挨拶もそこそこに、テクノロレックスは隠し扉に入ってしまった。

「ご案内いたします」

 老執事はそう言い、勇士の案内を始めた。


「おぼっちゃまは昔からムチャをします」

 勇士は老執事に連れられて、奥にある部屋に通された。どうやら客間という事らしい。大きいテレビに簡単な飲み物を出せる冷蔵庫がある。

「おぼっちゃまのお仕事を間近で見たいとは思いませんか?」

 老執事の言葉を聞く。勇士はコクンと頷いた。

「まあ、映像だけですが」

 老執事がパソコンを操作すると、話し始める。

「あなたがミュータンツから追い出されるのは時間の問題だと思います。でも、ヒーローになりたいでしょう?」

 だから、勇士にはテクノロレックスの補佐なり仲間なりになって、ヒーローを続けてもらいたいという事だ。

 仲間になるための準備として、テクノロレックスの仕事ぶりを見ていて欲しいという事らしい。

「出ました」

 老執事の言葉の後に、ドローンで撮影をしている映像がテレビに映し出された。

 テクノロレックスは、まだ現場に到着をしていない。アタッシュケースを取引しているところだ。

「これは?」

 勇士が指をさして言う。何かの電波を発する装置のようなアンテナがあったのだ。

「もしかしたら、これでアラカゼを撃退したという装置やもしれません」

 老執事は耳に取り付けられたマイクに向けて言う。

「噂の謎の装置らしきものが見つかりました。お気を付けを」

 テクノロレックスの耳にも届いただろう。

 先に偵察を飛ばして下調べをしたうえで悪事の行われている元に飛び込んでいるのだ。

 事前の準備がテクノロレックスの強さの秘密の一つなのだという。

「到着しました」

 テクノロレックスは素早くアタッシュケースを持った男にとびかかっていった。

 それに恐れて逃げ出す他のメンバーも、テクノロレックスが次々叩き伏せていく。

 一人の男が、アンテナを起動させた。

 起動させた男はヘルメットを被って防護をしているが、他の者はしていない。

 ヘルメットをしていない者は頭を抱えて苦しみだしたのだ。

「この苦しみ方は……」

 そう言い、勇士は老執事のマイクに声を入れた。

「磁波だ! 鉄性のものを被るんだ!」

 テクノロレックスにもそれが聞こえたようで、近くにあった鉄のバケツを頭にかぶった。

 それからテクノロレックスは悪党をなぎ倒し、警察が到着するまでに全員を縛り上げた。


「勇士君。君に聞きたいことがある」

 勇士はあの直後、老執事からここに残るようにと伝えられ、またパーティー会場のような社長室に通された。

「戸塚のじいさんの研究だ」

「アレン君の研究ではないのか?」

 勇士の頭のスカーフと同じ力が、あのアンテナにはあったのだという。

「このスカーフには常人が触れると頭痛を感じる刺激が発されています」

 能力のある者はこの刺激を受けると、異物と認識されて強い頭痛を感じるようになるのだ。

「これはプロフェッサー戸塚の研究なのではないかというのだね」

 これは戸塚の研究には大打撃になるだろう事は、想像に難しくない。

「ヒーローとしては、この事実を公表しないわけにはいかない。だが戸塚教授に連絡がしたい。あの戸塚が研究が困るのはヒーロー界にとっては打撃だ」


 次の日、勇士は生徒会で生徒会長にすべてを話す。

「あのじいさんも苦しいだろうな。盗まれた研究が悪者に利用されたんだ」

「だが、対処法は戸塚にしか開発をしえない。汚名返上の機会も与えられるだろう」

 岩水と生徒会長がそれぞれ言う。

「戸塚のじいさんも、対処するためのヘルメットを作った。鉄製のものを頭にかぶれば、効かなくなるからな」

「なんだ。対処法はすでにわかっていたんだ」

 笹浪が言う。岩水はこれが面白くなさそうだが、口は出さなかった。

「しかし、これで敵の目的は分かった。戸塚の研究が欲しかった理由は能力者を苦しめる磁力の力が欲しかったのだな」

 生徒会長は言う。一つの疑問は解決された。そして、もう一つの疑問に入る。

「研究所から研究を盗み出したザ・ロープは本物だったのだろうか?」

「ザ・ロープ偽物なんて、今に始まったことじゃないだろう?」

 岩水は言う。

 ランキングには入っていないが最近急に票を伸ばしているヒーローがザ・ロープと似た姿をしているという事もある。

「偽物は能力は同じではないぞ。刃物振り回して戦う奴だし」

 そこまで言った後、生徒会長は私見を言う。

 パワードワンスと一緒にいた奴が偽物という事はないだろうかというのだ。

 本物のザ・ロープが研究所に忍び込み、アリバイを作るために偽物がパワードワンスと一緒にいたと考えているのだ。

「その通りなら、ザ・ロープが犯人であると説明がつく」

 それなら、ザ・ロープにテレパシー系の能力者をあてがえばいい。遠声とザ・ロープを会わせれば、すべてが明るみになるだろう。


 遠声と箔斗の二人で、昼食を食べながらその事を話した。

「それで、遠声を連れて、ザ・ロープに会いに行くと。テクノロレックスって何でもできるんだな」

「そりゃ、上位二番目の人気ヒーローだし」

 箔斗の言葉に返す。ここで、会社の社長で金も権力も持っているなどとは言えない。

 テクノロレックスがなんでもセットできるのは、その理由も大きいだろう。

 そこで警報が鳴った。それと共に、放送室のマイクのノイズが聞こえてくる。

「みんな落ち着いて欲しい」

 校内放送で流されたその声は、よく聞くザ・ロープの声であった。

「ボクは罪を犯した。捜査の手が入りそうになったから強硬手段に出たんだ」

 放課後に遠声と一緒にザ・ロープのところに行くので、自分のやったことが明るみになるより先に行動を起こしたのだ。

「あの研究はあっちゃいけない。この世界から能力が消えたら平和になるはずだというのは、誰だってわかる事だろう」

 校内放送は続いた。誰も止める者はない。

「邪魔者は眠ってもらっている。ボクは戸塚研究員と狭山勇士君に用があるんだ」

 それから続けるザ・ロープ。

 戸塚研究員の無能力者を能力者にしようという研究は、凍結されなければならない。だがただのヒーローである自分には止める権限などない。

「だから強硬手段に出る。戸塚研究員はボクのロープで縛ってある。そして、勇士君もこちらに来てもらう」

 それからお決まりの展開。

 戸塚研究員を助けたければ、勇士が放送室にまでやってきて戸塚を救出しに来いというのだ。

「勇気の能力者。来ないわけがないよな」

 最後にザ・ロープはそう言う。

 勇士はそれで立ち上がった。

「待て待て、時間が経てばザ・ロープは捕まるだろう? わざわざ行く必要があるのか?」

「ザ・ロープは俺に来て欲しいらしい」

 勇士はバンダナを頭に巻き、教室から駆け出した。


 やはり今回も能力を封印する電波が使われているらしい。

 何を思って、学校でこんなことをしたのかは知らないが、人を苦しめたり傷つける意思が、ザ・ロープにはないようである。

「この世に能力なんて必要ない。ここの生徒にはわからないだろうが、あえてここの生徒達に聞いてもらいたい!」

 勇士が放送室に向かう途中、ザ・ロープが放送室でそう話し出した。

「テクノロレックスは、能力が存在しなくなっても犯罪は無くならないと言った。それ自体には同意だ」

 ザ・ロープの演説を皆はどう聞いているか分からなかった。能力がこの世から無くなったら、小学校の勉強からやり直さなくてはいけなくなるここの生徒たちにとっては、当然受け入れられない演説だろうと勇士は思う。

「だが町を吹っ飛ばせる能力を持った人間がそこらじゅうにウヨウヨしている世界が危険ではないわけがないだろう? テクノロレックスのいう事はとんだ的外れだ!」

 ザ・ロープの言う事は正しい。ここで言ったのでなければ、歓声が上がってもおかしくない言葉だと勇士は思う。

「みんな聞いて欲しい! 能力は人を守る事には使われない。それよりも人を傷つける事にこそ、よく使われるのだ!」

 ザ・ロープが言う。勇士はその言葉に対して大声で反論を言う。

「平和な世界ならそれも正しいだろうさ!」

 勇士は走りながら叫んだ。もうすぐ放送室。自分の声がマイクにも届くだろう。

「だが、世界は当然平和じゃない! ヴィランが事件を起こす事は日常だ! 能力がなくなったら多少安全になるなんて話、それこそ的外れだ!」

 放送室の前に立つ勇士。

「人を守るのは勇気の力なんだ! 能力じゃない!」

 校内放送でその声は拾われていた。この言葉に賛同してくれる人はいるか?

 この研究所の全員に勇士は問いかけた。

「だから君は危険だ」

 ザ・ロープは言う。

「その言葉、能力を使って生きている人間には誠の正論に聞こえるだろう」

 ザ・ロープは拳銃を手にもっていた。

 銃口を向けられた勇士は壁の影に隠れる。

「やっぱり、研究を盗んだのはあなただったか……」

「危険なんだよ。ここの学校の生徒たちは……君はボクの事にも気付いていた……そうだ。研究を盗み出したのはボクだ。あの時パワードワンスと一緒に居たのは偽物さ」

「ベラベラ喋ってくれるんだな」

「ここにはテレパシーの能力者がいるんだろ? 黙っていても無意味だ」

 どうせバレて捕まるというのなら、自分からやってきて、主張をぶつけたかったのだろう。

「ボクは大人しく捕まるよ。だけど、君は世界の平和のために、生きていてはいけない。君の言葉は正論に聞こえるだろう。だが、町を吹っ飛ばせるような人間がそこらじゅうをウヨウヨしているのが危険じゃないわけがない! もう一度言う。危険じゃないわけがないんだ!」

 放送室のマイクに乗せて、ザ・ロープは声を施設の人間に伝える。

「こんな場所。すぐにでも閉鎖になるべきだ。皆の知っている通り、ボクは紐を飛ばすだけの能力しか持っていない。その力でヴィランと敵対して、何度も死にそうなめに遭った。当然だ! 本来、紐を飛ばすだけの能力で、ビルを吹き飛ばせるような奴らと、真っ向から戦えるわけがないんだよ!」

 心の底からのザ・ロープの叫び。

「だが僕は戦ってこの町を守ってきた。勇士君の言う通り、勇気の力があったから戦えた! だが、こんな事は早く終わりにするべきなんだ!」

 この嘆きに近い言葉には、感銘を受ける者もいるだろう。

「だが、それは物の一面にすぎないだろう! 人間が進歩したら、新しく強い武器が作り続けられるのは当然だ。それを否定するのは人間の進歩を否定するのと同じだ!」

 人間が進歩するたびに強い武器を作り出し続けた事なんて歴史を見ればわかる事。

「ホント君の言葉はここにいる人には正しく聞こえるだろうね」

 ザ・ロープは拳銃を強く握った。

「君は能力者の旗頭になれる。だからここで居なくなってもらう!」

 ザ・ロープが拳銃を持って放送室から走った。勇士の方を向き拳銃を構える。

 勇士はザ・ロープの手を握り上げた。

「こんな状況。ゲームによくあったよ」

 勇士がやっていたゲームでは至近距離で拳銃を突きつけられたら、素早く腕を握って銃口を下に向けていた。

 マスクで隠れた顔を掴んで足払いでザ・ロープを転ばせた。

「能力が使えなくなったら、ヒーローなんてこんなもんか」

 勇士が言う。

「銃があれば勝てると思ったんだけどな」

 ザ・ロープが言った後、マックルーがここに駆けつけてきた。


 勇士は放課後に戸塚に研究室呼び出され、戸塚からザ・ロープの尋問の話を聞いた。

「ザ・ロープは研究を盗んだ犯人だった」

 それから言う。

 テレパシーの能力者がザ・ロープの事を調べたら次々にこの件が明るみになっていった。

 ザ・ロープに拳銃を渡し、能力は無くなるべきとの考えを植え付けたのはパワードワンスであったという。

「いろいろつながってきたな」

 ザ・ロープとパワードワンスの二人は、お互いに協力関係を作り、アレンの後押しをしていた。

 パワードワンスは、勇士の事を話したという。

「狭山 勇士君は避けては通れない壁だろう。狭山 勇士は、耳障りのいい事を言っているだけだ。だがこの世界、中身がスカスカでも、崇高に見える言葉に耳を貸してしまうのだ。彼は我々の障害にしかなりえない」

 どこか、パワードワンスが言った感じがしないと勇士は思った。

「君は疑われており、今日にも狭山 勇士と会わなくてはいけない。恐らく、彼の彼女も連れてくるだろう。通声君と言い、テレパシーの能力者だ」

 そして、パワードワンスはザ・ロープに向けて言ったのだ。

「君は捕まる。せめて狭山 勇士と刺し違えてくれないだろうか?」

 そう言い、パワードワンスは拳銃をザ・ロープにに渡したのだという。

「これならパワードワンスも共犯という事になるな」

 勇士は聞いた話にそういった。

「だが、パワードワンスの言った事のように思えん。誰か言わされているのか、それとも別人が言ったのか?」

 メタモルフォーゼの能力者が、パワードワンスに化けて言ったのではないかと疑念が残る。

「そうだとしたら、ザ・ロープは完全な被害者だ」

 勇士は言う。

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