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06  無計画すぎた

 





 ウゴが昼寝をしていると勇者(仮)一行が、旅装で現れた。


「こんにちは」

「ああ、昼飯か?」


 イチノセ達は、ハージェルス教のお墨付きで、良い装備品を身につけているし、武器も伝説級ではないものの、ワザモノを持っているという事は与えられたのだろう。

 単純にうらやましい。


 それまでイチノセ達を「おかしな奴等」と思っていたらしい街の人々も、勇者(仮)としての旅装を整えた姿を見て、驚いた顔をしている。

 これまでは、食い意地のはった冒険者と思っていたのだろう。



「ダンジョンへ潜ってレベルアップをしてきます」

「死ぬなよ。

 海苔弁当を2種類×5人分で7000ベガだ、神パワーで『防腐』かけてやったから2週間はもつ」


「神様ってそんな事までできるのっ!?」


 弓術士サカグチが、何故か目を輝かせている。


「反則でしょ、なにその力?」


 魔法使いタノクラは反対にジト目だ。

 ウゴは説明が面倒なので、聞こえないフリをした。


「湯出しの緑茶もつけてやるから、聞かなかった事にしてくれ」


 何故か「緑茶ーっ!?」と叫ばれた。

 内心でにやりとするウゴ。

 飲めないとなると、飲みたくなるんだよな「ホームシック」だし。

 スポーツドリンクとか出してやっても良いが、絶対リピーターになるのでやめておく。


 なぜかソバンとツィーレが、やけにイイ笑顔でオレ達を見ていた。 





 


 




 2週間後の朝、勇者(仮)一行が満面の笑みで現れた。


「(また)勇者キター」


 ウゴがオバケを見たような反応をして逃げるより前に、イチノセが直角お辞儀をした。


「次は焼鮭弁当をお願いします!」

「ヤダよ、面倒くせぇ」


 ウゴがばっさり切り捨てると、ものすごく悲しい顔をするイチノセ。

 ちょっと彫りが深くてクドい顔立ちのイチノセは、この世界基準でもイケると思うのに、食い気しかないってどうなんだ。

 でもメンバー3人が、女子高生くらいだから、ハーレムか?

 ウゴは残念な奴だなとイチノセを見た。




「おぅ、そこどけ」


 突然、イヤな雰囲気になった。

 イチノセが振り返ると、ガラの悪い、チンピラを絵に描いたような男達が、にやけ顔をしている。


「ここだな?

 炊きだしとか言いながら、貧乏人から金を巻きあげる、ローブの極悪チビがいるのは?」


 あれ?

 名前を言わなくても、誰の事かすぐ分かるぞ?と勇者(仮)一行は思った。


「失礼だが、ここは飢饉で苦しむ住人のために炊きだしをしている場だ。

 見たところ冒険者のようだが、金を払うのは当たり前じゃないのか?」


 正義の勇者イチノセが、チンピラに声をかけた。


「あー?なんだぁ?」


 何故かよくありそうな感じに凄まれて、元一般大学生のイチノセはひるんでしまう。

 レベルの概念がない日本なら、弱そうなのに強い!強そうなのに弱い!もありえるが、ここは異世界だ。

 ふつうの人族の平均レベルが5〜10の世界で、冒険者でもせいぜい20。

 前回の海苔弁当の恩恵でレベルが3上がって、勇者補正ありレベル38のイチノセの敵ではない、が、ひるんでしまった。


「出てこいやチビィ!」


 ウゴはさっさと姿を消していた。

 踏んできた修羅場の数が違うからな、とか言いながら…面倒くさくて逃げた。


「チビはどこだ!?

 絶対いるんじゃないのか!?」

「昨日までは一日中いましたよ〜っ!」

「ずっとチビが料理してましたっ」

「テメェ等、メチャクチャにしてやれっ!」

「「「おおぉ」」」


「おりゃ」


 手近な机をひっくり返そうとして。


「いでぇっ!手が、手がぁ!」


 神パワーで超圧縮されて作られた、固くて丈夫な土テーブルは、ものすご〜く重かった。


「ていっ」


 近くの椅子を蹴とばして。


「ぐあぁぁぁぁっっっっ!」


 やっぱり超圧縮されている土椅子は、蹴っても微動だにしなかった。

 住民だって動かせずに苦労していた。


「お、覚えてやがれ…」


 何かに負けたのか、チンピラと化した冒険者達はよれよれになって、帰っていった。

 誰も何もしていないのに。



「カミサマおかしい!」


 勇者(仮)一行の叫びはウゴには届かなかった。

 いや、実はその場にいたのだが、スルーしていた。

 本当に騒ぎになりそうだったら…と思っていたが、イチノセはやっぱり頼りないな、とウゴは悩んでしまう。


 リーダーとして、引っ張っていけるのか?

 いや、別に勇者がリーダーである必要はない、自分だって元勇者だけど(訓練かねて)荷物持ちで料理係だった。

 勇者(仮)一行の今後に不安を覚えながら、ウゴは神パワーで跳んだ。






 到着したのはルシュゴーロ山脈のエストウラ王国側、南北に走る森林地帯。

 ルムスと勇者(仮)一行に、地脈の要に打ち込まれた楔を破壊してもらって2週間。

 未だに飢饉が解消する兆しはない。


 まかせた事は間違っていなかったと思うし、後悔もしていない。

 見たところ地脈の要は、問題なく解放されている。

 ただ、地を流れているはずの世界の力が弱い。

 長く流れを阻害され、停滞している…のか?


 停滞を一度に直す方法はある。


 しかし、これをやったら、やりすぎになるか?と自問自答しながら、要を見る。

 このまま放っておいて流れが戻るかは……五分五分か?

 神にだって未来は分からない。


「後で謝れば、許してくれるかな?」


 先に連絡をとって、も、良いが…と悩む、

 もしも、万が一にも「ダメ」と言われたら、飢えに苦しむ人々を見捨てるられのか?


 それはできない約束だ。


 ウゴはもしもの時のために、ルムスにこの場へ来るように『通信』で呼んでおいた。

 そして地脈を『検索』して…ふさわしい神言をくみたてる。


『地の流れにのりて生命の根源を巡れ

 [名も無き神]の力を分け与えよう

 地の流れにのりて世界を巡れ、神気解放』


 唱えたとたんの虚脱感に、ウゴはよろめく。


「…っ?」


 体感で残り6割ほどあった神パワーを、一瞬でごっそりと引きずりだされ、枯渇の感覚に膝をついた。

 力の制御ができない。

 ウゴの持つ神の力と世界の器のサイズが、違いすぎた。


 持ちうるほぼ全ての神パワーを地脈に叩き込んでしまい、立っていられずに、その場に倒れた。


「…成功、だよ…な……?」


 最後に見えた地脈の流れは、元通り以上に活性化していた。











 気がつくと、いくつもの瞳が、心配そうに見下ろしていた。


「…なんだコレ?」


 覚えがないが集団暴行(リンチ)でも受けたか?と視線を巡らせると、目元を腫らしたルムスに抱きつかれた。


「っ主人様、御主人様っ、御主人様ぁっ!!」


 どうも心配させてしまったらしい、とウゴは顔をしかめる。

 性格に問題はあっても、泣きじゃくる美少女に抱きつかれると、申し訳ないと素直に思った。


「悪かった、飢饉を終わらせようと思って、やりすぎた」

「おっしゃる通り、やりすぎでございます!

 半日で野菜が芽吹いて、実をつけておりますっ」

「マジか」


 半泣きになっているツィーレの言葉に、本当にやりすぎたと眉を寄せるが、今更どうすることもできない。

 ソバンは後ろで「ウオォオォォォオオォ」と滝の涙を流している。

 なんでだ?!


 力は限りなく枯渇に近い状態だ。

 久しぶりだな、とウゴは周囲に視線を走らせる。

 全身の虚脱感と倦怠感は言うまでもなく、認識や感知まで人と同じに落ち込んでいる。

 まず、この部屋がどこなのか分からない時点で、異常だ。




 イチノセは[弱者の神]神殿で、意識を取り戻したウゴを見てほっとする。

 ツチノコ形態のルムスが街へ突っ込んできたときは、何事かと思ったが、ぐったりとしたウゴによく似た誰かを抱えているのを見て、マズいとすぐに分かった。


 死んだようにぐったりしていたが、ウゴは半日ほどして、無事に意識を取り戻した。

 しかしメインの料理人がいなかったせいで、炊きだしは大混乱になっていた。

 「美味すぎる炊きだし」狙いの冒険者達が、文句を言って、いつまでも住民の邪魔をしたせいだ。

 イチノセ達が警備員をしたおかげで、なんとか収束したのだが。


 今は大騒ぎだった夜の炊きだしも終わって、全員が疲れていた。


 ウゴはまとう雰囲気はいつもと同じだが、姿は20歳過ぎ?くらいになっている。

 ナゼかは分からない。

 背が伸びて、長めの黒髪が背中に垂れている。

 髪と瞳の異様さは変わらないが。


 イチノセは「神」に辿り着いた勇者タナカの事を知りたい、と思った。




「悪いけど、一ヶ月くらい死にかけないでくれ、神パワーがない」

「そもそも神パワーってなんなの?」


 魔法使いタノクラが詰めよるのを、「神の力だから、神パワーだ、説明が面倒くさい」と、見慣れてきた対応で返しているので、そんなに心配はいらないかもしれない。


「気をつけます」

「頼むな」


 イチノセの言葉にフッと口元を緩めるウゴは、ひどく疲れて寂しそうな笑顔をしていた。


 これが本当のタナカ・ショウゴの姿なのかもしれない、とイチノセは思う。

 「元勇者」のせいなのか、「神」だからなのかは知らないが。


 その日は「ただ力がないだけだ!病人扱いするな!」とウゴが怒るので、速やかに解散になった。






 翌朝、弱っているはずのウゴの代わりに、何か手伝おうと市場用地にやってきた勇者(仮)一行は、調理する少年ウゴの前で、いつも通り言い争うルムスと神官長を発見した。


「御主人様は我等の御主人様なのです!我等だけの、我等のための、我等がお仕えするご主人様なのです!!」

「頭の悪い竜王め!!なんと頑固な!神の御威光をただ一身に受けようなどとは不届き千万勘違いも甚だしいわ!」


 なんか、心配して損をした気持ちになる勇者(仮)一行だった。



「おい、二人とも味見」


 我先にとウゴの元へ近づく二人に「口開けろー」と言って、できたてのたこ焼きを放り込んでいく。

 ちょっと待て!ひどくないか?!と思うが、勇者(仮)一行は、熱すぎてパニックになる一人と一体を、見ている事しかできない。

 コントにしか見えないからだ。


「〜〜〜!!ほがっは、あ、っ」

「〜〜ンっっ!?、あふ、ひはっ」


 一人と一体が「「熱いっ!でも、御主人様、ウゴ様の手作り!」」と慌てているのを見て、ウゴはにやにやしている。

 昨日のあれが夢だったのか、と思ってしまう程、いつも通りすぎないか?と勇者(仮)一行はじっとりとその場を見ていた。


 口の中を火傷しながら「美味しいです!」と答えた二人に、ウゴが冷たい水を渡した。

 まだちょっと、にやにやしながら。




「熱いから、ゆっくり喰えよ」


 子供達に直接言葉をかけながら、食べ方の実演をするウゴは、なんだか楽しそうだ、とイチノセは見つめていた。

 ちなみにたこ焼きかと思ったら、中身は肉団子だった。


 タコを食べる習慣がない、むしろ大陸中央部のエストウラには新鮮な海鮮はない。

 食感が独特なタコを、住民が食べられるか分からないからな、とウゴは言っていた。


 勇者(仮)一行だけは、たこ焼きを楽しませてもらった。

 もうずっとここで食事させてくれないかな、と何を食べても美味しいので離れがたい。


 しかし、勇者(仮)一行はレベルを上げなくてはいけないのだ。

 神パワーを切らしているウゴに弁当は頼みづらかったし、昨朝に断られているので、携帯食料と適当に食料を売ってもらえたら、と思っていたのだが。


「焼鮭弁当と、ハンバーグ弁当、『防腐』の加護入りだ、死ぬなよ」


 どうやって用意したのかフリーズドライのみそ汁+10食分の弁当を渡されて、イチノセがあっけにとられていると。

 スズキが「これはツンデレか!?」と言い出し、「いや、おかあさんでしょ」とタノクラが言い返していた。



 

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