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05  勇者にいろいろ教えた

 





 なんか、うるさいな。

 目を開けてみると、金銀の髪をふりみだしたルムスが、使徒見習い神官長のソバンと罵りあっていた。


「御主人様は我等の御主人様ですっ!

 我等以外に御主人様に下僕(シモベ)はいらないっ!!」

「神は神聖なる存在であるからこそ神であらせられるのだ!しかし我々を助けてくださる神がいかにご寛大な方であるといえども竜のごとき下賎な生き物が神の眷族を語るなど片腹痛いわーっ!!」


 …気づかなかった、ともう一度目を閉じたが…バレたらしい。


「あの、悪いんだけど…」


 なんか、やつれた勇者(仮)一行に助けを求められた。


「オイ===お前ウザイ、ルムス、とっとと失せろ」

「はぐぁ、も、申し訳ございませんウゴ様っこの失態必ずや」

「長い」

「ぐぬ、はいっ」

「あぁっん、はぁっ、御主人様ぁ」

「命令だ、帰還せよー!」

「えぇっ、そんなぁ〜〜〜!!」


 一瞬で一人と一体を地に這いつくばらせるウゴを、勇者(仮)一行は信じられない思いで見た。






「で?」


 今日の炊きだしが終わった市場用地には、ウゴと勇者(仮)一行だけが残っている。

 ウゴは相変わらず、緊張感の欠片もなくだらりとのびているが、勇者(仮)達はその姿をまっすぐ見られない。

 山脈でさんざん聞かされた、ルムスの言「御主人様なら、指一本動かさずにできる!」が本当ならば、自分たちの前にいるのは、まぎれもない強者になる。


 全然、まったく強そうに見えないとしても。

 竜を従えているのだから、疑いようがない。


 ルムスの正体と交換条件に、勇者(仮)一行はエストウラ王国、および周辺諸国の飢饉の原因を解消してこいと言われた。

 困っている人々を救うのが勇者!とイチノセが安請け合いして、ひどい目にあった。


 金銀鱗で15メートルのツチノコの背中に乗せられて、片道10分のレールなしジェットコースター。

 しかも往復。

 +地脈の要に打ちこまれた楔とかいう、魔力&物理的な結界を解除するオマケつき。


 結界の解除はそんなに難しくはなかった。


 しかし金銀の、きらっきらのツチノコがルムスの正体で、しかもこの世界の伝説的生命体である竜。

 さらに、さらにその頂点である八大竜王の筆頭、最強の竜王だという。

 その事実が勇者(仮)達の心をへし折っていた。


 竜は美しくて凛々しくて高貴な姿、なんて伝承を聞いて憧れていたのに!

 さすがファンタジー世界!と、いつか竜に乗って世界中を移動する事を夢見ていたのに!


 ……実際は金ぴかツチノコ。


 勇者(仮)一行は、がっかりするしかなかった。

 スズキだけは「ザンネンな所もイイ!」とか、つぶやいていたが。


 イチノセ達は召喚されてから6ヶ月、ひたすら訓練して魔物を倒して、レベルを上げてきた。

 スズキのレベル34なら、たいていの魔物より強いのに、ルウォルフェムスは「弱いオスはイヤ」と歯牙にもかけなかった。

 その主人のウゴはどんだけ強いんだ…と怖くて聞けない。




「あなたの言う通り、ルシュゴーロ山脈における人為的な地脈阻害を破壊してきたわ。

 これで満足?」

「ああ」


 魔法使いタノクラが、ウゴに切れ長の挑発的な目をむける。

 弱味を見せたらつけこまれるのは当然なので、その対応は間違っていない。


 異世界勇者に、これ以上関わるのは面倒なので、ごまかしても良いが…と勇者(仮)イチノセを見た。

 頼りにならなさそうだ。

 ウゴにとって、異世界からの勇者を放っておくのは、罪悪感を覚えることだ。

 とりあえず敵ではないのだし、もし神剣でも持ち出したら逃げればいい。

 ウゴは戦いが嫌いなのだ。


 とりあえず真実をある程度は告げておくか、と判断した。

 全部でないのは、女神官の(前世記憶保持:改ざん)が気になるからだ。



「本当に助かった、ありがとう。

 ルムスを抑えてくれた借りができたという事で、オレの事を話そうと思う。

 勇者イチノセ・ユウマ、構わないか?」

「な、なんでっ」

「どうやって調べた!?」


 勇者かどうかなど、:ステータス開示のスキルがあれば一発で分かるのに、これまで勝手に見られる、という無粋をされた事がないらしい。

 まあ、ウゴは:ステ開示のスキルは持ってないが。


 それぞれの武器に手をかけ、殺気を周囲に振りまく勇者(仮)一行。

 いきなりそんな殺る気になられても…とウゴは動こうとしない。


「…話していいか?

 オレの本名はタナカ・ショウゴ、ウゴと呼んでくれ。

 元転移者の元勇者で、今は神だ」


「「「「「……神?」」」」」


 5人全員がハモッたところで、ウゴは細くて黒い腕輪を虚空から五つ取りだして、さしだした。

 そしてフードをとる。


「え、えぇ?」

「別に普通…あれ?」

「…なんか?変だよね?」

「えー、どうなってるの?」

「………?!」


 全員が、ウゴの髪にも瞳にも、揺れるたいまつの火が反射していないと気づいた、と判断してフードを目深にかぶりなおす。

 必要なら[弱者の神]教のご神体、4本腕の破壊神かよ?!モードにもなれるが、アレは神になりたてでコワレかけていた時の姿なので、むしろ記憶から消してしまいたい。



「オレは[名も無き神]、通称[弱者の神]と呼ばれてる。

 自称「神」じゃないからな。

 この腕輪にオレの加護をつけておく、一回だけ。

 お前等が何もかもどうしようもなくて、絶望した時に呼べば助けてやる」

「なぜ、そんな…いや、その言い方だと、この先そうなる、と?」


 ウゴはスズキの言葉にうなずく。


「これでも元勇者だからな、この道の先は知ってる」

「元勇者っていうのは、いつの話だ?

 教会で歴代勇者の逸話を聞いたが、タナカなんて勇者知らないぞ!」


 イチノセはウソをつくな!と、信じられない気持ちそのままに怒鳴る。


 現代日本で「神です」とか名乗ったら病人だ。

 でもここは、魔法やスキルが存在している世界で、異世界から勇者を引きずりこめるのは、たぶん「神」だけ。


「ウソじゃない」


 ウゴはこんなどうしようもないウソついて、どうするんだ、とイチノセの態度に呆れて…そう言えば異世界産の「勇者」に会うのは初めてか、と思いなおす。


「どこの宗教にも属してなかったから、残ってないだろうな。

 750年くらい前の…ハンバ王国にならあるかもな?」

「な、750ねん?そんなに生きてるのか?」

「さぁ、生きてるかは分からん。

 心臓は動いてない、呼吸もしてない、腹も減らない、血も出ない、眠っても夢は見ない」

「「「「「…………」」」」」


 勇者(仮)達に向けられた顔に、憮然とするウゴ。

 なんで、そんな顔するんだよ、と。

 自分に『検索』ができないから調べられないが、ゾンビじゃないと思う。


「疑うなら剣で刺してみろ。

 心配しなくても鉄剣なんて痛くない」


 本当はちょっと痛い、刺さるし。

 ツィーレの槍も、ただのやせ我慢だ。

 ウゴは絶句している勇者(仮)一行に、笑顔を向けた。


「お前等に死なれたくない、先輩で[弱者の神]だからな」




 いつまでも呆然としている五人に、肩をすくめてこの会話はオシマイ、と伝える。


「…海苔弁当作ってやるから、そろそろ帰ってこないか?」


 ついでに明日の朝は焼鮭定食にしてやるから、と言うとイチノセとスズキは戻ってきた。


「海苔弁〜!」

「焼鮭!」


「昼はカツ丼を、千切りキャベツにソースと、玉ねぎ卵とじの二種類で考えてる」

「カツ丼っ!?」

「二種類っ!!」

「みそ汁とお新香もつけてやろう」

「「カミサマーー!!!」」

「ダルいから崇めるな、奉るな」


「弱者の神教は、人々をダメにします!」


 一気にだれた雰囲気の中で、転生者、女神官のメイナリーゼ・スアラが突然叫んだ。

 理由は分からないが反感があるらしく、ずっとウゴを睨んでいたけれど、内向的みたいでほとんど話さないから、いつ爆発するか気になっていた。


 ウゴの方では、知ってる気がするんだよな、この女神官の魂、と気になるのだが、本人の意志もなく魂に触れて調べるなんてできない。

 というか、セクハラ?だよな。


「…宗教なんてどうでもいい、信者に言えよ。

 アガメタテマツラレルなんて、ガラじゃないからな」


 これはウゴの本音だ。


「で、ハージェルス教の神様が、黒幕なのか?」


 そっとメイナリーゼの耳元で囁いたら、信じられないという顔をされてしまった。

 どうやら、何も知らないまま勇者の先導役に使われているようだ。


「オレの事は秘密な」


 メイナリーゼはぷるぷると震えていた。

 怖がらせるつもりはないのに。


 秘密と言った事に意味はない。

 [弱者の神]がほいほい地上をうろついている、と言った所で、誰が信じる?という話だ。

 他の宗教において神は光臨しないし、力を顕現したりしない。

 絶対にして不可侵なのが神。


 [弱者の神]教は、神を敬えなんて言わない。

 唯一にして絶対の教義が「他者を救いて、己を救え」だ。

 神なんてどうでもいいのだ。

 ただ、その日を生きる心の支え程度でいい。

 一日が、生死を分けるのだから。






 翌朝、全員が腕輪を装備していた。

 そして勇者(仮)一行は焼鮭定食を泣きながら食べて、おかわりしていた。

 結果的に寄付が増えるのはいいが、飢饉に苦しむ住民のための炊きだしで、異世界人のための食堂じゃない。

 「ホームシック」ではない魔法使いと、弓術士の女子高生?二人と、転生女神官も泣いていた。


「味のり!

 卵かけごはん!

 赤出し!」


 サイドメニューが気に入ってもらえたらしい。


 パスウェトの住民は、なぜか勇者(仮)一行を何ともいえない目つきで見守っていた。

 温かい…よりちょっとぬるい感じだった。




 食後には、勇者(仮)一行がわざわざウゴの所にやってきた。


「ウゴさん、ごちそうさまです。

 あの、今更ですが、ハージェルス教に召喚された勇者のイチノセ・ユウマです」

「ああ、よろしく、ウゴだ」


 握手すると、ちょっと驚いた顔をされる。

 しまった、体温……体温調整?なんてどうやるんだ?


「ユウマと同じ医大に通ってます、スズキ・ダイスケです。

 次回はルムスさんとお話させてください!」


 こいつはブレないんだな。

 というか医大生って…頭がいいのに、なんでルムスなんか気に入るんだ?


「ルムスと会話(という名の模擬戦闘)がしたいなら、レベル150まで頑張れ」

「ゥえっ?!」


「弓術士のサカグチ・エイコ、女子高生です。

 もう一度顔を見せてほしいです」

「悪いが、やめとく」


 オレの顔なんて、中の下くらいのどこにでもある顔だ。


「魔法使いのタノクラ・ナナよ。

 エイコと学校は違うけど幼なじみ」

「よろしくな」


 多分だが、この子が一番精神的に強そうだ。


「…転生者で、ハージェルス教の神官、メイナリーゼ・スアラです」

「よろしく」


 なんかひっかかるんだよな、知り合いっぽい感じがして。

 全然知らないのに。


 昼を食べにきたら、一旦パスウェトを離れるというので、その時に海苔弁当を渡そうと、覚えておく。

 あと、ちょっと久しぶりの女子高生とか医大生とかいう単語に疲れたので、ウゴはその後はぐーたらすることにした。



 

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