シーン仮置き
続きではないです。
イメージの強いシーンを先書きしております
「ヴィランが現れたと聞いたが、あれは私の管轄外だぞ」
ナンバーワンの人気を持つヒーローであるパワードワンスはその騒動を上空から見ていた。
パワードワンスの能力は何でもありだ。空を飛ぶ。怪力で物を持ち上げる。手から光線を放って敵を攻撃する。銃弾を軽く跳ね返す強靭な肉体。隙がまったく見えない完璧なヒーローとして通っている。
「お前にもできないことがあるとはな」
パワードワンスのすぐ隣のビルに立っているのはテクノロレックスというナンバーツーのヒーローだ。
パワードワンスはなんでもありだが、テクノロレックスは能力を保持していない。ただし軍需産業系統の会社からの技術提供があるらしく。体に仕込まれた数々の装置を駆使してヴィランと戦うのだ。
「君こそああいうのはなんとかできるんじゃないか? 人の事を操る機械とか作っていそうだが?」
「俺を何だと思ってる? そんな機械など作ろうと思った事もない」
「なんか自動で走る装甲車とか、空を飛ぶ装置とか作っている時点で私の理解の範疇を超えているよ」
「空飛んで、片手でタンカーを持ち上げ、手からビームを打つ奴が何を言ってる?」
この非常事態に何をのんきな話をしているのかと思うが、こういった事件を解決するのに適任のヒーローがいる。
「みなさーん! おっまったっせいたしましたああああぁぁぁ!」
上空からパラシュートを使って空から降下をしてくるヒーローがいた。
彼は直接戦う能力を持っていないため人気は八位になる。
彼の能力は聞いた人間を虜にする特殊な歌であった。
「みなさん。変な歌聞かされてお耳が汚れてしまった事でしょう! 私の愛と正義と友情に満ち溢れた歌で、気分をリフレッシュしてください!」
それから人々を洗脳から解放する特殊な歌を歌えるヒーローであるステージキングは、ビルの上に降り立つとお決まりのポーズを取った。
「かいしぃ!」
上空を飛ぶヘリコプターから強烈なスポットライトの光が当てられる。
それから観衆達の前でライブが始まる。
それに感化された観衆達は、そろってリズムをとり始めた。
「大丈夫そうだな」
ステージキングの歌で操られていた人達は教えられてもいないのにダンスを踊り始める。
その様子を見たテクノロテックスは早々に引き上げた。
「さぁ! 今回の騒動を起こした悪い子はだれかなぁ!」
ライブが終わった後ステージキングがそう宣言をする。そうすると、観衆達の中から一人の男が出てきて雄たけびを上げた。
「うぉぉぉぉ! 俺だぁ!」
「みんなで確保だ!」
ステージキングがそう宣言をすると、観衆全員がその男を取り囲んだ。
「彼の能力が一番危険そうなんだけどな」
パワードワンスはそう言った後、ビル街を飛び立って姿を消していった。
2「お兄ちゃんの事は知ってるよ。勇気の能力者だって」
その子は言い出した。
「勇気なんて誰でも出せるものでしょう? そんなものを能力って言わないよ」
「君にはまだ分からないと思う。勇気を出せるって事は大事なことなんだ」
つまらなそうに聞く少年。
「勇気なんてものはこの世には存在しないよ。僕の友達だって、結局勝てる奴しかいじめないよ」
「おい。何を言ってる?」
少年は悪びれもせずに言い出す。
「犯罪を正すのは正しい事だけど、結局強弱をはっきりつけたい生き物なんだよ。人間ってさ」
反撃が返ってこないからいじめる。いじめの原因なんてそんなものである。
「学校の中で上下関係を決めるのがいけないのはなんで? 社会に出たら上司や社長にへいこらしなきゃならないのに?」
勇士は反論はできただろう。だが、その子の子供らしからぬ考え方に、絶句して言葉が出なかった。
「いじめで自殺をする人間なんて、反撃をしなかったからそうなっただけの事じゃないか。それで自殺すれば問題になるとか、いじめがあった、なかったなんて事をテレビで深刻な問題ぶって真面目に話し合って、バカみたいだって思ったことはない?」
「君は言いたいことを続けなよ」
勇士は反論をせずに続きを聞く。この子には何を言ってもダメだろう。悪い考えに完全に毒されていると勇士は思い、彼の言葉に聞き入った。
「お兄ちゃんの話を聞くとイライラしてさぁ。弱い人間が強い者に逆らうとああなるってだけの事だよ。そういう事を判断できないバカが死んだところで、社会に何の不利益があるんだい?」
「人が死んだら悼むのが人間だよ」
「違うね」
少年は勇士の言葉をさえぎって言う。
「人はいい人間のフリをしていたいんだ。自分の事を棚上げしてね。あのお涙ちょうだいのニュースの特番を見て大声で泣ける人間の方が言葉と行動に説得力がでるからね」
その説得力を得たいから、人はいい人間のフリをするのだと少年は言う。
「本当に優しい人間は、痛みや辛さを感じても耐え忍んでいるものさ。ボクはそんな役は嫌だけどね」
優しい人間は周囲から好かれる事よりも軽く扱われる事の方が多いものだ。少年の言はそれだ。
「テレビのコメンテーターもカメラが回らない場所では、部下や後輩に偉そうな態度を取って、むしゃくしゃしたら当たり散らしているはずだよ」
少年はそう言うと少年らしい無邪気な笑顔で、その笑顔に似つかわしくない残酷な事を言い出した。
「そんな歪んだ世界は間違っていると思わないかい? ボクは嫌だね。人の多いところでは、自分は優しい人間アピール。人の少ないところでは弱い者いじめをしてスカッとする」
そこまで言うと少年は、勇士に笑顔で笑いかけた。
「ボクはそんな事したくない。逆にストレスがたまると思わないかい? いい人アピールなんてやめて、人の上に立ってスカッとする事だけをやっていたいんだ」
勇士は少年の言葉で背中がゾクリとして冷たくなった。
「だから、ボクは世界を自分のものにするよ。そう考える方が人間らしいし、逆にストレスフリーの世界になれると思うね」
「それは違う……」
この少年の言葉は歪んでいる。だが、勇士にはその少年に声をかけることができなかった。
彼から発せられる悪意を受け止め、背筋が凍っていったのだ。
「ごめんごめん。こんな話に付き合わせちゃって。でもお兄ちゃんの事を噂に聞くたびにムカムカしていたんだ。本人に反論できてスッキリしたよ」