祖父の名前が龍之介な俺は勇者召喚に巻き込まれただけでした。
ハッチっていう主人公が書きたかっただけの作品です。
「おぉ、勇者様!我等をお救い下さい!」
何これ劇?
木之下八。あだ名はハッチは思った。
「え、俺が勇者!?」
同時に隣から聞こえた声にハッチは一人じゃないことに安堵したが、その内容に正気を疑った。
「宮島……頭大丈夫?え?それともこれ俺だけドッキリ?」
「何言ってんだよ木之下、ゲームとか小説とかにあんじゃんか。異世界から勇者が召喚されんの」
ちなみにハッチと宮島はそこまで仲が良くない。なのでハッチという愛称を宮島は知らないし、ハッチも宮島の下の名前は知らない。
「いや、それこそゲームと小説の話しだろ。これ現実だぞ。……現実だよな?」
「馬鹿だなぁ。だからこそ俺達がその選ばれた勇者なんだろ」
話が通じないことにハッチは絶望した。いや、確かに現実なことは分かる。納得はしたくないが。
妙な服を着た老人に変な魔方陣等が並ぶ場所。ハッチの世界では3D等の技術が発達してきているがこれほどの臨場感は映画の内容とか設定でしか見たことがない。それでも宮島のように受け入れられるはずがなかった。
「……勇者様はお一人のはず。もう一人の方は…?」
そしてそれを考える時間を周りは与えてくれなかった。
いつの間にか現れた騎士達にあっという間に聖剣と呼ばれる物の前にハッチ達は押しやられ、それを引き抜いたのは宮島だった。
では何故ハッチは召喚されたのだろうと問えば近くにいたから巻き込まれたのではないかと言われた。
「あの、だったら帰してもらえませんか?」
当然の言葉にしかし返事は無理です、とそれこそ本当に申し訳なさそうに老人に言われハッチは途方に暮れた。
ーーーーー
あれから老人改めガーディはハッチを孫として引き取ってくれた。自分達の都合で申し訳ないと、出来る限りのことをハッチにしてくれた。魔法を教えてくれたのもガーディだった。
異世界に召喚されただけありハッチの魔力量は膨大で色々なことが出来たが、ハッチはそれを宮島達に知らせることはしなかった。又ガーディもそれを知っていて黙認してくれている。
「役立たずが!いい加減出て行ったらどうだ!」
原因はこれである。
あの後、ハッチの扱いは酷かった。自分達の所為でここにいるというのに、求めた人物でないと知るとハッチをそのまま追いだそうとしたのだ。
「シュニック、木之下は俺に巻き込まれただけで…」
それを庇ってくれたのはガーディの他に宮島だけだったが、ハッチは感謝なんてしない。聖剣が念のためハッチにも抜けないか試させられ、そこではっきり宮島が勇者だと分かると嬉しそうに笑ったのをハッチは見ていたからだ。確かに、自分が特別だとハッキリ見える形で分かれば嬉しいのは分かる。自分が特別だったら、と憧れる心はハッチにもあったからだ。
それでも同郷の人間のその後の扱いに不安に思わないのかとは思ったが。
最初だけならハッチも宮島が混乱していて、その中で憧れていた特別になれたから……自分もそうなっていたかもしれないと思ったから待った。しかししばらく経って魔法の練習等ハッチと一緒にした際の周りのハッチの扱いを見ても宮島は変わらなかった。話し合いをしても勇者じゃないから仕方ないと見下した目をハッチは忘れない。
ガーディが別に教えてくれなければハッチは今も魔法を使えなかっただろう。
ちなみに宮島は今も優越感に浸った笑いで済まなそうになんて欠片も思ってないことが分かる。
「それは奴が勇気の傍にいたのが悪いんだろ!」
これだけ自分中心の扱いをされれば仕方ないのかもしれない。シュニック王子は綺麗だし、他にも宮島を慕う者達はたくさんいる。……恋愛的な意味で。
だからといってしょうがないで済ます心はハッチは持っていなかったが。
「……そうだな。宮島にも悪いし俺出て行くよ」
「「……え?」」
自分で言っておきながらもまさか本当に出て行くと返されるとは思ってなかったのだろう。
シュニック王子も、実はここで初めてハッチに下の名前が勇気と知られた宮島も呆気にとられている。
「じぃさんはどうする?」
「……出来れば一緒に連れて行っていただきたい。貴方が幸せになる為に必要なことで私が出来ることなら何でもしましょう」
「うーん。じぃさんにはずっと世話になったしもう充分尽くしてもらったけど……うん。俺も第二のじぃさんだと思ってるし行こうか」
第二と言った瞬間ガーディは泣きそうになったが堪える。泣く資格は自分にはないからだ。本来、ハッチにじぃさんと呼ばれ一緒に過ごせたであろう人に一生その未来は来ない。
ハッチの母はハッチを産んで亡くなった。父は知らせを聞き会社から病院に来る途中で事故で亡くなった。ハッチは祖父母に育てられた。名前はその二人がつけてくれた。
しばらくして祖母も亡くなり、祖父と二人で暮らしていたのだ。
「実はさ、ずっとそう言われてきたからここ以外でもきちんと生活出来るように準備してたんだ。まだ早いけど……でももういいかな」
ガーディが何を考えているかなど気付かずハッチは笑う。しかしそれを許せないのはシュニック王子だ。
「ふざけるな!勇気のオマケにもならない能無しが!」
今まで役立たずだと思いそれでも面倒をみてきてやったと勝手に思い、更にその人物が裏でコソコソとしていたと知り自分勝手に怒鳴りだした。
そんな能力があるはずがないと思いながらもその発言自体が許せなかったのだろう。
クズがと言ったかと思えば次には恩知らずがと叫び剣を抜き斬りかかろうとしてきた。さすがにハッチも驚いたが魔法でなんなく弾く。
この時宮島は笑って止めることもしなかったのでハッチは見捨てる覚悟も出来たが。
「本当ねーわ。……じぃさん、何も持たなくていいからこのまま行こう」
ハッチは彼等が何を言っても信じないことはよく知っていたのでそのままガーディの手を握ると呪文を唱えだした。
「じゃあな、宮島。許すつもりはないけど会わなければ手は出さないよ。会わなければ、だけどな」
そう、残して。
ーーーーー
三年たち宮島達は旅立つ。
宮島にとって旅はつまらないものだった。というのも、宮島は魔王を倒す為に召喚されたのだから当然魔王のいる魔王城まで旅をしなくてはならない。その道中他の国にも協力を求めたのだがことごとく拒否されたのだ。
それどころかやめろと言われ力尽くで止めようとしてきたこともあり返り討ちにしたくらいだ。
魔王とは良い関係を築いているのに倒す必要がどこにあるのだと彼らは叫んでいた。
当然途中寄る町や村でも魔王を倒すなんて恐れ多いと宿も断られそうになったが、そこはシュニック王子や他の身分の高い者達もいた為泊まることが出来た。お金は払っている為まぁまぁの待遇ではあったが義務的だった。
宮島はもっと勇者であることでちやほやされると思っていたのだ。
「何でなんだよ!魔王は皆を苦しめてる悪い奴なんだろ!?俺はソイツを倒してやるんだぞ!」
「……勇気すまない。あいつらは臆病者なんだ。魔王を倒したらその責任はしっかり取らせる」
臆病者が力尽くで止めようとするのか。民が魔王を称えるのか。普通に考えれば分かることなのに魔王を倒せば報われると信じ宮島達は魔王城の扉を開けた。
「あ、来た来た。ユーリ、こいつが宮島」
「へぇ、お前が勇者宮島か。ハッチから話しは聞いてるぜ。……ついでに言わせてもらうと道中同盟国から報告も上がっている。止められず申し訳ないってな」
開けてすぐに魔王が出迎えてくれるなんて思ってなかった宮島達はしばらく固まっていたが慌てて武器を構える。
そして隣にいたハッチを睨み付けた。正確に言うとそれしか出来なかったのだが。武器を構えた宮島達を見て魔王が動きを封じる魔法をかけたからだ。ついでに宮島以外話せないようにした。ハッチは頷いて返す。
「ここまで来るのに誰かの声をきちんと聞いてたらこんなことにならなかったんだよ、宮島」
「木之下!裏切ったのか!」
「……はぁ本当ねーわ。……裏切ったって出てけって言ったのソッチだよな。しかも嘘吐き呼ばわりして殺そうとしてきたのに」
「それはシュニックは俺のことを思って…」
「……宮島のこと思ってなら俺は殺されていいのか?つーかそもそも俺はじいさんに助けてもらったけどシュニック王子達にはまったく世話になってねーよ」
最初の頃は宮島と一緒の食事だったがその時からもうハッチの扱いは酷かった。同じ食べ物ではなく野菜の切れ端を使ったスープ。祖父と二人で暮らしていたハッチは祖父の作った野菜をもとから無駄なく使って食事を作っていたため食べられる物はきちんと感謝して食べていたから文句も言わずそれらを食べた。だがそれを見て笑ったシュニック王子達は自分の食べ残し等を皿に盛らせるようになりそれからはガーディと食事をとるようになった。それからもずっとハッチの世話はガーディだった。
「しかもそれを止められる立場にいたのにも関わらずお前は見て笑ってたよな」
「それ、は……」
「まぁ次会ったらしっかり仕返しすることは伝えてたしいいよな」
「ま、まさか俺を殺すのか!?」
「なるほど、それだけのことをした覚えはきちんとあったんだ。良かった。でも俺は殺さないよ。俺が殺さないだけだけど」
「……え?」
ニッコリととても良い笑顔でハッチはユーリを見た。ユーリは頷いて魔法を唱える。
「あー、俺だ。魔王のユーリだ。皆が引き留めてくれたみたいだが残念ながら勇者宮島達は俺の大切な伴侶と俺を殺そうとしてきたので通達した通り関わりなくすからな。あとよろしく」
ユーリは同盟国に自分の声を届けると更に魔法を唱え宮島達を近くの城に飛ばした。ハッチも魔法を唱えユーリの領土ごと空に浮かばせる。
「俺の魔法すごいなぁ」
「あぁ、さすがに俺でもこれを維持するのは大変だ。ハッチはすごいな」
「それはいいけど本当にいいのか?人間達との商売とかさ」
「あらかた食物とかの種は手に入れたからな。土はあるんだし皆に育ててもらう。ガーディもハッチもいるしな」
実は魔物達は食べるものがなく人を襲っていた。ようは人間が動物を食べているのと同じ感覚だ。ハッチはガーディに内緒で時々外に出ていた。魔法があったので魔物も心配していなかったからだ。弁当を持って散歩をしていたのだが、一匹のスライムが涎を垂らしながら弁当を見ていたのだ。
ハッチは驚きながらも一つやるとスライムは喜んで食べた。その次の日、さらに仲間を引き連れて強請りにくるとはハッチは思わなかったが。
そんなこんなで、言葉を話せる魔物に魔王を紹介してもらったハッチは魔物達に料理を教えることになった。何でもそのまま食べてしまう為栄養が偏り早死にする魔物が多かったそうだ。
魔物がバランスよく食べないで早死にってなんだよと笑ってしまったハッチだが、自分の料理を美味しいと食べてもらうのは嬉しかったので喜んで教えた。
その際にそもそも野菜を育てたりという知識がないことに気づき食べないなら人間に話して貰えば?と話したところ人間も食べられないなら喜んでとなった。
もちろんただではない。魔物達は食べ物を貰うかわりに自分達の一部を渡した。鱗だったり、毛だったり。人間達はその素材を加工して色々な物を作って使っていたため、とても喜んだ。今ではなくてはならないものだ。
それらがもう手に入らないと知れば彼らはどうするのだろうか。
怒りは当然宮島達に向くだろう。
ちなみに、ユーリは更に徹底的な一言を同盟国に伝えた。
「皆が一生懸命アイツ等をとめてくれたのは知ってるからな。アイツ等がいなくなればまた交換してもいいぜ」
城に飛ばされたと同時に彼らは拘束された。怒鳴る彼らに民達の怒り狂った声を聞かせる。
「お前達が死ねばすべて綺麗に収まるんだ」
しばらくしてある国の王族が処刑された。彼等は魔王と他国の言葉に耳を貸さずに魔王を殺そうとしたからだ。理由はこれまでに魔物達に民が殺されたから、なんて理由ではなかった。魔王や魔物から守る為と嘘を言い金を民から巻き上げる為だった。
しかもそれはそのまま軍の強化には使われていない。自分達の為に使い、それを隠す為に勇者を召喚し民にそれを見せていたのだった。勇者もその恩恵は受けていたが。
一人の老人はとても驚き、そして怒った。そして真実を知らなかった者達で速やかに処刑までの段取りを整えた。
ちなみに勇者が魔王を倒した後はその領土も自分達の物にしようとしていたらしく、彼等はひたすらに魔王に謝った。
ちなみに勇者は自分は騙されていたのだとかつて将来を誓い合った王子ではなく取り巻きの一人である貴族の息子の元へ行こうとしたらしい、のだが。
「死ぬ前に抱いて欲しいと言われて抱いたら背中を一突きだと。んで自分も後を追うと」
「わーお。男としては最高の死に方かな」
「……お前はそれを片づける方の身になってやれよ」
「……正直すまんかった」
魔王の領土はそのまま地上に戻った。
約束は守らないとな、と伴侶とベッドの上で魔王様は笑った。
二人は来月には式を上げる。
しかも、二人の祖父に見守られて。
ハッチは幸せだとユーリの耳元で囁いた。
じいちゃん同士を結婚させようか本気で迷った。